相談で弁護士に必ず確認したい10の質問
トラブルの渦中にいるとき、SNSに書いたひと言が、あとになって気になり始めることがあります。「あの投稿は不利になるのだろうか」「今のうちに消しておいたほうがよいのだろうか」というご相談は少なくありません。
結論から言えば、これは「消す」か「消さない」かの二択で答えが決まる問題ではありません。投稿が事件に与える影響は、消したかどうかよりも、どこに何が残っているかと、どの段階で消したかによって変わってくるからです。
この記事では、ご自身やご家族が当事者になっている事件で、自分のSNS投稿をどう扱えばよいかを整理します。相手方の投稿に困っている場合の対応は、向きの異なる別の問題ですので、ここでは扱いません。
なぜ自分の投稿が事件に影響するのか
本人が自分の意思で書き残した記録だから
SNSの投稿は、誰かに求められて作った書面ではなく、本人がその時の判断で公開した記録です。だからこそ、あとから述べる説明と食い違ったときに、目を引く材料になりやすいという性質があります。
もっとも、投稿があるだけで結論が決まるわけではありません。民事の裁判では、裁判所は提出された証拠と審理の全体を見て事実を判断します。一つの投稿がすべてを覆すというより、ほかの資料と合わせて読まれる、と考えるほうが実際に近いでしょう。
争点そのものより「時期」「態度」「生活の実態」に効くことが多い
実務で問題になりやすいのは、事件の核心をそのまま書いた投稿よりも、その周辺の投稿です。いつどこにいたか、誰と一緒だったか、どんな気持ちで過ごしていたか。こうした断片は、当事者が意識せずに残していることが多く、主張の裏づけにも、逆に主張と食い違う事情にもなります。
感情を書いた投稿も同じです。相手方への強い言葉は、事件の事実関係とは別に、話し合いの進めやすさや、当事者の姿勢の見え方に影響することがあります。
手続のどこで出てくるか
| 場面 | 投稿が出てくる形 | 影響しうるところ |
|---|---|---|
| 民事の交渉・裁判 | 相手方が書面の証拠として提出する | 主張の信用性、話し合いの進め方 |
| 刑事の捜査・裁判 | 捜査の資料になる、示談交渉の場面で示される | 身柄に関する判断、処分や量刑で考慮される事情 |
| 離婚・親権などの家事事件 | 相手方が資料として提出する | 生活の実態や監護の状況の見方 |
| 職場・学校との関係 | 関係者が直接目にする | 事実上の対応(社内での確認など) |
影響が出やすい投稿の型
次のようなものは、あとから資料として使われやすい傾向があります。
- 事件の経緯や、相手方のことを書いたもの
- 相手方・弁護士・裁判所への不満や評価を書いたもの
- 自分の説明と食い違う生活の様子がうかがえるもの(旅行、買い物、勤務の状況、同席者など)
- お金に関するもの(支払いが難しいと説明している一方で、支出がうかがえる投稿など)
- 交渉や示談の進み具合、金額に触れたもの
- 事件とは関係のない過去の投稿(人物像を推し量る資料として読まれることがある)
非公開の設定なら安全とは限らない
いわゆる鍵アカウント、友人だけへの公開、一定時間で表示が消える機能、グループチャットや個別のメッセージも、閲覧できる立場の人が保存して渡せば、内容は外に出ます。投稿を見ていた人が相手方と面識のある人だった、という展開も実際に起きています。
公開範囲の設定は、届く相手を絞る工夫ではありますが、内容が残らないことを意味するものではありません。
「消せばなかったことになる」とは限らない三つの理由
すでに保存されていることがある
争いが表面化した時点で、相手方や関係者が画面を保存していることがあります。むしろ、削除される前に保存しておくのは、相手方の側から見れば自然な行動です。保存されていれば、投稿を消したあとも、その画像が資料として使われます。
画面から消えても記録が残る仕組みがある
投稿を削除しても、あるいはアカウントごと削除しても、サービスを運営する事業者の側には、接続や利用に関する記録が一定の期間残るのが一般的です。保存される期間は事業者によって異なり、利用者の側から確かめることはできません。
投稿を消したことが、その後の手続を止める理由になるとは限らない、というのが実際のところです。削除したあとに、投稿者を特定するための手続に関する通知が届くことも起こり得ます。
消したという操作自体が一つの事実になる
端末やアカウントには、いつどのような操作をしたかという記録が残ることがあります。投稿の中身とは別に、いつ消したのかという点について説明を求められる場面がある、ということです。
削除が不利に働くことがあるのはどんな場面か
民事の場合
相手方が証拠として使おうとしていたものを、使えない状態にしてしまった場合、その経緯について説明を求められることがあります。民事訴訟の考え方としては、相手方の使用を妨げる目的でそうしたと見られる場合に、その資料に関する相手方の言い分が受け入れられる方向で扱われる、という仕組みが用意されています。
日ごろからアカウントを整理していただけの削除と、争いが始まってからの削除では、同じ操作でも見え方が変わります。
刑事の場合
捜査が始まっている、あるいは始まりそうな段階での削除は、証拠を隠すおそれがあるかどうかという判断に関わります。この判断は、身柄をどう扱うか、最終的な処分をどうするかなど、複数の場面で使われるものです。
なお、自分自身の刑事事件に関する証拠を自分で処分したことが、そのまま犯罪になるわけではありません。ただし、他の人に頼んで消してもらった場合や、頼まれて消した側については、別の評価が及ぶことがあります。家族や友人に「代わりに消しておいて」と頼むことは、避けておいたほうがよい行動です。
いつ消したかで見え方が変わる
| 削除した時期 | 見え方の傾向 | 補っておきたいこと |
|---|---|---|
| トラブルが起きる前の日常的な整理 | 事件と結びつけて見られにくい | ふだんから整理していた事情 |
| 相手方から指摘や連絡を受けたあと | 理由の説明を求められやすい | 消した理由と対象の記録 |
| 請求や捜査が始まったあと | 事件との関係で見られる | 自分だけで判断せず先に相談する |
| 資料の提出や事情の聴取が控えているとき | とくに説明を求められやすい | 事実と異なる説明をしない |
それでも消したほうがよい場合はあるのか
そのままにしておくと別の問題が広がる投稿
他人の氏名や写真、事実と異なる内容など、置いておくこと自体が新しい問題を生む投稿はあります。この場合の削除は、証拠をどうするかという話ではなく、これ以上広げないための対応として位置づけられます。
自分の事件に関する投稿と、他人の権利に関わる投稿は、切り分けて考えるとわかりやすくなります。
消す前に、自分の手元にも残しておく
削除する場合でも、投稿の画面、日付、アカウントがわかる形で、自分の側に記録を残してから消すことをおすすめします。何を書いていたかを自分で説明できない状態になると、相手方が示してきた内容が正確かどうかを確かめられません。
保存の具体的なやり方については、データの保存と受け渡しを扱った記事で整理しています。
相手から「消してほしい」と言われたとき
削除は、示談や和解の条件として求められることがあります。応じるかどうかは、ほかの条件と合わせて決めることですので、その場で約束しないほうが落ち着いた判断ができます。「検討して返答します」で足りる場面です。
すでに消してしまったときにできること
- 追加の操作を重ねない(ほかの投稿の削除、アカウントの退会、端末の初期化や機種変更)
- 何を、いつ、どういう理由で消したのかを、思い出せる範囲で書き出しておく
- 自分で復元を試みる前に、状況を相談する
- 聞かれたときに、事実と異なる説明をしない。覚えていないことは、覚えていないと伝える
- 依頼している弁護士がいる場合は、早い段階で伝える
消してしまったこと自体を責める話ではありません。実際には、削除したという事実よりも、それが説明されないまま進んでしまうことのほうが、あとになって効いてきます。言いにくいことほど、早めに共有しておいたほうが手当てをしやすくなります。
事件が続いている間のSNSとの付き合い方
| 避けたいこと | 代わりにできること |
|---|---|
| 事件の経緯や相手方のことを書く | 自分用のメモとして記録に残す |
| 進み具合や金額を報告する | 弁護士に直接確認する |
| 相手方や関係者の投稿に反応する | 通知や表示を減らす設定にする |
| 投稿をまとめて消す、アカウントを消す | そのまま置いて、使わないでおく |
| 事情を知る人に事件のことを書いてもらう | 説明が必要な相手には、範囲を決めて直接伝える |
アカウントを消すのではなく「しばらく使わない」という選択が取りやすい、という点は覚えておいてよいと思います。使わずに置いておけば、削除の経緯を説明する必要も生じません。
解決したあとの投稿
示談書や和解の書面には、内容や経緯を第三者に話さないという条項(口外禁止条項)が入ることがあります。SNSへの投稿は形が残るため、この条項との関係が問題になりやすい場面です。違約金の定めが置かれることもありますし、定めがない場合でも、内容によっては損害賠償の問題になることがあります。
解決の報告を書きたくなったときは、書面にどのような条項が入っていたかを先に確認してください。
よくある質問
鍵アカウントや友人限定の公開なら影響しませんか
影響しないとは言い切れません。閲覧できる人が保存して外に出すことはできますし、公開範囲が狭いことは、書いた内容そのものを変えるものではないからです。ただし、公開範囲が狭かったという事情が、投稿の位置づけを考えるうえで意味を持つ場面はあります。
相手方の投稿は、自分で保存しておいてよいですか
公開されている投稿を自分の端末で保存すること自体は、通常は問題になりません。一方で、相手方のアカウントに無断でログインして中身を見る、といった方法は別の問題を生みます。保存の要領や、削除請求を検討する場合の進め方は、それぞれ別の記事で扱っています。
事件と関係のない日常の投稿もやめたほうがよいですか
すべてを止める必要はありません。ただ、写真には日時や場所の情報が含まれることがあり、事件と無関係のつもりの投稿が、生活の実態を示す資料として読まれることはあります。事件が続いている間は、位置や日時がわかる投稿を控えめにしておくと、余計な説明が減ります。
おわりに
SNSの投稿について相談を受けるとき、私たちがまずお聞きするのは「何を書いたか」と「今どの段階か」です。この二つがわかれば、そのままにしておくのか、記録を残したうえで消すのか、消したことをどう説明するのかを、順序立てて考えることができます。
迷ったまま自己判断で操作を重ねると、あとから経緯を説明しにくくなります。すでに書いてしまった投稿、すでに消してしまった投稿があっても、そこから取れる手当てはあります。気になる投稿がある段階で、一度ご相談ください。


