【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないとき
「もう成人しているのだから、親には何の権利もないと言われました」。三十代、四十代の子について相談に来られた親御さんから、こうしたお話をうかがうことがあります。反対に、「親なのだから最後まで責任がある」と周囲から言われ、際限のない負担を抱え込んでしまっている方もおられます。
子が成人した後の親の立場について、インターネット上では「成人すれば親に責任はない」という説明がよく見られます。この説明自体は、監督義務という民事責任の話としては誤りではありません。ただ、この一文だけでは、現に同居している子が家の中で暴れている、親の預金から金銭が持ち出されている、といった場面で親に何ができるのかが見えてきません。責任を負わないことと、何もできないことは、法的にはまったく別の話だからです。
本記事では、成人した子の行為について親が責任を負う場面と負わない場面を整理したうえで、それとは別の問題として、親がどのような根拠で子の問題に関われるのかを扱います。扶養義務の範囲そのものについては別記事に譲り、ここでは介入の法的な足場を中心に説明します。
本記事は2026年9月時点の法令に基づいて記載しています。制度や運用は改正・変更されることがありますので、実際のご判断にあたっては最新の情報をご確認ください。
成人した子の行為について、親は原則として責任を負いません
まず出発点となる原則を確認します。
監督義務者の責任は「責任無能力者」についての規定です
他人に損害を与えた本人に代わって監督者が賠償責任を負うという規定は、民法714条1項に置かれています。ただしこの条文は、民法712条や713条によって本人自身が責任を負わないとされる場合、つまり責任能力を欠く人が加害者になった場合を対象としたものです。
未成年の子について親が責任を問われる例が多いのは、年齢が低い子には責任を弁識する能力がないと判断されやすいためです。子が成人し、判断能力に問題がないのであれば、その行為の責任は子本人が負います。成年に達した時点で親権も監護権もなくなりますので、親が子の行動を法的に監督する立場そのものが失われると考えるのが基本です。
子が作った借金や損害賠償を親が支払う義務はありません
成人した子が消費者金融から借入をした、通信販売の代金を滞納した、あるいは他人の物を壊したという場合でも、その支払義務を負うのは子本人です。夫婦の間には日常家事に関する連帯責任の規定(民法761条)がありますが、親子の間に同じ規定は置かれていません。
実際には、子の債権者から親宛てに督促の連絡が来ることがあります。誰の債務なのかという整理については、【不当要求対応】同居していない家族の名義で請求が来た|誰の債務なのかと家族・身元保証人に請求が来た|どこまで払う義務があるかで詳しく扱っています。
例外として親が責任を負うことがある場面
原則には、いくつかの例外があります。相談の現場で問題になりやすいのは次の三つです。
子に責任能力がないと判断される場合
精神上の障害によって物事の善悪を判断する能力を欠く状態にある場合、民法713条により本人が賠償責任を免れることがあります。この場合に、周囲の家族が民法714条の「監督する法定の義務を負う者」にあたるかどうかが問題になります。
この点について最高裁判所は、平成28年3月1日の判決で、同居している配偶者であるというだけでは法定の監督義務者にはあたらないと判断しました。成年後見人についても、その身上配慮義務は法律行為に関するものであって現実の行動を監督することまで求めるものではないとして、後見人であることから直ちに監督義務者にはあたらないとしています。そのうえで、身分関係や日常生活における接触の状況などから監督義務を引き受けたとみるべき事情がある場合に限り、法定の監督義務者に準ずる者として同条を類推適用しうるという枠組みを示しました。
同居して面倒を見ていること自体が、当然に賠償責任の根拠になるわけではないというのがこの判例の理解です。この論点は認知症の家族が事件を起こした|監督義務者の民事責任でも取り上げています。
親自身の行為が問われる場合
子の行為に対する監督責任ではなく、親自身の行為が不法行為(民法709条)として評価される場合があります。たとえば、子が危険な使い方をすると分かっていながら車や道具を渡していた、金銭の出所を知りながら受け取っていた、といった事情があるときです。この場合に問われているのは子の責任ではなく、親自身の判断ですので、成人しているかどうかとは切り離して考えることになります。
保証人・連帯保証人になっている場合
賃貸借契約や奨学金、ローンの保証人として署名している場合、その責任は契約に基づくものですので、子が成人していることとは関係なく発生します。親子関係を理由に免れることはできません。契約書の控えが手元にあるかどうかを早い段階で確認しておくことをおすすめします。
責任を負わないことと、介入できないことは別の問題です
ここまでが「責任」の話です。相談の場面でしばしば混同されるのですが、親が子の行為について責任を負わないという結論は、親が子の問題に関われないという意味ではありません。
監督責任の規定は、子が第三者に損害を与えたときに誰が賠償するかを決めるためのものです。これに対して、家の中で起きている問題に親がどう対処するかは、親自身が持っている権利や立場から考えることになります。以下では、その足場になるものを三つに分けて整理します。
親の側にある三つの足場
一つ目は、住まいについての権利です
親名義の自宅に成人した子が無償で住んでいる場合、法的には使用貸借(民法593条)と評価されることが一般的です。使用貸借では、期間と使用の目的のいずれも定めていなかったときは、貸主はいつでも契約を解除することができるとされています(民法598条2項)。目的を定めていた場合でも、その目的に従って使用するのに足りる期間が経過したときは解除が可能です(同法598条1項)。
もっとも、条文上の解除ができることと、実際に明渡しが実現することの間には距離があります。親子間の使用貸借では、扶養の必要性や経緯が考慮され、直ちに退去を求めることが信義に反すると判断される余地もあります。住まいを失わせることが目的ではなく、生活の場所を移す設計の一部として位置づけられるかどうかが、実務上の分かれ目になります。
二つ目は、親自身が被害者であるという立場です
子から暴力を受けている、物を壊されている、金銭を持ち出されているという場合、親は被害者としての立場に立ちます。ここで知っておいていただきたいのが、財産に関する犯罪と暴力に関する犯罪とで扱いが異なるという点です。
窃盗などの財産犯については、配偶者、直系血族または同居の親族との間で行われたときは刑が免除されると定められており(刑法244条1項)、詐欺や恐喝、横領にも準用されます(同法251条、255条)。同居する子が親の財布から現金を持ち出しても事件として扱われにくいのは、この規定があるためです。詳しくは同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲をご覧ください。
これに対して、暴行罪、傷害罪、脅迫罪には同様の特例がありません。親子であることを理由に処罰されない仕組みにはなっていませんので、被害の内容によっては刑事手続の対象になります。家庭内の暴力の扱いについては家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係で整理しています。
なお、配偶者からの暴力について定められている保護命令は、配偶者、元配偶者、生活の本拠を共にする交際相手を相手方とする制度ですので、成人した子に対して申し立てることはできません。接近や連絡を止める必要がある場合には、人格権に基づく仮処分など民事保全の手続を検討することになります。
三つ目は、扶養の枠を自分で決めるという考え方です
直系血族は互いに扶養をする義務を負います(民法877条1項)。ただし、成人した子に対する親の扶養は、自分の生活を犠牲にしてまで支える性質のものとは考えられていません。扶養の程度や方法は当事者の協議で決め、協議が調わないときは家庭裁判所が定めるとされており(同法879条)、親の資力や年齢、他の扶養義務者の有無などが考慮されます。
実務上意味を持つのは、扶養義務があることと、同居させ続ける義務があることは同じではないという点です。求められるままに金銭を渡す状態を続けるのではなく、どこまでを負担し、どこからは負担しないのかを親の側で決めること自体が、介入の第一歩になります。金銭の要求への向き合い方は【不当要求対応】親族からの金銭要求|扶養義務はどこまでかでも扱っています。
親が代わりにできないこと
一方で、親だからといって代わりに行えない領域があります。ここを見誤ると、かえって事態が動かなくなることがあります。
契約や申請は本人が行うのが原則です
部屋を借りる、携帯電話を解約する、生活保護を申請するといった行為は、成人した本人の権限に属します。親が代理人として動くには本人からの委任が必要で、親であることは代理権の根拠にはなりません。本人が判断能力を欠く常況にあるのであれば成年後見(民法7条以下)の申立てという道がありますが、これは判断能力についての制度であり、働かない、家から出ないといった状態を理由に利用できるものではありません。判断能力が関わる場面での家族の関わり方については本人が高齢で手続を理解しきれない|家族が支えられる範囲が参考になります。
連れ出しを請け負う事業者に委ねる前に
本人の意思によらずに居室から連れ出し、施設に入所させる形の支援をめぐっては、消費者庁が消費者トラブルに注意するよう呼びかけています。契約内容や費用、本人の同意の有無について、契約前に確認しておくことが求められます。契約の内容に疑問があるときは、消費者ホットライン(188)に相談することもできます。
親側に代理人を立てるという方法
当事務所では、親御さんからのご依頼を受け、弁護士が親側の代理人として子と向き合う形をとっています。窓口が親から代理人に移ることで、要求のやり取りを直接受け止めずに済むようになり、金銭や同居の条件についても感情と切り離した話し合いがしやすくなります。代理人が入ることで何が変わるのかについては、弁護士に窓口を移すという選択|代理人通知が効く場面・効かない場面もあわせてご覧ください。
もっとも、子の側を孤立させたままでは自立には結びつきません。当事務所では民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、弁護士が親側の保護を担当し、カウンセラーが子側の住まい探し、仕事探し、公的支援の申請の同行、日々の金銭管理や相談への対応を担う形をとっています。親と子をそれぞれ自立させるという考え方です。
人が関わることですので結果をお約束できるものではありません。ただ、距離が近すぎることが問題の一因になっている場合、物理的に離れるだけで双方に変化が生まれることがあります。
よくあるご質問
成人した子が他人に損害を与えた場合、親に請求が来ることはありますか
請求書や通知が親宛てに届くことはありますが、子に責任能力があり、親が保証人にもなっていないのであれば、法律上の支払義務は生じないのが原則です。支払ってしまうと、以後も同様の請求が続く形になりやすいため、対応の前に内容をご確認ください。
親名義の家から出て行ってもらうことはできますか
法律上は使用貸借の解除という枠組みがありますが、いきなり退去を求めるのではなく、転居先や生活費の見通しを整えたうえで進めるほうが現実的です。手順の設計そのものが実務の中心になります。
子に無断で弁護士に相談してもよいのでしょうか
ご相談いただけます。依頼者は親御さんですので、相談の内容がお子さんに伝わることはありません。連絡方法や書面の送付先についても配慮が可能です。ご本人が話し合いに応じない段階でのご相談については本人が事実を認めない・家族と話さない|家族が相談できる範囲もご参照ください。
まとめ
- 監督義務者の責任(民法714条1項)は責任無能力者についての規定であり、判断能力に問題のない成人の子の行為について親が当然に責任を負うことはありません。
- 子が作った債務は子本人のものであり、親子の間に日常家事債務のような連帯責任の規定はありません。
- 例外は、子に責任能力がないと判断される場合、親自身の行為が不法行為(同法709条)にあたる場合、親が保証人になっている場合です。
- 最高裁平成28年3月1日判決は、同居の配偶者や成年後見人であることだけでは法定の監督義務者にあたらないとしています。
- 責任を負わないことと介入できないことは別であり、住まいについての権利(同法593条、598条)、被害者としての立場、扶養の枠を決めること(同法877条、879条)が親の側の足場になります。
- 財産に関する犯罪には親族間の特例がありますが(刑法244条、251条、255条)、暴行・傷害・脅迫には同様の特例はありません。
- 契約や申請は本人の権限に属し、親であることは代理権の根拠にはなりません。
親子の問題でお悩みの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、成人したお子さんとの間で生じている問題について、池袋と新橋の事務所でご相談をお受けしています。弁護士若井亮は、北海道から沖縄まで全国のご相談に五年以上にわたって対応してきました。
家庭内での暴力や金銭の要求が続いている場合、繰り返されるほど親御さんの側の消耗が大きくなります。何から手をつければよいか分からないという段階でも構いませんので、状況を整理するところからご一緒させてください。
ご相談の際は、同居の状況、金銭のやり取りの記録、これまでの相談先、住まいの名義が分かる資料をお持ちいただけると、具体的な見通しをお伝えしやすくなります。お手元に何もない場合でも、お話をうかがいながら整理していきます。


