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倉片稜

高度外国人材と人材不足の企業をマッチングさせる専門家

倉片稜(くらかたりょう) / 高度外国人材の活用コンサルタント

KUROFUNE株式会社

コラム

注目の在留資格「特定技能」徹底解剖セミナー(2020年5月28日開催)VOL.2

2020年6月1日 公開 / 2021年1月7日更新

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: 働き方改革採用支援

昨日「Digima〜出島〜 海外ビジネスサロン」さん主催の『注目の在留資格「特定技能」徹底解剖セミナー』にて登壇した時の講演資料と講演内容を記載しています。2019年4月に入管法改正によってできた新しいビザ「特定技能」ビザについてです。後半は講演のキモである、特定技能は本当に企業にとっていい制度なのか?、そして新型肺炎によって特定技能の制度はどのように変わるのかを紹介しました。


【申込終了】注目の在留資格「特定技能」徹底解剖セミナー

今回のセミナーは主に4つのアジェンダでお話しさせていただきました。
①日本の人手不足の現状と外国人労働者
②特定技能制度について
③特定技能は「ホントウ」にいい制度なのか?
④新型肺炎によって特定技能はどうなるか?


後半編は『③特定技能は「ホントウ」にいい制度なのか?』『④新型肺炎によって特定技能はどうなるか?』について記載します。
前半編はこちらから



③特定技能は「ホントウ」にいい制度なのか?


特定技能ビザは一言でいうと、「適切な対策をすれば、労働者本人にとっても企業にとっても最高の制度である」と言えます。逆に、何も対策しなければこれほど悪い制度はありません。特に周りが始めたから自社もなんとなく始めると考えている企業は痛い目を見るかもしれません。これは先ほど話した3つのビザの違いから、どのような対策をしていけばいいのかがわかるようになります。


では特定技能ビザで採用するメリットは何があるのでしょうか?3点でまとめてみました。まず1点は何と言っても、今まで不可能であった職種やグレーだった職種にて外国人の雇用が可能になったことです。例えば飲食店で接客業務する場合は、今までだと技人国に該当するわけでもなく、また技能実習生で認められている仕事ではありませんでした。そのため、自社で増えている外国人のお客さんに対応する通訳人材として技人国で採用するケースが多くありました。ただこれはグレーです。本当に通訳しかしない人材でしょうか?特定技能制度ができることによってグレーではなく適切なビザで外国人を採用して雇用することができるようになりました。

そして2つ目として、採用のトータルコストが下がることです。技能実習生の場合は、現地では送り出し機関、日本では管理組合といった仲介業者を介在しなければならなかったため、採用のコストが多くなってしまいました。しかし特定技能の場合は仲介業者を介在しなくてもいいため、採用のコストを下げることができます。そして3つ目に長期での採用が可能になったことです。単純労働で働くのは今までは技能実習生しか基本認められておりませんでした。しかし今回の特定技能で新しく5年間勤務することが可能になりました。技能実習生で3年間満了してから特定技能に移行した場合は、MAX8年間日本で勤務することができます!かなり延長されました。


次は特定技能として採用することのデメリットです。これも3つ用意しました。まずは3つのビザの違いの時も強調しましたが、特定技能の場合は『転職があり得る』のが最も大きなデメリットです。3年間確実に働いてくれる技能実習生とは異なり、特定技能は転職も可能なために雇用したはいいがすぐに転職される可能性はあります。特に単純作業のような横並びの仕事の場合は、他の会社に移ってしまう可能性は高いです。職場環境をきちんと整えないと、すぐに転職されてしまうことがありえます。きちんと対策を練らなければなりません。

2つ目のデメリットは支援や管理が煩雑である点です。特定技能の場合は受け入れ機関が適切な支援を行わなければなりません。しかしもし自社だけで支援ができない場合は、登録支援機関に支援業務を委託することができます。ただその場合は追加費用がかかってしまいます。そして3つ目のデメリットは、採用競争になってしまうことです。他のビザと異なり、受け入れ枠が34.5万人と決まっています。そのため、枠を1人でもオーバーしてしまったら受け入れ拒否になる可能性があります。早く採用した方がいいとほとんどの企業が考えるようになり、早い者勝ち競争になってしまう可能性があります。そのため、自社に魅力がないと採用競争に負ける可能性があります。



ここで一つのデータを紹介したいと思います。KUROFUNE株式会社と在日ベトナム人就業者支援協会の2団体が共同で行った、ベトナム人の高度人材(技人国のビザのみ)と日本人の「退職に至った理由」の比較調査です。ベトナム人は77人、日本人は114人から回答をいただきました。


調査結果は非常に面白いものになりました。ベトナム人の皆さんから就職の相談を聞くときに、必ず「退職したい理由」を聞くのですが、その際によく出る理由として「能力・個性を活かせる仕事ではなかった」というのが出てきますが、実際に調査をすると日本人と大差がありませんでした。他にも「新しいことが学べない」というのも日本人と大差はありません。

日本人の方が多い理由として、「職場の人間関係が好ましくなかった」「会社の将来が不安だった」というのがありました。この調査で回答いただいた方は、日本人が75%くらいが大企業の方で、ベトナム人は25%しか大企業の方がいなかったのですが、大企業で働いている日本人の方が会社の将来に不安を感じているというのは面白いですね。

逆にベトナム人の方が多い理由としては、「給与等収入が少なかった」「労働時間・休日等の条件が悪かった」という意見がありました。日本人は職場の人間関係や将来性などに不安や不満を感じるのに対し、ベトナム人は給与や労働環境に不満を感じるケースが多いみたいです。

追加でベトナム人の皆さんに、「日本人と差別的に待遇を感じているか」を聞いたところ、給与に関しては過半数の方が「ある」と答えています。そのため、「給与等収入が少なかった」というのは、絶対額としての金額ではなく、日本人との比較によって生まれる相対的な金額での不満であることもこの調査からわかりました。

今年の4月1日に日本経済新聞が出していましたが、外国人労働者の平均給与は日本人の平均給与の7割になっているという記事がありました。この点からも外国人労働者と日本人労働者の給与に差をつけて、それが不満で退職している外国人が多くいることがわかります。ただ同一賃金同一労働制が原則なので、全く同じ仕事をするなら賃金は一緒でなければなりません。
外国人労働者の賃金、平均月22万3100円 2020/3/31



このスライドを詳細に説明したら、これだけで1時間のセミナーができてしまうくらいの内容ですが、今回は概略だけ話します。外国人労働者が職場に定着するには、3つの側面から考えなければなりません。まず最下層にあるのは、日本人でも辞めてしまうような職場であるかどうかです。当然のことですが、日本人が辞めてしまうような職場で外国人が定着するわけはありません。ここの層で悩まれている企業は、2つの課題があるかと思います。1つ目は労働条件に起因する課題です。そもそも職場環境が悪いと人は定着しません。先ほどでもベトナム人の理由としてこれをあげる人が多かったですよね。2つ目は労働災害に起因する課題です。事故などが起こりやすい環境にいると定着率は下がってしまいます。

真ん中にある層は、外国人が辞めてしまうような職場環境です。日本人は定着率が高いけど、外国人はなぜか知らないけど辞めてしまうというような会社が該当します。ここにも2つの課題があります。1つ目は言語コミュニケーションに起因する課題です。外国人労働者と日本人労働者の同僚同士での会話、上司である日本人労働者との会話が上手く行かずに、双方に不満が溜まってしまうようなケースが該当します。2つ目は社内体制に起因する課題です。特に経営者が外国人の受け入れを社内の従業員まで共有できているかどうか、教育体制や評価制度をいかに自社で設定しているかが該当します。こういった制度設計や風土醸成によって定着率は変わっていきます。

最上層は、ある特有の国が辞めてしまうような職場環境です。ここは国民性や宗教、風習などを日本人側も理解しなければならないことです。主にハラスメントに起因して離職に繋がります。相手側がどのように物事を捉えるかは、日本人同士でさえ難しい問題です。文化的背景が異なる外国人ならなおさらのことです。


外国人の文化的背景だけではなく、個々の背景も知らなければなりません。「どうして日本に来たのか?」「どのようなキャリアを思い描いているのか?」「日本に来るためのお金はどのように工面したのか?」「日本に来て困ったことは何か?」こういった声は一人一人聞いているでしょうか?これに関しては個々に話を聞かないとわかりません。定着率を上げるためにはこういった個人的な背景を知ることも大事です。


また日本で困ったことの代表例としてはこのようなものがあります。共通して抱えている悩みは、「金融」「怪我や病気」などです。銀行口座を作るところから海外送金のところ、そして怪我をした時にどのように病院に行って、怪我が長期になった時に給与はどうなってしまうのかなどの悩みです。こうした生活面もしっかりフォローアップできると定着率がだいぶ上がってくると思います。



④新型肺炎によって特定技能はどうなるか?


それでは最後の章になりました!いま世界中で猛威を奮っている新型肺炎によって、この特定技能はどのようになるのかを私見を交えて予想していきます。まずは現状の確認です。元々は特定技能として、あるいは留学生として、技能実習生として現地から来日することを予定していた企業は多いかと思いますが、飛行機が減便となったり、日本に入国するためのビザが取得することが難しくなったりで、当初の予定通りいっていない企業が多いと思います。そのため、国内にいる人材、つまり現在日本で留学している学生や技能実習生で3年満了した方を特定技能に切り替えることで採用数を確保しようとしている企業も多くなっています。海外から来られないので、特定技能を進めていくのならこの方法が確実です。



前に留学生が30万人いるとお話ししましたが、実はこれも文科省が主導となって行った「留学生30万人計画」があったことが背景としてあります。2012年には留学生はたった13.7万人しかいませんでした。ただ2020年までには留学生を30人まで増やすという目標のもと、大学のグローバル化を行ったり、留学に来るように海外に情報発信を行ったり、受け入れ環境作りを進めたりしました。そういった甲斐もあり、前倒しで2019年に31万人に到達することができました。しかしこの30万人に到達した途端に日本で留学ビザが取りづらくなったとのことです。



今回の特定技能の制度も政府主導で行っている点で留学生30万人計画と近しいものを感じました。では実際に特定技能が始まった2019年4月から2020年2月までにどのくらいの方が特定技能ビザとして働いているのでしょうか?実はたった2994人しかいないのです。制度を作った時に、初年度は32800人くらいから47550人くらいはビザが取得できるのはないかと政府は予想していましたが大幅未達です!政府も肝入りの施策であるため、34.5万人達成するために、緩和方向で動いてくるのは容易に予想されます。今は新型肺炎の影響で景気も悪く、また入国できないために緩和はそこまでできていませんが、新型肺炎が落ち着いてくる2020年の4クオーターあたりから大幅に緩和してくるかもしれません。一気に34.5万人の枠をかけての競争が生まれそうな気がします。


そのために今の状況から取れる戦略は3つあります。まずは周りが採用するまで、あるいは新型肺炎が落ち着くまで様子見をするというものです。これは最もスピードが遅く競争に揉まれてしまうかもしれません。最もスピードが速いのが国内の人材を採用する方法です。国内であれば直接面接することも可能です。現地の仲介業者を通じてオンラインで面接する方法もあります。



では特定技能の人材を採用するのに成功する企業はどのような企業でしょうか?まずはスピードが速い「国内での採用」と少し時間のかかる「現地での採用」とでポートフォリオを組んでいることです。ただ闇雲に採用するのではなく、採用人数やスケジュールを踏まえた上で、現地と国内採用のバランスを取ることが大事です。2つ目の特徴はとして、特定技能が転職されるという最大のデメリットに対して、外国人採用における自社内での課題を認知して適切な対策を事前にとっていることです。これは新型肺炎である今だからこそできることかと思います。先ほど紹介した3層の内、どこが自社のネックになっているかを把握しなければなりません。そして最後に生活の支援もきちんと視野に入れておくことです。特に日本に来てから困ることが多いかと思うので、何に困っているのかを把握することが大切です。これも新型肺炎の今だからこそできる準備です。



こちらが本日の講演の最後のスライドです。特定技能の採用と定着のために、この新型肺炎の状況でもできることを3点でまとめました。1つ目は「国内採用と現地採用でポートフォリオを組んでおくこと」です。政府の緩和策が出る前に準備をしておくことが大切です。2つ目は「採用した人材が定着するためにも自社課題を認知しておく」ことです。採用してから課題を把握するのではなく、事前に課題を把握することが大切です。3つ目は「生活支援までアンテナを張っておくこと」です。採用した外国人労働者が気軽に相談できる仕組みを作っておくことが大切です。また共通の悩みである、金融や怪我・病気のなどは早めにケアしておくことが大切です。



みなさんいかがでしたでしょうか?これから政府が肝入りの施策として始めた「特定技能」ですが、初年度は予想を大幅に下回る人数でした。そのため、これから緩和方向で政府も進めてくることが予想され、34.5万人の受け入れ枠での競争が激しくなることが予想されます。準備を始めている企業はもう始めています。そして進んでいる企業は採用だけを見ているのではなく、職場に定着するように制度設計や自社課題の認知まで行っています。特定技能が成功するにはしっかりとした準備が必要です。最高の制度として運用するためにもしっかりと準備してくださいね!

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