保釈保証金は何で決まるのか|返ってくる条件と返ってこない場合
転職活動で履歴書を書き進めていて、「賞罰」という欄の前で手が止まった、という相談を受けることがあります。過去に刑事事件で処分を受けたことがある方にとって、この欄は書いても書かなくても不安が残る項目です。
この欄については、「正直に書けば採用されない」「隠せば経歴詐称になる」という二択で語られがちですが、実務上の判断枠組みはもう少し細かく分かれています。結論から言えば、何をどこまで告げる義務があるかは、企業側からどのように尋ねられたかによって変わります。ここでは、その線引きを裁判例と条文に沿って整理します。
「賞罰欄」は法律で決められた欄ではない
最初に確認しておきたいのは、履歴書の様式そのものに法律上の決まりはない、という点です。
厚生労働省は、公正な採用選考を確保する観点から、従来は日本規格協会がJIS規格の解説の様式例で示していた履歴書の様式例の使用を推奨していました。令和2年7月に同協会がこの様式例から履歴書を削除したことを受け、厚生労働省は令和3年4月に「厚生労働省履歴書様式例」を作成・公表しています。JIS規格の様式例との相違点として示されたのは、性別欄を任意記載欄としたこと、通勤時間・扶養家族数・配偶者・配偶者の扶養義務の各項目を設けないことでした。
この厚生労働省履歴書様式例には、賞罰欄はありません。つまり賞罰欄は、市販の履歴書用紙や企業が独自に用意した様式に設けられている欄であって、必ず存在するものではありません。この点を押さえておくと、次に述べる告知義務の考え方が理解しやすくなります。
告知義務の出発点|聞かれていないことまで申告する義務はない
採用の場面における労働者側の告知義務について、しばしば引用されるのが炭研精工事件(最高裁判所平成3年9月19日判決)です。
この事件の原審(東京高等裁判所平成3年2月20日判決)は、雇用関係が労働者と使用者の相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であることを前提に、使用者が雇用契約の締結に先立ち、労働力評価に直接かかわる事項だけでなく企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は信義則上、真実を告知すべき義務を負うと述べました。最高裁もこの判断を是認しています。
ここで注目したいのは、この義務が「申告を求められた場合には」という条件付きで語られていることです。裏を返せば、企業側が尋ねていない不利益な事実まで、応募者の側から進んで申告しなければならないという構成にはなっていません。企業側の労務解説でも、犯罪歴について求職者から自発的に申告する義務はなく、詐称が問題になるのは会社が申告を求めたのに答えなかった場合や、賞罰欄のある履歴書を提出しながら記載しなかった場合であると整理されています。
「申告を求められた」といえる場面
実務では、次のような場面が「申告を求められた」に当たると考えられます。
- 賞罰欄のある履歴書やエントリーシートの提出を求められた場合。
- 面接で賞罰の有無や犯罪歴について質問された場合。
- 入社時の誓約書や確認書で、犯罪歴の有無について記載や表明を求められた場合。
- 資格・免許の欠格事由の確認として、特定の前科の有無を尋ねられた場合。
逆に、賞罰欄のない履歴書を提出し、面接でも尋ねられなかったのであれば、その段階では申告を求められていないことになります。
「罰」に当たるもの・当たらないもの
では、賞罰欄がある場合、そこにいう「罰」とは何を指すのでしょうか。
裁判例は、履歴書の賞罰欄にいう「罰」とは、一般に確定した有罪判決を意味すると解しています(仙台地方裁判所昭和60年9月19日判決、東京高等裁判所平成3年2月20日判決)。仙台地方裁判所の判決は、使用者から格別の言及がない限り、同欄に起訴猶予事案などの犯罪歴、いわゆる前歴まで記載すべき義務はないと述べています。
この整理に沿って区分すると、次のようになります。
| 区分 | 具体例 | 賞罰欄との関係 |
|---|---|---|
| 確定した有罪判決 | 拘禁刑、罰金、拘留・科料、執行猶予付きの判決 | 「罰」に当たる |
| 捜査は受けたが有罪判決に至っていない | 逮捕歴、微罪処分、不起訴処分(嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予) | 当たらないと解されている |
| 手続が進行中 | 起訴されて公判係属中、保釈中 | 確定していないため当たらない |
| 行政上の措置 | 交通反則通告制度による反則金(いわゆる青切符) | 刑罰ではない |
| 少年時の処分 | 保護処分、補導歴 | 刑罰ではない |
交通事件は区別がわかりにくいところです。反則金の納付で終わるいわゆる青切符は行政上の措置であって刑罰ではありませんが、いわゆる赤切符を切られて略式命令により罰金となった場合は刑罰であり、確定した有罪判決に当たります。
刑の言渡しの効力が消滅した前科はどうなるか
有罪判決を受けても、一定の期間が経過すると刑の言渡しは効力を失います。
執行猶予が付いた判決は、猶予期間を経過すれば刑の言渡しの効力が失われます(刑法27条)。実刑や罰金の場合は、刑の執行を終わるなどしてから、拘禁刑以上の刑については10年、罰金以下の刑については5年、罰金以上の刑に処せられずに経過したときに刑の言渡しの効力が失われます(刑法34条の2第1項)。この「10年」だけを紹介している解説も見かけますが、罰金以下の刑は5年である点は押さえておいてください。
この効力の消滅は、賞罰欄の記載義務の判断にも影響します。前科5犯を賞罰欄に記載せずに採用されたタクシー運転手に対する解雇の効力が争われた事案では、刑の言渡しの効力が消滅した前科であったことなどを前提に、解雇は無効と判断されています(仙台地方裁判所昭和60年9月19日判決)。
もっとも、これをもって「刑の消滅後は一切書かなくてよい」と一般化することはできません。企業が具体的に犯罪歴の申告を求め、その申告が業務との関係で必要かつ合理的といえる場面では、判断が変わり得ます。迷う場合は、応募先ごとに個別に検討したほうが安全です。
場面別に見る、実際の書き方
賞罰欄があり、書くべき「罰」がない場合
「賞罰なし」あるいは「なし」と記載します。空欄のままにすると、書くべきものがないのか記入漏れなのかが読み手には判別できず、確認のために面接で質問される可能性が高まります。
賞罰欄があり、書くべき「罰」がある場合
年月・罪名・処分の内容を簡潔に記載します。事情の説明を長く書き添える必要はありません。ここで事実と異なる記載をすると、後述するとおり経歴詐称として扱われる余地が生じます。
賞罰欄のない履歴書を使う場合
企業から様式の指定がなく、賞罰欄のない履歴書を使うこと自体は問題ありません。書類の段階で申告を求められていない以上、記載しなかったことが虚偽になるわけではないからです。ただし、面接や誓約書で改めて尋ねられれば、そこからは告知義務の問題になります。
面接で尋ねられた場合
質問の内容に対応した範囲で答えるのが基本です。「賞罰はありますか」という質問であれば、先に見た「罰」の意味に沿って答えることになります。他方、「逮捕されたことはありますか」「処分を受けたことはありますか」といった、より具体的で広い聞き方をされた場合には、答えるべき範囲もその質問に沿って広がります。質問を正確に聞き取ることが大切です。
誓約書・確認書で申告を求められた場合
反社会的勢力に該当しない旨の表明確約書などとあわせて、犯罪歴の有無を確認する書面を求める企業もあります。署名する前に、何について、どの範囲で表明を求められているのかを読み取ってください。署名した後で内容が事実と異なることが判明すると、その書面自体が問題になります。
会社はどこまで調べられるのか
「書かなければ調べられるのか」という点も気になるところだと思います。制度上の枠組みを確認しておきます。
まず、犯罪の経歴は個人情報保護法上の要配慮個人情報とされており(同法2条3項)、原則として本人の同意を得ないで取得することはできません(同法20条2項)。本人の同意なく第三者から個人データの提供を受けることにも制約があります(同法27条)。
また、前科に関する情報は、行政機関が保有していても自由に照会できるものではありません。最高裁判所昭和56年4月14日判決は、前科等は人の名誉・信用に直接かかわる事項であり、みだりに公開されない法律上保護に値する利益があるとして、市区町村長が照会に漫然と応じたことを違法と判断しています。
採用の場面については、職業安定法5条の5第1項が、求人者等は業務の目的の達成に必要な範囲内で、その目的を明らかにして求職者等の個人情報を収集しなければならないと定めています。指針(平成11年労働省告示第141号)は、人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地など社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想及び信条、労働組合への加入状況について、原則として収集してはならないとしています。厚生労働省も「公正な採用選考の基本」において、就職差別につながるおそれがある事項として身元調査の実施などを挙げ、事業主に対しこれを行わないよう求めています。
ただし、犯罪歴そのものは、この収集禁止の3類型に列挙されているわけではありません。したがって「犯罪歴を尋ねること自体が法律で禁止されている」とまでは言えず、業務との関係で必要かつ合理的な範囲であれば質問は許容され得る、というのが一般的な理解です。実際、一定の前科が欠格事由とされている職種では、その確認のための質問には合理性が認められやすくなります。
実務上の採用調査は、本人の同意を前提に、報道や公開情報を照合する方法が中心です。報道されていない事案まで網羅的に把握できるわけではありません。もっとも、発覚しにくいかどうかと、告知義務があるかどうかは別の問題です。判断の軸は、あくまで「求められた申告に対して真実を答えたか」に置くべきだと考えます。
記載しなかった場合に問題となる場面
書くべきものを書かなかった場合、経歴詐称として懲戒の対象になり得ます。ただし、直ちに解雇が有効になるわけではありません。
懲戒処分は、就業規則に懲戒事由と処分の定めがあることが前提であり、その上で客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合には、権利を濫用したものとして無効になります(労働契約法15条)。解雇についても同様の枠組みがあります(同法16条)。裁判例は、経歴詐称のうち懲戒事由となるのは重要な経歴の詐称であることを前提に、その事実を知っていれば採用しなかったといえる関係があるかどうかを検討しています。
内定の段階で判明した場合は、内定取消しの可否という形で問題になります。内定は解約権が留保された労働契約と理解されており、取消しには客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。
次のような場合には、処分の効力を争う余地があります。
- 記載義務のない事実(前歴や刑の言渡しの効力が消滅した前科など)を理由に処分された場合。
- その事実と担当業務との関連が乏しく、知っていれば採用しなかったとはいえない場合。
- 就業規則に定められた弁明の機会などの手続を欠いたまま懲戒解雇された場合。
刑事手続が進行中のまま転職活動をする場合
相談として多いのが、捜査や裁判が続いている最中に転職活動の時期が重なっているケースです。
前に見たとおり、賞罰欄にいう「罰」は確定した有罪判決を意味するため、捜査中の段階や、起訴されて公判が続いている段階では、これに当たらないと整理されています。炭研精工事件でも、採用当時に公判係属中であった点は賞罰欄の記載義務の問題としては扱われていません。同事件で懲戒解雇が有効とされた決め手は、募集条件と異なる最終学歴を偽った点にありました。
ただし、手続が進行中であること自体が生活に影響することはあります。在宅で捜査が進む場合でも、警察や検察からの呼び出し、公判期日への出頭など、平日の日中に時間を要する場面が生じます。入社直後にこうした予定が重なる可能性を見越して、日程の見通しを立てておく必要があります。
そして、より本質的なのは、処分が確定する前の段階での対応が、そもそも「書くべき罰」が生じるかどうかを左右するという点です。示談や再発防止の取組みが不起訴につながれば、確定した有罪判決は存在しないことになります。転職の時期が迫っているという事情は、弁護人が処分の見通しや時期を検討する際の材料にもなります。早い段階で相談しておくことをおすすめします。
まとめ
履歴書の賞罰欄をめぐる判断は、次の順序で考えると整理しやすくなります。
- 応募先から、賞罰や犯罪歴について申告を求められているかを確認する。求められていなければ、自発的に申告すべき義務は原則としてない。
- 求められている場合、その質問が何を尋ねているのかを正確に読み取る。賞罰欄にいう「罰」は確定した有罪判決を意味し、前歴や進行中の手続は含まれない。
- 確定した有罪判決がある場合は、刑の言渡しの効力が消滅しているかどうかを確認する。
- 求められた範囲について、事実と異なる記載や回答をしない。
「書けば不利になり、書かなければ後で問題になる」という板挟みに見えても、実際の義務の範囲は限定されています。範囲を正確に把握したうえで判断すれば、必要以上に不利な情報を差し出す必要も、事実に反する記載をする必要もありません。刑事事件の処分がまだ確定していない段階であれば、処分の見通しとあわせて検討できる余地もあります。判断に迷う場合は、応募先の様式や質問の文言を手元に用意したうえで、弁護士に相談してください。


