結婚詐欺に遭ったかも|結婚詐欺の立証と損害賠償請求

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

 「結婚するつもりだと信じていたのに、お金を渡した途端に連絡が取れなくなった」「これは結婚詐欺なのか、それともただ縁がなかっただけなのか、自分でも判断がつかない」。結婚詐欺の被害では、相手への怒りや悔しさに加えて、そもそも「詐欺」として責任を追及できるのかどうかがわからず、動き出せないという方が少なくありません。

 結婚詐欺で損害賠償を求めるうえで最大の壁になるのが、「相手に最初から騙す意思があったこと」を立証できるかという点です。ここがあいまいなままだと、相手に「本気で結婚するつもりだった」「返すつもりだったが返せなくなっただけ」と言い逃れをされてしまいます。

 この記事では、男女トラブル・詐欺被害の解決に携わる弁護士が、次の点を中心に解説します。

「結婚詐欺かも」と「ただの別れ・貸し倒れ」を分ける境界線

 結婚をほのめかされてお金を渡し、その後に相手が態度を変えたからといって、それがそのまま「結婚詐欺」になるわけではありません。まずは、法的に責任を問える結婚詐欺と、そうとは言い切れないケースの違いを整理しておきましょう。

 結婚詐欺は、法律上は刑法246条1項の詐欺罪にあたる行為です。
 詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させた場合に成立し、法定刑は10年以下の拘禁刑とされています(罰金刑の定めはなく、未遂も処罰されます/刑法250条)。
「拘禁刑」は、2025年6月1日施行の改正刑法で、従来の懲役刑・禁錮刑を一本化したものです。
 ここでポイントになるのが、**「最初から騙すつもりだったかどうか」**です。

  • お金を借りた時点では返すつもりがあったが、その後に返せなくなった → 単なる債務不履行であり、原則として「詐欺」ではありません(ただし、借りたお金を返す義務そのものは残ります)
  • 交際・婚約の当初は結婚する気があったが、途中で気持ちが変わって別れた → 心変わりであり、それ自体は「詐欺」ではありません(もっとも、正当な理由のない婚約破棄として別途責任を問える場合があります。後述します)


 つまり、「お金が返ってこない」「結婚に至らなかった」という結果だけでは詐欺とは言えず、相手が金品を受け取る時点で、はじめから騙して奪う意図を持っていたかが分かれ目になります。
 なお、金銭のやりとりがまったくない場合(独身だと偽って交際していただけなど)は、原則として詐欺罪にはあたりません。ただし、既婚者が独身と偽って関係を持ったようなケースでは、貞操権の侵害を理由に慰謝料を請求できる可能性があります。

なぜ結婚詐欺の立証は難しいのか

 結婚詐欺で損害賠償を求める場合、「相手に騙す意思があったこと」を、請求する側(被害者側)が証明しなければなりません。そして、この立証が結婚詐欺特有の難しさを生んでいます。
 詐欺として責任を問うには、大きく次の2点を示す必要があります。

  • ①騙されたことによって財産的な損害が生じたこと
  • ②相手が、金品を受け取る当初から騙し取る意思を持っていたこと

 このうち①(お金を渡した事実など)は、振込履歴や借用書などで比較的示しやすい部分です。一方で②の「当初からの騙す意思」は、相手の内心にかかわる事柄であり、直接目に見える形で証明することが容易ではありません。
 しかも、相手方は次のような言い分で争ってきます。

  • 「本気で結婚するつもりだった。ただ、気持ちが変わっただけだ」
  • 「お金は借りたが、返すつもりだった。返せなくなったのは事情が変わったからだ」

 こうした弁解が事実として通ってしまうと、「当初は騙す意思がなかった」と評価され、詐欺としての責任追及が難しくなります。相手が偽名や虚偽の住所を使っていて、そもそも本人にたどり着けないという事情が重なることも珍しくありません。
 このため、「騙された」という被害者側の実感だけでは足りず、相手の言い逃れを崩せるだけの客観的な材料をどれだけそろえられるかが、結婚詐欺の立証の要になります。

「騙す意思」は間接事実の積み上げで立証する

 内心である「騙す意思」を正面から証明するのが難しい以上、実務では、周辺の客観的な事実(間接事実)を積み上げて、「当初から騙す意思があったと考えるのが自然だ」と推認させるという方法をとります。ここが、結婚詐欺の損害賠償で最も工夫を要する部分です。
 「騙す意思」を推認させる方向にはたらく間接事実には、たとえば次のようなものがあります。

  • 前提となる身分・経歴に嘘があった:実際には既婚者なのに独身と偽っていた、職業・収入・氏名などのプロフィールが虚偽だった
  • お金を求めた理由が虚偽だった:「親が事故に遭い治療費が必要」「事業の資金繰りが苦しい」といった説明が、事実に反していた
  • 金銭を受け取った前後の行動が不自然:まとまったお金を受け取った直後に音信不通になった、連絡先やSNSアカウントを消して姿を消した
  • 同種の被害が複数存在する:同じ人物が、他の相手にも同様の手口で金銭を求めていた形跡がある
  • 受け取った金銭の使途:結婚準備などの名目とは無関係に、遊興費などへ費消していた

 こうした事実は、単独では「たまたま」とも説明されかねません。しかし、複数がひとつの方向に重なっていくほど、「はじめから騙すつもりだったと見るのが自然だ」という評価につながりやすくなります。逆に、こうした間接事実が乏しい場合には、詐欺としての立証は慎重に見積もる必要があります。
 「どの事実が立証にとって意味を持つのか」「手元の材料でどこまで詐欺と評価できそうか」は、個別の事情によって大きく変わります。集められる証拠と見通しの整理は、早い段階で弁護士に相談すると判断がつけやすくなります。

立証できる範囲に応じて選べる損害賠償の請求ルート

 結婚詐欺の損害賠償は、「詐欺を立証できなければ何も請求できない」というものではありません。どこまで立証できるかに応じて、複数の請求ルートを使い分けることができます。詐欺そのものの証明が難しい場合でも、別の構成で被害回復を図れる余地があります。
 主な請求ルートは次のとおりです。

  • ①不法行為に基づく損害賠償(民法709条・710条):結婚詐欺そのものを立証できる場合の中心的なルートです。騙されたことによる財産的損害に加え、精神的苦痛に対する慰謝料もあわせて請求できます。
  • ②詐欺による取消し+不当利得返還(民法96条1項・703条・704条):騙されて渡したお金について、意思表示を取り消したうえで、相手が得た利益の返還を求める構成です。渡した金銭そのものを取り戻すことを目的とします。
  • ③婚約破棄を理由とする慰謝料請求:「当初からの騙す意思」までは立証しきれない場合でも、正当な理由のない婚約破棄(または相手側に原因のある破棄)があれば、不法行為または債務不履行を根拠に慰謝料を請求できることがあります。婚約は口約束でも成立し得ますが、訴訟ではある程度客観的に婚約の成立を示す証拠が求められます。
  • ④貞操権の侵害を理由とする慰謝料請求:既婚者が独身と偽って関係を持ったなど、金銭の授受がないケースで検討される構成です。


立証できる内容中心となる請求ルート
当初からの騙す意思まで示せる不法行為による損害賠償(慰謝料+損害/709・710条)、詐欺取消し+不当利得返還(96・703条)
騙す意思の立証は難しいが、渡した金銭は明確不当利得返還・貸金返還など、金銭の返還を軸にした請求
詐欺までは示せないが、婚約の成立と不当な破棄は示せる婚約破棄を理由とする慰謝料請求
金銭被害はないが、既婚を偽られた等の事情がある貞操権侵害を理由とする慰謝料請求

 ※どのルートを選ぶべきかは、集められた証拠と事案の内容によって変わります。上表は考え方の整理であり、実際の見通しは個別の検討が必要です。

損害賠償請求のために集めておきたい証拠

 どの請求ルートをとるにしても、相手が素直に支払いに応じるとは限らず、最終的には「言った・言わない」ではなく客観的な証拠が結論を左右します。立証の柱ごとに、集めておきたい証拠を整理します。

騙す意思・欺罔(うそ)を示す証拠

  • 相手が既婚者だったことがわかる資料[箇条書き]振込履歴のわかる通帳・取引明細
  • 借用書、金銭の貸し借りや贈与に関するやりとりの記録
  • 高額な物品を買わされた・契約させられた場合の領収書や契約書


マッチングアプリ・結婚相談所・婚活の場でのプロフィールに虚偽があったことがわかるもの
お金を求めた理由が事実に反していたことがわかるもの
当初から騙す意図をうかがわせるメール・LINE・SNS・録音などのやりとり[/箇条書き]

金銭を渡した事実を示す証拠

婚約が成立していたことを示す証拠

(婚約破棄ルートを想定する場合)

  • プロポーズや結婚の約束をうかがわせる録音・録画・メッセージ
  • 婚約指輪の購入、結婚式場の下見・予約、両家の顔合わせ、周囲への婚約者としての紹介などがわかるもの

 重要なのは初動での証拠の保全です。相手がSNSアカウントを削除したり、連絡先を変えたりすると、うそを裏づける材料が急速に失われていきます。やりとりの画面はスクリーンショットで保存し、振込明細などは早めに手元に確保しておくと、後の立証で役立ちます。何が有効な証拠になるか判断がつかない段階でも、まずは残っているものを消さずにとっておくことをおすすめします。

立証を固めて請求を実現するまでの流れ

 証拠がある程度そろっても、結婚詐欺の相手は偽名や虚偽の住所を使っていることが多く、被害者ご自身での請求には限界があります。弁護士に依頼した場合、一般的には次のような流れで進みます。

  1. 相手の身元・資力の調査:まず相手の本名・住所を特定します。弁護士は、弁護士法23条の2に基づく「弁護士会照会」を利用して、携帯電話番号から契約者情報を照会するなどの調査を行えます。
  2. 立証の構成の設計:集まった証拠を踏まえ、詐欺(不法行為)・不当利得返還・婚約破棄など、どのルートで請求するのが妥当かを整理します。
  3. 内容証明郵便の送付・交渉:弁護士名義で損害賠償や金銭の返還を求める書面を送り、相手方と交渉します。依頼者が相手と直接やりとりする必要はありません。
  4. 訴訟提起・強制執行:交渉がまとまらない場合は訴訟を提起し、判決後も支払いがなければ、相手の財産に対する強制執行を検討します。

 なお、請求を検討するうえでは時効にも注意が必要です。不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から3年、行為の時から20年で時効にかかるとされています(民法724条)。
 また、詐欺罪として刑事責任を問う場合の公訴時効は7年です(刑事訴訟法250条2項)。時間の経過は立証にも回収にも不利にはたらくため、被害に気づいた段階で早めに動くことが大切です。

結婚詐欺の被害でお悩みの方は弁護士にご相談ください

 結婚詐欺の損害賠償では、「相手に最初から騙す意思があったこと」をどこまで立証できるかが結論を大きく左右します。直接には証明しにくい内心も、身分の偽り・虚偽の借入理由・受領直後の音信不通といった間接事実を積み上げることで、責任を追及できる場合があります。
 そして、仮に詐欺そのものの立証が難しいときでも、婚約破棄を理由とする慰謝料請求や、渡したお金の返還請求など、別の構成で被害回復を図れる余地があります。どのルートで、どのような証拠をもとに請求するのが妥当かは、事案ごとの見極めが必要です。
 「これは結婚詐欺と言えるのか」「手元の証拠で請求できるのか」と迷っている段階でも、早めに弁護士に相談することで、取るべき手立てと見通しが整理できます。相手がすでに音信不通の場合でも、身元の特定を含めて対応できるケースがあります。
 当事務所では結婚詐欺をはじめとする詐欺被害のご相談を数多くお受けしており、被害回復にも実績があります。全国どこからでも無料相談をご利用いただけますので、お気軽にお問い合わせください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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