薬物事件で再度の執行猶予は可能か|要件と実務の壁
警察から連絡が入ったとき、多くの方が最初に突き当たるのは「その日は仕事がある」という現実的な問題です。指定された日時に行けないと伝えてよいのか、伝えたことで不利に扱われないか、判断がつかないまま返事を保留してしまう方も少なくありません。
この記事では、捜査の段階で警察署や検察庁から出頭を求められた場合に、日程を相談する余地がどこまであるのかを、条文と規則の建て付けから整理します。あわせて、仕事や生活との折り合いをどう付けるかについても触れます。先に結論を書くと、日程の相談を申し出ることと、連絡をしないまま行かないことは、別のこととして受け止められます。
この記事が前提にしている場面
次のような状況を想定しています。
- 逮捕されておらず、在宅のまま手続が進んでいる。
- 警察署または検察庁から、電話または書面で出頭を求められている。
- 被疑者として呼ばれている場合と、参考人として呼ばれている場合の双方を含む。
- 事実関係を認めているかどうかは問わない。
- 起訴された後の裁判の期日や、行政上の手続のための呼出しは扱わない。
呼出しの種類によって、動かせる幅が変わる
ひとことで「警察からの呼出し」といっても、根拠になる規定は同じではありません。日時を動かせるかどうかも、そこで分かれます。
| 呼出しの種類 | 根拠となる規定 | 日時についての考え方 |
|---|---|---|
| 被疑者に対する出頭要請 | 刑事訴訟法198条1項 | 出頭するかどうかが応じる側に委ねられており、日時にも相談の余地がある |
| 参考人に対する出頭要請 | 刑事訴訟法223条1項 | 198条1項ただし書が準用され、被疑者と同じ扱いになる |
| 逮捕・勾留されている場合 | 198条1項ただし書の除外 | 取調べの日時を選ぶという場面にならない |
| 起訴された後の公判期日 | 裁判所からの召喚 | 変更するかどうかを判断するのは裁判所になる |
本文で扱うのは、表の上の2つです。
日程を相談してよいといえる理由
出頭を拒めることが条文に書かれている
刑事訴訟法198条1項は、捜査に必要があるときは被疑者の出頭を求めて取り調べることができると定めています。そして同じ条文のただし書は、逮捕または勾留されている場合を除き、被疑者は出頭を拒むことができ、出頭した後もいつでも退去することができると定めています。参考人については223条1項が出頭要請の根拠であり、同条2項によって198条1項ただし書が準用されます。
出頭そのものを断ることが条文上認められている以上、「その日は都合がつかないので別の日にしてほしい」と伝えることは、それより小さな申し出にとどまります。日程の相談をすること自体が手続に反する、という前提はありません。
日時を法律が決めているわけではない
198条1項には、出頭を求める方法や日時の決め方についての定めが置かれていません。電話で伝えるか書面を送るかも含め、条文は特定していません。
実務上のよりどころになるのは犯罪捜査規範102条1項です。任意出頭を求めるには、電話、呼出状の送付その他適当な方法により、出頭すべき日時、場所、用件その他必要な事項を確実に伝達しなければならないとされています。日時や場所だけでなく用件も伝達すべき事項に挙げられているため、何の件で呼ばれているのかを尋ねること自体は、この枠組みの中で自然な問いかけです。
生活への配慮が規則に書かれている
犯罪捜査規範10条は、捜査を行うにあたっては言動を慎み、関係者の利便を考慮し、必要な限度をこえて迷惑を及ぼさないように注意しなければならないと定めています。取調べについても、同規範167条が、相手方の年齢、性別、境遇、性格などを事前に把握するよう努め、それに応じた取扱いをするよう求めています。
仕事の都合を伝えることは、この枠組みの中で受け止められる性質の申し出です。ただし、捜査の必要と折り合う範囲で調整されるものであり、希望どおりの日程になると決まっているわけではありません。
「断ること」と「日程を変えること」は同じではない
分かれ目になりやすいのは連絡の有無
日程を動かしてほしいと伝えることと、連絡を取らないまま指定日を過ぎることは、外から見えている状態が違います。前者は連絡が取れている状態で、後者は連絡が取れない状態です。
逮捕状は、裁判官が明らかに逮捕の必要がないと認めるときは発せられません(刑事訴訟法199条2項ただし書)。刑事訴訟規則143条の3も、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがない等、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは逮捕状の請求を却下しなければならないとしています。連絡が取れない状態が続くことは、この判断の材料の1つになり得ます。
軽い罪では、出頭への対応が要件そのものになる
刑事訴訟法199条1項ただし書は、30万円以下の罰金、拘留または科料に当たる罪については、被疑者が定まった住居を有しない場合か、正当な理由がなく出頭の求めに応じない場合に限って逮捕状による逮捕ができるとしています。軽い罪ほど、呼出しへの対応の仕方が制度上の意味を持つ場面がある、ということです。
裁判例でも、5回にわたって任意出頭を求められながら正当な理由なく出頭しなかった事案について、明らかに逮捕の必要がなかったとはいえないとしたものがあります(最高裁平成10年9月7日判決)。連絡をして日程を調整することと、理由を告げないまま応じないことは、同じには扱われていません。
やり取りは記録として残る
犯罪捜査規範102条2項は、任意出頭を求める場合には呼出簿に所要事項を記載し、その処理の経過を明らかにしておかなければならないと定めています。いつ呼び出して、どうなったのかが積み上がっていくということです。一度日程を動かしたこと自体が問題視されるわけではありませんが、説明のないまま予定が流れた回数は、後から見えるかたちで残ります。
仕事との両立をどう組み立てるか
平日の日中が基本になる
捜査機関の活動は日中に行われることが多く、呼出しも平日の日中に指定されるのが一般的です。事案や相手方の事情によっては土日や時間外に設定されることもありますが、こちらが選べるものではありません。
なお、犯罪捜査規範168条3項は、取調べはやむを得ない理由がある場合のほか、深夜に、または長時間にわたって行うことを避けなければならないと定めています。「仕事を終えてから夜に受ける」という組み立ては、想定しにくいと考えておいたほうがよいでしょう。
所要時間は読みにくい
事情聴取にどれだけかかるかは、聞かれる範囲や調書を作成するかどうかで変わります。数時間で終わることもあれば、書面の作成まで進んで長くなることもあります。半日から1日単位で予定を空けておくほうが、途中で切り上げる必要に迫られずに済みます。
また、1回で終わるとは限りません。次に呼ばれる見込みがあるかどうかを、その日のうちに確認しておくと、その後の予定を立てやすくなります。
遠方の警察署から呼ばれた場合
捜査は事件が起きた場所を管轄する警察署が行うため、住まいから離れた署から連絡が来ることがあります。この点について、犯罪捜査規範28条1項は、捜査のため必要があるときは他の警察に対して、被疑者の呼出しや取調べ、参考人の呼出しや取調べなどの共助を依頼することができると定めています。
最寄りの警察署で話を聞いてもらえないかを相談する余地は、この規定の存在からうかがえます。ただし、どこで行うかを決めるのは捜査機関の側であり、応じてもらえるとは限りません。交通費についても、自己負担となるのが通常です。
体調や入院で出向けない場合
犯罪捜査規範172条は、相手方の現在する場所で行う臨床の取調べについて、健康状態に十分な考慮を払い、捜査に重大な支障のない限り家族や医師などを立ち会わせるようにしなければならないと定めています。出向くことが難しい事情がある場合には、その事情と時期の見通しを早めに伝えておくことになります。
勤務先への伝え方
休暇を取る際に、理由を細かく申告するよう求められないのが通常です。事情を説明する義務が当然に生じるわけでもありません。ただし、事実と異なる説明を重ねると、後で辻褄が合わなくなったときに別の問題を生みます。説明する範囲を最初に決めておき、そこから広げないほうが扱いやすくなります。
なお、捜査機関から勤務先に連絡が入る仕組みが一般に用意されているわけではありませんが、事件の内容によっては勤務先の関係者が事情を聞かれることもあります。勤務先に伝わる経路そのものは別のテーマになるため、ここでは立ち入りません。
連絡する前に整理しておくこと
電話をかける前に、次の点を書き出しておくと話が早く進みます。
- 連絡してきた警察署または検察庁の名称、部署、担当者の氏名。
- 指定された日時と場所、伝えられた用件。
- 自分が被疑者として呼ばれているのか、参考人としてなのか。
- その日に行けない理由と、出頭できる候補日を2つ以上。
- その場で答えられないことがある場合に、後日改めて連絡する旨。
被疑者や重要な参考人の任意出頭については、警察本部長または警察署長の指揮を受けるものとされています(犯罪捜査規範102条1項)。担当者がその場で即答できないことがあるのは、こうした事情によるものです。返答を待つ時間も見込んでおくと、余裕をもって動けます。
避けておきたい対応
- 着信を拒否し、連絡が取れない状態のままにする。
- 行けないとだけ伝え、代わりの日を示さない。
- 理由をその都度作って延期を繰り返す。
- 呼出しを受けてから、手元の記録や機器を自分の判断で処分する。
- 相手方や関係者に直接連絡して、話を合わせようとする。
後の2つは、日程の問題とは別の評価につながります。
弁護士を入れると変わること・変わらないこと
窓口を弁護士にすると、次のような整理ができます。
- 連絡先を一本化し、担当者とのやり取りを代わりに行える。
- どの立場で呼ばれているのか、用件は何かを確認したうえで日程を伝えられる。
- 出頭日までに何を整理しておくべきかを、事案に即して詰められる。
- 出頭当日に警察署まで同行し、近くで待機することができる。
一方で、変わらないこともあります。現行法には、取調べへの弁護人の立会いを求める規定が置かれていません。日程の希望がそのまま通るとも限りませんし、弁護士が入ることで逮捕されない結果が約束されるわけでもありません。
よくある受け止め方
一度でも延ばすと心証が悪くなるのではないか
理由を伝え、代わりの日を示したうえでの変更は、応じないこととは別に扱われます。気にすべきなのは回数そのものよりも、連絡が取れているかどうかと、自分が示した予定を守れているかどうかです。
土日にしてもらえば職場に知られずに済むのではないか
土日に設定されることもありますが、こちらの希望で決まるものではありません。日程だけで職場との関係が片付くわけでもないため、休みの取り方とあわせて考えることになります。
電話で済ませてもらえないか
参考人として簡単な確認を求められている場面では、電話のやり取りで足りることもあります。もっとも、調書を作成する段階では出向くことになるのが通常で、被疑者として呼ばれている場合はなおさらです。
まとめ
- 捜査段階の出頭要請は、条文上、出頭するかどうかが応じる側に委ねられている(刑事訴訟法198条1項ただし書、223条2項)。
- 出頭を求める方法や日時を定めた規定はなく、犯罪捜査規範102条1項が日時・場所・用件の伝達を求めている。
- 日程の相談を申し出ることと、連絡をしないまま応じないことは、別のこととして扱われる。
- 軽い罪では、正当な理由のない不出頭が逮捕状の要件そのものになる場合がある(刑事訴訟法199条1項ただし書)。
- 呼出しの経過は呼出簿に記録されるため(犯罪捜査規範102条2項)、説明のない延期の積み重ねは後から見えるかたちで残る。
- 遠方の場合は、共助の依頼(犯罪捜査規範28条1項)を踏まえ、最寄りの警察署での聴取を相談する余地がある。
- 所要時間は読みにくいため、半日から1日単位で予定を空けておくほうが扱いやすい。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、警察や検察庁から呼出しを受けた段階でのご相談をお受けしています。初回のご相談は無料で、24時間受付に対応しています。日程の伝え方や出頭日までの整理も含めて状況に応じてご説明しますので、返事を保留したまま時間が過ぎているという方も、早めにご連絡ください。


