実名報道は避けられるのか|報道の判断と弁護人ができること
「相手も同意していると思っていた」。性的な行為をめぐって疑いを向けられた方が、最初に口にすることの多い言葉です。しかし捜査や裁判では、この一言がそのまま結論に直結するわけではありません。何がどの順序で検討されるのかを知らないまま説明を重ねると、本人の意図と違う形で経過が記録されてしまうことがあります。
この記事は、不同意性交等罪の疑いを向けられている方や、過去の出来事に不安を抱えている方に向けて、「同意があると思っていた」という言い分が法律上どう位置づけられ、どのような事情が争点になるのかを整理したものです。
「同意の誤信」には向きの違う二つの意味がある
この言葉は、二つの別々の話に使われています。混同したまま情報を集めると、自分の事案に関係のない解説を読み続けることになりかねません。
- 条文が定める「誤信」=相手方が誤信させられている場合。刑法177条2項は、行為がわいせつなものではないという誤信をさせたり、行為をする人について人違いをさせたりして、またはその誤信・人違いに乗じて性交等をした場合を処罰対象としています。医療上必要な行為だと信じ込ませる、暗がりで交際相手だと思い込んでいる状況を利用する、といった場面です。
- 実務で争点になる「誤信」=行為をした側が「同意があった」と思い込んでいた場合。条文に書かれた類型ではなく、犯罪の成立に必要な「故意」があったかどうかの問題として扱われます。
検索して出てくる解説の多くは前者の条文説明です。以下では後者、つまり「自分は同意があると思っていた」という言い分を扱います。
条文が見ているのは、同意という言葉のやりとりではない
不同意性交等罪(刑法177条1項)は、条文に挙げられた行為や事由により、相手が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」にさせられ、またはその状態に乗じて性交等をした場合に成立します。婚姻関係の有無を問わない旨も条文に明記されています。
法務省の解説によれば、「形成することが困難」とは、したくないという意思を持つこと自体が難しい状態、「表明することが困難」はその意思を外に表すことが難しい状態、「全うすることが困難」は意思を表したもののそのとおりにならない状態をいうとされています。その原因となり得る行為・事由として、次の8類型が例示されています。
| 類型 | 条文が挙げる行為・事由 |
|---|---|
| 1 | 暴行もしくは脅迫を用いること、またはそれらを受けたこと |
| 2 | 心身の障害を生じさせること、またはそれがあること |
| 3 | アルコールもしくは薬物を摂取させること、またはそれらの影響があること |
| 4 | 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること、またはその状態にあること |
| 5 | 同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがないこと |
| 6 | 予想と異なる事態に直面させて恐怖・驚愕させること、またはその事態に直面して恐怖・驚愕していること(いわゆるフリーズ) |
| 7 | 虐待に起因する心理的反応を生じさせること、またはそれがあること |
| 8 | 経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益を憂慮させること、またはそれを憂慮していること |
見落とされやすいのが、法務省が同じ解説で述べている二段構えです。8つの行為・事由は程度を問わないとされる一方、犯罪の成立にはそれらによって相手が「困難な状態」になっていることが必要だとされています。お酒を飲んでいた、立場に差があったという事実だけで直ちに犯罪になるわけではなく、その結果として意思決定が困難だったといえるかが検討されるということです。
つまり争点は、「同意しますと言ったかどうか」ではありません。問われているのは相手がどのような状態にあったか、そしてその状態を行為者がどう認識していたかです。
「思っていた」は、故意の問題として検討される
犯罪が成立するには、客観的な事実があるだけでは足りず、行為者がその事実を認識していたこと(故意)が必要です。したがって、相手が困難な状態にあったとしても、行為者にその認識がなかったと判断されれば、故意が否定される余地があります。「同意があると思っていた」という言い分は、この認識を争うものとして位置づけられます。
もっとも、内心は外から直接見えません。そのため認識の有無は、当時の相手の状態や言動、二人の関係、前後のやりとりといった外形的な事情から推し量られます。ここから、実務上は次の二つが同時に言えます。
- そう述べただけで責任を免れるわけではない。認識がなかったといえるだけの経過が示されなければ、主張として受け入れられにくい
- そう述べたことをもって直ちに有罪となるわけでもない。刑事裁判で有罪を立証する責任は検察官にあり、合理的な疑いが残れば有罪とはされない
制度としては、本人の側が無実を証明する必要はありません。ただ現実の捜査段階では、供述と客観的な資料が食い違えば不利に評価されやすく、当時の経過を具体的に説明できるかどうかが結論を左右する場面が少なくありません。
根拠として挙げられやすいが、それだけでは弱い事情
相談の場でよく語られるのは、次のような事情です。いずれも「そう考えたことに理由がある」と言いたくなるものですが、それ単独では認識を裏づける力が弱いと評価されがちです。
- 交際していた、あるいは夫婦だった
- 二人で食事や飲みに行き、そのまま部屋やホテルに移動した
- 以前にも性的な関係があった
- はっきり拒む言葉がなく、抵抗もされなかった
- その場の雰囲気からそういう流れだと感じた
- 行為の前後に普通の会話をしていた
これらに共通するのは、「拒まれなかったこと」を「同意があったこと」と読み替えている点です。条文は、そもそも拒む意思を持つこと・示すこと・貫くことが難しい状態を問題にしています。上の表の6のような状態が明示されているのも、沈黙や不抵抗が同意と同義ではないという前提に立つからです。
交際関係や婚姻関係についても、条文に「婚姻関係の有無にかかわらず」と書かれている以上、関係があることを理由に同意が当然に推定される扱いにはなりません。過去に関係があったことも、その日その場面の意思決定とは切り離して検討されます。
検討の材料になり得る事情
逆に、認識の有無を判断する材料として意味を持ち得るのは、その日の経過を外側から裏づけるものです。
- 行為の前後に交わしたメッセージや通話の履歴
- 言葉で確認したやりとりがあった場合の、その内容と相手の反応
- 途中で中断したり、確認して再開したりした経過
- 移動の経路や時間帯が分かる記録、店の伝票、防犯カメラの有無
- 当日その場や近くにいた第三者の存在
- 相手の当時の状態を示す客観的な事情
注意したいのは、これらは「同意があったことの証明」ではなく、経過の裏づけとして働く点です。同意という内心そのものを記録に残すことは難しく、集められるのはあくまで前後の事実にとどまります。
なお、こうした資料は時間とともに失われます。事業者に残る通信記録には保存期間があり、店舗の防犯カメラも一定期間で上書きされるのが一般的です。何が残っているかを早い段階で把握しておく意味は小さくありません。
「同意の範囲」についての誤信もある
もう一つよく起きるのが、行為に入ること自体には争いがなく、どこまでの行為に及ぶかについて認識がずれていたという型です。始まりの時点で受け入れられていたことが、その後のすべてに及ぶとは限りません。
途中で拒む意思が示されたのにやめなかった場合は、「全うすることが困難な状態」に当たるかが問題となります。行為の態様が当初と変わった場面でも、その変化を相手がどう受け止め、どう反応していたかが検討されます。「最初に受け入れられたのだから最後まで同じ」という前提は、法律上は成り立ちません。
年齢についての誤信は別の枠組みで扱われる
相手が16歳未満の場合は、同意の有無にかかわらず処罰対象とされます(13歳以上16歳未満の相手については、行為者が5歳以上年長である場合)。この場合の「知らなかった」は、同意の誤信とは別に、年齢に関する認識の問題として検討されます。出会い方、外見、やりとりの内容などから判断されるため、相手の自己申告を信じていたという事情だけでは足りないと評価されることがあります。
誤信を主張するときに、実務で起きること
「同意があると思っていた」と述べることは、事実関係の一部を争う姿勢を示すことになります。そのため、次の点が問題になりやすくなります。
- 供述の一貫性が重視される。最初の説明とのちの説明が食い違うと、変わった理由まで含めて説明が求められる
- 記憶していることと、推測していることの区別が求められる。「たぶんそうだったと思う」という言い方は、認めた供述として記録されることがある
- 調書の内容確認が重要になる。刑事訴訟法198条は、調書の内容を確かめたうえで増減変更を申し立てられること、署名押印を拒めることを定めている
- 被害を訴えている方への対応をどう組み立てるかが難しくなる。事実を争いながらの話し合いは進め方が限られるため、方針は慎重に検討する必要がある
争うのか、認めて解決を目指すのかは、事実がどうであったかに加え、手元にどのような材料があるかによって現実的な選択肢が変わります。どちらか一方が常に正しいという性質のものではありません。
しないほうがよいこと
- 相手に直接連絡を取る。説明や謝罪のつもりでも、口止めや働きかけと受け取られるおそれがあります
- メッセージや画像などのデータを削除する。不利なものを消したと評価されるうえ、経過の裏づけも同時に失われます
- その場をおさめるために、実際の記憶と違う内容の説明をする
- 出来事の詳細をSNSに書き込む、当時の状況を知る人に話を合わせるよう頼む
- 何もせずに時間が経つのを待つ。記録は残り続けず、状況が動いてから対応するほど選べる手段は減ります
弁護士に相談したときにできること
この類型は、事実関係の細部が結論を分けやすい分野です。早い段階で第三者の目を入れる意味があります。
- 何が争点になっているのかを整理し、時系列と手元の資料を突き合わせる
- 失われやすい記録について、保存や取得の可否を検討する
- 取調べで想定される質問と、記憶に基づく説明の仕方を事前に確認する
- 調書の内容確認や訂正の申し立てなど、その場で使える手続を具体的に伝える
- 被害を訴えている方への対応が必要な場面では、窓口となって連絡や交渉を担う
当事務所では、24時間体制で相談を受け付けており、初回の相談は無料でお受けしています。逮捕されている場合には、即日の接見にも対応しています。
立場が逆の場合
性的な被害を受けた方に向けては、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの全国共通短縮番号「#8891」があります。医療、心理、法律の各面の支援につながる窓口で、届出をするかどうかを決めていない段階でも相談できます。
まとめ
「同意があったと思っていた」という言い分は、法律上は行為者の認識、すなわち故意の問題として扱われます。述べただけで責任を免れるものではなく、述べたことで結論が決まるものでもありません。判断の材料になるのは、当時の相手の状態と、それを裏づける外形的な事情です。交際していた、拒まれなかった、部屋に来たといった事情は、それだけでは認識を支える力が弱いと評価されがちです。
不安を感じている段階であっても、経過を整理し、何が残っているかを確認しておく意味はあります。判断に迷う場面では、早めに弁護士に相談することをおすすめします。


