【不貞慰謝料】ホテルの出入りは何回分必要と言われるのか
この記事は、2026年10月時点の民法(2020年4月施行の改正後の消滅時効の規定を含む)と、公表されている最高裁判所・高等裁判所の判断をもとに作成しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な判断は弁護士にご相談ください。
「結婚の話までしていたのに、同じ時期に別の人とも付き合っていた。せめて慰謝料を払ってほしい」というご相談と、「二股が知られてしまい、交際相手から慰謝料を払えと言われた。払わなければならないのか」というご相談は、男女トラブルの窓口でどちらも少なくありません。
インターネット上では「恋人同士には貞操義務がないため、浮気や二股では慰謝料を請求できない。ただし婚約や内縁なら別」と説明されることが多く、この説明自体は誤りではありません。ただ、婚約にも内縁にも当たらない「交際関係だけ」の場合でも、二股に付随して起きた出来事によっては請求が成り立つ場面があります。反対に、二股の事実だけを理由にした請求には、受けた側が応じる必要のないものも多く含まれます。
この記事では、婚約や内縁が認められない交際関係を前提に、二股をめぐって請求が成り立つ場面と成り立ちにくい場面の分かれ目を整理します。婚約・内縁が認められる場合の請求については、二股・浮気をされた恋人|交際関係で慰謝料は取れるのかや婚約中・内縁関係でも不貞慰謝料を請求できるかで詳しく扱っています。
二股そのものは、交際関係だけでは請求の根拠になりにくい
まず、なぜ「交際関係だけ」では請求が難しいとされるのかを確認します。ここを押さえておくと、後で述べる「請求が成り立つ場面」との違いが見えやすくなります。
交際中の相手には「ほかの人と関係を持たない」法的な義務がない
夫婦の間では、配偶者以外の人と性的な関係を持たない義務(貞操義務)があると考えられており、不貞行為は離婚原因にもなります(民法770条1項1号)。これに対し、交際関係は当事者の自由な意思で始まり、自由な意思で終えることができる関係です。法律上、交際相手に対して「自分とだけ付き合う」ことを求める権利は認められていません。
慰謝料は、故意や過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した場合に生じる損害賠償の一種です(民法709条、同法710条)。二股で深く傷ついたとしても、それだけでは「法律上保護される利益が侵害された」と評価されにくいため、請求が難しくなります。
交際期間の長さや「真剣だった」という事情だけでは足りない
「5年も付き合っていた」「お互いに真剣だった」という事情は、気持ちのうえでは大きな意味を持ちます。しかし、交際期間が長いことだけで交際関係が法的な保護の対象に変わるわけではありません。交際期間と金銭の関係については【男女トラブル】交際期間の長さは金銭の清算に影響するのかでも整理しています。
請求が成り立つかどうかは、二股という事実そのものではなく、二股に付随して何が起きたかによって決まります。この視点が、交際関係での請求を考えるときの出発点になります。
婚約が認められれば、前提が変わる
結婚の約束があった場合は、婚約として法的な保護を受ける可能性があります。最高裁判所は、結納などの儀式がなくても、将来夫婦になるという真摯な合意があれば婚約が成立し得るという考え方を示しています(最判昭和38年12月20日)。ただし、口約束だけの場合は合意の存在を裏づける事情が求められ、実際には争いになりやすい点です。婚約が認められる場合の請求は婚約を一方的に破棄された|慰謝料を請求できるケース・できないケースをご覧ください。
交際関係だけでも請求が成り立ちうる場面
婚約や内縁が認められなくても、次のような事情が重なっている場合には請求を検討する余地があります。全体像を表にまとめます。
| 場面 | 請求の根拠になりうるもの | 主に問題になる点 |
|---|---|---|
| 結婚の意思がないのに結婚をほのめかし、関係を続けさせた | 貞操権(性的関係を結ぶ相手を自分で選ぶ自由)の侵害 | 結婚をほのめかした言動の具体性と、それを信じたことの自然さ |
| 二股の「もう一方」が配偶者だった | 既婚を隠されたことによる貞操権の侵害 | 独身だと信じたことに落ち度がなかったか |
| 性感染症をうつされた | 身体への被害についての不法行為 | 感染の時期と経路の立証 |
| 妊娠し、中絶に至った | 中絶に伴う負担を分かち合わなかったことの不法行為 | 話し合いや負担軽減への相手の対応 |
| 交際を口実にお金を渡していた | 詐欺による取消し、不法行為、貸したお金の返還 | 贈与か貸付か、だまされて渡したといえるか |
ここから、それぞれの場面を順に見ていきます。
結婚の意思がないのに、結婚をほのめかして関係を続けさせた場合
性的な関係を結ぶ相手を自分の意思で選ぶ自由は、貞操権と呼ばれ、交際関係にある人にも認められる人格的な利益です。最高裁判所は、妻子のある男性が独身の女性と関係を持った事案で、女性の側に事情を知っていたという落ち度があっても、男性側の違法性が著しく大きいと評価できるときは、女性からの慰謝料請求は否定されないという判断を示しています(最判昭和44年9月26日)。
この考え方からすると、交際関係であっても、相手が結婚する意思を持たないまま、結婚の時期や家族への紹介などを具体的に語って信じさせ、それによって関係を続けさせていたような場合には、請求が認められる余地があります。二股をかけていた事実は、相手に結婚の意思がなかったことを裏づける事情の一つとして意味を持ちます。
一方で、「いつか結婚できたらいいね」といった漠然とした言葉だけでは、欺かれたとまでは評価されにくいのが実際です。どこからが請求の対象になるかの線引きは、結婚をちらつかせて金銭・関係を得る|結婚詐欺と貞操権侵害の境界で詳しく扱っています。
二股の「もう一方」が配偶者だった場合
二股だと思っていた相手が、実は結婚していて、もう一方の相手が配偶者だったと後から分かることがあります。この場合、独身だと信じて交際していた側は、既婚であることを隠されたことによる貞操権の侵害として請求できる可能性があります。詳しくは既婚を隠されて交際|だまされた側が慰謝料を請求できる条件をご覧ください。
あわせて注意したいのは、相手の配偶者から不貞行為の慰謝料を請求される立場にもなり得るという点です。既婚と知らず、知らなかったことに落ち度もなかったといえる場合には責任を負わないこともあります。この点は【不貞慰謝料】既婚と知らなかった|故意・過失が否定される場合で整理しています。
身体やお金に被害が及んだ場面
二股の事実とは別に、身体やお金に具体的な被害が生じている場合は、その被害そのものについて請求を考えることになります。交際関係かどうかにかかわらず問題になる点です。
性感染症をうつされた場合
感染していることを知りながら、あるいは知り得たのに告げずに性的な関係を持ち、相手に感染させた場合には、身体への被害についての不法行為として、治療費や慰謝料を請求できる可能性があります。
ただし、誰からいつ感染したのかを示す必要があり、二股の状況では感染の経路が複数考えられるため、立証が難しくなる面もあります。受診の時期や検査結果の記録を早めに残しておくことが大切です。考え方は性感染症をうつされた場合|請求できるのはどんな場合かもご参照ください。
妊娠し、中絶に至った場合
東京高等裁判所は、交際中の妊娠と中絶をめぐる事案で、男性も胎児の父親として、出産か中絶かの話し合いに誠実に応じ、中絶に伴う女性の身体的・精神的・経済的な負担を軽減する行為をすべき義務があり、これを怠った場合は不法行為になり得るという判断を示しています(東京高判平成21年10月15日)。
二股が発覚した後に連絡を絶つ、中絶費用の負担を拒み続けるといった対応は、二股そのものとは別に、この義務との関係で問題になり得ます。妊娠をめぐる基本的な整理は交際・パパ活相手の妊娠|認知・養育費・中絶同意書の基礎知識、費用の分担については【男女トラブル】中絶費用は折半なのか|「おかしい」と感じたときの整理の仕方をご覧ください。
交際を口実にお金を渡していた場合
交際中に渡したお金は、原則として贈与なのか貸付なのかで扱いが分かれます。貸したお金であれば、二股の有無にかかわらず返還を求めることができます。贈与と貸付の見分け方は別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いで整理しています。
贈与であっても、「結婚資金にする」などと偽って受け取っていた場合には、詐欺による取消し(民法96条1項)や不法行為として返還や賠償を求める余地があります。この場合も、問われるのは二股そのものではなく、お金を受け取る際に欺いたかどうかです。立証の考え方は結婚詐欺に遭ったかも|結婚詐欺の立証と損害賠償請求をご参照ください。
請求を考える前に確かめておきたいこと
請求が成り立ちそうな場面に当てはまる場合でも、請求の相手や手段を誤ると、かえって自分の立場が悪くなることがあります。動き出す前に確かめておきたい点をまとめます。
二股の相手方への請求は難しい
夫婦の不貞行為では、配偶者と関係を持った相手にも請求できる場合があります。しかし交際関係では、そもそも交際相手を独占する法的な権利がないため、二股の相手方が不法行為の責任を負う場面は限られます。相手方もまた、二股を知らされていなかった立場であることが少なくありません。
二股の相手方に連絡して責任を追及したり、SNSで事情を公表したりすると、名誉毀損やプライバシー侵害の問題が生じることもあります。この点はSNSの投稿で名誉毀損と言われた|刑事と民事の違いもご参照ください。
交際中に交わした誓約書・念書の効力
「浮気をしたら100万円を支払う」といった書面を交際中に交わしていることがあります。当事者の合意として一定の効力を持つ場合もありますが、金額が過大な場合や、強い圧力の下で書かせた場合には、公序良俗に反する(民法90条)、強迫によるものとして取り消せる(民法96条1項)といった形で効力が争われることがあります。書面の扱いは【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力で詳しく扱っています。
証拠と時効
請求を検討する場合、結婚をほのめかしたやり取り、送金の記録、診断書や検査結果などを残しておくことが前提になります。残し方は男女トラブルの証拠の集め方|LINE・録音・写真を法的に有効にするをご覧ください。
不法行為に基づく請求は、損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年で時効にかかります(民法724条)。性感染症や中絶のように身体への被害を伴う場合は、知った時からの期間が5年とされる規定もあります(同法724条の2)。いつから期間が進むかは事情によって異なるため、早めに確認しておくと安心です。
二股を理由に請求された側の考え方
ここまでの整理は、請求を受けた側にとっても判断の物差しになります。請求を受けたときに確かめたい点をまとめます。
何の権利が侵害されたのかを確かめる
「二股をした」という事実だけを理由にした請求であれば、婚約や内縁が認められない限り、支払義務が生じない場合が多いと考えられます。まず、相手が婚約の成立を主張しているのか、それ以外の何を根拠にしているのかを確かめることが出発点になります。婚約の成否を踏まえて交渉した例として【解決事例】「婚約は成立していない」ことを踏まえた交渉で、慰謝料請求を100万円から10万円へ減額した事例があります。
応じる必要がない請求と、向き合うべき請求を分ける
一方で、中絶に伴う負担、性感染症、借りたお金の返済など、二股とは別の事情で生じた責任は、二股の請求とは切り分けて誠実に向き合う必要があります。すべてを拒むのでも、すべてに応じるのでもなく、項目ごとに分けて考えることが、結果として早い解決につながります。
請求に「会社に知らせる」「家族に話す」といった言葉が伴う場合は、金額の当否とは別に、脅迫や恐喝との関係も検討することになります。この点は元恋人からの脅迫・強要|「別れるなら〜」への刑事対応(脅迫罪・強要罪)をご参照ください。
よくあるご質問
同棲していた場合は、交際関係だけとはいえないのでしょうか。
同棲していたことだけで内縁と認められるわけではありません。内縁と評価されるかどうかは、共同生活の期間、生計を一つにしていたか、周囲から夫婦として扱われていたかといった事情を総合して判断されます。内縁と法律上の夫婦との違いは【男女トラブル】内縁・事実婚を解消するとき|法律上の夫婦と何が同じで、何が違うのかで整理しています。
口約束だけの結婚の約束でも、婚約になりますか。
結納や指輪がなくても婚約が成立する余地はあります。ただし、口約束だけでは合意の存在を示すのが難しく、双方の家族への紹介、式場や新居の検討、周囲への報告といった事情があるかどうかが判断の材料になります。
請求が認められた場合、金額はどのくらいになりますか。
交際関係での請求は、夫婦の不貞行為の慰謝料とは前提が異なり、一律の目安を示すことは困難です。欺き方の程度、関係が続いた期間、妊娠や中絶の有無、被害の内容などによって差が大きく、事案ごとに見通しを立てる必要があります。
まとめ
- 交際関係には法律上の貞操義務がないため、二股の事実だけでは慰謝料の根拠になりにくい(民法709条)。
- 結婚の意思がないのに結婚をほのめかして関係を続けさせた場合は、貞操権の侵害として請求の余地がある(最判昭和44年9月26日の考え方)。
- 二股の「もう一方」が配偶者だった場合は、既婚を隠されたことによる請求と、相手の配偶者から請求されるリスクの両方を確認する。
- 性感染症や妊娠・中絶など身体への被害は、二股とは別に不法行為が問題になる(東京高判平成21年10月15日)。
- だまされて渡したお金は、詐欺による取消しや不法行為として返還を求める余地がある(民法96条1項)。
- 交際中の誓約書は効力を持つ場合もあるが、過大な金額などは公序良俗違反として争われ得る(民法90条)。
- 請求には時効があり、原則は知った時から3年、身体への被害を伴う場合は5年とされる(民法724条、同法724条の2)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。交際関係での請求が成り立つかどうかは、二股に付随して何があったかを一つずつ確かめることで見通しが立ちます。
二股をかけられて請求を考えている方も、二股を理由に請求を受けて対応に迷っている方も、相手と直接やり取りを続ける前に、一度ご相談ください。


