郵便・宅配からの発覚を防ぐ|書面の受け取り方の設計
性風俗を利用したあと、体の不調に気づいて検査を受け、性感染症と診断された。心当たりはあの日しかない。そう考えたとき、相手や店に治療費や慰謝料を負担してもらえないかと思われる方は少なくありません。
ただ、この問題は「うつされたかどうか」だけでは決まりません。請求が成り立つかどうかは、何を、誰に対して、どこまで示せるかで決まります。感染しているという事実は検査で分かりますが、それが誰との接触によるものかまでは、検査結果には書かれていないからです。
この記事では、性感染症をうつされたと考えている方に向けて、請求が成り立つのはどのような場合か、どこでつまずきやすいのかを順に整理します。相手を疑ってかかることをすすめる趣旨ではありませんし、店が禁じている行為をすすめる趣旨でもありません。診断や治療そのものは医療機関の判断が優先しますので、体調に不安があるときは受診を先にしてください。
この記事が想定している場面
- 性風俗を利用したあとに性感染症と診断され、費用を負担してもらえないかと考えている。
- 店や相手に連絡したものの取り合ってもらえず、次にどうすればよいか分からない。
- 請求できるのかどうかを知ったうえで、動くかどうかを決めたい。
- 相手側からは逆に「あなたが感染源だ」と言われており、話が食い違っている。
いずれも成人同士の場面を前提としています。相手が十八歳未満であった場合や、すでに警察から連絡が来ている場合は、ここで扱う話とは別の問題を含みますので、個別に相談してください。また、自分が請求を受けている側である場合は、確認していく順序が逆になります。
「うつされた」と「うつされたと示せる」は別の話
検査で陽性と出れば、感染しているという事実そのものははっきりします。しかし、請求の場面で問われるのはその先です。いつ、誰との接触が原因なのか。相手はそのことを知っていたのか。そこまで進んで、はじめて誰かに責任を求める話になります。
性感染症には自覚症状が出にくいものもあり、感染していることに本人が気づいていない期間が生じることがあります。症状が出るまでの期間も病気ごとに幅があり、個人差もあります。そのため、「不調に気づいた直前の接触が原因だ」と単純に結びつけられるとは限りません。ここが、この種の請求で最初に立ち止まるところです。
つまり、感染したという事実、感染の経路、相手の落ち度は、それぞれ別に検討される事柄だということです。一つ目がはっきりしていても、二つ目と三つ目が残ります。
請求が成り立つまでに越える四つの関門
金銭の請求が認められるまでには、大きく四つの段階があります。それぞれ問われる中身が違い、示す材料も違います。
| 関門 | 問われること | 示す材料の例 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|---|
| 一つ目 感染したこと | 実際に感染しているか | 診断の記録、検査結果、受診日 | 症状の自覚だけでは足りない |
| 二つ目 感染の経路 | その接触が原因といえるか | 利用日と検査日の関係、相手の状態 | ほかに接触があると弱くなる |
| 三つ目 相手の落ち度 | 感染を知っていたか、知り得たか | 相手の検査の状況、当日のやり取り | 相手も気づいていない場合がある |
| 四つ目 損害の中身 | どのような不利益が生じたか | 領収書、通院の記録、欠勤の記録 | 請求額と認められる額は別 |
ここで大切なのは、これらを示す負担は、請求する側にあるという点です。相手に「うつしていないことを証明してほしい」と求める形にはなりません。自分が被害を受けたと感じている側であっても、話を進めるための材料は自分で集めることになります。
なお、四つの関門は順番に並んでいますが、一つ崩れたら全部終わりというものでもありません。たとえば経路の説明が弱くても、相手が感染を知りながら隠していたことを示す事情があれば、話し合いの余地が残ることはあります。逆に、相手の落ち度がはっきりしていても、感染の経路が説明できなければ請求は通りにくくなります。
二つ目の関門|感染の経路をどう説明するか
実務で一番の壁になりやすいのが、この経路の説明です。
ほかにも接触がある場合
同じ時期に別の相手との接触があった場合、原因を一つに絞ることは難しくなります。相手の側も、業務上、不特定多数の人と接する立場にあります。その相手から感染したと言えるだけの事情を、どこまで示せるかが問われます。
「その日以外に心当たりがない」という説明は、話の出発点にはなりますが、それだけで結論になるわけではありません。利用した日、症状に気づいた日、検査を受けた日、その結果が出た日という時系列を、記録として残しておけるかどうかが実際の差になります。
自分が先に感染していた可能性も検討される
この種の話には、方向が逆になりうるという特徴があります。相手も検査で陽性だった場合、どちらが先に感染していたのかは、それだけでは分かりません。自分が請求するつもりで動いたところ、相手側から同じ理由で請求されるという展開もあり得ます。
感染の事実が双方にあるという状況は、どちらが原因かを決める材料にはならないと考えておいたほうが安全です。話し合いに入る前に、この点は想定しておくとよいでしょう。
相手の受診先に直接問い合わせない
相手がいつどこで検査を受けたのかを知りたくなる場面はありますが、医療機関に直接問い合わせても、本人以外に情報が出ることは通常ありません。無理に聞き出そうとすれば、こちらの側の問題として扱われることもあります。相手方の医療情報が必要になる場面では、代理人を通じた手続が用意されていますので、そちらを検討することになります。
三つ目の関門|相手に落ち度があったといえるか
感染させたことが分かったとしても、それだけで金銭を求められるとは限りません。相手が感染を知っていたか、あるいは知ることができたか、という点が問われます。
知らなかった場合の扱い
相手にも自覚症状がなく、検査を受ける機会もなかったという場合、落ち度があったと言いにくくなります。逆に、症状が出ていた、検査で陽性と分かっていた、それを伝えないまま行為に及んだ、といった事情があれば、評価は変わってきます。
そのため、当日のやり取りが後から意味を持つことがあります。体調について何か言っていたか、こちらの質問にどう答えたか。記憶だけでなく、メッセージのやり取りが残っていれば、それも材料になります。
検査を受けているという説明があった場合
店や相手から「定期的に検査を受けているので心配ない」といった説明を受けていた場合、その説明の中身が問題になることがあります。ただし、検査を受けていること自体は、感染の可能性がなくなることを意味しません。検査を受けた時期と、その後の接触との関係によっては、相手側に有利に働く事情として扱われることもあります。
いずれにしても、「説明があった」という一点だけで結論が決まるものではなく、その説明が何を約束するものだったのかまで踏み込んで検討されます。
誰に請求するのか
相手が個人なのか店なのかで、話の進み方は大きく変わります。
相手本人に請求する場合
行為の当事者である以上、相手本人が請求の相手方になるのが基本の形です。ただ、風俗の場面では源氏名しか知らないことがほとんどで、本名も連絡先も分からないという壁にぶつかります。連絡がつかなければ、話し合いも手続も始められません。
店に請求できる場合と、できるとは限らない場合
働き手が起こしたことについて、雇っている側が責任を負う場面はあります。ただし、風俗店とキャストの関係は雇用の形をとらないことも多く、店とスタッフの関係が一律に決まっているわけではありません。
さらに、店が予定していない行為であった場合、店の業務との結びつきが弱いと評価されることもあります。店に対して、衛生管理の説明や案内の内容を理由に責任を問えないかという考え方もありますが、店に請求できるかどうかは、その店の運営実態と、当日の行為の位置づけによって変わります。はじめから店だけを相手に決めてかかると、話が進まないことがあります。
請求する側に返ってくる事情
この問題には、請求する側が引き受けることになる面もあります。ここを知らずに動き出すと、思っていた展開にならないことがあります。
自分の側の事情も前提として出てくる
感染の経路を説明するということは、いつ、どこで、どのような行為があったのかを自分から明らかにするということでもあります。店が禁じている行為が前提になる場合、その事実も含めて話すことになります。相手や店に自分の利用が知られることも避けられません。
どこまで明らかにするかは、請求で得られるものと見比べて決める話です。請求しないという判断も、選択肢の一つとして残しておいてよいと思います。
双方の事情が金額に影響することがある
仮に請求が認められる場合でも、こちらの側の事情が考慮されて、金額が調整されることがあります。感染の可能性をどこまで意識していたか、防ぐ手立てをとっていたか、といった点です。請求した額がそのまま認められるわけではない、という前提で見ておくと、話し合いの場で揺さぶられにくくなります。
時間の経過で失われるもの
この種の話は、時間が経つほど材料が減っていきます。早い段階で押さえておけるものから順に整理します。
| 時期 | 押さえておけるもの | 時間が経つと |
|---|---|---|
| 受診の前後 | 検査結果と受診日の記録、症状の経過 | 後から日付をさかのぼって作れない |
| 数日のうち | 利用日が分かる記録、予約や決済の履歴 | 保存期間を過ぎて残らなくなる |
| 数週間のうち | 治療の経過、領収書、休んだ日の記録 | 支出や損失の裏づけが取れなくなる |
| その後 | 相手や店とのやり取り、在籍の状況 | 相手が在籍しなくなり連絡がつかない |
特に、受診と検査の記録は日付が意味を持ちます。同じ内容でも、時期が分かる形で残っているかどうかで扱いが変わります。診断の書面を受け取れる場合は、その時点で受け取っておくと後の手間が減ります。
請求できる期間には制限がある
損害賠償を求められる期間には、法律上の区切りがあります。損害と相手を知った時から数えるものと、行為の時から数えるものの二本立てになっており、体を害された場合は、そうでない場合より長めに扱われる仕組みになっています。
もっとも、期間が残っていても、時間が経つほど示せる材料は減ります。期間の話と、実際に動きやすいかどうかの話は別だと考えておくとよいでしょう。刑事の枠組みで問題になる場面もありますが、そちらは民事とは別の判断になりますので、状況に応じて分けて検討することになります。
請求できる中身
実際に求められるものとしては、次のようなものが考えられます。
- 検査や治療にかかった費用。
- 通院にかかった交通費。
- 仕事を休んだことによる収入の減少。
- 精神的な苦痛に対する慰謝料。
それぞれの項目が認められるための条件や、裏づけとして何が要るかについては、項目ごとの検討が必要になります。ここでは、請求した額と認められる額は別のものだという点だけ押さえておいてください。合計額を先に決めてから中身を埋めていくのではなく、一つずつ積み上げていく形になります。
動き出す前に整えておきたいこと
- 医療機関を受診し、検査を受ける。結果は日付が分かる形で保管する。
- 利用日が分かる記録を集める。予約のメールや決済の明細が手がかりになる。
- 相手や店とのやり取りを残す。消さずに、そのまま保存しておく。
- 症状に気づいた日と経過を、簡単でよいので書き出しておく。
- 話し合いに入る前に、何をどこまで求めるのかを整理する。
この段階では、相手を問い詰めることよりも、後から動くための材料を手元に残すことのほうが効きます。
避けたほうがよい対応
- 店名や相手の個人名を、インターネット上に書き込む。こちらの側の責任が問われる形になりかねない。
- 店に繰り返し押しかけたり、深夜に連絡を続けたりする。求め方の程度によっては、こちらの行為が問題として扱われる。
- 金額を先に口にして、根拠を後から探す。話し合いの土台が崩れやすくなる。
- やり取りの履歴や利用の記録を消してしまう。自分の説明を支える材料まで失う。
- 事実と違う説明を混ぜる。一か所でも食い違うと、説明全体が信用されにくくなる。
感情としては当然の反応でも、立場が入れ替わってしまう対応がある点には注意が必要です。
弁護士に相談すると変わること
この問題で弁護士が関わる場面は、主に次のようなところです。
- 集まっている材料で請求が成り立つ見込みがあるかを、動き出す前に見立てる。
- 相手の特定や、店との連絡の窓口を引き受ける。
- 自分の側の事情がどこまで影響するかを含めて、進め方を組み立てる。
- 逆に請求を受けた場合も含めて、対応を一本化する。
ただし、率直に申し上げると、費用と手間に見合わないという見立てになることもあります。請求できる形にならないという結論も含めて、早い段階で見通しを持っておくことに意味があります。
まとめ
- 感染しているという事実と、誰から感染したかを示せることは別の話である。
- 請求が成り立つまでには、感染の事実、経路、相手の落ち度、損害の中身という四つの段階がある。
- これらを示す負担は、請求する側にある。
- 経路の説明が実務上の一番の壁になりやすく、ほかの接触があると難しくなる。
- 相手が感染を知らなかった場合、落ち度を認めにくくなる。
- 請求の相手方は本人が基本だが、連絡先が分からないという壁がある。店に請求できるかは運営の実態による。
- 請求する側も、自分の側の事情を明らかにすることになる。
- 記録は時間とともに失われるため、受診と検査の記録から先に押さえる。
性感染症をめぐる請求は、感情の面でも手続の面でも負担の大きい問題です。動き出す前に見通しを持っておきたいという段階でも、お話をうかがうことはできますので、一人で抱え込まずにご相談ください。当事務所では初回の相談を無料でお受けしています。


