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田中嘉一

医療ミスを防ぐ医療機器安全コーディネーター(R)

田中嘉一(たなかよしかず) / 臨床検査技師

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コラム

人工呼吸器のインシデントの経験

2021年6月1日 公開 / 2021年9月29日更新

テーマ:医療安全

コラムカテゴリ:医療・病院

人工呼吸器にまつわるインシデント


今回の事例はインシデントでありながら、3日間気付かれなかったというよりインシデントであることが解らなかったといっても良い事例をお伝えしたいと思います。

私が、前職で担当していた都内の某病院でのできごとです。
病床数は当時130床程。急性期を中心とした一般病院で臨床工学技士は居ません。

病棟数は3病棟で急性期は二病棟、今回は内科系を中心とした急性期の病棟で人工呼吸器の使用は年に1・2回と極めて少ない病棟でした。私のフォローアップは毎月隔週で2回でした。

サポートの日に病棟を巡回していると、前回訪問時には使われていなかった人工呼吸器が使用されていました。

こちらの病院では加温加湿器を使用しないやり方で、麻酔器と同じ呼吸回路を使い、人工鼻を用いる方法を採用しておりました。ですので、通常でしたら人工鼻は吸気と呼気の蛇腹間が一緒になるYピースというY字型の管の患者さん側に取り付けますが、この日は何故か人工鼻が吸気側の位置に取付けられておりました。
ご存知の通り、人工鼻は患者さんの呼気中の水分を捉えて自身を湿らせることで、呼吸器から送られてきた吸気を湿らせ患者さんに湿った空気を提供しますが、吸気側に付いていると、呼気を捉えることが出来ませんの機能することができず、乾燥した空気を患者さんに送り続けてしまいます。これでは、気道がカラカラになり痰が吸引できなくなってしまい、ガス交換の効率が著しく悪くなります。

使用されていた生体情報モニターのSpO2値は80%後半を示していました。

この日の部屋持ちの看護師さんはまだ、1年未満の新人さんで痰が吸引できなくて困っていると言ってましたが、当たり前です。
直ちに師長、主任さんを呼んで状況を説明し、その病院で採用されていたHMEブースターという口元で加温加湿できるデバイスに付け替えた事で、痰が吸引できるようになり事無きを得ましたが、ここで考えなければいけないことは、この状況は私が訪問する3日前からだととの事でしたので、3日間この状態だったという事です。

なぜこのような危険な状態が3日も放置されていたのでしょうか?この状態があと数日放置されていたらどうなっていたでしょうか?患者さんが最悪ステった場合、病気のせいと処理されるのでしょうか?

そもそもこのインシデントが気付かれなかった。または、インシデントであることを認識されなかった(不適切な使用であることを知らなかった)事がヒヤリハットになり得なかった事例です。

この事例が起こった原因は幾つも出てきますが、この様に人工呼吸器の稼働率が低い状況にある病院は、臨床工学技士が不在な病院では珍しくはない事と思います。

普段使い慣れていないME機器(特に治療器)、いや使い慣れている機器であっても注意が必要であること、専門家・専任者の目が必要であることを物語っているもではないでしょうか?


次回は
輸液ポンプやシリンジポンプにおける側注にかんする事例についてお伝えします。

PMDA人工呼吸器に関する最新のヒヤリハット情報です
https://www.pmda.go.jp/files/000234785.pdf

PMDAご接続防止コネクタ(経腸栄養)の導入についての情報です
https://www.pmda.go.jp/files/000230589.pdf

ヒヤリハットの詳細情報
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%A4%E3%83%AA%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%83%E3%83%88

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