受け子をしてしまった|自首・出頭の判断と弁護士同行の意味
自分の氏名で検索すると、何年も前の逮捕を報じる記事が並ぶ。就職や転職の前、結婚の話が出たとき、取引先が変わるとき。そのたびに同じ画面を見ることになり、「これは消せないのか」というご相談が寄せられます。
消せる場合はあります。ただ、「消す」と一言でいっても、誰に何を求めるのかは対象ごとに分かれており、使われる判断の枠組みも、結論も別々です。とくに検索結果については、裁判所が他の場面とは異なる言い回しを用いてきました。
この記事では、報道そのものの是非や、前科・前歴という記録の扱いには立ち入らず、検索結果からの削除という一点に絞って、これまでにどこまで認められてきたのかを裁判例に沿って整理します。
「逮捕歴が出てくる」と言うとき、消す先は一つではない
検索して逮捕の事実が表示されるとき、その情報は少なくとも三つの場所に置かれています。元の記事があるウェブサイト、その記事を指し示す検索結果、そして記事を転載した投稿やまとめのページです。求める相手も、裁判所が使う枠組みも、それぞれ違います。
| 消したい対象 | 求める相手 | 主に使われる枠組み |
|---|---|---|
| 元の記事 | 記事を掲載しているサイトの運営者 | 記事の内容と経過に応じた判断 |
| 検索結果の表示 | 検索サービスの事業者 | 平成29年の最高裁決定 |
| 転載やSNSの投稿 | 投稿者、または場を運営する事業者 | 令和4年の最高裁判決 |
検索結果を消しても、元の記事は残る
検索結果からの削除は、その検索サービスで表示されなくなるだけで、記事そのものを消す手続ではありません。URLを知っている人はこれまでどおり閲覧できますし、他の検索サービスの表示や、記事を転載した投稿には影響しません。逆に、元の記事が消えれば検索結果もいずれ表示されなくなるため、どちらを先に狙うかは事案によって変わります。
検索結果の削除に使われている枠組み
検索結果の削除について統一的な判断を示したのが、最高裁判所平成29年1月31日決定です。児童買春の罪で略式命令を受けた男性が、氏名と居住する県の名称で検索すると逮捕を報じる記事が表示されるとして、その削除を求めた事案でした。
最高裁は、個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は法的保護の対象になるとしたうえで、検索結果の提供には検索事業者自身による表現行為という側面があり、あわせて、インターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしていると述べました。削除を命じることは、その役割に対する制約でもあるという位置づけです。
比較衡量で見られている事情
- その事実の性質と内容。
- 検索結果が提供されることでその事実が伝わる範囲と、本人が受ける具体的な被害の程度。
- 本人の社会的地位や影響力。
- 記事の目的や意義。
- 記事が掲載された時点の社会的状況と、その後の変化。
- 記事の中でその事実を記載する必要性。
最高裁は、こうした事情を比較衡量したうえで、公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索結果からの削除を求めることができる、としました。
「明らか」という一語
名誉やプライバシーを理由とする差止めでは、双方の利益を比べて一方が優越すれば足りる、という言い方がされることが多く、そこに「明らか」という限定は付きません。検索結果についてこの語が加わったことで、評価が拮抗する事案では削除が認められにくくなりました。実際、この決定の事案でも、男性が妻子とともに生活し、罰金刑を受けた後は犯罪を犯すことなく民間企業で働いていた事情が挙げられていますが、それでも「明らかであるとはいえない」と結ばれています。
投稿の削除とは基準が違う
これに対して、最高裁判所令和4年6月24日判決は、逮捕を報じた記事を転載した投稿について、削除を認めました。旅館の女性用浴場に立ち入り、建造物侵入罪で罰金刑を受けた男性が、投稿の場を運営する事業者に削除を求めた事案です。
この判決は、諸事情を比較衡量した結果、公表されない法的利益が投稿を一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には削除を求めることができる、と述べました。平成29年決定にあった「明らか」という限定は用いられていません。
令和4年の判決で考慮された事情
- 逮捕から審理が終わるまでに約8年が経過していたこと。
- 罰金刑の言渡しが効力を失っていたこと。
- 投稿が転載した元の報道記事が、すでに削除されていたこと。
- 投稿は逮捕当日に短い字数で速報する目的でされたもので、長期間にわたって読まれ続けることを想定したものとは認め難いこと。
- 本人が公的な立場にある者ではないこと。
ただし、この判決が対象としたのは投稿そのものであって、検索結果ではありません。平成29年決定を変更したものでもありません。「最高裁が削除を認めた」という見出しだけを読んで、検索結果にも同じ基準が使われると考えると、見通しがずれてしまいます。
裁判所が「決め手にならない」と述べた事情
平成29年決定の後、同じ年のうちに各地の裁判所が検索結果の削除について判断を重ねました。参考になるのは、認められた条件よりも、求めた側が挙げたのに決め手として扱われなかった事情のほうです。
| 求めた側が挙げた事情 | 裁判所の受け止め方 |
|---|---|
| 事件の法定刑が軽いこと | 法定刑の軽重だけでは、優越が明らかであるとの根拠にはならない |
| 刑の言渡しが効力を失ったこと | それでもなお公共の利害に関わる事項でありうる |
| 元の記事が仮に削除されたこと | それによって世間の関心がなくなったとはいえない |
| 家族の生活への影響 | 本人のプライバシーとは別の問題であり、考慮の対象としない |
| 再犯がなく、婚姻の予定があること | 事件の性質によっては、それだけでは削除を基礎づけない |
| 取引や融資を断られたという主張 | 推測にとどまる場合は、裏づけが足りないと判断される |
いずれも、平成29年中に高等裁判所または地方裁判所が示した判断です。ネット上の記事をきっかけに2度にわたり退職を余儀なくされ、現在の勤務先にも事実を知る従業員がいるとして、社会生活上の不利益を一応推認できるとしながら、それでも削除を認めなかった例もあります。
「不利益がある」ではなく「不利益が生じた」
表の最後の行は、実務のうえでとくに大切な点です。融資を断られた、取引が止まった、子どもの生活に支障が出た、という訴えは、本人の陳述だけでは「内心の不安や懸念を述べるにとどまる」と評価されることがあります。断られた際のやり取り、通知の書面、社内の記録など、実際に起きた出来事を示す資料が手元にあるかどうかで、主張の重みは変わります。
検索という仕組みそのものが、判断に影響している
意外に感じられるかもしれない点があります。平成29年決定は、問題の検索結果が「居住する県の名称及び氏名を条件とした場合の検索結果の一部」であることなどからすると、事実が伝わる範囲はある程度限られている、と述べました。同じ趣旨は、その後の裁判例にも見られます。
氏名を入力しなければ表示されないという性質は、本人にとっては「知られてしまう入口」ですが、判断の場面では「広がり方は限られている」という評価に傾くことがある、ということです。一方で令和4年判決は、氏名を条件に検索すると表示されるのだから、事実を知らない知人に伝わる可能性が小さいとはいえない、とも述べています。同じ事実が、対象と事案によって別の方向に働いています。
削除を求める道筋
事業者の窓口に申し出る
検索サービスには、内容に応じた申請の窓口が用意されています。ここで押さえておきたいのは、案内に書かれている取扱いの範囲です。Googleの説明では、検索結果からの削除の審査対象となるのは申請者が提供したURLのみであり、削除できるのはGoogle検索の検索結果に表示されるコンテンツに限られる、とされています。記事そのものを消したい場合は、掲載しているサイトの所有者に連絡することになります。
つまり、対象となるURLを一つずつ確認して申請する作業が前提になります。同じ記事が複数のサイトに転載されていれば、その数だけ手当てが要ることになります。
法律による迅速化の仕組みは、検索結果には及んでいない
2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法は、大規模なプラットフォーム事業者に対し、削除の申出を受けた場合の調査や、削除基準の公表などを義務づけました。ただ、この指定はサービス単位で行われており、総務省が公表している一覧に検索サービスは挙げられていません。検索結果についての申出に応じるかどうかは、事業者側の判断に委ねられている状態です。
裁判所に申し立てる
窓口での申出に応じてもらえない場合は、裁判所の手続に進むことになります。実務では、判決を待つ訴訟ではなく、比較的短期間で判断が出る仮処分という手続が使われることが多くあります。仮処分は暫定的な措置ですが、これによって表示が止まり、そのまま落ち着く例もあります。相手方が海外の法人である場合には、資格証明の取り寄せや書面の翻訳など、手続上の準備が加わります。
検索結果が消えても残るもの
- 元の記事そのもの。URLを知っている人は引き続き閲覧できます。
- 他の検索サービスでの表示。相手方ごとに別の手続が必要です。
- 記事を保存した画像や、記事を転載した投稿、まとめのページ。
- 新聞や雑誌など紙の媒体と、図書館などに残る記録。
- 捜査機関や裁判所が保管する事件の記録。これは検索結果とは別の枠組みで扱われます。
かえって情報を広げてしまいやすい行動
削除を急ぐあまり、状況を難しくしてしまう対応があります。
- サイトの運営者に、強い調子の文面や含みのある表現で削除を迫ること。やり取り自体が公開されることがあります。
- 削除の見込みを断言して費用を求める業者に依頼すること。弁護士でない者が代理人として交渉することは、法律上認められていません。
- 記事の内容に反論する投稿を自分で行い、話題を新しくしてしまうこと。
- 自分の氏名を繰り返し検索し、関連する語の表示を強めてしまうこと。
- 削除を条件に金銭を求められた際に、その場で応じてしまうこと。
よくあるご質問
不起訴になった場合は消えやすいのか
処分の内容は、比較衡量のなかで考慮される事情の一つです。嫌疑不十分による不起訴であったことと時間の経過を重ねて、削除を認めた地方裁判所の判断もあります。もっとも、不起訴だから当然に認められるという扱いにはなっていません。記事が報じているのは逮捕という出来事であり、その後の処分がどうであったかは、事件の性質や社会的な関心の程度とあわせて評価されています。
何年経てば消えるのか
年数だけで線が引かれているわけではありません。平成29年決定の後の事案には、罰金から約5年5か月、有罪判決から約11年半という経過があっても認められなかった例があり、他方で令和4年判決は約8年の経過を考慮要素の一つに挙げています。年数は、事件の性質、社会的な関心の変化、本人の現在の立場といった事情と組み合わせて評価されている、と理解するのが実情に近いといえます。
家族の氏名で表示される場合
本人以外の家族が受ける影響については、本人のプライバシーとは別の問題であるとして、考慮の対象としないと述べた裁判例があります。家族自身の氏名や写真が記事に含まれているのであれば、家族本人が請求する立場に立つことを検討する余地があります。
まとめ
- 検索結果の削除は、元の記事を消す手続とは別のものです。
- 検索結果については、公表されない法的利益が優越することが「明らか」な場合に削除を求められる、というのが最高裁の枠組みです。
- 投稿の削除については「明らか」という限定を用いない判断が示されていますが、対象が違います。
- 法定刑の軽さ、刑の言渡しの失効、家族への影響といった事情は、それだけでは決め手として扱われてきませんでした。
- 不利益は「あるはず」ではなく、生じた事実を示す資料とともに主張することになります。
- 削除の申出はURL単位で扱われ、対象が複数あればその数だけ手当てが要ります。
- 急いだ対応がかえって情報を広げることがあるため、順序を決めてから動くことをおすすめします。
どこまで求められるかは、事件の性質、経過した時間、記事の内容、そして手元にある資料によって変わります。見通しが立たない段階であっても、まずは現状の表示と資料を残したうえでご相談ください。


