身辺調査で前科前歴はどこまで分かるのか
この記事は、2026年10月時点の刑事訴訟法の規定と、逮捕されずに捜査が進む在宅事件の一般的な運用をもとにしています。個別の事件の進み方は、事件の内容や担当する警察署・検察庁によって異なります。
「警察で話を聞かれたのは何か月も前で、その後は何の連絡もなかった。ある日、ニュースで自分が書類送検されたと知った」「夫の名前が書類送検の記事に出ていたが、家では何も聞いていなかった」。在宅で捜査を受けている方やそのご家族から、このようなご相談をいただくことがあります。
書類送検は警察が事件の記録を検察官に送る手続であり、処分が決まったことを意味するものではない、という説明はよく見かけます。その説明自体は誤りではありませんが、報道で知った方にとっては、なぜ本人に知らされなかったのか、今どこで誰が事件を扱っているのか、これから何が届くのか、といった点のほうが切実な疑問ではないでしょうか。
この記事では、書類送検を報道で知った後の流れを、本人やご家族が確かめられることと、備えておけることに絞って整理します。送検から処分までにかかる期間の目安や、どのような事件が報道されやすいかといった点は、それぞれ別の記事で取り上げていますので、本文中の案内からあわせてご覧ください。
報道で初めて書類送検を知るのはなぜか
送致を本人に知らせる決まりはない
警察は、捜査をした事件を、原則として書類や証拠物とともに検察官に送らなければなりません(刑事訴訟法246条)。これが一般に「書類送検」と呼ばれる手続で、逮捕されていない事件では、本人の身柄は送られず、記録だけが検察庁に移ります。
この送致について、警察が本人に日時や送致先を知らせる仕組みは、法律上定められていません。取調べの最後に「この後、検察庁に書類を送ります」と説明されることはありますが、実際に送った日に連絡が来るわけではないため、本人が送致の事実を知らないまま時間が過ぎることは珍しくありません。
報道は警察の発表をきっかけにすることが多い
事件の性質や社会的な関心の大きさによっては、警察が書類送検の事実を報道機関に発表し、それが記事になることがあります。その結果、本人よりも先に報道が送致を伝えるという、順序の逆転が起きます。報道で知ったこと自体は、手続に不備があったことを意味するものではありません。どのような事件が報道されやすいのかについては、在宅事件・書類送検でも報道されるのかで整理しています。
告訴・告発があった事件は送られるのが原則
告訴や告発を受けた事件は、警察が嫌疑の程度をどう見ているかにかかわらず、書類と証拠物を検察官に送ることになっています(同法242条)。そのため、「警察では大きな問題にはならないと言われていたのに書類送検された」という経過をたどることもあります。送致されたという事実だけで、処分の重さを推し量ることはできません。
書類送検は処分が決まったという意味ではない
送られた後の判断は検察官に移る
送致の後、事件を起訴するかどうかを決めるのは検察官です。検察官は警察から届いた記録を読み、必要に応じて本人や関係者から改めて話を聞いたり、補充の捜査を指示したりしたうえで処分を決めます。犯罪の嫌疑がある場合でも、本人の性格や境遇、犯罪の軽重や情状、事件後の事情を考慮して、起訴しないこともできます(同法248条)。報道の時点では、まだ処分を左右する材料が出そろっていない段階にあるといえます。
報道の罪名や表現は捜査段階のもの
記事に書かれている罪名や「〜の疑い」という表現は、送致の時点で警察が見立てた内容です。検察官の判断で罪名が変わることもあれば、起訴されないこともあります。報道された内容が、そのまま最終的な処分の内容になるわけではありません。
処分の方向は大きく三つに分かれる
検察官の処分は、次の三つの方向に分かれます。どの方向になるかによって、本人の手元に届くものも異なります。
| 処分の方向 | 中身 | 本人に届くもの |
|---|---|---|
| 起訴(公判請求) | 公開の法廷で裁判が行われる | 起訴状の謄本(同法271条) |
| 略式起訴 | 書面による審理で罰金・科料が科される | 事前の説明と同意の確認、その後の略式命令 |
| 不起訴 | 裁判にかけずに事件を終える | 本人が請求すれば、不起訴の旨の告知(同法259条) |
処分が決まるまでの期間の目安は書類送検されてから処分が決まるまでの期間で、不起訴の中にある区分の違いは不起訴の3類型はどう違うのか|どれを目指すべきかで取り上げています。
報道を知った当日から確かめておきたいこと
いつ・どこの検察庁に送られたかを確かめる
まず、取調べを担当した警察署の担当者に、送致した日と送致先の検察庁を問い合わせる方法があります。送致先が分かれば、検察庁に事件番号や担当検察官を確認できる場合があります。電話では本人確認の関係で答えてもらえる範囲が限られることもあり、弁護人がついていれば弁護人を通じて確認するほうが確実です。確認の具体的な手順は事件番号・担当検察官はどう確認するのか|家族が問い合わせる方法をご覧ください。
報道の内容を記録しておく
記事のURL、配信元、配信日時、記事に書かれている内容(氏名・年齢・職業・罪名など)を、画面の保存などで残しておきます。配信された記事は後から修正されたり、見られなくなったりすることがあるため、早めに残しておくことに意味があります。
この記録は、事実と異なる部分を検察官に伝える場合や、処分の後に記事の訂正や検索結果の削除を求める場合に、どの媒体が何を書いたのかを特定する資料になります。
取材への応答やSNSでの発信は急がない
報道を見た知人からの問い合わせや、報道機関からの取材の申込みが来ることもあります。その場で事件の内容を説明したり、SNSで反論や謝罪を発信したりすると、その発言が記録として残り、後の取調べや処分の判断の中で扱われることがあります。発信するかどうか、何をどこまで述べるかは、処分の見通しを確認してから決めても遅くはありません。投稿が事件に与える影響はSNSへの投稿が事件に与える影響|削除すればよいのかで、報道と弁護人の関わり方は実名報道は避けられるのか|報道の判断と弁護人ができることで解説しています。
勤務先や家族が先に報道で知った場合
勤務先から事情を聞かれた場合は、捜査が続いていることと、処分はまだ決まっていないことを伝えるにとどめ、事件の詳しい内容は弁護人と相談してから説明する、という対応も考えられます。懲戒の扱いは就業規則によって異なるため、会社に伝わる経路と順序を勤務先に伝わる経路|通知制度と事実上の伝達を分けるで確認しておくと整理しやすくなります。
ご家族が先に報道で知り、本人が事情を話さないという場合もあります。ご家族からの問い合わせには、捜査機関が答えられる範囲に限りがありますが、ご家族として相談できることもあります。本人が事実を認めない・家族と話さない|家族が相談できる範囲もあわせてご覧ください。
検察庁からの連絡に備える
連絡が来る場合と、来ないまま処分が出る場合
送致の後、検察庁から呼び出しの連絡が来ることが多いものの、その時期は事件によってまちまちです。記録だけで判断できる事件では、本人を呼ばずに不起訴となることもあります。
一方、略式の手続で罰金を求める場合には、検察官が事前に本人に手続を説明し、異議がないことを書面で確認しなければなりません(同法461条の2)。そのため、本人が知らないうちに罰金が決まることはありません。連絡を待つ間に何が進んでいるのかは在宅事件になった場合|見えない時間の進み方で、呼び出しの場で決まることは検察庁からの呼び出しで何が決まるのかで取り上げています。
呼び出しの前に整理しておくこと
検察官からの聴取に備えて、次のような事柄を整理しておくと、話す内容が落ち着きやすくなります。
- 警察で話した内容と、調書に記載された内容についての記憶。
- 事件後に行った被害弁償・謝罪・示談の経過と、その資料。
- 報道された内容のうち、事実と異なる部分。
- 仕事や家族の状況など、今後の生活の基盤に関する事情。
- 呼び出しの日程について、仕事などとの調整が必要かどうか。
日程の調整については警察からの呼出しの日程は調整できるのか|仕事との両立も参考になります。
処分が出る前に動くことに意味がある
被害者のいる事件では、処分が決まる前に示談が成立しているかどうかが、検察官の判断に影響することがあります。また、弁護人が意見書を提出し、事件後の事情や本人の生活状況を検察官に伝えることもできます。こうした事情は処分が出た後では反映させることができないため、報道で送致を知った時点が、動き始める一つの区切りになります。
示談の時期による違いは示談を始めるタイミング|被害届前・受理後・起訴前で何が違うかで、検察官が処分を決める際に見ている事情は起訴猶予を得るために積み上げる材料|検察官が見ているもので解説しています。
処分が決まった後に確かめること
不起訴は自分から確認しないと分からないことがある
不起訴となった場合、本人に必ず通知が届くわけではありません。被疑者が請求したときに、検察官が不起訴の処分をした旨を告げることになっており(同法259条)、実務では「不起訴処分告知書」という書面で交付されるのが一般的です。送致を報道で知った方は、処分の結果もまた知らないまま過ぎてしまうおそれがあるため、処分が出たかどうかを確かめ、必要に応じて請求しておくことが大切です。
この書面は、勤務先への説明や、報道への対応を考えるときの資料になります。使い道については不起訴処分告知書は何に使えるのかで詳しく取り上げています。
略式命令や起訴状が届いた場合
略式命令を受け取った場合、内容に不服があれば、告知を受けた日から14日以内に正式な裁判を求めることができます(同法465条)。起訴されて公判が開かれる場合は、起訴状の謄本が届き、第1回の期日に向けた準備が始まります。手続の詳細は略式命令が届いた|罰金の納付と正式裁判の申立てと起訴状が届いた|謄本の送達と第1回期日までにすることをご覧ください。
報道された記事や検索結果への対応
不起訴となった後も、書類送検を伝える記事や検索結果は残り続けることがあります。処分の結果を踏まえて、報道機関に続報や訂正を求めたり、検索事業者に検索結果の削除を求めたりする方法がありますが、認められるかどうかは事件の内容や経過した時間などによって判断が分かれます。考え方は検索結果からの削除はどこまで認められるかで整理しています。
よくあるご質問
書類送検されたら前科がつくのですか?
書類送検されただけでは、前科はつきません。前科は、起訴されて有罪の判決や略式命令が確定した場合につくものです。ただし、捜査の対象になったという記録は「前歴」として捜査機関に残ります。違いについては前科と前歴はどう違い、どこに残るのか|期間と照会される場面で解説しています。
送検から何か月も連絡がありません。こちらから問い合わせてもよいのですか?
問い合わせること自体に問題はありません。送致先の検察庁が分かっていれば、事件番号や担当検察官を確認できる場合があります。ただし、処分の見通しまで電話で教えてもらえることは通常ありません。示談や意見書の提出を考えている場合は、弁護人を通じて担当検察官と連絡を取るほうが、話を進めやすくなります。
報道の内容が事実と違います。すぐに訂正を求めるべきですか?
事実と異なる点を記録しておくことは大切ですが、訂正を求める時期と方法は慎重に考える必要があります。捜査が続いている段階で事件の内容について対外的に述べると、その内容が処分の判断に影響することもあるためです。まずは事実と異なる部分を検察官に伝える方法を弁護人と検討し、処分の結果が出た後に報道機関への対応を考える、という順序も選択肢の一つです。
まとめ
- 警察が事件を検察官に送る書類送検について、本人に日時や送致先を知らせる決まりはなく、報道で先に知ることもあります(刑事訴訟法246条)。
- 告訴・告発があった事件は、警察の見立てにかかわらず検察官に送られるのが原則です(同法242条)。
- 書類送検は処分の決定ではなく、起訴するかどうかは検察官が事情を考慮して判断します(同法248条)。
- 報道を知ったら、送致日と送致先を確かめ、記事の内容を記録し、対外的な発信は急がないことが大切です。
- 略式の手続で罰金を求める場合には事前の説明と同意の確認があり、本人が知らないまま罰金が決まることはありません(同法461条の2)。
- 不起訴は本人に必ず通知されるわけではなく、請求すれば処分の告知を受けられます(同法259条)。
- 略式命令に不服があれば、告知を受けた日から14日以内に正式裁判を求めることができます(同法465条)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。在宅で捜査を受けている事件について、送致先や処分の見通しの確認、示談や意見書の準備、報道への対応の順序などを、事件の段階に応じてご一緒に整理します。
書類送検されたことを報道で知り、これから何が起きるのか分からずにいる方も、ご家族の名前が記事に出ていて事情がつかめずにいる方も、処分が決まる前の段階でご相談ください。


