同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲
不同意性交等罪について調べると、「8類型」という言葉に行き当たります。多くの解説は、その8つを順に並べて説明するところで終わっています。
けれども、警察や検察から連絡を受けた方、あるいは身近な人がその立場になった方が知りたいのは、8つのうちどれが自分の件で問題にされているのか、そしてそれをどこで確かめられるのか、という点ではないでしょうか。
この記事は、8つの中身をもう一度並べ直すためのものではありません。手元にある書面や告げられた内容から、どの類型で扱われているのかを読み取るときの見方を整理します。事実と違う説明を組み立てるためではなく、いま何が問題にされているのかを把握するための材料としてお読みいただければと思います。
「8類型」は罪名の枝分かれではない
不同意性交等罪を定めているのは刑法177条1項です。この条文は8つの類型を自分で並べているわけではなく、「前条第一項各号に掲げる行為又は事由」として、不同意わいせつ罪を定めた176条1項の各号を引用しています。8つの中身が書かれているのは176条1項のほうです。
そして各号は、罪名を8つに分けるために置かれているのではありません。「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」の原因となり得る行為・事由として、例示的に並べられています。
条文上、「◯号の罪」という罪名は存在しません。どの号が入口になっても、成立し得る罪名は不同意性交等罪の一つです。番号は罪の重さを分けるためのものではなく、何が問題にされているのかを示す位置にあります。
条文は二段構えでできている
法務省が公表している「性犯罪関係の法改正等 Q&A」は、8つの行為・事由について、いずれもその程度は問わないとしたうえで、罪が成立するためには、これらの行為・事由により被害者が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」になっていることが必要だと説明しています。
つまり条文は、8つのいずれかに当たる行為・事由があったかという前半と、それによって困難な状態になっていたかという後半の、二段構えで組み立てられています。号の当てはめは前半の話であり、そこが決まっただけで結論まで決まる構造にはなっていません。
次の表は、8つの行為・事由と、その類型が問題になったときに確かめられやすい事実を並べたものです。右の列は条文に書かれているものではなく、争点の位置をつかむための整理です。
| 号 | 条文が挙げている行為・事由 | その類型で確かめられやすい事実 |
|---|---|---|
| 1号 | 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと | 有形力の行使や告げられた言葉の内容が、いつ、どの場面であったか |
| 2号 | 心身の障害を生じさせること又はそれがあること | 障害の有無と内容、相手の状態がどの程度うかがえる場面だったか |
| 3号 | アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること | 飲酒や服用の経過と、その時点での相手の様子 |
| 4号 | 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること | 意識状態の推移と、声かけや動作への反応 |
| 5号 | 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと | 相手が気づいてから行為までの時間の近さ |
| 6号 | 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること | 直前までの経過と、相手が予想していた展開との落差 |
| 7号 | 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること | 過去からの関係の経緯と、その継続性 |
| 8号 | 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること | 関係の内容と、不利益として何が想定され得たか |
どの類型で扱われているかは、どこに表れるか
自分の件でどの類型が問題にされているのかは、口頭の説明だけで判断せず、書面の記載から確かめるのが基本になります。手がかりになるのは、次のような場面です。
逮捕状には被疑事実の要旨が記載されます(刑事訴訟法200条1項)。逮捕された場合、弁解を録取される際には犯罪事実の要旨が告げられます(同法203条1項)。勾留状には公訴事実の要旨が記載されます(同法64条1項)。起訴された場合には、起訴状に訴因が明示され、できる限り日時、場所、方法によって罪となるべき事実が特定されます(同法256条3項)。在宅で捜査が進む場合も、取調べの冒頭で被疑事実が告げられるのが通常です。
これらの書面に号の番号がそのまま書かれているとは限りません。読み取る手がかりになるのは、番号ではなく事実の書きぶりのほうです。
番号ではなく、事実の書きぶりを読む
被疑事実や訴因の記載には、条文の言葉がそのまま、あるいはそれに近い形で使われることが少なくありません。たとえば「アルコールの影響により意識が明瞭でない状態にあることに乗じて」という書きぶりであれば3号や4号が、「同意しない意思を形成するいとまがない状態にさせ」であれば5号が、「関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させ」であれば8号が、それぞれ念頭に置かれていると読めます。
条文の各号の文言を手元に置いて記載と突き合わせると、いま自分の件がどのあたりで扱われているのかが見えてきます。逆に、記載を要約して覚えているだけだと、この対応関係は追えなくなります。書面を見せられたときは、要旨ではなく言い回しを控えておくことが後で効いてきます。
各号には二つの形が書き分けられている
条文をよく見ると、1号から4号と6号から8号は、いずれも「◯◯させること」と「◯◯があること」または「その状態にあること」という二つの形が並べて書かれています。これは書き方の重複ではなく、想定している場面が二つあるという意味です。
前者は、その状態を作り出した行為があった場合を指します。後者は、すでにその状態にあったところに関わった場合を指します。同じ号でも、この二つは確かめられる事実が違います。
| 条文の書き方 | 問われ方の中心 |
|---|---|
| 「◯◯させること」 | その状態を作り出したといえる行為があったか |
| 「◯◯があること」「その状態にあること」 | すでにあった状態をどう受け止めていたか |
5号だけ書き方が違う
8つのうち5号だけは、「同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと」とだけ書かれており、作り出す形と、すでにある状態に関わる形の書き分けがありません。
法務省のQ&Aは、この類型を、性的行為がされようとしていることに気づいてから行為がされるまでの間に、自由な意思決定をするための時間のゆとりがないことだと説明しています。時間的な近さそのものが事由として置かれているため、この類型が問題になっている場合、確かめられるのは行為の直前までの経過の時間関係に寄ることになります。
一つの出来事が複数の類型で読まれることがある
法務省のQ&Aは、「嫌だ」と伝えたのに体を押さえ付けるなどの暴行を受けた場合と、「嫌だ」と言えばやめてもらえると思ったのに予想に反してやめてもらえず恐怖を覚えた場合を、いずれも同意しない意思を全うすることが困難な状態の例として挙げています。前者は1号に、後者は6号に近い読み方です。
号は互いに排他的な箱ではなく、一つの経過が複数の号にまたがって読まれることがあります。飲酒の場面で3号と4号の双方が視野に入る、職場の関係で1号と8号の双方が視野に入る、といった重なり方も想定されます。「この号ではない」という主張が、そのまま「どの号にも当たらない」という結論にはつながらないのは、このためです。
「どの号にも当たらない」という説明だけでは終わらない
条文は8つを列挙したうえで、「その他これらに類する行為又は事由」という文言を置いています。8つのいずれかに完全に一致しなくても、これらに類するものであれば要件を満たし得るという書き方です。
そのため、号の当てはめだけを取り上げて争っても、二段構えの後半、つまり困難な状態だったといえるかどうかという評価は残ります。号の特定は出発点であって、そこで話が閉じるわけではないという前提で見ておいたほうが、見通しを誤りにくくなります。
「程度は問わない」という説明の読み方
解説記事でよく引かれるのが、8つの行為・事由については程度を問わない、という説明です。ただし、程度を問わないとされているのは前半に置かれた行為・事由のほうであって、後半の「困難な状態」になっていたかどうかは、それとは別に必要とされています。
前半だけが強調された説明を読むと、該当しそうな事情が一つでもあれば直ちに罪が成立するように見えてしまいます。一方で、程度を問わないという部分を落として読むと、行為や事由が相当に強いものでなければならないように見えてしまいます。条文の組み立てとしては、その両方がそろって初めて要件を満たす形になっています。
8つの類型を通らない立件のされ方もある
不同意性交等罪には、8つの類型の当てはめを経ない入口もあります。
刑法177条2項は、行為がわいせつなものではないと誤信させた場合や、行為をする者について人違いをさせた場合、あるいはその誤信や人違いに乗じた場合を定めています。同条3項は、16歳未満の相手方についての規定で、13歳以上16歳未満の場合は行為者が5歳以上年長であるときに限られます。また179条2項は、18歳未満の者に対し、現に監護する者であることによる影響力に乗じた場合について、177条1項の例によるとしています。
これらはいずれも8つの類型を経由しません。「8類型のどれにも当たらない」という見立てが、そのまま事件全体の見通しになるとは限らないのは、こうした別の入口があるためです。
見立ては途中で変わることがある
捜査段階で告げられる被疑事実は、その時点で集まっている資料に基づく暫定的なものです。その後に供述や客観的な資料が加われば、同じ出来事について、着目される類型が動くことがあります。
刑事訴訟法256条5項は、数個の訴因や罰条を予備的または択一的に記載できると定めています。同法312条1項は、公訴事実の同一性を害しない限度で、訴因や罰条の追加、撤回、変更を認めています。制度として、途中で構成が変わることが想定されているということです。
最初に告げられた内容が最後まで同じとは限らないため、新しい書面を受け取るたびに記載を確かめておく意味があります。
類型によって、確かめられる事実が変わる
どの類型で扱われているかが分かると、これから説明を求められる範囲もおおよそ見当がつきます。
1号であれば、有形力の行使や言葉のやりとりが、いつ、どの場面であったか。3号や4号であれば、飲酒や服用の経過と、その時点での相手の様子。5号であれば、相手が気づいてから行為までの時間の関係。8号であれば、二人の関係の内容と、不利益として何が想定され得たか。
なお、相手の状態をどう認識していたかという点は、類型の当てはめとは別に問題になります。これは故意に関する話で、本記事とは別の整理が必要になるため、ここでは立ち入りません。
書面を受け取った段階で確認しておきたいこと
書面を目にできる場面は限られています。次の点は、その場で控えておくと後の整理に役立ちます。
・書面の種類と日付
・記載されている日時と場所
・行為の態様がどう書かれているか
・条文の言葉がそのまま使われている箇所
・「させ」と書かれているか、「乗じて」と書かれているか
・引用されている条文と項番号
・前に告げられた内容から変わっている部分
弁護士に確認できること
類型の読み取りは、事件の見通しを立てる作業の入口にあたります。弁護士に相談する場面では、次のような確認ができます。
・被疑事実や訴因の記載が、どの類型を念頭に置いたものか
・その類型で、どの範囲の事実が問題になるか
・説明を求められたときに、記憶と推測をどう分けて話すか
・記載が途中で変わった場合に何が起きるか
・接見や書面の閲覧を通じて、どこまで内容を把握できるか
まとめ
・8つの類型は罪名の枝分かれではなく、困難な状態の原因の例示
・条文は、行為・事由があったかと、困難な状態だったかの二段構え
・どの類型かは、逮捕状や勾留状、起訴状などの事実の書きぶりに表れる
・各号には、状態を作り出した形と、すでにある状態に関わる形の二つがある
・一つの経過が複数の号にまたがって読まれることがある
・「その他これらに類する行為又は事由」があるため、号の当てはめだけでは閉じない
・誤信の類型や年齢に関する規定など、8つを通らない入口もある
自分の件がどの類型で扱われているのかを把握することは、これから何を説明することになるのかを見通すための土台になります。書面の記載を正確に押さえたうえで、早い段階で弁護士に相談し、事実関係の整理の仕方を含めて確認しておくことをおすすめします。


