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飲み会のあと、気がついたら朝だった。相手も自分も相当に飲んでいて、何がどこまであったのか思い出せない。数日後になって、相手から「同意していない」と告げられた——。
アルコールがからむ性的なトラブルでは、双方が酔っていて双方とも記憶があいまい、という状況が珍しくありません。このとき、法律はどちらの記憶を基準に判断するのでしょうか。「自分も酔っていた」という事情は、どこまで考慮されるのでしょうか。
この記事は、記憶がはっきりしないまま相手から不同意を主張された方、またはその可能性に不安を感じている方に向けて、不同意性交等罪におけるアルコールの扱いを整理するものです。性別は問いません。
条文が見ているのは「相手の状態」と「自分の認識」
不同意性交等罪(刑法177条)は、刑法176条1項が挙げる8つの行為・事由(およびこれらに類する行為・事由)によって、相手が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」にさせられ、またはその状態にあることに乗じて性交等をした場合に成立します。法定刑は5年以上の有期拘禁刑で、婚姻関係の有無を問わないことが条文に明記されています。
8つのうち3号が「アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること」です。飲酒がからむ事案の多くは、この3号(場合によっては4号の「睡眠その他の意識が明瞭でない状態」)を入口として検討されます。
ここで押さえておきたいのは、条文が問題にしているのが相手方の状態と、その状態についての行為者の認識であって、行為者自身が酔っていたかどうかではない、という点です。同じ席で同じだけ飲んでいたとしても、法律上の評価は対称になりません。
自分が酔っていたことは免責の理由になりにくい
刑法39条は、心神喪失の場合は罰しない、心神耗弱の場合は刑を減軽すると定めています。ただし、自ら進んで飲酒して酩酊した場合に、この規定の適用が認められる例は多くありません。自分の意思で酩酊状態を招いたうえで犯行に及んだ場合には39条の適用を制限するという考え方(いわゆる原因において自由な行為)が判例・通説であり、実務上も、通常の飲酒による酩酊は責任能力に影響しないものとして扱われるのが一般的です。
「自分も記憶がないほど酔っていた」という事情は、事案によっては量刑の場面で一定の考慮を受ける可能性はあっても、犯罪の成否そのものを左右する主張としては通りにくい、と考えておくほうが現実的です。
酔っていれば直ちに「不同意」になるのか
3号は「アルコールの影響があること」と定めているだけで、飲酒があれば一律に成立するという条文ではありません。飲酒の事実に加えて、それによって「同意しない意思を形成し、表明し、全うすることが困難な状態」に至っていたことが必要です。
この点について、改正法の国会審議では、法務省の担当者が、アルコールの影響があっても、ほろ酔いで気分がよく、深く考えるのが面倒になって性的な行為を選びやすくなっていたという程度であれば、判断や選択の契機・能力があり、「同意しない意思を形成することが困難な状態」には当たらないと考えられる、という趣旨の説明をしています(第211回国会・衆議院法務委員会、令和5年5月24日)。
もっとも、どこからが「ほろ酔い」を超えるのかを数値で示した基準はありません。酔いの現れ方には体質差も体調差もあり、「この量までなら判断できる」といった一般化は困難です。実際には、次のような事情を積み上げて総合的に判断されることになります。
| 判断の材料 | 具体的に見られること |
|---|---|
| 飲酒の量と時間 | 注文履歴や伝票、飲んだ種類とペース、最後の飲酒から行為までの経過時間 |
| 当時の言動 | 自力で歩けていたか、会話が成立していたか、嘔吐や意識消失があったか |
| やりとりの内容 | 行為の前後のメッセージ、誘い方と応じ方、ためらいや拒否の有無 |
| 前後の行動 | 移動の手段、支払いの様子、部屋の出入り、翌日以降の連絡の取り方 |
| 第三者から見た様子 | 同席者や店員から見て、どの程度酔っているように見えたか |
「記憶がない」と「同意がなかった」は別の問題
双方に記憶がない事案でもっとも誤解されやすいのが、「記憶がない=意識がなかった=同意できる状態ではなかった」という理解です。
医学的には、アルコールによる記憶の欠落(ブラックアウト)は、意識を失った状態とは区別されます。米国国立アルコール乱用・依存症研究所(NIAAA)の解説によれば、ブラックアウトは脳の海馬で新しい記憶がつくられなくなることによって生じるもので、本人は会話をし、歩き、複雑な行動をとることができます。周囲からは普段と大きく変わらないように見えることもあります。記憶があとから「消えた」のではなく、そもそも記録されなかった状態です。
したがって、記憶がないという一事から「困難な状態にあった」と決まるわけではありません。逆に、記憶がないことが「同意があった」の証明になるわけでもありません。記憶の欠落は、同意の有無については中立的な事実にとどまります。
そして双方に記憶がない場合、両者の供述はいずれも土台が弱くなります。その分、判断の重みは、客観的な資料と第三者の見聞へと移っていきます。
双方が記憶をなくしていても、一方だけが被疑者になる
条文の構造上、捜査は「どちらの状態が困難だったのか」という形で入口が決まります。実務では、先に警察へ相談・申告した側が被害を訴える側として扱われ、もう一方が被疑者として捜査の対象になるのが通常の流れです。双方が同じように酔っていたという事情は、この振り分けを自動的に変えるものではありません。
このとき、記憶がない側は不利な位置に置かれやすくなります。相手の説明が具体的で一貫していれば、それが捜査の骨格になり、こちらは「覚えていないので分からない」としか言えないからです。
この状況でもっとも避けたいのが、記憶がないまま、相手の説明に沿って認めてしまうことです。取調べで「はっきり覚えていませんが、たぶんそうだと思います」と述べれば、調書には認めた趣旨として残ります。反対に、記憶がないのに「絶対にしていない」と断定すれば、あとから客観的な資料と食い違ったときに、供述全体の信用性を損ないかねません。
記憶が欠けている部分については、覚えていること、覚えていないこと、推測でしかないことを厳密に分けて話す。ここが出発点になります。
認定を左右するのは客観的な材料
当事者の記憶が頼りにならない事案では、次のような資料が判断の中心に据えられます。
- 飲食店・コンビニ・駅・ホテルなどの防犯カメラ映像
- 店の伝票、注文履歴、決済アプリやカードの利用明細
- タクシーの乗車記録、交通系ICカードの利用履歴
- スマートフォンの位置情報、写真や動画の撮影時刻、通話履歴
- 当日および翌日以降のメッセージのやりとり
- 同席者、店員、タクシー運転手など第三者の記憶
- 衣類や所持品の状態、身体の状況に関する記録
注意したいのは保存期間です。防犯カメラの映像は、店舗によっては1週間から2週間程度で上書きされてしまいます。何が起きたのかを落ち着いて考えたい時期と、資料が消えていく時期が重なってしまうのが、この種の事案の厄介なところです。
なお、自分のスマートフォンの中身を整理したり、都合が悪く見えるメッセージを削除したりすることは避けてください。不利に見える記録も含めて残っている状態のほうが、経過の裏づけとしては価値があります。削除したという事実そのものが、あとから不利な事情として評価されることもあります。
もう一つの関門は「認識していたか」
相手が「困難な状態」にあったと認定されても、それだけで犯罪が成立するわけではありません。行為者が、相手がその状態にあることを認識していたことが必要です。ここが認められなければ故意が欠けることになります。
この二段構えが実際に結論を分けた例があります。飲み会で酩酊した女性に対する準強姦罪(現在の不同意性交等罪にあたる旧法の罪)が問われた事件で、一審の福岡地裁久留米支部は、平成31年3月、女性が抵抗できない状態だったことは認めながら、被告人がそれを認識していたとまでは認められないとして無罪を言い渡しました。これに対し控訴審の福岡高裁は、令和2年2月、被告人は認識していたと判断して一審判決を破棄し、懲役4年を言い渡しています。
旧法下の事案ですが、①相手の状態と②行為者の認識を分けて検討するという構造は、現行法にも引き継がれています。同じ事実関係であっても裁判所の評価が分かれうるほど、認識の認定は微妙な判断だということです。
そしてこの認識の有無もまた、本人の記憶ではなく、外形的な事情から判断されます。相手がどの程度酔っているように見えたか、その場で自分がどう振る舞ったか。ここでも効いてくるのは客観的な材料です。
この段階でしないほうがよいこと
- 記憶がないまま、相手の説明に合わせて認めてしまう
- 記憶がないのに「絶対にしていない」と断定する
- 相手に直接連絡し、経緯を確かめたり謝罪したりする
- スマートフォンのデータやメッセージを消す
- その場で示談を持ちかけ、現金を渡す
- 推測で埋めた「たぶんこうだった」という話を調書に残す
特に、相手への直接連絡は避けてください。謝罪のつもりで送った一言が、事実を認めた証拠として扱われることがあります。取り下げや口止めを求めたと受け取られれば、証拠を隠すおそれがあると判断され、身柄の拘束につながることもあります。
その場で現金を渡す対応も勧められません。何をどの範囲で解決したのかが書面で確定していなければ、支払った事実だけが「認めた」証拠として残ります。
弁護士に相談したときにできること
- 保存期間が切れる前に、映像や記録の保全を求める
- 覚えていることと推測を切り分けたうえで、上申書などの形に整理する
- 取調べで何を話し、何を留保するかをあらかじめ検討する
- 相手方との連絡窓口を引き受け、直接の接触を避ける
- 被害申告や告訴が見込まれる段階での対応方針を立てる
取調べに関しては、刑事訴訟法198条により、作成された供述調書を閲覧させてもらう、または読み聞かせてもらったうえで、内容に誤りがあれば増減変更を申し立てることができ、署名押印を拒むこともできます。記憶がない事案では、この確認を省かないことが特に重要です。黙秘権も、事案によっては現実的な選択肢になります。
当事務所では、初回のご相談を無料でお受けしており、ご相談の受付は24時間対応しています。身柄を取られている場合の即日接見にも対応しています。記憶が欠けている状態でご自身だけで対応方針を決めるのは負担が大きいため、早い段階でご相談いただくことをお勧めします。
立場が逆の場合
同じ状況で、自分のほうが望まない行為をされたのではないかと感じている場合もあります。その場合も出発点は変わらず、記憶が欠けていること自体は不利な材料ではありません。判断されるのは、当時の状態と相手の認識だからです。
身体に関する記録や着衣は、時間が経つほど確認が難しくなります。産婦人科などの医療機関のほか、各都道府県に設置されている性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(全国共通の短縮番号「#8891」)では、相談と、必要に応じた医療機関・警察との連携について案内を受けることができます。
まとめ
双方が酔っていて記憶がない、という状況で法律が見ているのは、当事者の記憶ではなく、当時の状態と、それについての相手方の認識です。「記憶がない」という事実は、やっていないことの証明にも、同意があったことの証明にもなりません。
記憶を推測で埋めないこと、資料が消える前に手を打つこと、認めるか否定するかを急いで決めないこと。この三つが、いまの段階でできる現実的な対応です。判断に迷う段階であっても、方針を決める前にご相談いただければと思います。


