不倫相手の配偶者から慰謝料を請求された|減額・拒否できるケース
男女間のトラブルは、密室で、二人しかいない場面で起こることがほとんどです。そのため「言った」「言っていない」の水掛け論になりやすく、話し合いでも、その後の法的手続でも、記録が残っているかどうかで結論が大きく変わります。
一方で、証拠は「集めさえすればよい」というものではありません。集め方を誤ると、証拠としての価値がほとんど失われたり、集めた行為そのもので今度はご自身が責任を問われたりすることがあります。
この記事では、交際関係・別れ話・金銭のやり取りなど男女トラブル全般を想定し、LINE・録音・写真という身近な3つの記録を、後から通用する形で残すための考え方を整理します。
この記事の要点
- 「法的に有効」は、①証拠として取り調べてもらえるか②どこまで事実を推認させるか③集めた行為が適法か、という3つの層に分かれます
- 民事裁判では証拠能力の制限は原則としてなく、無断で集めた記録も直ちに排除されるわけではありません
- 実務で問題になりやすいのは「証拠能力」より「改ざんを疑われないか」という証明力の方です
- 相手のIDでのログインや監視アプリの無断導入など、収集方法によっては刑事・民事の責任を負うおそれがあります
- 証拠は請求する側だけのものではありません。請求された側にとっても、記録を消さないことが最大の防御になります
「法的に有効な証拠」を3つの層に分けて考える
「この証拠は法的に有効ですか」というご相談をよくいただきます。この問いには、実は性質の異なる3つの論点が混ざっています。混ざったままだと判断を誤りやすいので、最初に分けておきます。
① 証拠能力(そもそも裁判の証拠にできるか)
民事訴訟法には、証拠能力を制限する一般的な規定が置かれていません。そのため、相手に無断で録音・撮影した記録であっても、それだけで証拠から排除されるわけではないと考えられています。
もっとも、限界を示した裁判例があります。東京高裁昭和52年7月15日判決は、著しく反社会的な手段を用い、人の精神的・肉体的自由を拘束するなど人格権侵害を伴う方法で採集された証拠は、それ自体違法の評価を受け証拠能力を否定されるとしました。脅したり、閉じ込めたり、住居に侵入したりして得た記録は、この観点から問題になり得ます。
② 証明力(どこまで事実を推認させるか)
証拠として提出できることと、裁判官がそこから事実を認めてくれることは別です。実務で争いになるのは、圧倒的にこちらです。断片的な一枚のスクリーンショット、途中から始まる短い録音、人物が判別できない写真は、提出はできても「決め手にならない」と評価されがちです。
③ 収集行為の適法性(集めたことで責任を負わないか)
証拠として使えたとしても、集めた行為の責任は別に残ります。無断でスマートフォンにログインした、監視アプリを入れた、といった経緯が明らかになると、慰謝料を請求する立場だったはずが、逆にプライバシー侵害等で賠償を求められる立場に転じることがあります。
この3層のうち、多くの方が心配されるのは①ですが、実際に対策の効果が大きいのは②と③です。以下、記録の種類ごとに具体的に見ていきます。
LINE・メッセージの残し方
何が意味を持つ記録なのか
トラブルの種類によって、注目すべきやり取りは変わります。
- 金銭に関するトラブル:金額と交付の事実、返済の約束、送金の目的が分かるやり取り。振込明細や送金アプリの履歴と組み合わせると裏づけになります
- 脅しや過大な要求:要求の内容、期限、応じない場合に何をすると言われたかが分かる部分
- 関係の性質が争いになる場合:交際の開始時期、相手の説明(独身かどうか、結婚の話など)が分かるやり取り
- 執拗な連絡:件数、時間帯、こちらが明確に拒否した事実
いずれの場合も、決定的な一文だけを切り取るより、その前後を含めて残すことが重要です。前後があることで、文脈が自然かどうかを第三者が判断でき、信用性が高まります。
改ざんを疑われない保存
スクリーンショットは手軽ですが、画像編集で容易に加工できるため、相手方から「作られたものだ」と反論される余地を残します。次のような工夫で、その疑いを減らせます。
- 画面を別の端末で動画撮影する:トークをゆっくりスクロールしながら撮影し、相手のアカウント名・アイコン・プロフィール画面・日時が映るようにします
- アプリのトーク履歴保存機能を使う:テキストとして書き出したデータを、スクリーンショットとは別に保管します
- 保存の時期を早くする:トラブル発覚から時間が経ってから初めて出てきた記録は、なぜ今まで出さなかったのかという疑問を招きます
- 二重に保管する:端末の故障・機種変更・紛失に備え、クラウドや別媒体にも残します
自分の発言も同じ重みで残る
見落とされがちですが、記録に残るのは相手の発言だけではありません。「私が悪かった」「必ず返します」といったご自身の一文が、後に責任や支払義務を認めた証拠として扱われることがあります。少額でも一部を支払った事実も同様です。
その場を収めたい気持ちからの一言が、後から覆しにくい記録になります。事実関係に確信が持てないうちは、認める趣旨の返信は避けるのが無難です。
録音をどう扱うか
自分が参加している会話の録音
会話の当事者が、相手の同意を得ずにその会話を録音すること自体は、原則として違法とはされていません。最高裁も、詐欺の被害を受けたと考えた人が自衛のために相手との会話を録音した事案について、相手方の同意がなくても違法ではないという趣旨の判断を示しています。男女間のトラブルで、話し合いの場や電話でのやり取りを記録することは、この範囲に収まることが多いといえます。
ただし「盗聴」は別の問題
自分が参加していない他人同士の会話を機器で聞き取る行為は、まったく別の評価になります。通信の秘密は、電気通信事業法4条、有線電気通信法9条、電波法59条によって保護されており、通話の盗聴は違法となり得ます。相手の部屋に立ち入って機器を仕掛ければ住居侵入罪(刑法130条/3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金)の問題も生じます。
「自分が入っている会話か、そうでないか」が、実務上の分かれ目です。
証明力を落とさない録り方
- 通しで録る:必要な部分だけを切り出したデータは、編集の疑いを招きます。元データは加工せず原本のまま保管し、必要な部分は別途書き起こします
- 冒頭で状況を残す:日時・場所・誰と話しているのかが分かる会話が入っていると、特定が容易になります
- 誘導しない:言質を取ろうとして誘導的な質問を重ねると、その部分の信用性が下がります。前掲の東京高裁判決も、誘導的なやり取りを隠し録りした事案でした
- 書き起こしを用意する:裁判で録音を提出する際は、内容を説明する書面(反訳)を求められることがあります(民事訴訟規則149条1項)
なお、相手が録音していることもあります。感情的なやり取りは、双方にとってリスクになると考えておいた方がよいでしょう。
写真・動画で気をつけること
記録として意味を持たせる条件
写真は、写っているだけでは足りず、いつ・どこで・誰がを特定できて初めて機能します。日時情報が残る形で撮る、周囲の建物や看板が入るようにする、顔が判別できる角度を意識する、といった点が実際の評価を分けます。
一度きりの撮影より、複数の日時にわたる記録の方が、関係の継続性を示しやすい傾向があります。
撮影が違法と評価される場面
人には、みだりに容ぼうを撮影されない人格的利益があります。最高裁平成17年11月10日判決は、撮影される人の社会的地位、撮影された場所、撮影の目的・態様・必要性などを総合的に考慮し、その侵害が社会生活上受忍すべき限度を超える場合に違法になるという判断枠組みを示しました。
このため、公道など公然と人目に触れる場所での撮影が直ちに違法になるわけではない一方、次のような場合は責任を問われるおそれがあります。
- 相手の住居内や、覗き込むようにして私的な空間を撮影する
- 撮影のために建物や敷地に立ち入る(住居侵入罪)
- 性的な姿態を同意なく撮影する(性的姿態等撮影罪/2023年7月13日施行・3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金)
- 撮影した画像をSNS等に投稿する(撮影とは別に、公表による責任が生じ得ます)
集め方として避けたい5つの行為
証拠を得たい一心で行った行為が、立場を逆転させてしまうことがあります。
- 相手のIDやパスワードを使ってログインする:不正アクセス禁止法違反となるおそれがあります(3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)。ログイン済みの画面を開く行為と、自分の端末からIDを入力してログインする行為は、法的な評価が異なります
- 監視アプリ・遠隔操作アプリを無断でインストールする:不正指令電磁的記録供用罪(刑法168条の2/3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)に問われた例が報道されています
- GPS機器や紛失防止タグを無断で取り付ける:ストーカー規制法の規制対象となり得ます。過去に位置情報の共有に同意していた場合でも、承諾は撤回できます
- 盗聴器の設置や住居への立入り:前述のとおり刑事責任の問題になります
- 加工・作成した「証拠」を使う:請求が認められないだけでなく、それ自体が新たな責任を生みます
いずれも、民事の場面で証拠として採用される可能性が残る一方、集めた行為の責任は消えません。「使えるかもしれない」と「やってよい」は別だとお考えください。
請求された側にとっての証拠
証拠の話は、請求する側のものと思われがちですが、実際には請求を受けた側にとっても同じ重みを持ちます。
金額に納得できない、関係の実態が相手の主張と違う、そもそも身に覚えがない——こうした反論は、記憶だけでは通りにくく、当時のやり取りや送金の記録があるかどうかで結論が変わります。
このとき最も避けたいのが、やり取りを自分から消してしまうことです。都合の悪い部分を含んでいても、全体が残っていることで文脈が示せる場合が少なくありません。削除した事実自体が不利に評価されることもあります。
あわせて、その場で認めない、即答しない、書面にサインしないという初動が重要です。請求されたこと自体は、支払義務が確定したことを意味しません。
よくあるご質問
Q. 相手のスマートフォンを勝手に見て撮った画面は使えますか。
民事の裁判で証拠として扱われる余地はありますが、閲覧の態様によってはプライバシー侵害として賠償責任を問われ、交渉でも不利な材料にされることがあります。手元にある記録で立証できないか、まず整理することをおすすめします。
Q. 録音することを相手に伝える必要はありますか。
自分が参加している会話であれば、告げずに録音したことをもって直ちに違法とはされていません。ただし、録音した内容を無関係な第三者に聞かせたり公開したりする行為は、別途プライバシー侵害等の問題になり得ます。
Q. 相手の身元が分からないのですが。
氏名や住所が不明でも、電話番号やアカウント情報などの手がかりから特定できる場合があります。弁護士会を通じた照会などの手段がありますので、手がかりを消さないうちにご相談ください。
Q. どのくらいの期間で動くべきですか。
不法行為に基づく損害賠償の請求権は、損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年で時効にかかります(民法724条)。記録も時間の経過とともに失われますので、早めの着手が結果を左右します。
まとめ
男女トラブルの証拠は、「決定的な一枚」を探すものではなく、日時が特定でき、前後の文脈があり、加工の疑いをもたれない形で積み重ねるものです。そして、その積み重ね方は、集める行為が適法であって初めて意味を持ちます。
手元にある記録が使えるものかどうか、これ以上何を集めるべきか、そもそも集めるべきでないものはどれか——この判断は、事案の内容によって変わります。ご自身の判断で動く前に、一度ご相談いただくことをおすすめします。


