【親子問題】成人した子の病状を、親が医師から聞くことはできる?
本記事は、2026年11月1日時点の民法、刑法、弁護士法、高齢者虐待防止法などの規定に基づいて記載しています。成年年齢は2022年4月から18歳に引き下げられています。個別のご事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は弁護士にご相談ください。
「息子はもう50代です。こんな年齢の子のことで、親が弁護士に頼んでもよいのでしょうか」。親子の問題のご相談では、最初にこうした確認を受けることが少なくありません。反対に、きょうだいの立場から「親は80代で、兄は50代。誰が依頼者になればよいのか分からない」というお問い合わせをいただくこともあります。
インターネット上では「成人した子のことは本人の問題」「親が口を出せる範囲は限られている」と説明されることがあり、それ自体は誤りではありません。ただ、その説明だけでは、親が自分の身の安全やお金、住まいを守るために弁護士へ依頼できるのかという点が見えにくくなります。
この記事では、子が50代になっているご家庭を想定して、親が依頼者になれるのか、依頼の際に何を確かめられるのか、弁護士にできることとできないことを整理します。相談先ごとの役割の違いは【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で、支援の具体的な中身は【親子問題】弁護士とカウンセラーはどう介入するのか|4つの事例で見るサービスの実際で解説しています。
子の年齢は、親が依頼できるかどうかを左右しない
まず押さえておきたいのは、弁護士に依頼するのは誰で、弁護士は誰のために動くのかという点です。ここが整理できると、子の年齢をそれほど気にする必要がないことが見えてきます。
依頼者は親、守る対象は親の生活
弁護士への依頼は、依頼する人と弁護士との間の委任契約です(民法643条)。親が子から暴力を受けている、繰り返しお金を求められている、家を出てほしいのに話し合いができないといった場面では、困っているのは親自身ですから、親が依頼者となって弁護士に事務を任せることになります。
このとき弁護士が守ろうとするのは、親の身体の安全、親の財産、親の住まいといった、親自身の権利や利益です。子が20代であっても50代であっても、親が自分の生活を守るために弁護士へ依頼できることに変わりはありません。
子の同意はいらないが、子を代理するわけでもない
親が弁護士に依頼するにあたって、子の同意は必要ありません。一方で、成年に達した子は、自分で契約を結び、住む場所や働き方を決める立場にあります(民法4条)。親の代理人となった弁護士は、子に対しては親の考えを伝え、話し合いを進める側に立ちますが、子の代理人として子の生活を決めることはできません。同じ事柄について、親と子の双方の代理人を兼ねることも認められていません(民法108条1項)。
子の年齢によって、親が関われる範囲は次のように変わります。
| 項目 | 子が未成年のとき | 子が成年に達した後(50代を含む) |
|---|---|---|
| 親権 | 親が親権者として監護・教育を行う | 親権は及ばない |
| 子が結んだ契約 | 親の同意がなければ取り消せる場合がある | 子自身の判断として原則有効 |
| 住まいや仕事の決定 | 親が関与する余地が大きい | 子本人が決める |
| 親が弁護士に依頼して子と向き合うこと | できる | できる |
成人した子に親がどこまで関われるかは、【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で詳しく解説しています。
50歳を超える子のご相談も実際にある
当事務所でお受けしてきた親子の問題のご相談には、子が50歳を超えているケースも含まれています。子の年齢が上がるほど、親が「今さら」とためらう期間も長くなりがちですが、年齢を理由にお断りすることはありません。当事務所のサービスの全体像は、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
子が50代のご家庭で、問題が重くなりやすい理由
依頼ができるかどうかとは別に、子が50代になっているご家庭には、いくつか共通する事情があります。依頼を考える際の判断材料として整理しておきます。
親が70代・80代になり、体力と気力に余裕がなくなる
子が50代であれば、親は70代から80代であることが多く、いわゆる「8050問題」と呼ばれる状況に近づきます。親の通院や介護が始まると、子と向き合う力そのものが少なくなり、話し合いを先送りにせざるを得ない場面も増えていきます。年齢による変化を具体的な数字で確かめたい方は、【親子問題】ひきこもりの長期化で親に何が起きるのか|数字で見る8050をご覧ください。
お金のやり取りが長い年月にわたっている
長い年月の間に、生活費の援助、借金の肩代わり、小遣いの手渡しなどが積み重なり、どこまでが援助でどこからが求めに応じた支出なのか、親自身にも分からなくなっていることがあります。親子の間には扶養の義務がありますが(民法877条1項)、成人した子に対しては、親が自分の生活を維持したうえで余力の範囲で援助するものと考えられています。親が老後の生活を削ってまで、働ける年齢の子にお金を渡し続けなければならないわけではありません。詳しくは【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで解説しています。
親が65歳以上なら、高齢者虐待防止法の窓口も使える
親が65歳以上で、同居の子から暴力や暴言、本人の意に反する金銭の持ち出しを受けている場合には、高齢者虐待防止法の対象となり得ます(同法2条)。市町村や地域包括支援センターが相談や通報を受け付けており(同法7条)、弁護士への依頼と並行して行政の支援を使うこともできます。行政が動く仕組みは【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで解説しています。
依頼の際に確かめられること
子の年齢は依頼の妨げになりませんが、依頼を受ける前に弁護士が確認する事柄はあります。親の年齢が高いご家庭では、特に次の点が大切になります。
依頼するのが親本人であること
弁護士は、依頼者の意思を尊重して仕事を進めることとされています(弁護士職務基本規程22条1項)。そのため、きょうだいや親戚が先に問い合わせをした場合でも、被害を受けているのが親であれば、親本人と面談し、親が何を望んでいるのかを確かめることになります。親が体調などの理由で十分に意思を伝えられない場合には、面談の方法を工夫して意思の確認に努めます(同条2項)。きょうだいが関わる場合の考え方は、【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときで解説しています。
親の判断能力に不安があるとき
委任契約を結ぶには、依頼する人に自分の行為の結果を理解できる能力が必要です(民法3条の2)。親の物忘れが進んでいる場合には、依頼の前にその点を確かめることがあり、状況によっては成年後見制度(民法7条以下)の利用を一緒に検討します。判断能力がしっかりしているうちに相談を始めておくことが、親の希望を形にしやすくする一つの備えになります。
費用と、子に知られないかという心配
依頼者は親ですので、弁護士費用も親が負担するのが基本です。また、弁護士には職務上知り得た秘密を守る義務があり(弁護士法23条)、相談したという事実や相談の内容が、親の了解なく子に伝わることはありません。相談を始める前に何をまとめておけばよいかは、【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報をご参照ください。
親の代理人として弁護士ができること・できないこと
依頼を受けた後に弁護士が何をするのかは、ご家庭ごとに異なります。ここでは、子が50代の場合に多い対応と、できないことの線引きを整理します。
窓口を代え、金銭要求や暴力から親を守る
弁護士は、親の代理人に就いたことを子に通知し、それ以降のお金の求めや話し合いを弁護士が受けるようにします。親が直接責められる場面を減らしつつ、援助の範囲や住まいについての取り決めを合意書にまとめることもあります。暴力があれば、親子の間でも暴行罪や傷害罪が成り立ち得るため(刑法208条、204条)、必要に応じて警察と連携します。通知で伝える内容は【親子問題】弁護士から子に最初の連絡が入るとき|通知で伝えることで、窓口を代える意味は【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で解説しています。
子を本人の意思に反して連れ出すことはできない
親の依頼があっても、成人した子を本人の意思に反して家から連れ出したり、施設に入れたりすることはできません。こうした行為は、逮捕監禁罪(刑法220条)などに当たるおそれがあり、民間業者による連れ出しが裁判で違法と判断された例もあります。弁護士が行うのは、子と繰り返し話をして、家を出ることや生活の立て直しを本人に受け入れてもらうための働きかけです。詳しくは【親子問題】本人の同意なく連れ出すことが違法とされる理由|親の依頼では代わりにならないで解説しています。
50代の子の自立は、弁護士とカウンセラーで役割を分ける
50代の子が親元を離れて暮らすには、住まい探し、仕事探し、場合によっては生活保護の申請など、生活の土台を一から整える必要があります。当事務所では、弁護士が親の保護を担い、自立支援カウンセラーが子の日常生活の相談や金銭管理の支援を担うという形で役割を分けています。家を出た後も、少なくとも半年ほどは生活が落ち着くまで支援を続けることを想定しています。役割を分ける理由は【親子問題】弁護士とカウンセラーが組むという形|役割を分ける理由で、独立までの流れは【親子問題】子を家から独立させる具体的な手順で解説しています。
よくあるご質問
子に知られずに相談だけすることはできますか?
できます。相談したことや相談の内容が、親の了解なく子に伝わることはありません。弁護士から子へ連絡を入れるのは、依頼を受け、親と方針を決めた後です。連絡の取り方の工夫は【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方で解説しています。
親が高齢で外出が難しい場合、きょうだいが代わりに依頼できますか?
被害を受けているのが親であれば、依頼者は原則として親本人です。きょうだいには連絡や同席などで関わっていただき、親本人との面談は、ご自宅への訪問やオンラインなど、親の負担が少ない方法を検討します。きょうだい自身が子から押しかけられているなど、きょうだいに固有の被害がある場合には、きょうだいが依頼者になることもあります。
地方に住んでいても依頼できますか?
当事務所は東京の池袋と新橋に事務所がありますが、これまで北海道から沖縄まで各地のご家庭の親子の問題に取り組んできました。面談の方法や訪問の段取りは、【親子問題】遠方でも依頼できるのか|全国対応の実際で解説しています。
まとめ
- 弁護士への依頼は委任契約であり、困っている親が依頼者になれる。子の年齢は依頼の可否を左右しない(民法643条)。
- 成年に達した子は自分の生活を自分で決める立場にあり、弁護士は親の代理人として子と向き合う。双方の代理人は兼ねられない(民法4条、108条1項)。
- 成人した子への扶養は、親が自分の生活を維持したうえでの余力の範囲で考えられている(民法877条1項)。
- 親が65歳以上で同居の子から暴力や金銭の持ち出しを受けている場合は、市町村などの窓口も使える(高齢者虐待防止法2条、7条)。
- 依頼の前には、親本人の意思と判断能力が確かめられる。不安があれば成年後見制度も検討する(弁護士職務基本規程22条、民法3条の2、7条)。
- 相談の事実や内容は、親の了解なく子に伝わらない(弁護士法23条)。
- 本人の意思に反する連れ出しはできず、子の自立は話し合いと生活面の支援を組み合わせて進める(刑法220条)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。子が50代になっているご家庭のご相談もお受けしており、弁護士と自立支援カウンセラーがチームを組んで対応します。
「子の年齢を考えると今さら頼みにくい」と感じている親御さんも、「高齢の親に代わって何ができるのか知りたい」というごきょうだいも、まずは現在のご状況をお聞かせください。


