【解決事例】愛人関係の解消に伴う高額請求トラブル|弁護士の介入により家族や周囲への発覚を回避し円満に示談した事例
婚約者やパートナーの不貞が分かったとき、まず気になるのは「婚姻届を出していない自分でも慰謝料を請求できるのか」という点ではないでしょうか。反対に、不貞の相手方として請求を受けた立場からは「結婚していない二人の問題なのに、なぜ自分が支払うことになるのか」という疑問が生じます。
結論から申し上げると、婚姻届を出しているかどうかが、そのまま結論を分けるわけではありません。ただし、婚約中と内縁関係とでは法律上の考え方が異なり、請求できる範囲も、証明しなければならない事柄も変わってきます。この記事では、婚約中・内縁関係における不貞慰謝料について、請求する側と請求を受けた側の双方の視点から整理します。
婚姻届の有無が、そのまま結論を分けるわけではない
不貞を理由とする慰謝料の法律上の根拠は、民法709条(不法行為による損害賠償)と710条(財産以外の損害の賠償)です。これらの条文は「配偶者に対してのみ」といった限定を置いておらず、問われているのは、法律上保護される利益が侵害されたといえるかどうかです。
そのため、婚姻届を出していない関係であっても、その関係が法律上の保護に値する程度に達していれば、不貞によって慰謝料が生じる余地があります。逆にいえば、婚姻届がないことを理由に一律で請求が否定されるわけでもなければ、婚姻届がないのに当然に法律婚と同じ扱いになるわけでもありません。
実務上は、おおまかに次のように整理されています。
| 関係 | 法律上の位置づけ | 不貞慰謝料の考え方 |
|---|---|---|
| 法律婚 | 民法の婚姻に関する規定が直接適用される | 貞操義務違反として問題になる |
| 内縁(事実婚) | 婚姻に準ずる関係と考えられている | 法律婚に準じた扱いがされる |
| 婚約 | 将来の婚姻についての約束(婚姻の予約) | 不貞とその後の経過を併せて評価されやすい |
| 交際のみ | 特別な法的地位は与えられていない | 原則として認められにくい |
注意していただきたいのは、この4つの区分が、指輪を渡したかどうかや同居しているかどうかといった形式で機械的に決まるものではない、という点です。どの段階にあるかは、二人の関係の実体から判断されます。
内縁関係の場合|「婚姻に準ずる関係」として扱われる
最高裁が示した考え方
内縁については、最高裁昭和33年4月11日判決(民集12巻5号789頁)が、婚姻の届出を欠くため法律上の婚姻とはいえないものの、男女が協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点では婚姻関係と異ならず、婚姻に準ずる関係とみて差し支えないと述べています。この考え方は「準婚理論」と呼ばれています。
婚姻に準ずる関係と位置づけられる以上、法律婚の夫婦について認められている義務のうち、婚姻届の存在を前提としないものは内縁にも及ぶと考えられています。互いに他の相手と性的関係を持たない義務、いわゆる貞操義務もそのひとつとされています。したがって、内縁のパートナーが第三者と性的関係を持った場合には、不法行為として慰謝料の対象になり得ます。
内縁といえるために必要な2つの要素
内縁が認められるためには、一般に次の2つが必要と考えられています。
- 当事者に婚姻の意思があること。ここでいう婚姻の意思とは「婚姻届を出す意思」ではなく、社会通念上の夫婦になろうという意思を指すと説明されます。
- 社会通念上、夫婦としての共同生活と認められる実体があること。
この2つは、遺族年金の場面で用いられている行政上の認定基準でも、ほぼ同じ内容が採られています。つまり内縁かどうかは、当事者の合意と生活の実体の両面から判断されるということです。
よく問題になるのが同棲との違いです。一緒に暮らしているという点だけを見れば同じように見えますが、同棲と内縁を分けるのは婚姻の意思の有無です。将来結婚する話が具体的に出ないまま生活費を分け合って暮らしていた、という事情だけでは、内縁と評価されないことがあります。
関係を解消しなくても請求できる余地がある
内縁を続けたまま慰謝料を請求できるか、という質問もよく受けます。この点、不貞によって侵害されたのは、二人が築いてきた共同生活の平穏に関する利益であると考えられているため、関係を解消したかどうかは、請求できるかどうかと直結しません。
ただし、不貞をきっかけに関係が解消されたのか、それとも関係が続いているのかは、精神的苦痛の程度を判断する際の事情として考慮されることがあります。可否の問題と金額の問題を分けて考えておくと、見通しを立てやすくなります。
なお、内縁関係を示す具体的な書類や、パートナーに戸籍上の配偶者がいる「重婚的内縁」の扱いについては、それぞれ別の解説記事で詳しく取り上げています。
婚約中の場合|「婚姻の予約」という枠組みで考える
婚約は将来の婚姻についての約束
婚約については、大審院大正4年1月26日の連合部判決が、将来において適法な婚姻をすることを目的とする契約、すなわち婚姻の予約であるととらえ、正当な理由なく約束に反して婚姻を拒んだ場合には損害賠償の義務を負うとしました。婚約に関する条文は民法に置かれておらず、こうした判例の積み重ねによって扱いが形づくられてきた分野です。
その後、内縁については前述の準婚理論が中心的な考え方となりましたが、婚約はあくまで「これから夫婦になる」という段階にとどまります。共同生活の実体を前提とする内縁とは、出発点が異なるのです。
婚約と内縁は別のもの
ここで誤解が生じやすいのが、婚約と内縁の関係です。婚約していれば当然に内縁でもある、あるいは同棲していれば当然に内縁である、というわけではありません。裁判例のなかには、婚姻の予約と内縁は区別して考えるべきであり、婚約をして同居していたからといって常に内縁が成立するわけではない、と述べたものもあります。
実際のご相談では、婚約と内縁のどちらとして主張するのか、あるいは両方を予備的に主張するのかという判断が、最初の分かれ道になることが少なくありません。
不貞と、その後の経過が併せて評価されやすい
婚約段階の不貞については、婚姻や内縁ほど手厚い保護が及ぶとは言い難いという見方が一般的です。そのため実務では、不貞そのものだけでなく、その不貞によって婚約が破棄されるに至ったのかという経過が、あわせて評価されやすい傾向があります。
不貞が原因で婚約が解消され、結婚の予定や生活設計が失われたという場合には、精神的苦痛が大きいものとして評価される方向に働きます。他方で、不貞はあったものの話し合いを経て婚約が続き、その後結婚に至ったという場合には、生じた損害は小さく見積もられやすくなります。
婚約が成立していたといえるかどうかの判断材料や、婚約破棄そのものを理由とする慰謝料については、別の解説記事で詳しく整理していますので、あわせてご覧ください。
交際しているだけの場合はどう考えるか
交際しているだけの関係については、恋人同士に貞操義務を課した規定がなく、別れること自体も自由であることから、不貞を理由とする慰謝料請求は原則として認められにくいと考えられています。相手が他の人と関係を持ったこと自体を、法的な義務違反として構成しにくいためです。
ただし、次のように、関係の段階とは別の枠組みで問題になる場面があります。
- 相手が既婚であることや、他に婚約者がいることを隠して交際していた場合。この場合は、性的な関係を持つ相手を自分で決める利益を侵害されたとして、別の構成での請求が検討されます。
- 交際の有無にかかわらず問題になる事柄。妊娠に伴う認知や養育費、画像や個人情報の拡散、暴力や執拗な連絡などがこれにあたります。
「付き合っていただけだから何も言えない」と結論を急ぐ前に、何をされたのかという事実の側から整理し直すことをおすすめします。
請求先は2つあり、それぞれ問われることが違う
婚約中・内縁関係での不貞では、パートナー本人と不貞の相手方という2つの請求先が考えられます。この2つは同じように見えて、証明すべき事柄が異なります。
| 請求先 | 中心的に問われること | 見落とされやすい点 |
|---|---|---|
| パートナー本人 | 婚約または内縁が成立していたこと、性的関係があったこと | 関係を解消していなくても請求の余地がある |
| 不貞の相手方 | 上記に加えて、相手方が関係を知っていた、または注意すれば知り得たこと | 「交際相手がいる」と知っていただけでは足りないと判断されることがある |
特に重要なのが、不貞の相手方に対する請求です。相手方は婚約や内縁の当事者ではない第三者ですから、責任を問うためには、その人に故意または過失があったといえる必要があります。
そして、ここで問われるのは「婚約者がいる、あるいは内縁の配偶者がいると知っていたか、注意すれば知り得たか」という点です。単に「交際している人がいるらしい」と認識していただけでは足りないと判断されることがあり、法律婚のケースと比べて、この点が争いになりやすい傾向があります。婚姻届のように外形から分かる手がかりが乏しいためです。
また、パートナー本人と不貞の相手方は、同じ不貞について共同で責任を負う関係になります。そのため、同じ損害について二重に受け取ることはできず、一方が支払った後に他方へ負担を求める求償の問題も生じます。この点については、求償権を扱った解説記事で詳しく述べています。
立証は二段構え|「関係の存在」と「不貞の事実」
婚約中・内縁関係の不貞慰謝料が、法律婚の場合より難しくなりやすい最大の理由が、この立証の構造にあります。
法律婚であれば、関係が存在することは戸籍謄本1通で示せます。争点は事実上「不貞があったか」に絞られます。これに対して婚約や内縁では、まず関係そのものの存在を証明するところから始まります。相手方から「そこまでの関係ではなかった」「単に交際していただけだ」と反論されるのが典型的な展開です。
関係の存在を示す材料としては、たとえば次のようなものが考えられます。
- 住民票の続柄の記載や、賃貸借契約書、保険関係の書類など、二人の関係を前提とした公的・準公的な書類。
- 両家の顔合わせ、結婚式場や新居の手配、指輪や結納など、結婚に向けて実際に動いていたことが分かる記録。
- 家計の実態が分かる資料。生活費のやり取り、共同の口座や支出の分担など。
- 周囲がどう認識していたかを示すもの。連名の年賀状、勤務先や親族への紹介、写真など。
- 将来について具体的に話し合っていたことが分かるメッセージのやり取り。
どれか1つが決定打になるというより、複数の事情が積み重なって初めて評価されるという性質のものです。単発の記録だけでは足りないことが多い一方、日常のやり取りが後から意味を持つこともあります。
その意味で、感情的になっているときほど注意していただきたいのが記録の扱いです。相手をブロックしたり、やり取りを削除したりする前に、必要なものを保存しておくことをおすすめします。他方で、相手のアカウントに無断でログインする、位置情報を無断で取得するといった方法は、それ自体が別の法的問題を生じさせるおそれがあり、かえって不利に働くことがあります。
請求を受けた側から見た争点
次に、不貞の相手方として、あるいはパートナーとして請求を受けた立場から見ておきます。請求書が届いたからといって、記載された金額をそのまま支払う義務が生じているとは限りません。実務上、次の4点が主な検討事項になります。
- 婚約や内縁がそもそも成立していたといえるか。前述のとおり、この点は請求する側が示す必要があります。
- 不貞があったとされる時点で、関係がすでに破綻していたといえないか。破綻していたと評価される場合には、保護すべき利益が存在しなかったとして請求が否定される方向に働きます。
- 相手方として請求を受けた場合に、婚約者や内縁の配偶者の存在を知らず、知り得たともいえない事情がなかったか。
- 最後の不貞から、あるいは事実と相手を知った時から、どれだけの期間が経過しているか。消滅時効の問題です。
いずれも、その場で判断できる性質のものではありません。特に避けていただきたいのは、動揺したまま「支払います」と口頭で答えてしまうこと、内容を確認しないまま一部を振り込んでしまうことです。一部の支払いが、支払義務を認めたものと受け取られることがあり、後の交渉で不利に働く場合があります。
同時に、連絡を無視して放置することも安全ではありません。訴訟を提起され、答弁書を出さないまま欠席すると、相手の主張がそのまま認められてしまうおそれがあります。期限がある書面が届いた場合には、早めにご相談ください。
よくあるご質問
婚約指輪も結納もありませんが、婚約といえますか
指輪や結納は婚約を裏づける有力な材料ですが、これがなければ婚約が成立しないというものではありません。両家への挨拶、式場や新居の手配、周囲への報告など、結婚に向けて実際に動いていた事実の積み重ねから判断されます。判断材料の詳細は、婚約の成立を扱った記事をご参照ください。
何年も同棲していれば内縁になりますか
同居期間の長さは重要な事情ですが、それだけで内縁と認められるわけではありません。前述のとおり、婚姻の意思があったといえるかどうかが分かれ目になります。長く暮らしていても、双方が結婚を前提としていなかったと評価されれば、内縁とは認められない可能性があります。
慰謝料の額は、法律婚の場合より低くなるのですか
一律に決まるものではありません。関係の実体がどれだけ夫婦に近かったか、期間はどれくらいか、子どもがいるか、不貞によって関係がどうなったかといった事情が総合的に考慮されます。内縁については法律婚に準じて判断されるのが基本ですが、婚約段階の場合は、婚姻に至っていないことが評価に影響し得ます。金額の目安については、別途解説記事をご用意しています。
相手が不貞を認めません。それでも請求できますか
直接的な証拠がなくても、複数の間接的な事情を積み重ねることで認定される場合があります。ただし、どの程度の材料が揃っているかによって進め方は変わりますので、手元にあるものを一度整理したうえで、方針を検討することをおすすめします。
まとめ
婚約中・内縁関係の不貞慰謝料について、要点を整理します。
- 婚姻届の有無がそのまま結論を分けるわけではなく、関係の実体が問われる。
- 内縁は「婚姻に準ずる関係」と考えられており、法律婚に準じた扱いがされる。婚姻の意思と共同生活の実体の2つが判断の軸になる。
- 婚約は将来の婚姻についての約束であり、不貞そのものに加えて、その後の経過が併せて評価されやすい。
- 請求先はパートナー本人と不貞の相手方の2つがあり、相手方に対しては「関係を知っていたか、知り得たか」が中心的な争点になる。
- 立証は「関係の存在」と「不貞の事実」の二段構えであり、法律婚より一段多い。記録を残しておくことが結果を左右しやすい。
- 請求を受けた側は、その場での即答や一部支払いを避けつつ、放置もしないという対応が求められる。
婚約や内縁は、外形からは分かりにくい関係であるからこそ、後から「そこまでの関係ではなかった」と争われやすい分野です。請求する側にとっても、請求を受けた側にとっても、事実関係をどう整理し、どの構成で主張するかによって見通しが変わります。
当事務所では、男女間のトラブルについて、請求される方・請求を受けた方の双方からのご相談をお受けしています。まずはお手元の資料と経緯をお聞かせいただければ、現時点での見通しと、次に取るべき対応をご案内いたします。ひとりで判断される前に、お気軽にご相談ください。


