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芳賀利幸

消防署長を務めた経歴を持つ火災予防・防災のプロ

芳賀利幸(はがとしゆき) / 火災予防・防災

防災企画コンサルタント

コラム

避難確保計画

2023年8月9日 公開 / 2023年8月11日更新

テーマ:防災 避難確保計画作成義務

コラムカテゴリ:法律関連

避難確保計画の作成等の義務について


(平成29年6月19日水防法・土砂災害防止法改正)


平成30年7月豪雨や同年の台風21号、令和元年房総半島台風(台風15号)、同年の東日本台風(台風19号)、令和2年7月豪雨など近年は毎年のように甚大な豪雨災害が発生しています。

水防法や土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律、津波防災地域づくりに関する法律で被災のおそれのある地域において、市町村地域防災計画に定められた要配慮者利用施設(※1)等の所有者または管理者に避難確保計画を作成し、避難訓練を実施することが義務付けられています。

令和2年7月豪雨では、避難確保計画を作成していたにもかかわらず高齢者施設で14名の方が犠牲になる痛ましい被害が発生しました。この被害を受けて、国土交通省と厚生労働省は共同で有識者による「令和2年7月豪雨災害を踏まえた、高齢者福祉施設の避難確保に関する検討会」を設置し、避難の実効性を確保する方策について取りまとめ、その後、避難確保計画に関する市町村の助言・勧告制度等を加えた、改正水防法や改正土砂災害防止法が令和3年7月に施行されました。
こうした状況を踏まえ、令和3年12月には、「令和3年度高齢者施設等の避難確保計画に関する検討会(フォローアップ会議)を設置し、「避難確保計画の手引き」の改正について検討し、避難確保計画のチェック方法や避難訓練の実施方法、タイムラインの作成方法等の内容も加えた、「要配慮者利用施設における避難確保計画の作成・活用の手引きとして令和4年3月に改定しました。

なお、「非常災害対策計画」(※2)や「消防計画」、「学校の危機管理マニュアル」(※3)、地震等の災害に対処する具体的な計画を定めている場合には、既存の計画に避難確保計画に定める項を加えることにより対応できます。

市町村に対して、地域防災計画に防災情報の伝達方法や避難先や避難経路等の事項を定め、これらの事項をハザードマップ等に記載し周知することが義務付けられております。

(※1)要配慮者利用施設とは・・・
社会福祉施設・学校・医療施設をいいます。
例えば 老人福祉施設・有料老人ホーム・認知症対応型老人共同生活援助事業の用に供する施設。児童相談所・障害者支援施設・幼稚園・小中学校・高等学校・病院・診療所等をいいます。

(※2)非常災害対策計画を策定しなければならない施設
厚労省は、都道府県や市町村に対して、各社会福祉施設等に「非常災害対策計画」の策定状況に関する指導・助言を行うように求めています。(平成28年9月9日付け)
・高齢者施設 ・児童施設  ・障がい者施設  ・保護施設等 ・障がい児施設

(※3)学校の危機管理マニュアル ・・・ 平成21年に施行
(学校保健安全法による(学校保健法から学校保健安全法に改題された))
各学校において学校安全計画及び危険等発生時対処要領の策定を義務付けるとともに、地域の関係機関との連携に務めることとしています。

消防計画書と避難確保計画の関連性について

消防法の規定により、一定の防火対象物の管理者は、防火管理者を定めなければなりません。その防火管理者は、消防計画書の作成等が義務付けられており、日頃から火災予防に努めなければなりません。
避難確保計画については、浸水想定区域や土砂災害警戒区域内(ハザードマップ)の要配慮者利用施設に対して、作成が義務付けされました。
これらの二つの計画書の関連性については、消防法の規定で消防計画書を作成している施設(防火対象物)がハザードマップ内の存在する場合は、それぞれの法律に基づいた、それぞれの計画書を作成することをせず、消防計画書内に浸水又は、土砂災害について、避難体制等を記載する項目(※4)を設けることで、新たに避難確保計画を作成せずとも、この計画が作成されたものと見なされることとされます。

(※4)浸水又は、土砂災害について、避難体制等を記載する項目とは・・・・
浸水については6項目
① 計画の目的に「洪水時の避難」を追記
② 自衛水防組織の項目を追記
③ 洪水時の防災体制の項目を追記
④ 洪水時の避難誘導の項目を追記
⑤ 避難の確保を図るための施設を追記
⑥ 洪水時に係る教育・訓練の項目を追記
土砂災害については、次の項目
① 防災体制に関する事項
  ・職員の役割分担や連絡体制の確認
  ・気象、災害に関する情報の入手方法
② 避難誘導に関する事項
  ・避難行動に備えて事前に決めておくべき事項
  ・避難の実施方法
③ 避難の確保を図るための施設の整備に関する事項
④ 防災教育及び訓練の実施に関する事項

避難確保計画の基本構成

避難確保計画は、大雨による浸水や土砂災害が発生する恐れがあるとき、高齢者施設等の要配慮者利用施設の利用者の円滑かつ迅速な避難の確保を図るために必要な事項を定める計画です。

市町村の地域防災計画に定められた要配慮者利用施設の施設管理者等は、水防法や土砂災害防止法、津波法に基づき避難確保計画を作成する必要があります。

避難確保計画に定める事項は、水防法施行規則や土砂災害防止法施行規則、津波防災地域づくり法施行規則に規定されており
「防災体制に関する事項」
「避難の誘導に関する事項」
「避難の確保を図るための施設の整備に関する事項」
「防災教育及び訓練の実施に関する事項」
「自衛水防組織の業務に関する事項」となっています。
このうち、自衛水防組織の業務に関する事項は、水防法において努力義務とされており、自衛水防組織を設置した場合にのみ該当します。

避難確保計画は、消防法に基づいて各施設に作成が求められている「消防計画」や社会福祉施設に作成が求められている「非常災害対策計画」、学校に作成が求められている「危機管理マニュアル」の中に避難確保計画に定める事項を加えることで、これらの計画と一体的に作成することができます。

厚生労働省が実施した「高齢者施設における非常災害対策の在り方に関する研究事項」で取りまとめられた「高齢者施設、事業所における避難の実効性を高めるために、ー非常災害対策計画作成・見直しのための手引きー」や文部科学省の「学校の『危機管理マニュアル』等の評価、見直しガイドライン」にもこうした点が示されていますのでご確認ください。

表1 消防計画、非常災害対策計画、危機管理マニュアルの記載項目の比較

    避難確保計画    非常災害対策計画
  (水防法、土砂災害防止法、津波法)  (厚生労働省令又は、厚労省令)
〇基本的な事項〇計画作成の目的
  計画の目的〇計画の適用範囲
  施設の概要〇施設、事業所の立地条件の把握と災害予測
  施設が有する事項〇施設、事業所の設備の理解、安全対策
〇防災体制に関する事項〇入所者の避難方法に関する情報整理
  防災体制の種類とその確立基準〇避難場所、避難経路移動手段
  事業休業の有無と実施基準〇避難を開始するタイミング、判断の考え方
  防災体制確立時の組織構成と役割分担〇災害に関する情報収集、整理
  防災体制確立時の要員配置〇災害時の人員体制、指揮系統の検討、整理
  情報収集と情報伝達〇連絡体制の整理
〇避難の誘導に関する事項〇関連機関(自治体、関係団体)地域住民とのネットワークづくり
  避難の考え方〇備蓄品等の準備と確保
  避難先〇職員への防災教育、人材育成、避難訓練の実施
  避難経路図
  避難方法
  避難に要する時間と避難開始基準
  緊急安全確保の方法
〇避難の確保を図るための施設の整備に関する事項
  避難に必要な設備とその確保
  避難に必要な装備品とその確保
〇防災教育及び訓練の実施に関する事項
  避難確保計画の周知
  防災教育の実施
  避難訓練の実施
  避難訓練結果の振返りと避難確保計画の見直し
  市町村への避難訓練結果報告
〇自衛水防組織の業務に関する事項



学校の危機管理マニュアル  消 防 計 画  
  (学校保健安全法)   (消防法)    
〇マニュアルの基本事項 〇自衛消防の組織に関すること
  危機管理マニュアルの目的と位置づけ〇防火対象物についての火災予防上の自主検査に関すること
  危機管理の考え方〇避難通路、避難口、安全区画、防煙区画その他の避難施設の
  危機管理マニュアルの運用方法 維持管理及びその案内に関すること。
〇事前の危機管理〇消火、通報及び避難の訓練その他防火管理上、必要な訓練の
  現状及び危機管理の前提となるリスクの把握 定期的な実施に関すること。
  危機の未然防止対策〇火災、地震その他の災害が発生した場合における消火活動、 
〇発生時(初動)の危機管理 通報連絡及び避難誘導に関すること。 
  傷病者発生時の対応〇防火管理についての消防機関との連絡に関すること。 
  犯罪被害発生時の対応
  交通事故発生時の対応
  災害発生時の対応
  その他の危機事象の発生時の対応
  郊外活動中、校内行事開催中における事故災害等発生時の対応
〇事後の危機管理
  事後(発生直後)の対応
  心のケア
  調査、検証、報告、再発防止等


避難確保計画に関する留意点

避難確保計画を作成又は、変更した場合は、同計画を市町村長に報告する必要があります。計画を作成又は、変更した場合は、速やかに避難確保計画の内容を要配慮者利用施設の職員、関係者が十分に理解し、確実に施設利用者の避難を確保するためには、避難確保計画に定めた内容を施設職員や施設利用者、施設利用者の家族、避難支援の協力を得ることとしている外部協力者に周知して置く事が必要です。

また、避難の実効性を確保するためには、平時からの避難訓練の継続的な実施が必要です。避難訓練は、原則として年1回以上の頻度で実施しましょう。
避難訓練の結果は、市町村に報告する必要があります。訓練を実施したら、おおむね1ヶ月以内を目安に訓練結果を市町村に報告しましょう。

施設職員や避難支援協力者が避難確保計画の内容を分かりやすく理解するためには、時系列に従って避難行動を取りまとめておく「タイムライン」を作成して置く事が有効です。

施設利用者が避難行動要支援者である場合、入所から在宅サービスに移行した時は、災害対策基本法に基づき市町村が「個別避難計画」の作成に努めることとされています。
このため、在宅サービスに移行した場合には、市町村の避難行動要支援者名簿の担当部局等に連絡するよう求められている場合がありますので、詳細は、市町村にお尋ねください。

避難確保計画の作成に当たっての基本的な事項


1、計画の目的
 避難確保計画は、大雨による浸水や土砂災害が発生する恐れがあるとき、施設利用者の円滑かつ迅速な避難の確保を図るために必要な事項を定める計画です。本項は、こうした計画の目的を記載しましょう。合わせて、避難確保計画の位置付けを明らかにするため水防法、津波法、土砂災害防止法のうち、どの法令に基づく計画なのかを明記しましょう。

2、施設の概要
 避難確保計画を作成する際は、施設の特性や施設利用者の人数を明らかにしておく必要があります。本項には、通所や入所等の利用形態、建物の階数、施設利用者の人数を記載しましょう。

3、施設が有する災害リスク
 避難確保計画を作成するうえで重要なことは、施設が有する事前災害リスクを適切に把握することです。本項には、施設において想定されている災害の種別の災害リスクが想定される場合には、それぞれの災害リスクについて整理したうえで記載する必要があります。

洪水や雨水出水、高潮による浸水が想定されている場合は、施設が所在する場所における「想定される浸水深」や「想定される浸水継続時間」を記載しましょう。
津波が想定されている場合は、「基準水位」「津波到達時間」を記載しましょう。
土砂災害が想定されている場合は、「土砂災害警戒区域」と「土砂災害特別警戒区域」のどちらかに該当するかを記載しましょう。
 
これらの災害リスク情報は、市町村が公表している「ハザードマップ」や国土交通省又は都道府県が公表している「洪水浸水想定区域図」「雨水出水浸水想定区域図」「高潮浸水想定区域図」「津波浸水想定」「津波災害警戒区域図」「土砂災害警戒区域図」により確認することができます。
表3 災害の種別・特徴等と提供されている災害リスク情報


災害の種別  特徴等  国や都道府県が提供している災害リスク情報
 洪 水 (大 雨)台風や前線によって大雨が降った場合、その水は川に集まり川を流れる水の量が急激に増大します。このような現象を洪水という。一般には、川から水があふれ、氾濫することを洪水と呼びます。洪水浸水想定区域図 想定される最大浸水深 想定される浸水継続時間 家屋倒壊等氾濫想定区域
 雨水出水 (大 雨)短時間に強雨などが原因で下水道やポンプによる排水が追いつかず、用水路や下水道が氾濫して、住宅や道路が水につかる災害を雨水出水といいます。
 高 潮  (台風・低気圧)高潮は、台風や発達した低気圧などに伴い気圧が下がり海面が吸い上げられ、強風により海水が海岸に吹き寄せられることで海面が異常に上昇する現象です。海水が堤防等を超えると一気に浸水します。高潮浸水想定区域図 想定される最大浸水深 想定される浸水継続時間
 津 波 (地震等)大規模な地震等により震源に近い海底に地殻変動が発生し、それによって生じる海水面のもち上がりや落ち込みにより巨大な波が発生する現象です。沿岸部に壊滅的な被害をもたらすほか、津波が遡上することで内陸部でも被害を生じる場合があります。津波浸水想定図 津波災害警戒区域図 想定される最大浸水深や基準水位 想定される津波到達時間
 土砂災害(大 雨)がけ崩れ(急傾斜地の崩壊)、土石流、地すべり等を発生原因として国民の生命又は身体に被害を及ぼすことがあります。土砂災害警戒区域図 土砂災害特別警戒区域図
がけ崩れ(急傾斜の崩壊)~傾斜地が30°以上である土地が崩壊する自然現象
土石流~山腹が崩壊して生じた土石等又は渓流の土石等が一体となって流下する自然現象
地すべり~土地の一部が地下水等に起因して滑る自然現象又は、これに伴って移動する自然現象


 【参考文献】
  国土交通省 水管理・国土保全局 令和4年3月
  「要配慮者利用施設における避難確保計画の作成、活用の手引き」
  

この記事を書いたプロ

芳賀利幸

消防署長を務めた経歴を持つ火災予防・防災のプロ

芳賀利幸(防災企画コンサルタント)

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