【不貞慰謝料】裁判の記録は誰でも見られるのか
本記事は2026年9月時点の法令に基づいています。民法は、2020年4月1日施行の改正(債権関係)と、2026年4月1日施行の改正(令和6年法律第33号・家族法関係)を反映しています。
何年も付き合った相手と別れるとき、「これだけ長く一緒にいたのだから、相応の清算があってよいはずだ」と感じる方は少なくありません。反対に、長い交際の終わりに「何年分の時間を返してほしい」と金銭を求められ、応じるべきか迷う方もいます。
ただ、法律の上で期間そのものが支払いの根拠になる場面は限られており、期間が意味を持つのは、ほかの事情を判断する材料として使われるときが中心です。場面によっては、期間が長いことがかえって不利に働くこともあります。
この記事では、「長いほど有利」という直感が法的にどこまで裏づけられるのかを、期間が効く経路と効かない場面に分けて整理します。
夫婦には「婚姻の期間」の定めがあり、交際にはない
清算の場面で期間の長さが条文に書かれているのは、法律上の夫婦の財産分与です。2026年4月1日施行の改正で、家庭裁判所が財産分与を定める際の考慮事情として、婚姻中に取得・維持した財産の額や各自の寄与の程度と並んで、「婚姻の期間」が明記されました(民法768条3項)。
これに対し、婚姻していない交際相手どうしの清算には、財産分与にあたる規定がありません。交際は当事者の自由な意思で始まり、自由な意思で終わるものと考えられており、別れたこと自体から金銭の支払義務が生じることは原則として想定されていないためです。期間が長くても、この出発点は変わりません。
この点をよく示すのが、最高裁判所平成16年11月18日判決です。約16年続き、子どももいた男女の関係を、一方が突然解消して別の人と婚姻したことが不法行為にあたるかが争われました。最高裁は、住居が別で共同生活をしたことがなく、生計も別々で共有する財産もなかったこと、意図的に婚姻を避けていたこと、関係を続ける合意がされた形跡もないことなどを挙げ、慰謝料の請求を認めませんでした。長い期間であることを踏まえても、それだけでは法的な保護につながらないと判断された例といえます。
交際期間が清算に影響する三つの経路
期間の長さが意味を持つのは、主に次の三つの経路を通じてです。
| 経路 | 期間の働き方 | 期間より重く見られるもの |
|---|---|---|
| 関係の性質の認定 | 婚約や内縁にあたるかを判断する材料の一つになる | 結婚の約束の真剣さ、共同生活の実態 |
| 請求が成り立つ場合の金額 | 慰謝料の額を考える事情の一つになる | 請求の根拠そのものがあるか |
| 時間の経過による影響 | 時効、記録の散逸、援助としての評価につながる | 個々の授受の日付と、その時々のやり取り |
一つ目と二つ目は期間が長いほど請求する側に働きやすく、三つ目は反対に不利に働きやすい経路です。
一つ目の経路|婚約・内縁にあたるかの判断
婚約と認められるか
婚約は、将来結婚するという真剣な合意があれば成立し、正当な理由なく一方的に破棄されると損害賠償の対象になることがあります。交際期間の長さは判断の材料になりますが、重く見られるのは、両親への紹介、婚約指輪の授受、式場の予約、結婚を前提にした転居や退職といった、約束の真剣さを外から示す事情です。
長く付き合っていても結婚の話が具体化していなければ婚約とは評価されにくく、反対に交際が短くても婚約が認められることがあります。判断の分かれ目は婚約を一方的に破棄された|慰謝料を請求できるケース・できないケースで取り上げています。
内縁と認められるか
内縁(事実婚)は、婚姻の意思と、夫婦としての共同生活の実態があるときに認められます。同居期間に法律の定めはなく、家計を一つにしていたか、周囲に夫婦として紹介していたか、住民票や契約書にどう記載されていたかといった事情と合わせて判断されます。
内縁と認められると、関係の解消に際して財産分与の規定が類推して用いられると考えられており、共同生活の期間が考慮される余地も出てきます。法律上の夫婦と同じ扱いになる点と異なる点は、【男女トラブル】内縁・事実婚を解消するとき|法律上の夫婦と何が同じで、何が違うのかで整理しています。
二つ目の経路|請求が成り立つ場合の金額
婚約の不当な破棄、内縁の不当な解消、既婚であることを隠した交際などで慰謝料の請求が成り立つ場合、交際や共同生活の期間は金額を考える事情の一つとして扱われます(既婚を隠されて交際|だまされた側が慰謝料を請求できる条件)。不貞慰謝料で不貞の期間が考慮されるのと似た構造です(不貞の期間・回数はどこまで金額に響くのか)。
ただし、ここでの期間は、すでにある請求の額を調整する材料にとどまります。単なる交際の解消では、相手が別の人と交際を始めた場合も含め、請求の根拠そのものが認められにくいため(二股・浮気をされた恋人|交際関係で慰謝料は取れるのか)、期間が金額を押し上げる段階まで進まないことが多いのが実情です。
期間の長さがほとんど影響しない清算
別れた後の清算で実際に問題になりやすいのは、交際中に動いたお金や物の扱いです。この部分は、交際期間の長さではなく、一つひとつの授受の性質で決まります。
| 清算の対象 | 主に見られる事情 | 期間との関係 |
|---|---|---|
| デート代・旅行代・プレゼント | 渡した時点で返してもらう前提があったか | 長くても短くても、贈与と見られやすい点は変わらない |
| 貸したお金 | 返済の約束があったか | 期間ではなく、約束を示す記録が中心になる |
| 立て替えた生活費 | 立替だったのか、分担だったのか | 長い同棲では、分担のあり方が固まっていたと見られることがある |
| 共同で買った家具・家電 | 誰がいくら負担したか | 負担割合が明らかでなければ、持分は等しいと推定される(民法250条) |
| 結納・婚約指輪 | 婚約の目的が遂げられたか | 期間の長さより、婚約の解消に至った事情が問われる |
たとえば交際中のプレゼントは、渡した時点で贈与として完了していれば、交際が何年続いたかにかかわらず返還を求める根拠になりにくいものです。書面によらない贈与でも、渡し終えた部分は解除できません(民法550条)。
お金の性質の見分け方は別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違い、立替分の扱いは交際中に立て替えた生活費・プレゼント代は返してもらえる?、共同で買った物の分け方は【男女トラブル】同棲を解消するとき、家具・家電はどう分けるのか|共同で買ったものの扱い、結納については結婚を前提に渡したお金・結納金は返還請求できるかで詳しく取り上げています。
「何年分でいくら」という総額の形で話が出てきたときも、清算の対象を一件ずつに分けて検討するのが基本です。総額が大きいことと、一件ごとに返還の根拠があることは別の問題です。
三つ目の経路|期間が長いほど不利に働く場面
古い貸付ほど時効が近づく
貸したお金の返還請求権は、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年で、時効によって消滅します(民法166条1項)。交際が長いと、初期に貸したお金はすでにこの期間を過ぎていることがあります。また、2020年3月31日以前に生じた貸付には改正前の規定が適用され、原則として権利を行使できる時から10年となります(改正法附則10条4項)。同じ相手への貸付でも、時期によって規定が分かれることがあります。
法律上の夫婦の間の権利には、婚姻の解消から6か月を経過するまで時効が完成しないという定めがあります(民法159条)。この規定は夫婦を前提としたもので、交際相手どうしにそのまま当てはまるものではありません。交際中は請求しにくかったという事情があっても、時効は進んでいる前提で考えておく必要があります。
一方で、交際中に相手が「きちんと返す」とメッセージを送っていた、一部を返してきたといった事情は、債務の承認として、その時点から時効を新たに進行させる方向に働くことがあります(民法152条1項)。請求の種類ごとの期間は男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかに、相手と連絡が取れない場合の進め方は【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法にまとめています。
記録が残りにくくなる
機種変更や口座の解約などで、数年前の送金履歴やメッセージは失われやすくなります。長い交際ほど必要な記録が手元に残っていないことが起こりやすく、早めの保存が大切です(男女トラブルの証拠の集め方|LINE・録音・写真を法的に有効にする)。
繰り返しの援助は「関係の中での負担」と見られやすい
長い期間にわたって生活費や遊興費を繰り返し負担し、その間に返済の話が一度も出ていなかった場合、後から「貸したものだった」と主張しても、関係の中での援助として評価される方向に傾きやすくなります。貸したつもりのお金がある場合は、交際期間の長さに頼るのではなく、返済の約束を示す記録を探すことが先決です(恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?)。
「長く付き合ったのだから払ってほしい」と求められたとき
反対の立場から見ると、交際期間の長さだけを理由とする金銭の要求には、原則として法的な根拠がありません。別れる際に支払われる手切れ金も、当事者の合意があって初めて生じるもので、一方が当然に請求できるものではないと考えられています(手切れ金を請求された|支払う法的義務はあるのか)。
もっとも、相手が「婚約していた」「事実上の夫婦だった」と主張している場合は、先に見た婚約・内縁の判断要素に沿って事実関係を整理する必要があります。期間の長さを争うより、約束や共同生活の実態を具体的に確認するほうが、話の筋を立てやすくなります。
期間を踏まえて清算を考えるときの整理手順
- 二人の関係が交際・婚約・内縁のどれにあたりそうかを、事実をもとに確認します。
- 交際中に動いたお金と物を、日付と金額が分かる形で一件ずつ書き出します。
- 各件について、贈与・貸付・立替・共同購入のどれにあたるかの見立てを付けます。
- 各件の日付から時効の期間を確認し、2020年4月より前のものは適用される規定を分けて考えます。
- 送金履歴やメッセージなど、見立てを裏づける記録の所在を確かめて保存します。
- 話し合いで決着させる場合は、清算の範囲を明らかにした書面にまとめます。
最後の点については、清算条項の意味|後から追加請求されないためにで清算条項の働きを、【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力で交際相手どうしの書面の効き方を取り上げています。
よくあるご質問
同棲していなくても、10年付き合えば内縁として扱われますか
期間だけで内縁と認められることはありません。内縁には婚姻の意思と共同生活の実態が必要とされ、住居も生計も別であった関係は、長く続いていても内縁とは評価されにくいのが一般的です。
交際期間が短ければ、受け取ったお金を返さなくてよいのですか
期間の短さは返還義務の有無を決めません。短い交際でも、返す約束で受け取ったお金であれば、貸付として返還を求められることがあります。反対に、長い交際でも贈与として受け取ったものは、返還の根拠になりにくいといえます。
期間は清算の「根拠」ではなく「材料」
- 交際期間の長さそのものが、支払いの根拠になる場面は限られます。
- 期間が効くのは、婚約・内縁の判断や、すでにある請求の金額を考える場面が中心です。
- 約16年続いた関係でも、共同生活や婚姻の意思がなければ法的な保護が認められなかった例があります。
- 交際中に動いたお金や物は、期間ではなく一件ごとの性質で清算の可否が決まります。
- 期間が長いほど、時効や記録の散逸といった不利な影響も大きくなります。
法的な結論を分けるのは期間の数字ではなく、その期間に何が約束され、どのように暮らし、どのようなお金が動いたかという中身です。まずは手元の記録を時系列に並べるところから始めてみてください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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