スポーツ・部活中の事故で立件された|過失傷害と正当行為
「だまし取ったのか、脅し取ったのか」。同じ一件であっても、この二つは別の罪名で扱われます。もっとも、実際のやり取りでは、事実に反する話と、相手を怖がらせる言い方とが混ざっていることが少なくありません。請求の理由を大きく見せたうえで、応じなければどうなるかを示した、というような場面です。
こうした事案が詐欺罪と恐喝罪のどちらとして扱われるのかは、条文を読み比べただけでは決まりません。裁判例は、恐喝罪のみとしたもの、詐欺罪のみとしたもの、両方が成り立つとしたものの三通りの結論を示してきました。
この記事では、二つの罪の共通点と違いを整理したうえで、だましと脅しが混ざったときに何を手がかりに振り分けられてきたのか、そして罪名の見立てが実際の手続にどこまで関わるのかを説明します。
だましと脅しが同時に出てくる場面
次のようなやり取りでは、事実に反する説明と、相手を怖がらせる要素とが同居します。
・請求の根拠となる事実を実際より大きく見せたうえで、応じなければ周囲に伝えると告げた
・後ろに強い立場の人物がいるかのように話し、その人物が動くことをほのめかして支払いを求めた
・立場や資格を名乗り、応じなければ手続に進むという趣旨を示して物を出させた
・災いや不利益が起きると告げ、それを避けるための費用として金銭を求めた
・実在しない第三者からの要求を伝え、その間に入るという名目で金銭を受け取った
いずれも、嘘の部分だけを取り出せば詐欺の話に見え、怖がらせた部分だけを取り出せば恐喝の話に見えます。どちらの側面もある以上、切り分けの基準が必要になります。
二つの罪は、どこが違い、どこが同じか
まず、条文上の位置づけを並べて確認します。
| 項目 | 詐欺罪 | 恐喝罪 |
|---|---|---|
| 条文 | 刑法246条 | 刑法249条 |
| 手段 | 人を欺くこと | 暴行または脅迫により畏怖させること |
| 相手方の心理 | 錯誤(勘違い) | 畏怖(おそれ) |
| 財産が動く理由 | 勘違いに基づいて渡す | おそれに基づいて渡す |
| 法定刑 | 10年以下の拘禁刑 | 10年以下の拘禁刑 |
| 未遂 | 処罰の対象(刑法250条) | 処罰の対象(刑法250条) |
| 親族間の特例 | 準用あり(刑法251条) | 準用あり(刑法251条) |
| 公訴時効 | 7年 | 7年 |
なお、拘禁刑は令和7年6月1日に施行された刑の種類で、それ以前の懲役と禁錮を一本化したものです。条文を旧い表記のまま紹介している解説も残っていますので、日付の新しい情報を確認することをおすすめします。
両者は同じ章に置かれ、相手方が自分の手で財産を渡すという構造を共有しています。違うのは、渡させるために何を使ったのかという一点です。
なお、暴行や脅迫の程度が相手の反抗を抑圧する水準に達した場合は強盗罪の問題に移りますが、これは別の記事で扱う論点です。
分かれ目は「渡した決め手」に置かれてきた
手段が混ざっている事案について、裁判例は、どちらの言葉が多かったかではなく、相手方が財産を渡した直接の原因がどこにあったのかを見てきました。
勘違いをしたまま自分の判断で渡したのであれば詐欺、おそれから逃れるために渡したのであれば恐喝という整理が、判断の出発点になっています。
嘘が入っていても恐喝とされた例
最高裁昭和24年2月8日判決は、警察官を装い、盗品を持っていた相手に対して取調べの必要があるから差し出すようにと告げ、応じなければそのまま警察署へ連れて行くかもしれないという態度を示して品物を出させた事案です。裁判所は、警察官と名乗った虚偽の部分も相手に畏怖の念を生じさせる一つの材料であり、その畏怖の結果として財物が渡された以上、詐欺罪ではなく恐喝罪になると判断しました。
福岡高裁昭和27年6月28日判決も、現場に捜査員が来ているという事実に反する話をしたうえで、応じなければ刑事事件として扱われるという趣旨を示した事案について、虚偽の部分は畏怖を生じさせる材料の一つにすぎないとして恐喝罪としています。
東京高裁昭和38年6月6日判決は、欺く行為が恐喝そのものの手段として使われている場合には、相手が虚偽の事実に欺かれて畏怖心を生じたときであっても恐喝罪を構成し、詐欺罪は成立しないという考え方を示しました。
東京地裁八王子支部平成10年4月24日判決も、不審な人物から資料の買取りの交渉を頼まれたという作り話が用いられた事案について、話の中身が虚偽であっても畏怖させるに足りる害悪の告知にあたるとして、恐喝罪の成立を認めています。
同じような話でも詐欺とされた例
一方で、大審院明治36年4月7日判決は、身内が翌年に亡くなると告げ、それを避けるための祭事を勧めて料金を受け取った事案について、詐欺にあたるとしました。裁判所は、自分の側から危害を加えると威嚇したのではなく、実在しない危害を実在するかのように偽り、その架空の危害に対するおそれを利用して、危害を取り除くことの対価として任意に渡させたのだから、恐喝ではないという道筋を示しています。
これに対し、広島高裁昭和29年8月9日判決は、祈祷を引き受けるかたちで、金銭を出さなければ家族の命が危ないという趣旨を繰り返し告げて金銭を受け取った事案について、告げた害悪の内容に虚偽が含まれていても、それが相手を畏怖させるに足り、財物の交付が畏怖に基づく場合には恐喝罪で論ずべきであるとしました。
同じ「災いが起きる」という話でも、その災いを自分の側から加えるものとして告げたのか、外から降りかかるものとして告げてその除去の対価を受け取ったのかによって、評価が分かれています。
両方が原因になったとされた例
大審院昭和5年5月17日判決は、告訴するという申し向けで相手を畏怖させると同時に、別の点について事実に反する説明をして錯誤にも陥らせ、手形の引受けと交付を受けた事案について、詐欺と恐喝の二つの罪名に触れる一個の行為として処断すべきであるとしました。
大阪高裁昭和24年11月18日判決は、事実に反する話に加えて拳を突きつける気勢を示したものの、相手が応じずに終わった事案について、詐欺未遂罪と恐喝未遂罪の観念的競合として処断した原審の扱いを正当としています。財産が動かなかった段階でも、両方の側面が残る場合があるという例です。
「どちらか一方」と言い切りにくい理由
判例のこうした扱いには、学説からの指摘もあります。詐欺は勘違いをしたまま自分の判断で渡すもの、恐喝はおそれから不本意に渡すものだと考えれば、両者は本来どちらか一方しか成り立たないはずだ、という見方です。また、罪名が相手方の心理という事後的な事情に左右されるのは落ち着きが悪く、未遂に終わった場合にはどちらとも決めにくい、という指摘もあります。
そこから、行為そのものの性格を、行為者の意図と外形の両面から見たうえで、恐喝行為と見るべきか人を欺く行為と見るべきかで振り分けるべきだという考え方が示されています。実際の事件でも、告げた内容のうちどの部分が相手の判断を動かしたのかが、供述と客観的な資料の両面から検討されることになります。
嘘がなくても恐喝になる場合がある
逆の方向からも確認しておきます。恐喝罪で告げられる害悪は、その内容自体が違法なものである必要はないとされています。最高裁昭和29年4月6日判決は、相手が実際に犯した事実を捜査機関に申告すると告げ、その見返りとして金銭を受け取った事案について、恐喝罪の成立を認めました。
もっとも、正当な請求として通知することと恐喝との境界は、それ自体が独立した論点です。権利の範囲内にとどまり、その方法が社会通念上受け入れられる程度を超えないかどうかという枠組みで判断されており、この点は別の記事で扱っています。
嘘が入っていれば詐欺、入っていなければ恐喝という単純な対応関係にはなっていません。
罪名が変わっても動かない部分
前の表のとおり、詐欺罪と恐喝罪は法定刑が同じで、未遂も処罰の対象とされ、公訴時効の期間も同じです。両方が成立するとされる場合も、一個の行為として重いほうの刑によって処断されますが(刑法54条1項前段)、法定刑が同じであるため、処断の枠そのものは変わりません。
つまり、どちらの罪名で扱われるかによって刑の上限が動くわけではありません。この点は、罪名にこだわりすぎないほうがよい理由にもなります。
それでも見立てが意味を持つ場面
とはいえ、どちらの構成で見られているかは、手続の中身に影響します。
・どの言動が財産の移動に結びついたのかという事実関係の確定のしかた
・被害として扱われる金額や物の範囲
・既遂に達したとみるか未遂にとどまるとみるかの判断時点
・謝罪や弁償の内容と、それをどう説明するか
・供述の食い違いが生じやすい箇所
たとえば、相手が渡すと決めた場面で何が働いていたのかは、恐喝の構成では中心的な争点になりますが、詐欺の構成では説明の重点が別のところに移ります。同じ出来事でも、確認される事項の順序が変わってきます。
捜査の途中で罪名が動くこともある
捜査の初期に告げられる罪名は、その時点での見立てにすぎません。集まった資料の評価によって、途中で別の構成に切り替わることがあります。起訴された後も、公訴事実の同一性を害しない範囲であれば、訴因や罰条の変更が認められる場合があります(刑事訴訟法312条1項)。
また、金銭を得る意図についての証拠の評価によっては、詐欺や恐喝ではなく、脅迫や暴行といった別の罪名で処理されることもあります。取調べの場で告げられた罪名が最後まで同じとは限らない、という前提で受け止めておくほうが落ち着いて対応できます。
疑いを向けられた側が最初に整えること
だましと脅しが混ざった事案では、記憶があいまいなまま話すと、後から出てくる記録と食い違いが生じやすくなります。次の点を書き出しておくと、弁護士との打ち合わせが進めやすくなります。
・誰がいつどの言葉を使ったのかという時系列
・相手に伝えた事実のうち、裏づけのある部分とない部分の区別
・請求した金額の根拠と、その根拠を相手に示したかどうか
・相手が支払いを決めた場面の前後の状況
・受け取った金銭や物が現在どうなっているか
・思い出せない部分は無理に補わず、その旨をそのまま伝えること
やり取りが文字や音声として残っている場合は、都合の悪い部分も含めて保全しておくほうが、後の説明の一貫性を保ちやすくなります。
渡してしまった側の後始末
支払ってしまった側から見ると、民事の枠組みは罪名の区別に左右されにくい構造になっています。民法96条1項は、詐欺による意思表示も強迫による意思表示も取り消すことができると定めており、だまされたのか脅されたのかを最初から決め切らなくても、返還を求める道筋を検討することはできます。
刑事の申告と民事の回収は別々に進みます。どちらを先に動かすか、あるいは並行させるかは、相手方との関係や資料の残り方によって変わりますので、早い段階で整理しておくとよいでしょう。
まとめ
・詐欺罪と恐喝罪は、法定刑・未遂の扱い・公訴時効・親族間の特例が共通しており、違いは財産を渡させる手段にある
・だましと脅しが混ざった場合、裁判例は、相手が渡した直接の原因が勘違いだったのかおそれだったのかを手がかりにしてきた
・虚偽の話が含まれていても、それが畏怖を生じさせる材料として働いた事案では恐喝罪とされた例が複数ある
・自分の側から加える害としてではなく、外から降りかかる災いとして告げ、その除去の対価を受け取った事案では詐欺とされた例がある
・錯誤と畏怖の双方が交付の原因になったとして、両罪が一個の行為として扱われた例もあり、未遂の段階でも同様に扱われた例がある
・罪名がどちらであっても刑の枠は変わらないが、確認される事実や説明の重点は変わる
・捜査や公判の途中で罪名が変わることがあり、初期の見立てを最終的な結論と考える必要はない
だましと脅しが混ざった事案は、当事者にとって「どちらのつもりだったか」がはっきりしないことも多く、後から言葉を選び直そうとするほど説明が揺れやすくなります。出来事を時系列で整理し、裏づけのある部分とない部分を分けたうえで、早めに弁護士に相談されることをおすすめします。


