判決文の読み方|『拘禁刑』表記に変わって何が変わったのか
SNSに書き込んだ投稿について、相手方から「名誉毀損だ」と言われたり、代理人弁護士の名前で通知が届いたり、警察から連絡が入ったりすると、これから何が起きるのか分からないまま時間だけが過ぎていきます。名誉毀損の問題は、刑事事件としての名誉毀損罪と、民事の損害賠償や削除の請求という二つの責任が、それぞれ別の手続で動きます。入口も、判断の枠組みも、区切り方も違います。ここでは、投稿した側の立場から二つの違いを整理し、どのような場合に逮捕が問題になるのかを説明します。
同じ投稿から刑事と民事が別々に動く
一つの投稿から生じる責任は、次のように二本立てになります。
| 比較する点 | 刑事(名誉毀損罪) | 民事(損害賠償・削除) |
|---|---|---|
| 手続を動かす人 | 捜査機関と検察官 | 投稿された本人とその代理人 |
| 入口 | 被害の申告や告訴 | 削除の依頼、発信者情報の開示請求 |
| 求められるもの | 刑罰(有罪なら前科が残る) | 賠償金の支払い、投稿の削除など |
| 期間の区切り | 告訴期間は犯人を知った日から6か月、公訴時効は3年 | 損害と加害者を知った時から3年など |
| 終わり方 | 不起訴、略式命令、判決 | 示談、和解、判決 |
大切なのは、片方が終わってももう片方が自動的に終わるわけではないという点です。刑事が不起訴になっても民事の請求は別に検討されますし、賠償金を支払っていても告訴が残っていれば刑事の手続は進みます。届いた書面がどちらの話なのかを最初に見分けることが、その後の対応を決めます。
刑事の名誉毀損罪で見られる点
名誉毀損罪は刑法230条1項に定められており、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合に、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が定められています。捜査で確認されるのは次の点です。
・公然と行われたか。不特定または多数の人が知り得る状態を指し、SNSへの投稿は通常これにあたります。読んだ人が少数でも、そこから広がる可能性があると評価されれば公然性が認められます(最高裁昭和34年5月7日判決)
・具体的な事実を示したか。社会的評価を下げるおそれのある事柄かどうかが見られます
・内容が真実かどうかは、成立そのものを左右しません
・実際に評価が下がったことまでは求められず、そのおそれがあれば足ります
刑事で処罰されないとされる場合
刑法230条の2は、公共の利害に関する事実であること、目的が専ら公益を図ることにあったこと、内容が真実であると証明されたことの三つがそろう場合には処罰しないと定めています。真実であることの証明ができなかったときでも、判例の言葉でいう「確実な資料、根拠」に照らして真実と信じた相当の理由があれば、故意がないとして処罰されないとされています(最高裁昭和44年6月25日判決)。この考え方は、報道機関ではない個人がインターネット上に書き込んだ場合にも同じように適用されます(最高裁平成22年3月15日決定)。
私的なトラブルの暴露は、公共の利害に関する事実という入口の部分で認められにくく、内容が真実であっても責任が残ることがあります。
民事は事実か意見・論評かで枠組みが分かれる
民事では、社会的評価を低下させるものであれば、事実を示すものであっても意見や論評を述べるものであっても名誉毀損になり得るとされています(最高裁平成9年9月9日判決)。ただし、責任を判断する枠組みが二つに分かれます。
・事実を示した型は、公共の利害に関する事実で、専ら公益を図る目的があり、重要な部分が真実であれば違法性がないとされます。真実と証明できなくても、真実と信じたことに相当の理由があれば故意や過失が否定されます(最高裁昭和41年6月23日判決)
・意見や論評を述べた型は、前提としている事実が重要な部分で真実であれば、人身攻撃に及ぶなど意見や論評としての域を逸脱したものでない限り、違法性を欠くとされます(前掲平成9年9月9日判決)
刑事では、具体的な事実を伴わない評価は名誉毀損罪ではなく侮辱罪の領域として整理されます。これに対して民事では、評価の表明であっても責任が問われる場面があります。刑事で立件されなかったから民事でも問題にならない、とは言い切れないのはこのためです。
どちらの型にあたるかは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に判断されます。伝聞の紹介や推論の形をとっていても、前後の文脈からある事柄を述べていると読めるのであれば、事実を示したものとして扱われます。
事実の指摘がない書き込みは名誉感情の問題になる
具体的な事実を伴わない罵りは、社会的評価を下げるものではなく、本人が自分について抱く評価、すなわち名誉感情を傷つけるにとどまると整理されます。この場合は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為と認められて初めて責任が生じます(最高裁平成22年4月13日判決)。裁判例では、次のような点が考慮されています。
・言葉そのものの侮辱の程度、相手の存在を否定する言い方かどうか
・根拠が示されない感想の域にとどまっているかどうか
・一つの投稿の中で侮辱的な言葉が重ねられているかどうか
・投稿の数と、繰り返されているかどうか
・投稿に至るまでの経緯
・表現に具体性があるか、意味が明確か
名誉毀損は、読み手が誰のことか分かることが前提になりますが、名誉感情の侵害はその点が求められないとされています。ハンドルネームに向けた書き込みでも問題になり得るのは、この違いによるものです。
後から集めた資料が効く場面と効かない場面
民事では、投稿の内容が真実かどうかは事実審の口頭弁論が終わる時点を基準に判断され、投稿した時には存在しなかった資料を考慮することもできるとされています(最高裁平成14年1月29日判決)。一方で、真実と信じたことに相当の理由があったかどうかは投稿した時点が基準となり、その時に手元にあった資料に限って判断されます。
後から裏づけが見つかっても、投稿した時点で何を根拠にしていたかという評価は変わりません。取調べや交渉の場でも、何を見て、どこまで確かめて投稿したのかが具体的に問われます。当時参照していた資料ややり取りは、記憶が薄れる前に時系列で整理しておくと説明がしやすくなります。
名誉毀損で逮捕されるのはどのような場合か
逮捕には、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由(逮捕の理由)と、逃亡や証拠隠滅のおそれ(逮捕の必要性)が必要で、明らかに必要がないと認められるときは逮捕状は発付されません(刑事訴訟法199条2項ただし書)。
投稿の記録は、サーバー側や相手方が保存した画面に残っていることが多く、身柄を拘束しなければ証拠が失われるという状況になりにくい類型です。そのため、名誉毀損では在宅のまま捜査が進むことも少なくありません。他方で、次のような事情があるときは逮捕に傾きやすくなります。
・投稿が長期間、多数回にわたって続いている
・出頭の要請に応じない、連絡が取れない状態が続いている
・相手方への接触や新たな投稿が止まっていない
・脅迫や業務妨害など、ほかの罪も併せて問題になっている
逮捕されたことと有罪であることは別のことです。逮捕の段階では、犯罪の成立そのものが確定しているわけではありません。
告訴がなくても捜査が始まることがある
名誉毀損罪と侮辱罪は親告罪とされ、被害者の告訴がなければ検察官は起訴できません(刑法232条1項)。ただし、告訴は起訴のための条件であって、捜査そのものの条件とはされていません。告訴が出される前に相談を受けた警察官が事情を聴くこともあり、告訴がないから何も起きないとは限らない点に注意が必要です。
告訴ができる期間は、犯人を知った日から6か月です(刑事訴訟法235条1項)。公訴時効は名誉毀損罪、侮辱罪ともに3年です。侮辱罪は2022年の法改正で法定刑が1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に引き上げられ、これに伴って公訴時効も1年から3年になりました。
民事は開示の手続から動き出すことが多い
匿名の投稿では、相手方はまず投稿の削除を求め、あわせて誰が投稿したのかを明らかにする手続を進めます。契約先のプロバイダから「意見照会書」が届いて初めて事態を知る方も多くいます。この開示請求と開示命令の手続は、2025年4月1日に施行された情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)に引き継がれています。
民事で請求される可能性があるのは、精神的苦痛に対する慰謝料のほか、投稿の削除、そして相手方が投稿者を調べるために要した費用などです。調査に要した費用が損害として認められた裁判例もあります。
意見照会書に回答するかどうかは任意ですが、回答した内容はその後の交渉の出発点になります。期限が短いことが多いため、届いた時点で方針を決めておくことが必要です。
引用や再投稿、投稿の削除をめぐって
・他人の投稿をそのまま転載したり再投稿したりした場合も、読み手からは同じ内容を示したものと読めるとして、責任が問題になることがあります。コメントを付けずに再投稿しただけの利用者について賠償を認めた裁判例もあります(東京地裁令和3年11月30日判決)
・投稿を消しても、すでに成立した責任がなかったことになるわけではありません。相手方が画面を保存していることも多くあります
・一方で、投稿が残ったままの状態は削除の請求の対象になります。自分から削除したことは、その後の交渉で説明できる材料になります
・アカウントごと消してしまうと、投稿に至る経緯など自分の説明を裏づける材料まで失われます。やり取りは手元に保存しておくことをおすすめします
示談で二つの手続をまとめて区切る
名誉毀損罪は親告罪ですから、起訴される前に告訴が取り消されれば起訴されません。告訴の取消しは起訴されるまでの間にでき、一度取り消した人は同じ事実について再び告訴することができません(刑事訴訟法237条)。
示談の合意には、次のような内容を盛り込むことが考えられます。
・投稿の削除と、同じ内容を再び投稿しないこと
・支払う金額と支払いの時期
・ほかに債権債務がないことを確認する条項
・告訴の取消しや、処罰を求めない意思の記載
一つの合意で刑事と民事の両方に区切りをつけられる点に、示談の実務上の意味があります。相手方が交渉に応じないこともありますが、その場合でも、投稿の削除や謝罪の申し入れなど、できる対応を積み重ねていくことになります。
控えたほうがよい対応
・相手方や関係者に直接連絡して、自分から説明しようとすること
・経緯や反論をあらためて投稿すること
・アカウントを消して連絡が取れない状態にすること
・第三者に事情を広めて味方を集めようとすること
・本当のことを書いたのだから問題ないと考えて、届いた書面を放置すること
よくあるご質問
Q.鍵付きのアカウントや少人数のグループへの投稿でも名誉毀損になりますか。
A.直接読める人が少数であっても、そこから内容が広がる可能性があると評価されれば、公然性が認められることがあります。一対一のダイレクトメッセージは公然性が問題になりにくい一方、内容によっては脅迫など別の罪が問題になることがあります。
Q.書いた内容が本当のことなら責任は生じませんか。
A.刑事で処罰されないためには、内容が真実であることに加えて、公共の利害に関する事実であることと、専ら公益を図る目的であったことが必要です。私的なトラブルについての書き込みは、この二つを満たしにくいのが実情です。
Q.会社や店舗について書いた場合はどうなりますか。
A.法人も名誉毀損の対象になります。内容が虚偽で、支払能力や商品の品質といった経済的な信用に関わるものである場合には、信用毀損罪や業務妨害罪として扱われることもあります。
まとめ
・一つの投稿から、刑事の名誉毀損罪と民事の損害賠償という二つの責任が別々に動く
・刑事では、公共の利害、公益目的、真実性の三つがそろう場合に処罰されないとされている
・民事では、事実を示した型と意見・論評型で判断の枠組みが分かれる
・具体的な事実を伴わない書き込みは、名誉感情の侵害として扱われることがある
・真実性は後から出てきた資料も含めて判断されるが、相当の理由は投稿時点で判断される
・逮捕には理由と必要性が必要で、在宅のまま捜査が進むことも少なくない
・告訴は起訴のための条件であり、捜査そのものの条件ではない
・民事は、削除の依頼と発信者情報の開示から動き出すことが多い
・示談は、告訴の取消しと民事の清算をまとめて区切る手段になる
当事務所では、刑事事件についてのご相談を24時間受け付けており、初回のご相談は無料です。投稿の内容や届いた書面をもとに、刑事と民事のそれぞれで何が問題になるのかを整理してお伝えします。


