介護中の行為が虐待と言われた|高齢者虐待防止法と刑事責任
この記事は、2026年10月時点の刑事訴訟法(令和5年改正後の96条)および刑法(拘禁刑導入後の105条の2)に基づいて記載しています。保釈の条件の内容は事件ごとに裁判所が定めるため、実際の条件は保釈許可決定書でご確認ください。
「保釈中の息子が、被害者の方と連絡を取っていたことが分かった。もう保釈は取り消されてしまうのか」「近所で被害者の方と鉢合わせしてしまったと本人が言っている。どうすればよいのか」。保釈中のご家族について、このようなご相談をいただくことがあります。
保釈中に被害者と接触すれば保釈が取り消され、保釈保証金が没取されるおそれがある、という説明はよく目にします。それ自体は誤りではありません。ただ、接触の経緯や態様によって裁判所の見方は変わり得ますし、接触が分かった後に家族がどう動くかによって、その後の手続の進み方が変わることもあります。
この記事では、すでに接触が起きてしまった場面に絞り、何が問題とされるのか、家族がその日のうちにすべきこと、弁護人が取り得る対応を整理します。保釈の条件違反全般については保釈の条件(制限住居・接触禁止・渡航制限)に違反したらどうなるかで、被害者のご家族から加害者側の家族へ連絡が来た場面については【刑事事件】被害者の家族から加害者の家族へ直接連絡が来た|最初の受け答えと弁護人へのつなぎ方で解説しています。
接触禁止の条件は何を禁じているのか
暴行や傷害、性犯罪など被害者のいる事件で保釈が許可される場合、裁判所は「被害者に直接又は弁護人を除く他の者を介して接触してはならない」といった趣旨の条件を付けることがあります(刑事訴訟法93条3項)。まずは、この条件がどこまでの行為を対象にしているかを確認しておく必要があります。
会うことだけでなく、連絡全般が対象になる
接触禁止の条件は、直接会うことだけを禁じているわけではありません。電話、メール、LINEなどのメッセージ、SNSでの書き込みやメッセージ送信、手紙の送付なども、一般に接触にあたると考えられています。相手が読んでいなくても、送った時点で問題とされる可能性があります。
謝罪や弁償の申し出のように、本人としては誠意のつもりの連絡であっても同じです。接触禁止の条件は連絡の目的を問わず、被害者側に連絡が届くこと自体を避ける趣旨で付けられています。
第三者を介した接触も問題になる
本人が直接連絡しなくても、家族や友人、共通の知人に伝言を頼んだり、手紙を届けてもらったりすれば、他の者を介した接触と評価されるおそれがあります。条件の文言に「弁護人を除く」とあるのは、被害者側との連絡は弁護人を通じて行うことが前提とされているためです。
ご家族が「本人の代わりに謝りたい」と考えて被害者側に連絡することも、本人の意向を受けたものと見られれば同じ問題が生じます。善意からの行動であっても、結果として本人の保釈に影響することがある点に注意が必要です。
接触が分かったときに問題となる取消し事由
保釈の取消しは、刑事訴訟法96条1項に定められた事由のいずれかに該当する場合に、検察官の請求により、又は裁判所の職権で行われます。被害者との接触では、主に次の2つの事由が問題になります。
裁判所の定めた条件への違反(96条1項6号)
接触禁止が保釈の条件として付けられている場合、被害者と接触すれば、条件違反として取消し事由にあたる可能性があります(刑事訴訟法96条1項6号)。条件違反に該当するかどうかは、誰の発意で、どのような手段で、どの程度のやり取りがあったかといった具体的な事情を踏まえて判断されます。
被害者を畏怖させる行為と証人等威迫罪
接触の内容が、被害者やその親族の身体・財産に害を加えようとするものや、相手を怖がらせるものであった場合には、条件違反とは別に取消し事由となります(同法96条1項4号)。被害届の取下げや証言の変更を求めるような働きかけは、罪証隠滅を疑わせる事情として扱われることもあります(同項3号)。
さらに、事件に関して正当な理由なく面会を強く求めたり、強い言葉で迫ったりした場合には、証人等威迫罪(刑法105条の2、2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)として、新たな犯罪に問われる可能性もあります。接触の中身によっては、保釈の問題にとどまらず、別の事件として扱われることがある点は押さえておく必要があります。
取消しも没取も、裁判所が個別に判断する
条文上、保釈の取消しは「取り消すことができる」と定められており、事由があれば必ず取り消されるわけではありません。保釈を取り消す場合の保釈保証金の没取も、全部又は一部を没取「することができる」とされており(同法96条2項)、金額は裁判所の裁量で決まります。保釈保証金の仕組みについては保釈保証金は何で決まるのか|返ってくる条件と返ってこない場合をご覧ください。
接触の態様ごとに、裁判所から見たときに問題とされやすい点を整理すると、おおむね次のとおりです。
| 接触の態様 | 問題とされやすい点 |
| 本人から意図的に連絡した | 条件違反にあたる可能性が高く、内容によっては4号・3号の事由も検討される |
| 家族や知人を通じて伝言した | 他の者を介した接触として、条件違反と評価されるおそれがある |
| 偶然出会い、会話せずに離れた | 接触を求めた行為とは評価されにくい場合もあるが、その後の行動が見られる |
| 被害者側から連絡が来て返信した | 返信した時点で、本人からの接触と評価されるおそれがある |
接触が分かった当日に家族がすること
接触があったと分かったとき、ご家族が慌てて動くと、かえって状況を難しくすることがあります。次の順序で落ち着いて対応することをおすすめします。
本人から経緯を聞き取り、やり取りを消さずに残す
まず、いつ、どこで、どの手段で、どちらから、どのようなやり取りがあったのかを本人から聞き取り、メモに残してください。メッセージの履歴や通話の記録は、本人が不利だと感じても削除させないことが大切です。
やり取りを消すと、罪証隠滅を疑われる材料になりかねません。接触が偶然であったことや、本人がすぐに会話を打ち切ったことを示す記録が、後で本人にとって有利な事情になることもあります。
その日のうちに弁護人へ伝える
経緯を整理したら、できるだけ早く弁護人に連絡してください。被害者側が警察や検察官に相談すれば、検察官が保釈の取消しを請求することがあります。その前に弁護人が事情を把握していれば、裁判所への説明の準備を早く始めることができます。
「黙っていれば分からないかもしれない」と考えて報告をためらうご家族もいますが、後から別の経路で接触が明らかになった場合、説明はより難しくなります。弁護人には守秘義務がありますので、不利に思える事情も含めてありのままにお伝えください。
家族から被害者側へ連絡しない
「本人に悪気はなかったと説明したい」「改めて謝罪したい」と考えて、ご家族が被害者側へ連絡することは控えてください。前述のとおり、家族を介した接触と見られるおそれがあるうえ、被害者側の不安を強め、示談や処罰感情に影響することもあります。
被害者側から家族へ連絡が来た場合も、その場で事件の話をしたり約束をしたりせず、弁護人から連絡させる旨を伝えるにとどめてください。
弁護人が取り得る対応と、再発を防ぐ体制づくり
弁護人は、ご家族から聞き取った事情をもとに、保釈を維持するための対応を検討します。あわせて、同じことが起きないよう、本人と家族の生活の組み立てを見直していきます。
裁判所への事情説明と再発防止策の提示
事案に応じて、弁護人は接触の経緯や本人の認識、すでに講じた再発防止策を書面にまとめ、裁判所に説明することを検討します。説明の際には、事実を正確に伝えるとともに、今後どのように接触を防ぐのかを具体的に示すことが重要です。
再発防止策としては、次のようなものが考えられます。
- 被害者の連絡先やSNSアカウントを本人の端末からブロック・削除し、その状況を家族が確認する。
- 被害者の生活圏と重なる場所や時間帯を避けるよう、通勤経路や外出先を見直す。
- 身元引受人である家族が、外出の予定や連絡の状況を日常的に把握する体制を整える。
- 被害者側と連絡を取る必要があるときは、すべて弁護人を通すことを本人と家族で改めて確認する。
身元引受人として求められる役割については保釈の身元引受人になれる人・求められる役割、保釈中の生活の注意点については保釈中の生活ルール|仕事・転居・旅行はどこまでできるかで詳しく解説しています。なお、住居の変更は裁判所の許可が必要な場合が多いため、引っ越しを検討する際も事前に弁護人へご相談ください。
被害者側への対応は弁護人を通じて行う
接触によって被害者側の不安や処罰感情が強まった場合でも、謝罪や示談の働きかけは弁護人を通じて行うのが原則です。弁護人が間に入ることで、被害者側は本人と直接関わらずに意向を伝えることができ、本人側も新たな接触のおそれを避けられます。
謝罪の手紙を届けたい場合の方法については弁護人名義の手紙と本人名義の手紙|どちらで届けるか、本人が被害者に連絡してはいけない理由については性犯罪の示談交渉を弁護人に任せる意味|本人が連絡してはいけない理由もあわせてご覧ください。
保釈が取り消された場合のその後
保釈が取り消されると、本人は再び刑事施設に収容されます(刑事訴訟法98条)。保釈保証金の全部又は一部が没取されることもあり、ご家族が保証金を用意していた場合は、その分が戻らなくなる可能性があります。
取消し後も、改めて保釈を請求すること自体はできます。ただし、条件に違反したという経緯は裁判所の判断に影響するため、再発防止の体制をより具体的に示す必要があります。再請求の考え方については保釈が却下された後にできること|再請求のタイミングをご覧ください。
よくあるご質問
偶然、近所で被害者の方と会ってしまいました。条件違反になりますか。
会話をせずにすぐその場を離れたのであれば、接触を求めた行為とは評価されにくい場合もあります。ただし、その後に声をかけたり後を追ったりすれば評価は変わります。偶然であっても経緯を記録し、弁護人に伝えたうえで、生活の動線を見直しておくことをおすすめします。
被害者の方から本人に連絡が来ました。返信してもよいですか。
返信は控えてください。相手から連絡があった場合でも、本人が返信すれば、本人からの接触と評価されるおそれがあります。受信したメッセージは削除せずに保存し、弁護人に伝えて対応を相談してください。
家族が身元引受人になっていますが、家族も責任を問われますか。
身元引受人であることを理由に、ご家族が刑事責任を問われることは通常ありません。ただし、家族が伝言を取り次ぐなど接触に関わった場合には、本人の保釈に影響するおそれがあります。また、家族が保釈保証金を用意していれば、没取された場合の経済的な負担は家族に及びます。
まとめ
- 接触禁止の条件は、面会だけでなく電話・メッセージ・SNS・手紙など連絡全般を対象とし、第三者を介した接触も問題になる(刑事訴訟法93条3項)。
- 接触禁止の条件に違反すると、保釈の取消し事由にあたる可能性がある(同法96条1項6号)。
- 接触の内容が被害者を怖がらせるものであれば別の取消し事由となり(同項4号)、証人等威迫罪が問題になることもある(刑法105条の2)。
- 保釈の取消しも保証金の没取も裁判所の裁量で判断され、没取は全部又は一部とされている(刑事訴訟法96条2項)。
- 接触が分かったら、経緯を聞き取り、やり取りを削除せずに残し、その日のうちに弁護人へ伝える。
- 家族から被害者側へ連絡することは控え、謝罪や示談は弁護人を通じて行う。
- 保釈が取り消されると再び刑事施設に収容される(同法98条)。再請求はできるが、再発防止の体制をより具体的に示す必要がある。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。保釈中のご家族について、被害者との接触が分かった、条件を守れているか不安があるといったご相談にも対応しています。
保釈中のご本人はもちろん、身元引受人として本人を見守るご家族からのご相談も承ります。状況が動く前に、まずは事情をお聞かせください。


