【不貞慰謝料】求償権とは何か|払った側が不貞相手に分担を求める仕組み
本記事は2026年10月時点の法令に基づいています。刑罰の表記は、2025年6月に施行された拘禁刑(懲役・禁錮を一本化したもの)によっています。
交際していた相手と別れた後も、同じ職場で働き続けている方は少なくありません。そうした中で、同僚から「〇〇さんがあなたのことをこう言っていた」と聞かされ、元恋人が自分の悪い噂を流していると知ったとき、仕事を続けながらどう対応すればよいのか、迷われる方が多いと思います。
本記事では、元恋人が共通の職場で噂を流している場合に、どのような法的な問題になり得るのか、会社にはどう相談すればよいのか、噂を止めるためにどのような手段があるのかを、順を追って整理します。
まずは噂の「中身」を分けて考える
職場で流されている噂といっても、その内容によって法的な位置づけが変わります。最初に、自分について何が言われているのかを、次の3つに分けて整理しておくと、その後の対応を考えやすくなります。
| 噂の内容の例 | 主に問題になるもの | ポイント |
|---|---|---|
| 「浮気をしていた」「借金を踏み倒した」など、事実ではない具体的な話 | 名誉毀損 | 社会的な評価を下げる具体的な事柄かどうか |
| 交際していたこと、別れた経緯、性的な事柄など、事実だが知られたくない私生活 | プライバシー侵害(内容によっては名誉毀損) | 本人が公にしていない私生活の事柄かどうか |
| 「性格が最悪」「頭がおかしい」など、具体的な事実を伴わない悪口 | 侮辱、名誉感情の侵害 | 表現の程度や回数、広がり方 |
実際の噂はこれらが混ざっていることも多く、どれか一つに当てはめる必要はありません。ただ、言われている内容を具体的に書き出してみると、どの部分が法的に問題にしやすいのかが見えてきます。
名誉毀損になるかの分かれ目
内容が事実かどうかだけで決まるわけではない
名誉毀損罪(刑法230条)は、公然と事実を示して人の名誉を傷つけた場合に成立し、法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。ここでいう「事実」は真実である必要はなく、内容が本当であっても成立し得るとされています。
公共の利害に関わる事柄で、公益を図る目的があり、真実と証明された場合には処罰されないという例外(刑法230条の2)もありますが、個人の交際や別れの経緯は、通常この例外には当たりにくいと考えられます。「本当のことを言っただけ」という言い分が、そのまま通るとは限らないということです。
少人数に話しただけでも問題になることがある
名誉毀損の成立には「公然性」、つまり不特定または多数の人が知り得る状態が必要です。職場の同僚数人に話しただけでは足りないのではないか、と考える方もいますが、判例は、直接話した相手が少人数でも、そこから多くの人に伝わっていく可能性がある場合には公然性を認める考え方(伝播性の理論)をとっています。
職場は人の行き来が多く、噂が広がりやすい場所です。誰に、どの場面で話したのかによって評価は変わりますが、「数人にしか言っていない」ことだけで問題がなくなるわけではありません。一方で、個別の事情によっては公然性が否定されることもあるため、判断は具体的な状況を踏まえて行う必要があります。
悪口や人格への攻撃は侮辱の問題になる
具体的な事実を示さずに相手をおとしめる発言は、侮辱罪(刑法231条)の対象になり得ます。2022年の改正で法定刑が引き上げられ、現在は1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料とされています。
名誉毀損罪と侮辱罪は、いずれも被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪で、告訴できる期間は原則として犯人を知った日から6か月です。期間や手続については、名誉毀損は親告罪|告訴期間と示談による解決で詳しく解説しています。
職場ならではの事情|会社に求められる対応
元恋人が同じ職場にいる場合、問題は二人の間だけにとどまりません。会社には、従業員が働きやすい環境を保つための対応が求められています。
たとえば、男女雇用機会均等法に基づく指針では、事業主が防止措置をとるべき「性的な言動」の例として、性的な内容の情報を意図的に流布することが挙げられています。元恋人が交際中の性的な事柄を職場で話している場合には、セクシュアルハラスメントとして会社の相談窓口が扱う対象になり得ます。また、噂によって職場で孤立させられているような場合には、パワーハラスメントの類型である「人間関係からの切り離し」や「個の侵害」との関係が問題になることもあります。
会社に相談するときは、交際していたことの細部まで説明する必要はありません。次のような点に絞って伝えると、会社としても対応を検討しやすくなります。
- いつ頃から、どのような内容の噂が職場で話されているか。
- 誰から、どの場面で聞いたか。
- 業務や人間関係にどのような影響が出ているか。
- 会社に求めたいこと(事実の確認、本人への注意、席や担当業務の調整など)。
相手が上司に話を持ち込んでいる場合の対応は【男女トラブル】別れを告げたら相手が自分の上司に話した|職場への影響を抑える、日々の接触を減らす工夫は【男女トラブル】別れた相手が同じ職場にいる|職場での接触を減らす方法で取り上げています。社内恋愛のトラブル全般については社内不倫・職場恋愛のトラブル|接触禁止条項と業務の調整・退職勧奨もあわせてご覧ください。
してしまいがちな対応と、その注意点
噂を聞いて気持ちが動揺するのは自然なことです。ただ、その場の勢いでとった行動が、かえって状況を難しくすることがあります。
- 元恋人に職場で直接詰め寄ると、口論になった様子を周囲に見られたり録音されたりして、自分の言動が問題にされるおそれがあります。
- 同僚に「あの人の言っていることは嘘だ」と反論して回ると、その際の発言の内容によっては、今度は自分が相手の名誉を傷つけたと言われることがあります。
- SNSで事情を説明したり反論したりすると、職場の外にまで話が広がり、収拾がつきにくくなります。
- 相手の新しい交際相手や家族に連絡すると、新たなトラブルの火種になりやすく、交渉の場面でも不利に働くことがあります。
噂を否定したい気持ちは当然ですが、まずは記録を整え、会社や弁護士といった第三者を通す形で対応を進めるほうが、結果として早く落ち着くことが多いといえます。
噂について記録を残す
口頭の噂は形に残りにくく、後から「そんなことは言っていない」と否定されることがあります。気づいた時点から、次の順で記録をつけておくことをおすすめします。
- 噂を聞いた日時、場所、教えてくれた人、聞いた内容をメモに残す。
- 社内チャットやメール、SNSのメッセージなど、文字で残っているものを保存する。
- 噂が原因で業務や評価に影響が出た場面を書き留める。
- 体調を崩して受診した場合は、通院の記録や診断書を保管する。
同僚から聞いた話は「又聞き」にとどまるため、それだけで元恋人の発言を証明するのは難しいこともあります。教えてくれた同僚に協力をお願いする場合も、その方の立場や負担に配慮し、無理に証言を求めないことが大切です。自分が加わっている会話を録音したものは、裁判でも証拠として扱われることが多いですが、録音の場をつくるために相手を呼び出すことは避けたほうがよいでしょう。
噂を止めるための手段
会社を通じた対応
社内の相談窓口や人事部門に相談し、事実の確認や本人への注意、配置の見直しなどを求める方法です。職場の中で起きている問題であるため、最初に検討しやすい手段といえます。ただし、会社がとれる対応には限りがあり、元恋人への処分の内容などは会社の判断に委ねられます。
弁護士からの通知と合意書
弁護士が代理人となって元恋人に通知を送り、噂を流す行為をやめるよう求める方法です。以後の連絡は弁護士を通すよう伝えることで、職場で直接やり取りする場面を減らすことにもつながります。
話し合いがまとまった場合には、交際や別れに関する事柄を口外しないこと、職場で業務以外の接触をしないこと、約束に反した場合の取り決めなどを合意書にまとめます。書面の効力については【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力で解説しています。
損害賠償の請求
名誉毀損やプライバシー侵害にあたる場合には、不法行為(民法709条、710条)として慰謝料を請求できる可能性があります。名誉毀損については、金銭に代えて、または金銭とあわせて、名誉を回復するための措置を求めることも民法723条で認められています。職場の場合、関係者への訂正の申入れなどがこれにあたります。
慰謝料の金額は、噂の内容、広がった範囲、仕事への影響などによって幅があり、職場内の口頭の噂にとどまる場合には、大きな金額にならないことも少なくありません。請求するかどうかは、費用や時間、職場に与える影響も含めて検討することになります。
刑事告訴
名誉毀損罪や侮辱罪にあたると考えられる場合には、告訴を検討することもできます。ただ、口頭の噂は証拠が集めにくく、警察が捜査に着手するまでに時間がかかることもあります。民事での対応や会社を通じた対応と並べて、どの手段を優先するかを考えることが大切です。
噂がネットやSNSに広がった場合
職場の噂が、匿名掲示板や口コミサイト、SNSへの書き込みに発展することもあります。その場合は、投稿の画面をURLや日時がわかる形で保存したうえで、削除の求めや投稿者を特定する手続を検討します。具体的な進め方は【ストーカートラブル】職場の口コミサイトに書き込みが続く|元恋人が疑われるときの記録・削除・勤務先との連携で解説しています。また、職場の外の共通の友人に悪口が広まっている場合については、【男女トラブル】別れた相手が共通の友人に悪口を広めている|名誉毀損になる線もご参照ください。
よくあるご質問
元恋人は「本当のことを言っただけ」と言っています。それなら問題にならないのでしょうか
前述のとおり、名誉毀損は話した内容が真実であっても成立し得ます。また、交際していたことや別れの経緯など、本人が公にしていない私生活の事柄を広めることは、プライバシー侵害として問題になることがあります。真実かどうかだけで判断せず、内容と広め方の両方から検討する必要があります。
噂の出どころが元恋人だと断定できません。それでも相談できますか
相談は可能です。誰が最初に話したのかがはっきりしない段階でも、聞いた内容や時期、伝えてくれた人を整理していくことで、出どころがある程度見えてくることがあります。断定できないうちに相手を名指しで非難することは避け、まずは記録を整えるところから始めることをおすすめします。
会社に相談すると、交際していたことまで知られてしまいませんか
会社には、噂の内容と業務への影響を中心に伝えれば足りることが多く、交際の細部まで説明する必要はありません。社内の相談窓口には相談者のプライバシーに配慮することが求められています。どこまで話すかを事前に整理しておくと安心です。なお、弁護士への相談そのものが相手に伝わることはありません。詳しくは【男女トラブル】相手に知られずに相談できるか|相談しただけで相手に伝わることはないをご覧ください。
噂が止まれば、同じ部署で働き続けても大丈夫でしょうか
噂が止まった後も、業務上のやり取りで気まずさが残ることはあります。合意書に職場での接触に関する取り決めを入れる、会社に担当業務の調整を相談するなど、働き続けるための環境を整えておくと、再び問題が起きたときにも対応しやすくなります。
元恋人が共通の職場で噂を流している場合でも、噂の中身を分けて整理し、記録を残したうえで、会社や弁護士を通じて対応することで、状況が落ち着いていく例は少なくありません。交際の解消をめぐるトラブルへの当事務所の取り組みについては、【男女トラブル】弁護士が交際関係の解消時のトラブルに介入するサービス|金銭の清算・画像の削除・ストーカー・脅迫まで全国対応でご紹介しています。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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