書いた内容が事実なら罪にならないのか|真実性・相当性の抗弁
裁判所から封筒が届き、中に「起訴状」と書かれた書面が入っていた。何が起きたのかは分かるものの、そこから何をすればよいのか、いつまでに決めればよいのかが分からず、封筒を前に手が止まってしまう。起訴された方やそのご家族から、こうしたご相談を受けることがあります。
起訴状の謄本が送達された日は、刑事裁判の審理が始まった日ではありません。審理が始まる日は別に指定され、そこまでの間が、準備に使える期間になります。そして封筒には、起訴状のほかに、弁護人をどうするかを尋ねる書面や、出頭すべき日を知らせる書面が同封されていることが多く、それぞれに別の役割と、別の期限があります。
この記事では、起訴状の謄本が届く仕組みと、同封される書面の読み方、第1回の公判期日までの間に決めておきたいことを、刑事訴訟法と刑事訴訟規則の定めに沿って整理します。
この記事で扱う範囲
- 起訴状の謄本がいつ、どのような形で届くのか。
- 封筒に入っている書面が、それぞれ何を意味するのか。
- 起訴状のどこを読み、どこを書き留めておけばよいのか。
- 第1回の公判期日までに決めること、しておきたいこと。
当日の法廷で何が行われるか、判決までにどのくらいの期間がかかるかは、それぞれ別の主題になります。ここでは、書面が届いてから最初の期日を迎えるまでの区間に絞って説明します。
起訴状の謄本はこうして届く
検察官が公訴を提起すると、裁判所は、遅滞なく起訴状の謄本を被告人に送達しなければならないとされています(刑事訴訟法271条1項)。在宅で捜査を受けていた方には自宅などに郵送され、勾留が続いている方には収容されている施設を通じて交付されます。
なお、被害者などの氏名や住所といった個人特定事項を伏せる措置がとられた事件では、謄本ではなく、その記載のない「起訴状抄本等」が送達されることがあります(法271条の2)。この場合の防御の進め方は別に整理が必要な論点ですので、ここでは書面の名称が違うことがある、という点にとどめます。
送達が遅れたままにならない仕組み
公訴の提起があった日から2か月以内に起訴状の謄本が送達されないときは、公訴の提起は、さかのぼってその効力を失うとされています(法271条2項)。送達が長期間放置されないよう、期限が法律で区切られているわけです。
裏を返せば、受け取りを避けても手続が止まるわけではありません。転居や長期不在で受け取れない状態が続くと、事情の説明や日程の調整がしづらくなります。届いたら、その日のうちに中身を確認しておきましょう。
呼び方が「被疑者」から「被告人」に変わる
公訴が提起されると、それまで被疑者と呼ばれていた立場は被告人に変わります。ただし、これは審理の対象となる事実が示され、裁判を受ける立場になったという意味であって、有罪の判断がされたことを意味するものではありません。事実関係についての判断は、法廷での証拠調べを経て行われます。
封筒に入っている主な書面
| 書面 | 主な内容 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 起訴状の謄本 | 被告人を特定する事項、公訴事実、罪名 | 法256条、法271条1項 |
| 起訴状抄本等 | 個人特定事項の記載を除いた形の書面 | 法271条の2 |
| 弁護人選任に関する通知・照会 | 弁護人を選任できることの説明と意思の確認 | 法272条、規則177条、規則178条 |
| 弁護人選任に関する回答書 | 私選か国選かなどを回答して返送する書面 | 規則177条、規則178条 |
| 資力申告書、国選弁護人選任請求書 | 国選弁護人を請求する場合に提出する書面 | 法36条の2、法36条の3 |
| 公判期日召喚状 | 第1回の公判期日の日時と場所の告知 | 法273条2項、法275条 |
表の「法」は刑事訴訟法、「規則」は刑事訴訟規則を指します。同封される書面の組み合わせは事件によって変わり、起訴状と召喚状が同時に届くこともあれば、召喚状が数日から数週間遅れて届くこともあります。
起訴状のどこを読むか
起訴状は定型の様式で書かれた短い書面です。分量の少なさに戸惑う方もいますが、記載事項は法律で決まっており、読むべき箇所も限られています。
被告人を特定する部分
冒頭には、氏名その他被告人を特定するに足りる事項が記載されます(法256条2項1号)。あわせて年齢、職業、住居、本籍が記載され、逮捕または勾留されているときはその旨も記載されます(規則164条1項)。氏名の漢字や本籍の表記に誤りがないかを確認しておきましょう。
公訴事実は「訴因」として書かれている
公訴事実は、訴因を明示して記載しなければならず、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法をもって罪となるべき事実を特定するものとされています(法256条3項)。日付や場所、何をしたとされているのかが具体的に書かれているのは、この規定によるものです。
ここに書かれた事実が、審理の対象そのものになります。記憶と食い違う部分がある場合は、どの一文のどの部分が違うのかを、後から見て分かる形で書き留めておくと、弁護人との打ち合わせが進めやすくなります。
罪名と罰条
罪名は、適用すべき罰条を示して記載されます(法256条4項本文)。もっとも、罰条の記載に誤りがあっても、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがない限り、公訴提起の効力には影響しないとされています(同項ただし書)。また、数個の訴因や罰条が予備的または択一的に記載されることもあります(同条5項)。
証拠が添付されていないのはなぜか
起訴状には、裁判官に事件につき予断を生じさせるおそれのある書類その他の物を添付し、またはその内容を引用してはならないとされています(法256条6項)。いわゆる起訴状一本主義と呼ばれる考え方で、裁判官が事前の情報に影響されないまま第1回の期日に臨めるようにするためのものです。
起訴状に供述調書や写真が付いていないのは当然のことであり、検察官の手元に証拠がないことを意味するわけではありません。証拠の内容は、弁護人が付いた後に開示を受けて確認していくことになります。
記載が事実と違うと感じたとき
起訴状の内容について、届いた段階で訂正を申し入れる窓口が用意されているわけではありません。意見は、法廷で述べることになります。裁判所の許可を得て、検察官が訴因や罰条の追加、撤回、変更を請求することもあります(法312条1項)。
この段階でしておきたいのは、争うかどうかを一人で決めてしまうことではなく、材料を残しておくことです。日時や場所、金額、同席していた人など、確認できる事実を時系列で書き出しておくと、弁護人が記録と突き合わせる際の出発点になります。通信履歴や領収書、勤務先の記録は、日が経つほど取り寄せにくくなります。
最初の期限は「弁護人をどうするか」
起訴状とともに届く書面のうち、最初に期限が来るのは、起訴状そのものではなく、弁護人選任に関する回答書であることが多いといえます。裁判所は、弁護人を選任できることなどを被告人に通知し、照会によってその意思を確認することとされています(法272条、規則177条、規則178条)。
私選と国選の分かれ道
弁護人を自分で選ぶ場合は私選弁護人、資力などの事情から裁判所に選任してもらう場合は国選弁護人になります。国選を希望するときは回答書と併せて資力申告書を提出することになり、資力が基準額以上であるときは、あらかじめ弁護士会に私選弁護人の選任を申し出ておくことが前提とされています(法36条の2、法36条の3)。
回答書を返さないままにしていると、弁護人が決まらない状態で期日が近づくことになります。国選を希望する場合であっても、書面を返送するという手続が必要である点は押さえておきたいところです。
起訴前から弁護人がいた場合
起訴前にした私選弁護人の選任は、弁護人と連署した書面を、その事件を取り扱う検察官または司法警察員に差し出していた場合に限り、第一審においても効力を有します(法32条1項、規則17条)。起訴後に新たに選任するときは、弁護人と連署した書面を裁判所に差し出して行います(規則18条)。
家族が選任することもできる
被告人の法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹は、独立して弁護人を選任することができます(法30条2項)。身体拘束が続いていて本人が動きにくい場合には、ご家族が窓口になって進めることがあります。
なお、死刑または無期もしくは長期3年を超える拘禁刑に当たる事件では、弁護人がなければ開廷することができないとされています(法289条1項)。この場合、本人が手続をとらないときは、裁判所が職権で弁護人を付けることになります。
召喚状の読み方
公判期日は裁判長が指定し、被告人はその期日に召喚されます(法273条1項、同条2項)。召喚状には、出頭すべき日時と場所のほか、出頭できない場合の届出の方法や、出頭しなかった場合の取扱いが記載されています。
期日までに置かれる猶予期間
第1回の公判期日については、召喚状の送達と期日との間に、原則として5日以上、簡易裁判所の事件では3日以上の猶予期間を置くものとされています(法275条、規則179条2項)。これは最低限の間隔を定めたものであり、実際には、起訴からおおむね1か月程度先に指定されることが多いとされています。
言い換えれば、準備に使える時間はこの区間しかありません。届いた日を起点に、いつまでに何を決めるかを逆算しておくと動きやすくなります。
出頭しないとどうなるか
被告人が公判期日に出頭しないときは、原則として開廷することができません(法286条)。正当な理由なく出頭しない場合には、勾引(法58条)や保釈の取消しといった措置が検討されることになります(規則179条の3)。
さらに、保釈または勾留の執行停止をされた被告人が、召喚を受け正当な理由がなく公判期日に出頭しないときは、2年以下の拘禁刑に処するとされています(法278条の2)。令和5年の法改正で設けられた規定です。
どうしても出られない事情があるとき
病気その他の事由で出頭できないときは、医師の診断書その他の資料を提出することとされています(法278条)。公判期日の変更は、裁判所が職権で、または検察官、被告人もしくは弁護人の請求により行うことができます(法276条1項)。
ただし、変更を請求するときは、その事由と継続する見込みの期間を具体的に明らかにし、診断書その他の資料によって疎明しなければならず、裁判所は、その事由をやむを得ないものと認める場合のほかは、請求を却下しなければならないとされています(規則179条の4)。仕事の都合を伝えれば当然に動かせる、という性質のものではない点に注意が必要です。
第1回期日までにしておきたいこと
- 弁護人を決め、事件の記録を読める状態にする。
- 起訴状の公訴事実と自分の記憶を突き合わせ、違う点を書き出しておく。
- 被害者がいる事件では、被害弁償や示談の可否を弁護人と検討する。
- 身体拘束が続いている場合は、保釈の請求を検討する。
- 期日当日の予定を空け、職場や家族への説明の仕方を決めておく。
弁護人が付くと動き出すこと
弁護人は、公訴の提起後は、裁判所において訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧し、謄写することができます(法40条1項)。また、検察官は、証拠書類などの取調べを請求するに当たり、あらかじめ相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならないとされています(法299条1項)。
つまり、事件の証拠を実際に確認できるようになるのは、弁護人が決まってからです。弁護人を決めるのが遅れると、記録を読み、方針を決め、必要な資料をそろえるための時間がそのまま短くなります。最初の期限が弁護人に関する回答書である理由は、ここにあります。
身体拘束が続いている場合
起訴された後は、保釈の請求ができるようになります。請求は、被告人本人のほか、弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族または兄弟姉妹もすることができます。要件や保証金の考え方はそれだけで一つの主題になりますので、ここでは、起訴によって選択肢が増える点にとどめます。
被害者への対応
起訴された後であっても、被害弁償や示談が成立すれば、その事実を法廷に証拠として提出でき、量刑の判断で考慮されることがあります。ただし、連絡先の把握や交渉の窓口は弁護人を通すのが通例です。ご自身や家族が直接連絡を取ろうとすると、被害者の負担になり、後の手続で不利に評価される場合もあります。
この時期に避けたいこと
- 届いた封筒を開けないまま置いておくこと。
- 回答書を返送しないまま期限を過ぎてしまうこと。
- 起訴状の写真を会員制交流サイトなどに投稿すること。
- 被害者や関係者に自分から直接連絡を取ろうとすること。
- 連絡が取れない状態のまま期日の日を迎えること。
このうち3番目について補足します。訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならないとされています(法47条本文)。公益上の必要その他の事由があって相当と認められる場合は例外とされていますが(同条ただし書)、書面を公開することは被害者や関係者の情報が広がる原因にもなります。手元での保管にとどめておくのが無難です。
当日の法廷で行われること
第1回の公判期日では、人定質問、起訴状の朗読、権利の告知、被告事件に対する陳述という順で手続が進み、その後に証拠調べへと移ります。事実関係を争わない事件では、この期日のうちに双方の立証まで終わることもあります。当日の流れの詳細は、別の主題として整理しています。
誤解されやすい点
- 起訴状が届いたことは、有罪の判断がされたことを意味するものではない。
- 起訴状に証拠が添付されていないのは、法律がそれを禁じているためであり、証拠がないという意味ではない。
- 罪名や罰条は、審理の過程で追加や変更が請求されることがある。
- 期日は、都合を伝えれば当然に変更されるというものではない。
- 国選弁護人を希望する場合でも、回答書を返送する手続は必要になる。
まとめ
- 起訴状の謄本は、公訴の提起後、遅滞なく被告人に送達される。
- 封筒には、起訴状のほかに弁護人選任に関する照会や公判期日召喚状が同封されていることが多い。
- 起訴状は短い書面だが、公訴事実の部分がそのまま審理の対象になる。
- 最初に来る期限は、弁護人選任に関する回答書の返送であることが多い。
- 第1回の公判期日は、起訴からおおむね1か月程度先に指定されることが多いとされる。
- 期日の変更は、やむを得ない事由の疎明を求められる。
起訴状が届いた段階でできることは、想像よりも多く残っています。事実を争う場合はもちろん、認めて臨む場合であっても、証拠の内容を確認し、被害者への対応や生活面の整理を進められるかどうかで、法廷に持ち込める材料は変わります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件について24時間体制でご相談を受け付けています。書面が届いたものの何から手を付けてよいか分からないという段階でも構いませんので、封筒の中身をお手元に置いたうえでご連絡ください。


