分割払いの示談書|期限の利益喪失条項と公正証書
不起訴という結論は同じでも、その理由づけには何種類もの区分があります。よく知られているのは「嫌疑なし」「嫌疑不十分」「起訴猶予」の3つで、まとめて不起訴の3類型と呼ばれることがあります。
捜査を受けている方やそのご家族から、「どの不起訴を目指せばよいのか」と尋ねられることがあります。ただ、この3つは並んだ選択肢のように見えて、実際には、事件の事実関係がどうなっているかによって入口がほぼ絞られるという関係にあります。
この記事では、3つの理由づけが規程上どう書き分けられているのか、どこで分かれるのか、そして処分が出た後にこの違いが表に出る場面と出ない場面を整理します。
この記事で扱う範囲
はじめに、この記事の前提を示します。
- 捜査を受けている本人やご家族の視点から、成人の事件を前提に、一般的な整理をしています。
- 個別の事件でどのような見通しになるかは、証拠の内容によって大きく変わります。
- 発覚を避ける方法や、事実と異なる説明の仕方は扱いません。
- 統計上の割合、示談の進め方そのもの、処分後の前科前歴の扱いは、別の記事で扱う範囲としています。
「3類型」は通称で、条文はもっと細かく分かれている
不起訴処分の理由づけは、法務省の訓令である事件事務規程に定められています。同規程75条1項は、検察官が事件を不起訴処分に付するときは不起訴・中止裁定書によって裁定すると定め、2項が、その裁定の主文を20の区分に分けて列挙しています。
「嫌疑なし」「嫌疑不十分」「起訴猶予」は、この20区分のうちの3つ(17号・18号・20号)です。この3つがよく話題になるのは、被疑者の側の説明や弁護活動と結び付きやすい区分だからで、実際には被疑者死亡や時効完成、心神喪失、親告罪で告訴が取り消された場合など、ほかの区分も並んでいます。
よく登場する区分の書きぶり
| 区分 | 規程の定め方(要約) | 典型的に問題になる場面 |
|---|---|---|
| 嫌疑なし(17号) | 行為者でないことが明白なとき、又は犯罪の成否を認定すべき証拠のないことが明白なとき | 人違いであることがはっきりした場合 |
| 嫌疑不十分(18号) | 犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分なとき | 事実関係を争っていて、証拠が決め手を欠く場合 |
| 起訴猶予(20号) | 被疑事実が明白な場合において、訴追を必要としないとき | 事実関係に争いがない場合 |
| 罪とならず(16号) | 構成要件に該当しないとき、又は犯罪の成立を阻却する事由が証拠上明確なとき | 行為はあったが正当防衛などが明らかな場合 |
| 告訴の欠如・取消しなど(5号) | 親告罪などで告訴等がなかったとき、無効であったとき又は取り消されたとき | 親告罪で告訴が取り消された場合 |
同じ「不起訴」でも、検察官が何を判断したのかは区分ごとに違います。ここが、3つの違いを考えるときの出発点になります。
3つを分けているのは「事実がどう認定されたか」
起訴猶予だけが「被疑事実が明白な場合において」から始まる
20号は、被疑事実が明白であることを入口に置いたうえで、被疑者の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときの区分だと定められています。つまり、事実の枠が定まった後に、訴追の必要性を判断するという構造です。
これに対して18号は、犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分なときの区分で、事実の枠そのものが定まっていない場面を指しています。17号はさらに進んで、行為者でないことや、犯罪の成否を認定すべき証拠のないことが明白な場合です。
書き出しの違いは、そのまま判断の順番の違いになっています。
「証拠が足りない」と「やっていない」は同じ言葉ではない
嫌疑不十分は、疑いが完全に晴れたという意味ではありません。起訴して有罪を立証するには証拠が足りない、という判断です。嫌疑なしとの間には、この点で段差があります。
事実関係を争う事件で不起訴になるときは、嫌疑なしよりも嫌疑不十分によることが多いと説明されています。17号が「明白なとき」という限定を置いているためです。
起訴猶予は「大目に見る」という制度ではない
起訴猶予の根拠となる刑事訴訟法248条は、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは公訴を提起しないことができる、という書き方をしています。人柄がよいから見送るという制度ではなく、この事件についてこの人を裁判にかける必要があるかどうかを判断する枠組みです。
同じ事件で、2つを同時に目指すことはできない
ここが、「どれを目指すか」を考えるうえで押さえておきたい点です。
18号は事実関係を争う場面の区分、20号は事実関係を争わない場面の区分です。両者は、同じ被疑事実について同時に成り立ちません。そして、取調べでの説明は供述調書という形で記録に残ります(刑事訴訟法198条3項)。途中で方向を変えると、それまでの説明との整合を問われることになり、負担が生じます。
もっとも、認否は0か1かで決まるものではありません。行為そのものは認めたうえで、回数や態様、故意の有無、相手の年齢についての認識といった一部を争う場面もあります。この場合、争う部分については18号の枠組み、争わない部分については20号の枠組みというように、分かれて検討されることになります。
どれを目指すべきか|選ぶのではなく、立っている場所で決まる
以上を踏まえると、次のように整理できます。
| 自分の認識 | 関わってくる主な区分 | 検討することになる方向 |
|---|---|---|
| 事実関係に争いがない | 起訴猶予(20号) | 訴追の必要性に関わる事情をどう伝えるか |
| 一部だけ争う | 18号と20号の双方 | 争う範囲を明確にし、それ以外と切り分ける |
| 身に覚えがない | 嫌疑不十分(18号)・嫌疑なし(17号) | 証拠関係の弱い点と、こちらの説明の整合 |
| 行為はしたが犯罪にならないと考える | 罪とならず(16号) | 構成要件や違法性阻却をめぐる法律論 |
「嫌疑なし」が望ましく見えるのは自然なことですが、17号は明白な場合に限られた区分です。望ましい区分から逆算して事実の説明を組み立てると、証拠と食い違ったときに立て直しが難しくなります。順序は逆で、自分の事件がどこに立っているかを確かめたうえで、その入口に見合った準備をすることになります。
処分の後に、この違いは表に出るのか
交付される書面には理由が書かれない
刑事訴訟法259条は、公訴を提起しない処分をした場合において被疑者の請求があるときは、速やかにその旨を告げなければならないと定めています。告げる対象は処分をしたという事実であって、理由ではありません。理由の告知を定めているのは261条で、そちらの請求権者は告訴人・告発人・請求人とされています。
このため、被疑者本人が請求して受け取る不起訴処分告知書には、どの区分による不起訴かが書かれないのが通常です。この書面の使いみちについては、別の記事で扱っています。
身体拘束の補償では、区分が正面から使われる
区分の違いが手続の入口をはっきり分けている場面もあります。身体拘束を受けたのに不起訴になった場合の補償です。
被疑者補償規程(法務省訓令)2条は、被疑者として抑留又は拘禁を受けた者について公訴を提起しない処分があった場合において、その者が罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由があるときは、抑留又は拘禁による補償をするものとすると定めています。補償の額は、抑留又は拘禁の日に応じて1日1,000円以上12,500円以下とされています(同規程3条1項)。
そして同規程4条は、補償に関する事件の立件手続を行う場合として、「罪とならず」又は「嫌疑なし」の不起訴裁定主文による処分があったときを1号に挙げ、それ以外の場合については、罪を犯さなかったと認めるに足りる事由があるとき(2号)、補償の申出があったとき(3号)としています。
もっとも、この規程は法務省の訓令であり、要件も「罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由」です。嫌疑不十分だったから補償される、という関係にはなく、補償するかどうかは検察官の裁定によります。
どの区分でも共通していること
一方で、区分によって変わらない部分もあります。不起訴は有罪判決ではないため、どの区分であっても前科にはあたりません。捜査を受けた記録が残る点も共通します。
また、不起訴処分は判決と異なり、その後の手続を閉ざしてしまうものではありません。事件事務規程3条6号は不起訴処分に付した事件を再起するときの受理手続を定めていますし、検察審査会の議決を受けて検察官が再検討する場合の手続も同規程に置かれています。実際にそうなる場面は限られますが、制度としては残されています。
違いが表に出ない場面のほうが多い
勤務先や学校、家族に伝わるのは、通常「不起訴になった」という結論だけです。告知書にも理由は書かれません。日常の場面で、どの区分による不起訴だったのかが問われることは、あまり多くありません。
そのため、区分の名前を取りにいくこと自体を目的にするより、自分の事件がどの入口に立っているかを早い段階で見極めることのほうが実際的です。見極めがずれたまま進むと、供述と証拠の食い違いという形で後から表面化します。
混同されやすい点
- 不起訴と無罪は異なります。無罪は裁判所が審理したうえで言い渡す判決で、不起訴は起訴の前の段階で検察官がする処分です。
- 処分保留のまま釈放されることは、不起訴とは異なります。起訴・不起訴の判断がまだされていない状態です。
- 起訴猶予でも嫌疑不十分でも、前科がつかない点は変わりません。
- 嫌疑不十分になれば以後まったく捜査されない、と言い切れるものではありません。制度上は再起の仕組みが残されています。
- 少年の事件は、この枠組みとは進み方が異なります。検察官は、捜査を遂げて犯罪の嫌疑があると考えるときは、家庭裁判所に送致することとされています(少年法42条1項)。
いまの段階で確認しておきたいこと
- 自分が疑われている事実の中身(いつ・どこで・何をしたとされているか)を、できるだけ具体的に把握する。
- そのうえで、争う部分と争わない部分がどこかを整理する。
- 取調べで説明した内容と、調書に記載された内容が食い違っていないかを確かめる。
- 身体拘束を受けている場合は、処分までの時間が限られていることを前提に段取りを考える。
- 途中で方向を変えると負担が生じるため、早い段階で見通しを相談する。
まとめ
- 不起訴の理由づけは事件事務規程75条2項に20の区分として定められており、「3類型」はそのうちの3つを指す通称です。
- 起訴猶予(20号)だけが「被疑事実が明白な場合において」から始まり、事実の枠が定まった後の判断を扱っています。
- 嫌疑不十分(18号)は証拠が足りないという判断で、嫌疑なし(17号)とは意味が異なります。
- どれを目指すかは選ぶものではなく、事実関係についてどの立場に立つかで入口がほぼ決まります。
- 処分の後に区分の違いが表に出る場面は限られますが、身体拘束の補償のように、区分が手続の入口を分けている場面もあります。
当事務所では、捜査の段階からのご相談をお受けしています。ご自身の事件がどの入口に立っているのか、その見立てを整理するところからお話しいただければと思います。


