逮捕されるケースと逮捕されないケースの分かれ目|通報から立件までに何が起きるか

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

風俗店でのトラブルで最も多く寄せられるご相談は、「これは逮捕されるのでしょうか」という一点に尽きます。店から強い口調で責められた、警察を呼ぶと言われた、あるいは実際に警察官が来た。そうした状況で、逮捕という言葉だけが頭の中を占めてしまうのは自然なことです。

 ただ、逮捕されるかどうかは、行為の重さだけで自動的に決まっているわけではありません。通報があってから事件として扱われるまでの間には、判断する人が入れ替わる複数の段階があり、それぞれの段階で見られていることが違います。その仕組みを知らないまま動くと、本来なら影響しなかったはずの部分にまで自分で不利な材料を足してしまうことがあります。

 この記事では、風俗トラブルを多く扱ってきた弁護士の立場から、通報から立件までに何が起き、どこで何が分かれるのかを整理します。なお、対象は性風俗を利用した客側の方です。すでに逮捕されている方、相手が18歳未満である可能性がある方は事情が大きく異なりますので、記事の内容にかかわらず個別にご相談ください。

「逮捕されるかどうか」は罪の重さだけで決まるわけではない


 まず押さえていただきたいのは、逮捕の可否が2つの別々の物差しで判断されているという点です。この2つを混ぜて考えていると、「重い罪だから必ず逮捕される」「軽い話だから何も起きない」という、どちらも実際とはずれた見通しになってしまいます。

物差し① 犯罪の嫌疑があるか


 1つ目は、その人が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があるか、という物差しです(刑事訴訟法第199条第1項)。何があったのか、それが法律上どの罪に当たりうるのか、そう疑わせる資料があるのか、という話です。

 風俗店でのトラブルで問題になりやすいのは、キャストの同意なく性的な行為に及んだと評価される場面(不同意性交等罪・不同意わいせつ罪)、撮影に関する場面(性的姿態等撮影罪や各都道府県の迷惑防止条例)、暴行や傷害、店外での待ち伏せや執拗な連絡といった類型です。それぞれ成立要件が異なり、どの罪名として扱われるかによって、この後の見通しも変わります。

物差し② 逮捕の必要性があるか


 2つ目は、身柄を拘束する必要があるか、という物差しです。刑事訴訟法第199条第2項ただし書は、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは逮捕状を発しない旨を定めています。そして刑事訴訟規則第143条の3は、被疑者の年齢や境遇、犯罪の軽重や態様その他の事情に照らし、逃亡するおそれと罪証を隠滅するおそれがないなど明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、裁判官は逮捕状の請求を却下しなければならないとしています。

 つまり、身柄を取るかどうかを決めているのは、行為の重さそのものではなく、この人を今拘束しておかないと逃げたり証拠を消したりするおそれがあるか、という将来に向けた見立てです。

2つの物差しが別だから、結果は一様にならない


 この構造があるため、法定刑の重い罪でも身柄を拘束されずに手続が進むことがあり、逆に比較的軽い類型でも状況によっては逮捕されることがあります。「あの人は逮捕されなかったのに自分は逮捕された」という差は、多くの場合ここから生まれています。

通報から立件までに通る5つの関門


 次に、通報から先の流れを見ていきます。「立件」という言葉は法令上の用語ではなく、警察や検察が事件として扱い始めることを指す実務上の言い方ですが、そこに至るまでには判断する人が入れ替わる段階があります。

関門そこで決めるのは誰かそこで見られていること
①通報・現場対応店やキャスト、臨場した警察官その場に犯罪があるとうかがわれるか、現行犯として扱う場面か
②被害届・告訴の受理届け出る側と警察被害の申告があるか、事実が特定できているか
③捜査と身柄の判断警察、逮捕状については裁判官嫌疑があるか、逃亡・罪証隠滅のおそれがあるか
④検察官への送致警察事件として検察官に引き継ぐ(原則として全件)
⑤終局処分検察官起訴するか、不起訴とするか、略式手続によるか


関門① 通報と現場での対応


 店が警察を呼ぶかどうかは、まず店側の判断です。ここで警察官が臨場し、その場で現行犯として扱われる場面もあれば、事情を聴かれたうえでその日は帰宅となる場面もあります。「通報された=逮捕」ではありませんが、逆に「その場で帰れた=終わり」でもありません。

関門② 被害届・告訴の受理


 犯罪捜査規範第61条第1項は、被害の届出があったときは、管轄区域の事件かどうかを問わず受理しなければならないと定めています。告訴についても同規範第63条第1項に同様の規定があります。届出は書面に限られず、口頭であれば警察官が代書することもあります。

 ここで注意が必要なのは、被害届が出るかどうかを決めるのは相手方であって、こちらが決められる事柄ではないという点です。また、店とキャスト本人は別人格ですので、店との間で話がついたことと、キャスト本人が届け出ないこととは、必ずしも一致しません。

関門③ 捜査の開始と身柄をとるかの判断


 捜査が始まると、先ほどの2つの物差しによって、身柄を拘束するのか、在宅のまま進めるのかが判断されます。後日逮捕の場面では裁判官が逮捕状を審査しますので、警察の判断だけで完結するわけではありません。

関門④ 検察官への送致


 警察は、捜査した事件について、原則としてすべてを検察官に送ることとされています(刑事訴訟法第246条本文)。あらかじめ検察官が指定した極めて軽微な事件に限って送致しない扱い(いわゆる微罪処分)がありますが(同条ただし書、犯罪捜査規範第198条)、風俗トラブルで問題になりやすい類型がここに含まれることは、一般に多くありません。

関門⑤ 検察官の終局処分


 起訴するかどうかを決めるのは検察官です。刑事訴訟法第248条は、犯人の性格や年齢、境遇、犯罪の軽重や情状、犯罪後の情況により訴追を必要としないときは公訴を提起しないことができると定めています。示談の成立や被害弁償が意味を持つのは、主にこの段階です。

逮捕には3つの型があり、分かれ目がそれぞれ違う


現行犯逮捕


 現に罪を行い、または行い終わった直後の者は、令状なしに逮捕することができ(刑事訴訟法第212条)、警察官でなくても逮捕できます(同法第213条)。店のスタッフがその場で取り押さえる行為は、この規定を根拠とする場面です。私人が逮捕した場合は直ちに警察官等に引き渡すこととされています(同法第214条)。

 なお、30万円以下の罰金、拘留または科料に当たる罪については、住居や氏名が明らかでない場合や逃亡のおそれがある場合に限って現行犯逮捕ができるとされています(同法第217条)。

通常逮捕(後日、令状による逮捕)


 その日は帰宅できたとしても、後日、裁判官の発する逮捕状によって逮捕されることがあります。ここで審査されるのが、先に述べた嫌疑と逮捕の必要性です。連絡を無視し続けている、住所を移した、関係する記録を消したといった事情は、逃亡や罪証隠滅のおそれを基礎づける材料として評価されうる点に注意が必要です。

緊急逮捕


 死刑または無期もしくは長期3年以上の拘禁刑に当たる罪について、充分な理由があり急速を要する場合には、理由を告げて先に逮捕し、直後に令状を求める手続もあります(同法第210条)。

逮捕されなかった場合、その後はどうなるのか


 「逮捕されない」ことと「手続が終わる」ことは同じではありません。身柄を拘束せずに進む在宅事件でも、捜査そのものは続きます。

  • 警察から電話や書面で呼び出しがあり、任意の取調べを受ける
  • スマートフォンなどの提出を求められ、押収されることがある
  • 捜査を終えた事件は検察官に送られ、検察官から改めて呼び出される
  • 最終的に、不起訴、略式手続による罰金、公判請求のいずれかの処分に至る


 身柄事件には法律上の期限があります。逮捕された場合、警察は48時間以内に検察官に送致し(刑事訴訟法第203条)、検察官は24時間以内かつ逮捕から72時間以内に勾留を請求するかを判断し(同法第205条)、勾留が認められると原則10日、延長でさらに最大10日となります(同法第208条)。

 一方、在宅事件にはこうした法定の期限がありません。そのため、連絡がないまま数か月が過ぎ、忘れかけた頃に呼び出しが来ることもあります。逮捕されなかったことを「何もなかった」と受け取ってしまうと、対応の機会を逃すことになりかねません。

自分の行動は、どの関門に効くのか


 ご相談の中でよく感じるのは、「逮捕されないために何をすればよいか」という問いの多くが、実は関門③にしか関係しない行動に向けられている、ということです。関門ごとに整理すると次のようになります。

行動主に効きうる関門補足
身元を明らかにし、呼び出しに応じる逃亡のおそれの評価に関わる部分
記録やデータを消さずに保存する③⑤消す行為は罪証隠滅の評価に働きうる
被害者本人との示談・被害弁償②③⑤相手方の同意が前提で、こちらだけでは進められない
店への支払い店とキャスト本人との清算は別。刑事手続を直接左右するものではない
相手方本人への直接の連絡逆に働きうる接触自体が罪証隠滅とみなされる余地がある


 なお、不同意性交等罪、不同意わいせつ罪、性的姿態等撮影罪は、いずれも親告罪ではありません。被害者が処罰を望まない意思を示したとしても、それだけで手続が自動的に終わるわけではなく、検察官の判断に影響しうる事情の一つとして扱われます。

「逮捕率◯%」という数字をどう読むか


 インターネット上には、罪名ごとの逮捕率を示す記事が少なくありません。多くは犯罪白書などに掲載された身柄率という指標を引用したものです。

 この指標の定義は明確で、令和6年版犯罪白書は、身柄率を「検察庁既済事件について、全被疑者に占める身柄事件の被疑者人員の比率」としています。つまり分母は、検察庁が処理した被疑者の人数です。通報の件数でも、被害届の件数でもありません。

 したがって、この数字を「通報されたら何割の人が逮捕される」と読むことはできません。捜査の対象にすらならなかった事案や、被疑者が特定されなかった事案は、そもそも分母に入っていないためです。同時に、「実際にはほとんど逮捕されない」と読むこともできません。数字を見るときは、何が分母になっているのかをあわせて確認していただければと思います。

 法律事務所が公表する解決実績についても同様で、母集団は相談に来られた方に限られます。参考になる情報ではありますが、ご自身の事案の見通しがそのまま同じになるわけではない、という前提で受け取っていただくのが安全です。

相談の場でよく出てくる4つの誤解


  1. 「通報されていないから何も起きない」……第三者が通報することもあり、犯罪があると考える人は誰でも告発ができます(刑事訴訟法第239条第1項)。時間が経ってから店が届け出る例もあります。
  2. 「逮捕されなければ前科はつかない」……前科は有罪判決が確定した場合に問題となるもので、逮捕の有無とは別の話です。在宅のまま略式手続で罰金となれば、前科として扱われます。
  3. 「示談すれば必ず終わる」……示談は相手方の同意があって初めて成立し、非親告罪では手続を自動的に終わらせるものでもありません。処分を判断する材料の一つです。
  4. 「その場でお金を払えば通報されない」……金銭のやり取りと刑事手続は別に進みます。支払っても届け出がされることはあり、逆に、支払いを断ったから通報されると決まっているわけでもありません。


いま自分がどの段階にいるかを確かめる3つの質問


  1. 警察官と直接やり取りをしたか。していないなら、まだ関門①の手前にいる可能性があります。
  2. 警察から呼び出しの連絡が来ているか。来ているなら、少なくとも関門②から③に入っています。
  3. 検察庁から書面や電話が来ているか。来ているなら、関門④を過ぎて⑤の手前にいます。


まとめ


 逮捕されるかどうかは、嫌疑があるかという物差しと、逃亡や罪証隠滅のおそれがあるかという物差しの、2つで判断されています。そして通報から処分までの間には、判断する人が入れ替わる複数の関門があり、自分の行動が影響しうる範囲もそれぞれ異なります。

 早く動けば必ず良い結果になる、という単純な話ではありません。ただ、段階が進むほど、選べる手段が減っていくことは確かです。いま自分がどの関門にいるのかを把握しておくことが、次の一手を誤らないための出発点になります。

 当事務所では、風俗トラブルに関するご相談を数多くお受けしてきました。現時点で何が起きているのか、これから何が起こりうるのかを整理するところからお手伝いできますので、判断に迷われている段階でお声がけいただければと思います。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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