満員電車で誤解された|否認事件で何が証拠になるのか
家族が事件のことを知ったのに、本人は「やっていない」と言い張る。あるいは何を聞いても黙ってしまう。そうした状態のまま、家族だけで弁護士に相談してよいのか、相談したところで意味があるのかと迷う方は少なくありません。
結論から言えば、家族だけで相談することはできます。ただし、そこで得られるものには範囲があります。事件の事実を持っているのは本人であり、家族が持ち込めるのは家族の側から見えている情報だけだからです。
この記事では、本人が事実を認めない、あるいは家族に話さないという状態のときに、家族の立場でどこまで相談でき、何を決められるのかを整理します。
「認めない」「話さない」は同じ状態ではない
家族から見ると「話してくれない」の一言でまとまってしまいますが、手続の中ではいくつかの違う状態が混ざっています。どの状態にあたるのかによって、家族にできることも変わります。
| 家族から見える様子 | 手続の中での意味 | 家族にできることの違い |
|---|---|---|
| やっていないと言っている | 事実そのものを争っている状態 | 争う方針を支える材料が中心になる |
| やったが言い分があると言う | 事実は認めつつ評価を争っている状態 | 経緯や事情を裏づける資料が意味を持つ |
| 何も言わずに黙っている | 取調べで説明しない選択をしている場合がある | 方針の当否は本人と弁護人の間の問題になる |
| 家族にだけ話さない | 捜査機関には説明していることがある | 本人と弁護人の間で話が進んでいることがある |
| 本人も整理できていない | 記憶や理解が追いついていない状態 | 急いで説明させないことが優先される |
家族に話さないことと、捜査機関に話していないことは別
家族に何も言わないからといって、本人が誰にも説明していないとは限りません。逆に、家族には強い調子で否定していても、取調べでは別の説明をしていることもあります。家族の前での態度から、手続の中身を推し量ることは難しいと考えておいたほうがよいでしょう。
家族に情報が入ってこないのには理由がある
本人が話さないことに加えて、捜査機関からも情報はほとんど入ってきません。逮捕の連絡があった場合でも、伝えられるのは逮捕したという事実と、罪名として整理された言葉くらいにとどまるのが通常です。捜査の内容や証拠の中身が家族に説明されることはありません。
逮捕されていない在宅の事件では、家族への連絡そのものがありません。本人が呼び出しを受けて出向いている、自宅に警察が来た、といった断片から家族が事態を知るという順序になります。連絡が途絶える期間も長く、外から見ると何も起きていないように見えることがあります。
家族だけでも相談はできる
弁護士への相談は、本人以外の家族だけでも受けられます。本人の同意がなければ相談できない、という決まりはありません。
ただし、相談で返ってくる答えの精度は、持ち込まれた事実の精度に対応します。家族が知っているのが「警察から連絡があった」「罪名らしき言葉を聞いた」という程度であれば、答えられるのも手続の一般的な流れと、その段階で考えられる選択肢までです。
結論が出ないのは、情報を出し惜しみしているからではない
相談したのに見通しを言ってもらえなかった、と感じることがあります。その多くは、事実関係が確認できていないためです。同じ罪名でも、認めているのか争っているのか、被害を訴えている人がいるのか、過去に同種の処分を受けたことがあるのかによって、進み方は変わります。家族の相談は、本人抜きで結論を出す場ではなく、本人と手続をつなぐ入口をつくる場だと考えると、位置づけがはっきりします。
家族には弁護人を選任する権利がある
刑事事件では、本人だけでなく、配偶者、親や子といった直系の親族、兄弟姉妹、法定代理人なども弁護人を選任することができます。しかもこの権利は本人の権利とは別に認められているため、本人の意思を確認しないまま選任すること自体は可能です。
もっとも、本人はその弁護人を解任することができます。弁護活動は本人との信頼関係の上に成り立つものなので、家族が選んだというだけでは中身のある活動には進みにくいのが実際です。
そのため実務では、家族から依頼を受けた弁護士がまず本人と面会し、家族から依頼があったことを伝えたうえで、本人自身に選任してもらう形をとることが多くなります。手続としては、選任権者と弁護士が委任契約を結び、両者が署名した弁護人選任届を捜査機関または裁判所に提出します。
なお、家族が費用を負担する場合でも、弁護人が権利と利益を守る相手は本人です。この関係が入れ替わることはありません。
逮捕されていない場合は、本人が動かないと進みにくい
在宅で捜査を受けている場合、身体が拘束されていないぶん、弁護士が面会に出向いて本人と話すという入口がありません。家族が選任の権利を持っていても、本人が弁護士と会うことを拒めば、できることは限られます。この段階では、家族が相談して手続の枠組みを把握し、本人が動く気になったときにすぐ動ける状態をつくっておくという順序になります。
依頼したあと、家族が受け取れる情報の範囲
弁護人がついた後、家族が戸惑いやすいのが「弁護士が事件の中身を教えてくれない」という場面です。
これは、弁護士が職務上知った秘密を守る立場にあり、その秘密が本人のものだからです。面会で本人から聞いた話を家族に伝えるかどうかは、本人の意向によります。本人が家族に知られたくないと言えば、弁護人はその意向に沿うことになります。
そこで、依頼の入口で共有の範囲を決めておくと、後の行き違いが減ります。
- 手続がどこまで進んだかという進行状況を伝えてよいか。
- 体調や様子など、事件の中身に触れない事柄を伝えてよいか。
- 事件の内容そのものについて、どこまで家族に伝えてよいか。
この三つは切り分けて決めることができます。事件の中身は伝えないが、手続の進行と本人の様子は伝える、という形もあり得ます。
本人が弁護士と会うことを拒む場合
家族が弁護士を手配しても、本人が面会を断ればその場では会えません。身体を拘束されている場合も、本人が会わないと言えば面会は成立しません。
ただし、断られたからといってそこで終わりというわけでもありません。取調べが進んで状況が変わったり、見通しが分からず不安が強くなったりした段階で、本人の考えが変わることはあります。一度で決めつけず、間をおいて改めて働きかけるという選択肢は残ります。
本人が未成年の場合
本人が少年で、家庭裁判所に事件が送られた後は、保護者も付添人を選任することができます。弁護士を付添人とする場合には家庭裁判所の許可も要りません。また、鑑別所に収容されている少年のもとへ弁護士が一度面会に行く制度を各地の弁護士会が設けており、保護者から申し込めるものもあります。運用は地域によって異なるため、事件が起きた地域の弁護士会に確認するのが早道です。
よかれと思ってしたことが裏目に出る場面
本人が話さないと、家族としては何かせずにいられなくなります。ただし、次のような行動は、本人の立場を悪くしたり、家族自身が別の問題を抱えたりすることにつながります。
- 本人の携帯電話やパソコンを開いて、中の記録を消す。
- 関係しそうな物を捨てる、あるいは知人に預ける。
- 本人に代わって被害を訴えている人に連絡し、謝罪や支払いを申し出る。
- 本人の説明とは違う内容を、家族の推測として捜査機関に話す。
- 「認めて謝ってしまいなさい」と繰り返し説得する。
- 事実関係が固まらないうちに、職場や学校へ先回りして説明する。
とりわけ記録や物の扱いには注意が必要です。他人の刑事事件について証拠を隠す行為は罪に問われる可能性があり、親族であることを理由に刑が免除されることがあるという定めはあるものの、免除されると決まっているわけではありません。
説得についても、家族の前で認めさせることに意味があるとは限りません。記憶と違う説明がいったん記録に残ると、後から訂正しても、なぜ話が変わったのかを問われることになります。
家族自身が事情を聴かれる立場になることもある
家族は、事件の外側にいる第三者ではなく、事情を知り得る立場の人として扱われます。そのため、捜査の過程で家族に連絡が来ることもあります。
捜査段階で任意に事情を聴かれる場合、これに応じる義務はありません。応じるかどうか、どこまで話すかは家族が決められます。裁判で証人として尋問を受ける場合にも、配偶者や一定の範囲の親族が処罰を受けるおそれのある事柄については、証言を断ることが認められています。一方で、証言すると決めた場合には、記憶に沿って述べることが求められます。
なお、家族が事件を知ったからといって、これを届け出る義務があるわけではありません。届け出ること自体は誰にでもできますが、しなければならないものではない、という整理です。
本人が話さないままでも、家族が決められること
家族が決められるのは、本人の事件の中身ではなく、家族自身の生活と対応です。ここは本人の説明を待たなくても進められます。
- 家族が知った事実を、日付と出所を分けて記録しておく。
- 本人名義の支払いや契約のうち、期限が来るものを洗い出す。
- 自宅への来訪や電話への対応を、誰がどう受けるか決めておく。
- 職場や学校へ何をいつ伝えるかは、判断材料がそろうまで保留にする。
- 家族自身の相談先を確保し、一人で抱え込まない状態をつくる。
記録は後になって効いてきます。誰からいつ何を聞いたのか、それは直接見たことなのか人づてなのかを分けておくと、相談の場でも事実の整理が早くなります。
相談のときに持っていくもの、伝え方
家族の相談では、材料が少ないこと自体は問題になりません。分かっている範囲を正確に伝えることのほうが役に立ちます。
- 連絡してきた警察署の名称と担当の部署、担当者の名前。
- 連絡があった日時と、そこで告げられた内容。
- 罪名として聞こえた言葉を、聞こえたとおりに。
- 本人が口にした断片を、まとめ直さずそのまま。
- 家族が自分の目で見たこと。
- 本人以外から聞いた話は、誰から聞いたかを添えて。
伝えるときは、家族が直接確かめたことと、推測や人づてに聞いたことを分けてください。分けておかないと、推測を前提に見通しが立てられてしまい、後で組み直しが必要になります。
よくある質問
本人が「弁護士はいらない」と言っています
本人がそう言っている段階でも、家族が相談すること自体は妨げられません。手続の流れとこれから起きることを家族が把握しておけば、本人の考えが変わったときに時間を無駄にせずに済みます。家族にも弁護人を選任する権利があるため、本人に働きかけてもらうという入口も残っています。
家族が相談したことは、本人に伝わりますか
弁護士から本人に伝えるかどうかは、相談の目的によります。本人に選任を働きかけてほしいという依頼であれば、家族から相談があったことを伝えるのが前提になります。伝えてほしくない事情がある場合は、相談の最初にその点を伝えておくとよいでしょう。
本人の言い分が信じられません。そのまま話してよいですか
家族が疑問に思っている点を、そのまま伝えて差し支えありません。家族の見方と本人の説明が食い違うこと自体は珍しくなく、どこが食い違っているのかが分かること自体に意味があります。ただし、家族の見立てを正しい前提として方針が決まるわけではない、という点は押さえておいてください。
家族の間で意見が分かれています
誰が窓口になるかを先に決めておくと、話が整理されます。連絡先が複数あると、伝わる情報にずれが生じ、方針も定まりにくくなります。窓口を一人にしたうえで、決めた内容を家族内で共有する形が扱いやすいでしょう。
おわりに
本人が認めない、話さないという状態は、家族にとって最も動きにくい局面です。それでも、家族が持っている情報の範囲でできることはあり、選任の権利のように家族に認められた手立てもあります。
大切なのは、本人の代わりに結論を出そうとしないことです。事実を持っているのは本人であり、家族の役割は、本人が手続の中で自分の説明をできる状態に近づけることにあります。そのための入口として、家族だけの相談には十分な意味があります。


