【刑事事件】身分証やマイナンバーカードを人に貸した|罪に問われるかを分ける使い道と、その後の対応

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

この記事は、2026年10月時点の刑法、旅券法、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯罪収益移転防止法」)などに基づいて書いています。2025年6月1日から懲役と禁錮は「拘禁刑」に一本化されたため、本文の刑罰は拘禁刑で表記しています。また、2026年7月10日に施行された犯罪収益移転防止法の改正(預貯金通帳等の不正譲渡に対する罰則の引上げ)を反映しています。


「友人に頼まれて運転免許証を数日貸したところ、自分の名前でローンの申込みがされていたと後から分かった」。「交際相手にマイナンバーカードを預けたまま別れてしまい、返してもらえていない。何かに使われていたら自分も罪に問われるのか」。身分証を人に貸したことをめぐって、当事務所にはこうしたご相談が寄せられます。

 インターネット上では「身分証を貸すのは犯罪になる」「貸しただけなら罪にはならない」といった説明が見られます。どちらも特定の場面には当てはまる説明ですが、実際には、貸した書類の種類、借りた人の使い道、そして貸した本人がどこまで知っていたかによって、法的な評価は変わってきます。一方の説明だけを頼りに判断すると、必要な対応が遅れたり、反対に必要以上に不安を抱えたりすることにつながります。

 この記事では、身分証やマイナンバーカードの「実物」を人に貸した場合に絞って、罪に問われるかどうかを分ける考え方と、貸した後にとれる対応を整理します。身分証の写真を送ってしまった場合は身分証の写真を送ってしまった|個人情報を握られた後の対処を、口座や名義そのものを貸した場合は「口座を売っただけ」「名義を貸しただけ」は軽いのかをあわせてご覧ください。

身分証を貸すこと自体は罪になるのか

書類の種類によって扱いが異なる

 「身分証」とひとことで言っても、パスポート、マイナンバーカード、運転免許証、健康保険証や資格確認書など、書類ごとに根拠となる法律が異なります。貸すという行為そのものに罰則が置かれている書類もあれば、貸すこと自体には直接の罰則がなく、借りた人が何に使ったかによって評価が決まる書類もあります。

書類貸すこと自体への罰則主に問題になる場面
パスポート(旅券)あり(旅券法23条1項3号)他人が名義人になりすまして旅券として使う場面
マイナンバーカード直接の規定なし(使い道で判断)口座開設・携帯電話の契約・借入れ・オンライン手続でのなりすまし
運転免許証直接の規定なし(使い道で判断)本人確認書類として提示されての契約や借入れ
健康保険証・資格確認書直接の規定なし(使い道で判断)他人が名義人として受診し、保険給付を受ける場面


パスポートは貸しただけで罪に問われ得る

 旅券法は、行使の目的をもって自己名義の旅券を他人に譲り渡し、または貸与した者を処罰の対象としています(旅券法23条1項3号)。法定刑は5年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科です。「行使の目的」とは、借りた人がそれを旅券として使うことを想定している、という意味です。

 パスポートについては、借りた人が実際に使ったかどうかにかかわらず、使わせるつもりで貸した時点で処罰の対象になり得るという点が、他の身分証との大きな違いです。

マイナンバーカード・運転免許証・保険証の場合

 これらの書類については、名義人が自分のカードを人に貸すこと自体を直接の対象とする罰則は置かれていません。ただし、それは「貸しても問題にならない」という意味ではありません。

 身分証は、銀行口座の開設、携帯電話の契約、借入れの申込みなど、本人であることを確かめる場面で使われます。借りた人がそれを使って名義人本人になりすませば、その行為が詐欺罪などにあたる可能性があり、貸した側もその手助けをした者として捜査の対象になることがあります。マイナンバーカードはICチップに電子証明書が記録されており、暗証番号とあわせて使えばオンラインでの手続もできるため、どこまで渡したかによって影響の範囲も変わってきます。

罪に問われるかを分けるのは借りた人の使い道

口座開設・携帯電話の契約・借入れに使われた場合

 金融機関や携帯電話会社は、契約の際に本人確認を行うことが法律で求められています。借りた身分証を示して名義人本人であるかのように装い、通帳やキャッシュカード、携帯電話、融資金などを受け取れば、相手方をだまして財物を交付させたものとして詐欺罪(刑法246条1項、10年以下の拘禁刑)が問題になります。最高裁も、口座を他人に使わせる意図を隠して開設を申し込み、通帳の交付を受けた行為について詐欺罪の成立を認めています(最高裁平成19年7月17日決定)。金融機関にとって、口座を誰がどのような目的で使うかは重要な事項と考えられているためです。

 携帯電話の契約に使われた場合には、携帯電話不正利用防止法の問題も生じ得ます。また、名義人の口座の通帳やキャッシュカードが第三者に渡されれば、犯罪収益移転防止法の不正譲渡の問題も生じます。同法の罰則は2026年7月10日から引き上げられ、通常の場合で3年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその併科とされています。

名義人の承諾があっても文書の偽造が問題になる場面

 借りた人が申込書などに名義人の氏名を書いた場合、文書の偽造が問題になることがあります。名義人の承諾があれば偽造にはあたらないのが原則ですが、本人自身が作成することが予定されている性質の文書については、名義人の承諾があっても私文書偽造罪が成立するとした判例があります(最高裁昭和56年4月8日決定)。

 本人確認を前提とする申込書類でもこの考え方が問題になる場面があり、その場合は有印私文書偽造罪(刑法159条1項、3月以上5年以下の拘禁刑)や同行使罪(同法161条1項)の成否が検討されます。承諾を与えた名義人も、その共犯として扱われる可能性があります。なりすましによる契約と犯罪の重なりについては他人になりすまして契約した|詐欺と私文書偽造の重なりで詳しく扱っています。

共同正犯か幇助か

 貸した側が罪に問われる場合、その関わり方によって「共同正犯」(刑法60条)と「幇助犯」(同法62条1項)のいずれかで評価されます。借りた人と一緒に計画を立てた、得られたお金の一部を受け取る約束をしていたといった事情があれば共同正犯として、計画には加わっていないものの、犯罪に使われると分かったうえで身分証を渡したという程度であれば幇助犯として評価されることが考えられます。幇助犯の刑は、正犯の刑を減軽したものになります(同法63条)。

 貸した側の評価は「貸した」という一点だけで決まるのではなく、借りた人の計画にどこまで関わっていたかによって決まります。

「何に使うか知らなかった」はどこまで通るか

故意は周りの事情から推し量られる

 詐欺罪の共犯や幇助犯が成立するには、借りた人の犯罪について一定の認識があったこと(故意)が必要です。本当に何も知らずに貸していたのであれば、貸した側に犯罪は成立しません。ただし、「犯罪に使われるかもしれない」と思いながら、それでも構わないと考えて貸した場合(いわゆる未必の故意)にも、故意が認められることがあります。

 認識の有無は本人の言い分だけでなく、周りの事情から判断されます。捜査の場面では、次のような事情が確認されることが多くあります。

  • どのような経緯で、どのような言葉で貸してほしいと頼まれたか。
  • 貸した相手とはどのような関係で、いつから知っているのか。
  • 身分証と一緒に、暗証番号・印鑑・キャッシュカードなどを渡していないか。
  • 貸した見返りとして、お金や物を受け取っていないか。
  • 何日間貸したのか、同じ相手に何回貸したのか。


暗証番号まで伝えていた場合

 マイナンバーカードの電子証明書は、暗証番号がなければ使うことができません。カードの提示だけでなく暗証番号まで伝えていた場合、借りた人はマイナポータルへのログインやオンラインでの申請など、名義人本人にしかできないはずの手続を行える状態になります。

 暗証番号まで伝えていたという事情は、「本人確認書類として見せるだけだと思っていた」という説明と食い違って受け止められやすいため、伝えた経緯や、何に使うと説明されていたのかを具体的に振り返っておくことが大切です。

報酬を受け取っていた場合

 SNSなどでは、「身分証を貸すだけで報酬」「名前を貸すだけの簡単な仕事」といった募集が見られます。通常の取引では、身分証を貸すことに対価が支払われることはまず考えにくいため、報酬を受け取っていた事情は、違法な目的に使われると分かっていたことをうかがわせる事情として扱われやすくなります。募集の典型的な文言や巻き込まれる経路については【刑事事件】闇バイト・トクリュウ|SNSの求人からトラブルに巻き込まれる経路|募集文言の変化をご覧ください。

貸した身分証が返ってこない・悪用が心配なとき

使えない状態にする手続を先に進める

 マイナンバーカードが手元にない場合は、マイナンバー総合フリーダイヤル(0120-95-0178)でカードの一時利用停止を依頼できます。紛失や盗難などによる一時利用停止は24時間365日受け付けられており、停止すると電子証明書が使えなくなります。その後、お住まいの市区町村の窓口で、カードの廃止や再交付の手続を相談することになります。パスポートや運転免許証についても、それぞれの窓口で手元にない事情を説明し、とれる手続を確認します。

 このとき注意したいのが届出の内容です。実際には人に貸したものを「なくした」「盗まれた」と事実と異なる形で届け出ると、それ自体が別の問題を生じさせる可能性があります。窓口では、人に貸して返ってきていないという事情をそのまま伝えて相談してください。

自分名義の契約がないかを確かめる

 身分証が使われていないかを確かめる方法として、信用情報機関(株式会社シー・アイ・シー、株式会社日本信用情報機構、全国銀行個人信用情報センター)への本人開示請求があります。心当たりのない借入れやクレジット契約がないかを確認できます。あわせて、利用している携帯電話会社や金融機関に、自分名義の契約や口座が増えていないかを問い合わせておくと安心です。

 心当たりのない契約や口座が見つかった場合は、その事業者と警察に早めに相談します。自分名義の口座が詐欺に使われて凍結されたときの流れは詐欺の疑いで銀行口座が凍結された|解除までの手順で扱っています。

相手に返還を求めるときの注意

 貸した相手に返還を求めるときは、メッセージなど記録に残る方法でやり取りし、いつ、何を貸して、いつ返す約束だったのかを書き残しておきます。この記録は、後に自分の関わりの程度を説明する際の資料にもなります。

 相手の自宅に押しかけたり、強い言葉で返還を迫ったりすると、新たなトラブルの原因になりかねません。相手が返還に応じない場合や、相手の背後に別の人物がいる様子がうかがえる場合には、ご自身で交渉を続けず、弁護士を通じて対応することをご検討ください。

警察から連絡が来たとき

名義人として話を聞かれる場面

 自分の身分証が犯罪に使われた場合、契約書類などに名義人として名前が残っているため、警察から事情を聞きたいと連絡が来ることがあります。このとき、警察が名義人を「なりすましの被害者」と見ているのか、「関与した可能性のある人」と見ているのかは、連絡の段階でははっきりしないことが少なくありません。また、話を聞くなかで位置づけが変わっていくこともあります。

 任意での事情聴取や同行を求められた場合の考え方については、「任意同行」は断れるのか|断った場合に起きることをご覧ください。

話す前に整理しておきたいこと

 事情を聞かれる前に、次の点を時系列で整理しておくと、記憶違いや説明の食い違いを防ぎやすくなります。

  • いつ、誰に、どの身分証を貸したのか。
  • 何に使うと説明され、自分はどう理解していたのか。
  • 身分証と一緒に何を渡したか(暗証番号、印鑑、キャッシュカードなど)。
  • 見返りを受け取ったか、受け取る約束をしていたか。
  • 返してもらったか、返還を求めたやり取りが残っているか。


 どこまでが自分の関わりで、どこからが相手の行為なのかを切り分けて整理する方法については、【刑事事件】関与を認める前に確認すること|自分がどこまで関わったかの整理で詳しく扱っています。

自分から申し出るという選択

 貸した身分証が犯罪に使われたと気づいた場合、警察から連絡が来る前に、自分から事情を申し出るという選択もあります。捜査機関に犯罪や犯人が発覚する前に自ら申告した場合には、自首として刑が減軽されることがあります(刑法42条1項)。ただし、自首にあたるかどうかは、捜査がどこまで進んでいたかによって左右されます。

 申し出るかどうか、どのように申し出るかは、事前に弁護士と経緯を整理したうえで判断することが望ましいといえます。自首の成否と実務上の意味については自分から出頭すべきか|自首の成否と実務上の意味をご覧ください。

よくあるご質問

家族に貸しただけでも問題になりますか

 相手が家族であっても、借りた人がその身分証で金融機関などをだませば、詐欺罪などの問題は生じます。刑法には、親族間の財産に関する犯罪について刑を免除する規定(刑法244条1項、同法251条で詐欺罪に準用)がありますが、これは被害者が親族である場合の規定です。金融機関や携帯電話会社が被害者となる場合には当てはまりません。

コピーや写真を渡しただけなら罪にはなりませんか

 コピーや画像であっても、オンラインでの申込みなど、実物の提示を必要としない手続に使われることがあります。罪に問われるかどうかは、実物を貸した場合と同様に、使い道とご自身の認識によって判断されます。画像を送ってしまった場合の対応は身分証の写真を送ってしまった|個人情報を握られた後の対処で扱っています。

貸した相手が逮捕されたら、自分も逮捕されますか

 貸した相手が逮捕されたからといって、名義人が一律に逮捕されるわけではありません。逮捕は、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由に加えて、逃亡や証拠隠滅のおそれなどを踏まえて判断されます。事情を聞かれたうえで、在宅のまま捜査が進む場合もあります。関与の程度や事情によっては不起訴となる場合もあり、その区分については不起訴の3類型はどう違うのか|どれを目指すべきかで解説しています。

まとめ


  1. パスポートは、行使の目的で貸しただけで処罰の対象になり得る(旅券法23条1項3号)。
  2. マイナンバーカード・運転免許証・保険証は、貸すこと自体への直接の罰則はなく、借りた人の使い道によって評価が決まる。
  3. なりすましで口座開設・携帯契約・借入れが行われれば詐欺罪が問題になり、貸した側も共犯として扱われる可能性がある(刑法246条1項・60条・62条1項)。
  4. 名義人の承諾があっても、申込書類などで私文書偽造罪が問題になる場面がある(刑法159条1項、最高裁昭和56年4月8日決定)。
  5. 「知らなかった」かどうかは、頼まれ方・見返り・暗証番号の有無などの周りの事情から判断される。
  6. 返ってこない身分証は、事実をそのまま伝えて利用停止や再交付の手続を進め、自分名義の契約がないかを確認する。
  7. 警察から連絡が来たら、経緯を時系列で整理し、話す前に弁護士へ相談することを検討する。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。身分証を人に貸した後に心当たりのない契約が見つかった方や、警察から事情を聞きたいと連絡を受けた方は、まず経緯を整理するところからご一緒します。

ご家族が身分証を人に貸していたと分かった方からのご相談もお受けしています。貸した相手とのやり取りの記録が手元に残っていれば、お持ちいただくことで今後の見通しをお伝えしやすくなります。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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