身元引受書は誰が何を書くのか|記載事項と文例
勾留されている間に、家族の葬儀や動かせない試験の日、手術や入院の予定が重なることがあります。刑事訴訟法には、勾留そのものは残したまま、その執行だけを一時的に止める仕組みが置かれています。勾留の執行停止と呼ばれる手続です。
ただし、この仕組みは保釈とは組み立てが違い、申し立てれば当然に判断してもらえる手続という形にはなっていません。ここでは、条文と実務の理解にそって、どのような場面で一時的に外に出られるのか、そのために何を用意することになるのかを整理します。以下では刑事訴訟法を「法」、刑事訴訟規則を「規則」と表記します。
このコラムで扱うこと
- 勾留の執行停止という手続が、何を止めるものなのか。
- 保釈とどこが違い、どちらを選ぶことになるのか。
- 葬儀・試験・入院という三つの場面での考え方。
- 決定に付けられる条件と、期間の決まり方。
- 外に出た後、どのように戻ることになるのか。
勾留の執行停止とは何か
勾留の執行停止は、勾留の効力を残したまま、その執行を一時的に止めて身体の拘束を解く手続です。法95条1項は、裁判所が適当と認めるときに、決定で、勾留されている被告人を親族・保護団体その他の者に委託し、または住居を制限して、勾留の執行を停止することができると定めています。
勾留の取消しとは目的が違います。取消しは、勾留の理由や必要がなくなったことを前提に、拘束そのものを終わらせるものです。これに対して執行停止は、勾留の理由も必要も残っていることを前提に、外の用事のために一時だけ止めるものです。指定された時間が来れば、再び収容されます。
保釈とはどこが違うのか
勾留の効力を残したまま外に出るという点は保釈と同じですが、使える時期・お金・求め方・外にいられる時間が違います。
| 比べる観点 | 保釈 | 勾留の執行停止 |
|---|---|---|
| 使える時期 | 起訴された後 | 起訴の前後を問わない |
| 納めるお金 | 保証金が必要 | 保証金は不要 |
| 求め方 | 請求する権利がある | 裁判所の職権発動を促す |
| 外にいられる時間 | 判決の宣告まで続く | 用事に必要な範囲の短い時間 |
| 終わり方 | 取消しや判決の宣告 | 指定された日時の到来 |
申し立てる手続ではなく、職権を促す手続
法95条は「裁判所は……勾留の執行を停止することができる」と書かれているだけで、誰が請求できるかを定めていません。保釈(法88条)や勾留の取消し(法87条)が「請求することができる」と定めているのとは対照的です。実務では本人や弁護人が申立書や上申書を提出しますが、その位置づけは、裁判所の職権発動を促すものと理解されています。
認められなかったときに争えるのか
裁判例には、執行停止は裁判所が職権で行うものだから申立てに対して裁判をする義務はなく、却下の記載も職権を発動しない旨を示したものにすぎないとして、不服申立てを認めなかったものがあります。反対に、却下する決定がされた以上は勾留に関する決定として抗告できると述べたものもあり、扱いは一様ではありません。
一方で、いったん執行停止が認められた場合には、検察官がこれを争うことができます。地方裁判所が認めた執行停止が、検察官の不服申立てを受けて上級審で取り消された例もあります。断られた側からは争いにくく、認められた後には動きが起こり得るという構造であるため、最初に提出する資料でどれだけ具体的に示せるかが分かれ目になります。
どのような場合に認められるのか
法95条は「適当と認めるとき」としか書いていません。裁判例では、勾留の目的を妨げることになってもなお執行を停止して釈放すべき、緊急または切実な必要がある場合をいうと説明されています。具体例として挙げられているのは、重い病気や急病で緊急の治療を要する場合、回復しがたい経済的・社会的な不利益が生じる場合、家族の危篤や死亡の場合などです。
実務では、これに加えて、委託や住居の制限といった条件によって、決められた日時に戻ってくることが見込めるかどうかが見られていると理解されています。用事の切実さと、戻る見込み。この二つがそろっているかという組み立てです。
なお、判断は用事の内容だけで決まるものではありません。事件の重さ、逃亡や証拠を隠滅するおそれの程度、これまでの生活の状況といった、勾留そのものを支えている事情とあわせた全体の判断になります。同じ「入院が必要」という事情でも、事件の内容によって結論が変わり得るのはそのためです。
葬儀・危篤の場合
近い親族の通夜や葬儀、危篤への立会いは、代わりの日を用意できない用事の代表例です。この場面で認められる時間は、数時間から1日に満たない範囲と説明されることが多く、葬儀場を住居として指定する形が取られることがあります。
試験・面接の場合
入学試験や資格試験、採用面接のように、その日に受けられなければ次の機会まで長く待つことになる予定も、切実な必要として扱われる場合があります。認められる時間は、試験や面接が行われる時間帯に限られるのが通常です。
入院・治療の場合
手術や検査入院のように、施設内の医療では対応しきれない治療が必要な場合も対象になります。短時間の通院であれば、執行停止によらず職員が付き添って病院に連れて行く扱いがされることがあり、数日にわたる入院が必要になったときに執行停止が問題になります。この場合は病院が住居として指定され、治療に必要な期間に区切られます。
認められにくいのはどのような場面か
同じ「大切な予定」でも、日程を選べたはずのものや、本人の立場から生じたものは、切実な必要とは評価されにくい傾向があります。裁判例には、実弟の結婚式への出席や、勾留中に立候補したことに伴う選挙運動の必要性について、執行停止を認めた原決定を取り消したものがあります。持病の治療についても、施設内で対応できるとして認めなかった例があります。
あわせて、事件の内容も判断に影響します。次のような事情は、認められにくい方向に働きます。
- 共犯者や被害者と接触するおそれが具体的に指摘されている。
- 外出先が事件の関係先と重なっている。
- 住居が定まらず、戻る先をはっきり示せない。
- 付き添いや委託を引き受ける人を用意できない。
決定に付けられる条件は二つの型
法95条1項は、執行停止をする場合に「委託」か「住居の制限」を求めています。どちらか一方に限られるものではなく、両方を併せて付けることもできると解されています。
| 条件の型 | 内容 | 実際の例 |
|---|---|---|
| 委託 | 決められた人に本人を預ける | 親族に委託する。弁護人が委託を受ける |
| 住居の制限 | いる場所を限定する | 葬儀場や病院を住居として指定する |
委託による場合、規則は、委託を受ける人から、いつでも召喚に応じて本人を出頭させる旨の書面を差し出させなければならないと定めています。誰に預けるのかを決めるだけでなく、その人の名前で書面を用意するところまでが手続の一部です。
このほかに、逃亡や証拠の隠滅を防ぐために適当と認める条件を付けることができます。実務でよく使われるのは、事件関係者と連絡を取らないという条件です。あらかじめ本人からその趣旨の誓約書を取り、条件を付けられることに異論がないと伝えておく進め方が取られます。
期間はどう決まるのか
法95条2項は、執行停止の期間を指定することができると定めています。3項は、期間を指定するときはその終期を日時で指定するとともに、その日時に出頭すべき場所も指定しなければならないと定めています。何月何日の何時までに、どこへ戻るのかまで決めたうえで外に出る、という設計です。
事情が変われば、期間を延長すること(4項)も、短縮すること(5項)もできます。入院が予定より長引いたときには延長を求めることになり、逆に用事が早く終わったときには期間が短くされることもあります。住居を制限する場合には、保釈の条件について定めた法93条4項から8項までの規定が準用されます。
戻り方と、戻らなかった場合
指定された期間が満了したとき、または執行停止が取り消されたときは、検察官の指揮により、勾留状の謄本や執行停止の決定の謄本を示したうえで、刑事施設に収容されます(法98条)。自分から出向く形を取る場合でも、根拠となる書面がそろえられたうえでの手続です。
指定された日時に指定された場所へ出頭しなかった場合については、令和5年の法改正で罰則が設けられました(法95条の2)。また、召喚に応じない、逃亡が疑われる、証拠を隠滅する、被害者やその親族に危害を加えるような行為をする、条件に違反したといった場合には、執行停止が取り消されます(法96条1項)。保釈と異なり納めた保証金がないため、没取という形は取られません。その分、条件を守れる体制を示せているかどうかが正面から見られることになります。
用意することになる資料
執行停止を求める場面では、用事があることそのものよりも、いつ・どこで・誰と過ごし、どう戻るのかを外から確かめられる形で示せるかどうかが問われます。
- 用事の日時が分かる資料(葬儀の案内、受験票、入院の予定が分かる書面など)。
- 本人との続柄や関係が分かる資料。
- 委託を受ける人の書面と、その人の連絡先。
- 移動の経路と、付き添う人の予定。
- 事件関係者と連絡を取らない旨の誓約書。
- 戻る日時と場所についての具体的な提案。
葬儀のように日程を動かせない用事では、知らせから通夜までの時間が短いことがほとんどです。裁判官は検察官の意見も踏まえて判断するため、資料をそろえて提出するまでにも時間がかかります。知らせを受けた段階ですぐ動けるかどうかが、選べる手段の幅を左右します。
家族に決めてもらうことになる部分
委託を受ける人や付き添う人は、多くの場合ご家族です。当日の送り迎えをどうするか、外にいる間はどこで過ごすか、指定された時刻に間に合う移動ができるかといった点は、ご家族でなければ答えられません。書面を整えること自体は弁護人が引き受けられますが、その中身を決めるのはご家族の予定です。
起訴の前と後で違うところ
起訴前の勾留についても、法207条1項により被告人の勾留に関する規定が準用され、裁判官が同じ枠組みで判断します。起訴前には保釈の制度がないため、一時的に外に出る道はこの手続に絞られます。
起訴後は保釈も選べるため、外に出たい期間が長いのであれば保釈を、動かせない一日のためであれば執行停止を、という使い分けになります。すでに保釈されている人が葬儀に行く場合は、執行停止ではなく、制限された住居を離れることの許可を求めることになります。なお、拘禁刑以上の刑を言い渡す判決が宣告されると、保釈と同じく執行停止も効力を失います(法343条)。
誤解されやすい点
- 勾留そのものは続いており、事件の処分の見通しが変わるわけではない。
- 保証金は不要だが、その代わりに用事の切実さと戻る見込みを示すことになる。
- 期間は日単位ではなく、終期の時刻まで決められる。
- 外に出ていた時間は、現実に拘束されていた期間ではないため、未決勾留日数としては扱われないと説明される。
- 家族だけで申請する制度ではなく、実務では弁護人を通じて資料を整えたうえで求めることになる。
まとめ
- 勾留の執行停止は、勾留を残したまま、その執行を一時的に止める手続である(法95条1項)。
- 保釈と違い、起訴の前後を問わず使え、保証金も要らない。
- 請求権の定めがなく、申立書は裁判所の職権発動を促す位置づけとされている。
- 判断の軸は、用事の切実さと、決められた日時に戻ってくる見込みの二つである。
- 条件として委託か住居の制限が付き、委託の場合は出頭させる旨の書面が要る。
- 期間は終期の日時と出頭場所まで指定され、満了すれば収容される(法95条2項3項、法98条)。
- 出頭しなかった場合の罰則や、取消しの規定も置かれている(法95条の2、法96条1項)。
ご相談について
当事務所は池袋と新橋に事務所を置き、刑事事件のご相談を受け付けています。ご家族が勾留されている間に葬儀や試験、入院の予定が重なった場合は、日程が決まっている分だけ動ける時間が限られます。日時の分かる資料と、付き添える方の見当をつけたうえでご連絡ください。
ご本人と接見して事情を確かめ、必要な書面を整えたうえで、裁判所と検察官に速やかに働きかけます。用事の日が近い場合ほど、早い段階でのご相談が選択肢を広げます。


