不起訴処分告知書は何に使えるのか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

不起訴処分告知書は、検察官が事件を不起訴処分にしたことを書面で告げるものです。ただ、実際に手にした方からは「これを何に使えばよいのか分からない」という声を聞きます。インターネット上の解説も「重要書類なので保管を」というものと「使う場面はほとんどない」というものに分かれており、判断に迷いやすいところです。

 この違いが生まれるのは、この書面が何を証明している書面なのかという点が整理されないまま、用途だけが語られているからだと考えられます。本記事では、条文と書面の実際の記載に立ち返って証明できる範囲を確認したうえで、使える場面と使いにくい場面を分けて整理します。

不起訴処分告知書とはどのような書面か


紙1枚に書かれていること

 不起訴処分告知書は、A4サイズの用紙1枚の書面です。おおむね次のような体裁になっています。

  • 表題として「不起訴処分告知書」と記載されている。
  • 作成した検察庁の名称、担当した検察官の氏名、作成の年月日が記載されている。
  • 宛先として、被疑者本人または請求した代理人弁護士の氏名が記載されている。
  • 事件を特定する番号(検番)と、被疑者の氏名、被疑事件の罪名が記載されている。
  • 本文として、その被疑事件について何年何月何日に公訴を提起しない処分をした旨が記載されている。


 文章としては数行しかありません。そして、不起訴となった理由は書かれていないのが通常です。嫌疑がなかったのか、証拠が足りなかったのか、それとも事情を考慮して起訴を見送ったのかは、この書面からは読み取れません。

根拠となっている条文

 根拠は刑事訴訟法259条です。同条は「検察官は、事件につき公訴を提起しない処分をした場合において、被疑者の請求があるときは、速やかにその旨をこれに告げなければならない」と定めています。

 ここから2つのことが分かります。1つは、被疑者側から請求しなければ告知の義務は生じないということです。不起訴になっても自動的に自宅へ届くわけではありません。もう1つは、告げるべき内容が「その旨」、つまり不起訴処分をしたという事実に限られていることです。

 なお、検察庁内部の取扱いを定めた事件事務規程76条1項は、この告知を書面でするときは不起訴処分告知書(様式第118号)によると定めています。逆にいえば、告知は口頭でも足りるという前提の規定であり、書面が当然に作成されるものではありません。

この書面が証明していること・していないこと

 用途を考えるうえでの出発点は、この書面が証明できる範囲です。整理すると次のようになります。

証明していること証明していないこと
その事件を特定できること(氏名・罪名・事件番号)不起訴とした理由(嫌疑なし・起訴猶予などの区別)
公訴を提起しない処分がされたという事実被疑事実がなかったこと、無実であること
その処分がされた年月日ほかに事件や捜査を受けた経歴がないこと
処分をした検察庁と検察官将来にわたって同じ事件が問題にならないこと


 左の列に収まる事柄を伝えたい場面では、この書面はそのまま役に立ちます。反対に、右の列を伝えたい場面では、この書面だけでは足りません。使える・使えないの線は、提出先が確認したい事柄が左の列に収まるかどうかで決まります

なぜ理由が書かれないのか


被疑者と告訴人とで条文が分かれている

 理由が書かれないのは、書き漏らしや運用の不親切ではなく、条文の作りによるものです。

 刑事訴訟法259条が被疑者に告げるとしているのは、先に見たとおり「その旨」です。これに対して、同法260条は告訴人・告発人・請求人に対して処分の結果を通知することを定め、さらに261条は、これらの者から請求があったときに不起訴の理由を告げなければならないと定めています。

 つまり、理由の告知について条文が請求権者として挙げているのは告訴人・告発人・請求人であり、被疑者は含まれていません。事件事務規程76条2項がいう不起訴処分理由告知書(様式第119号)も、261条による告知のための書面です。被疑者側が当然に請求できる書面として説明されることがありますが、条文の建て付けは異なります。

理由の区別を知りたい場合

 もっとも、検察庁の内部では不起訴の裁定に主文の区分が付けられています。事件事務規程75条2項は、罪とならず、嫌疑なし、嫌疑不十分、刑の免除、起訴猶予などの区分を定めています。

 実務では、弁護人を通じて担当検察官に区分の記載を求めるという対応がとられることがあります。応じてもらえるかは検察官の判断によりますが、理由の区別まで示す必要がある場面では、告知書の請求と同じ時期に相談しておくほうが、後から動くよりも進めやすいといえます。

使える場面①|勤務先や学校での手続

 相談として多いのがこの場面です。事件が勤務先に知られていて懲戒処分の手続が進んでいる場合、起訴されたのか不起訴で終わったのかは、処分の判断に影響し得る事情です。勤務先から提出を求められることもあります。

 この場面で告知書が働くのは、確認したい事柄が「刑事事件としてどう処理されたか」という事実に絞られているからです。本人の説明だけでは裏付けが乏しいところを、検察庁が作成した書面で補えます。

 ただし、理由が書かれない点は残ります。嫌疑がないとして終わった場合でも、書面の見た目は起訴猶予の場合と変わりません。理由の区別まで伝える必要があるなら、告知書だけに頼らない組み立てが要ります。弁護人が経緯を整理した報告書を添える、示談が成立している場合はその資料を併せて示すといった方法が考えられます。学校の手続でも考え方は同じです。

使える場面②|資格や許認可に関する手続

 医療、福祉、警備、建設など、法令が欠格事由を定めている分野では、刑事処分の結果が資格や許認可の判断に関わります。公務員の身分に関する手続でも同様です。

 これらの手続の多くは、有罪判決を受けたかどうかを基準にしています。不起訴処分は有罪判決ではありませんので、その意味では欠格事由に当たりません。届出や報告を求められた際に、処分の結果を客観的に示す資料として告知書が使われることがあります。

 一方で、資格や許認可の判断とは別に、所属先が独自に行う調査や内部の手続が並行することもあります。どの手続で何を求められているのかを先に切り分けたほうが、書面の使い方を誤らずに済みます。

使える場面③|海外渡航や査証に関する手続

 査証(ビザ)や在留に関する手続で、過去の事件について説明を求められることがあります。この場面でも告知書は使われますが、この書面だけで完結する場面は多くありません

 理由は2つあります。1つは、書面に罪名と処分の結果しか書かれていないため、何があったのかという経緯が伝わらないことです。実務では、事件の内容を説明する書面や、示談が成立している場合はその資料を併せて提出することが一般的です。

 もう1つは、国によって基準が異なることです。日本の制度は有罪判決の有無で前科を区別しますが、逮捕された事実そのものを申告事項としている国もあります。この場合、不起訴であることを示しても申告が不要になるわけではありません。渡航先の要件を先に確認し、それに合わせて資料を揃える順序になります。

使える場面④|本人と家族の確認、将来のための記録

 在宅で捜査が進んだ事件では、処分がいつ出たのか本人にも分からないまま時間が経つことがあります。告知書を取得すれば、処分の内容と年月日がはっきりします。家族に経緯を説明する際にも、口頭のやり取りより整理しやすくなります。

 将来の記録としての意味もあります。年月が経つと、罪名や処分の時期の記憶はあいまいになります。後日、別の件で弁護人に経緯を説明する場面や、何らかの手続で過去の処分を尋ねられた場面で、手元に書面があれば確認が早く済みます。

 ただし、取得を急ぐべきか、そもそも取得するかは、人によって答えが違ってよいところです。書面が手元にあること自体が負担になる方もいます。使う予定がないので取得しないという選択も、それ自体は不合理ではありません。

使いにくい場面・使えない場面

 次のような場面では、この書面は期待されるほど働きません。

求められていることこの書面での対応
前科がないことの一般的な証明1通が対象とするのはその1件のみで、包括的な証明にはならない
被疑事実がなかったこと(無実)の証明起訴猶予の場合も同じ書面が交付されるため、区別を示せない
履歴書や賃貸契約の場面での提出通常は提出を求められる書類ではなく、進んで示す場面ではない
今後この件で問われないことの証明処分の時点の事実を示すもので、その後の変動までは示さない


 最後の点は補足が必要です。不起訴処分は、確定した判決とは異なり、同じ事件について再び捜査や起訴ができなくなる効力までは持ちません。新たな証拠が出るなどの事情があれば、公訴時効が完成するまでの間、再び捜査に着手される可能性は残ります。また、告訴人などの申立てにより、検察審査会が処分の当否を審査する仕組みもあります。

 実際にそこまで進む事案は限られますが、この書面は「その日にそういう処分がされた」という記録であって、将来を保証するものではないという位置づけは押さえておきたいところです。

取得の手順と、取る前に決めておきたいこと


請求できる人と手順

 請求できるのは、条文上は被疑者本人です。実務では、その事件の弁護人も請求できる取扱いになっています。手順の概要は次のとおりです。

  1. 処分をした検察庁を確認する。分からない場合は、捜査を担当した警察署に送致先を尋ねる方法がある。
  2. 担当部署に電話で連絡し、申請書の書き方、提出方法、郵送の可否を確認する。取扱いは検察庁ごとに異なる。
  3. 交付申請書を作成する。法定の書式はないが、被疑者の氏名と罪名、刑事訴訟法259条に基づく請求である旨、事件番号(検番)を記載するのが一般的である。
  4. 窓口または郵送で提出する。弁護人が請求する場合は、弁護人選任届の写しの添付を求められることがある。
  5. 交付を受ける。交付までの日数は検察庁により異なる。


 手数料の納付は不要とされています。郵送で受け取る場合の切手代などは自己負担です。

請求できる時期

 請求できるのは、不起訴処分が正式に決まった後です。検察官が作成した裁定書が上席の検察官の決裁を経て処分が確定するため、取調べの場で見通しを聞かされていても、決裁の前の段階では交付を受けられません。

 また、勾留されていた事件で国選弁護人が付いていた場合、釈放によって国選弁護人の選任は効力を失います(刑事訴訟法38条の2)。不起訴による釈放の後は、告知書の取得を自分で行うことになる場合があります。

取る前に決めておきたい3点

 請求の前に次の3点を整理しておくと、二度手間になりにくくなります。

  • 提出先が確認したいのは、処分の結果までなのか、理由まで含むのか。
  • 何通必要か、原本を渡すのか、写しで足りるのか。
  • 理由の区別を示す必要がある場合に、弁護人を通じて相談する余地があるか。


受け取った後の扱い

 交付されるのは基本的に1通です。提出先が複数ある場合は、原本を手元に残して写しを提出できるかを先に確認しておくと、後の手間が減ります。原本の返却を前提としない提出先もあります。

 保管については、見せる範囲を自分で決められる書類であるという点が大切です。罪名が記載されているため、必要のない相手に渡せば、かえって説明しなければならない範囲を広げることになります。求められた場面で示す、という使い方が基本になります。

 なお、不起訴となった事件の記録は、検察庁において罪の重さに応じた期間保管される取扱いです。年数が相当に経過した後では、確認に時間がかかることも考えられます。取得する意向があるのであれば、処分が決まった時期に近いほうが手続は進めやすいといえます。

おわりに

 不起訴処分告知書は、「その事件について、その日、公訴を提起しない処分がされた」という事実を示す書面です。証明できる範囲はその一行に収まる部分に限られ、理由や無実、ほかの事件の有無までは示しません。

 「保管すべき書類」なのか「ほとんど使わない書類」なのかという評価が分かれるのは、この範囲を踏まえずに用途だけを論じているからだと考えられます。提出先が何を確認したいのかを先に押さえれば、取得の要否も、併せて用意すべき資料も見えてきます。処分の前後で判断に迷う場面があれば、早めに弁護士に相談し、手続の全体像を確認したうえで動くことをおすすめします。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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