【親子問題】一人暮らしの子が騒ぎを起こし、大家から親に連絡が来たら?
子の暴力やお金の無心、ひきこもりなどの問題で弁護士に依頼している親御さんの中には、ご自身の年齢や体調を考えて「もし自分が依頼の途中で亡くなったら、この取り組みはどうなるのか」と気にかけている方が少なくありません。親子問題のご依頼は、数か月から年単位で続くこともあるため、自然な心配といえます。
この記事では、依頼者である親が亡くなった場合に弁護士との契約がどう扱われるのか、残された家族は何をすればよいのか、そして生前のうちに決めておけることを順に整理します。
この記事は、民法などの一般的な考え方をもとに説明しています。実際の扱いは、依頼時に交わした委任契約書の定めや、ご家族の状況によって異なります。
親が亡くなると、弁護士との委任契約は原則として終わる
弁護士への依頼は、法律上は「委任契約」です。民法は委任の終了事由として、委任者または受任者の死亡を挙げています(民法653条1号)。また、代理権も本人の死亡によって消滅します(民法111条1項1号)。
そのため、依頼者である親が亡くなった場合、弁護士が「親の代理人」として子と交渉したり、子からの連絡を受けたりする根拠は、原則としてその時点で失われます。親子問題のご依頼では、弁護士が親の窓口となって子とやり取りをすることが多いため、この点は取り組み全体に影響します。
裁判の途中であれば扱いが異なる
例外として、裁判所で訴訟を進めている途中であれば、当事者が亡くなっても訴訟代理権は消滅しないと定められています(民事訴訟法58条1項1号)。訴訟代理人がいる間は、手続もすぐには中断しません(民事訴訟法124条2項)。たとえば、親名義の家から出ていかない子に対して明渡しを求める裁判を起こしている場合などがこれに当たります。
ただし、訴訟を誰が引き継ぐのかは相続人の問題になるため、相続人との間で改めて方針を確認し、依頼を受け直すのが通常の流れです。
契約で「亡くなった後も続ける」と決めておくことはできるか
最高裁は、委任者の死後の事務を含めた委任契約について、委任者が亡くなっても終了させない合意を含むものと判断しています(最高裁平成4年9月22日判決)。民法653条は、当事者の合意で異なる定めをすることが許される規定と理解されています。
もっとも、この考え方が主に想定しているのは、葬儀の手配や入院費の精算といった、亡くなった後に必要となる事務です。子との交渉のように、親の意思や家族の状況に応じて判断を重ねていく取り組みを、親が亡くなった後も同じ形で続けることには限界があります。続けるかどうか、誰の意向で進めるのかは、残されたご家族と改めて話し合うことになります。
親が亡くなった直後に、弁護士が行うこと
契約が終わるとはいえ、弁護士が何もしなくなるわけではありません。民法は、委任が終わった後でも、急を要する事情があるときは、委任者の相続人などが対応できるようになるまで、受任者が必要な処分をしなければならないと定めています(民法654条)。
親子問題であれば、たとえば次のような対応が考えられます。
- 子からの連絡に対し、代理人としての立場が変わったことと、当面の連絡先を伝える。
- 進行中だった手続や交渉について、期限が迫っているものがないかを確認する。
- ご家族に、それまでの経過と預かっている書類・お金の状況を報告する。
- 着手金や預り金の清算について、委任契約書の定めに従って説明する。
委任が終わったことは、相手方に通知するか相手方が知っていなければ、その相手方に主張できないとされています(民法655条)。ご家族から弁護士へ、できるだけ早くお知らせいただくことが、その後の整理を進めるうえでの出発点になります。
着手金や預り金はどうなるか
依頼の途中で契約が終わった場合の費用の扱いは、委任契約書に定めておくのが一般的です。事件の進み具合に応じて清算し、返還すべきお金があれば相続人にお返しすることになります。預り金の返還を求める権利も相続の対象となるため、誰がどのように受け取るかは、相続全体の話し合いの中で決まっていきます。
親子問題ならではの難しさ|相続人に子本人が含まれる
一般的な依頼であれば、相続人が依頼者の立場を引き継いで、同じ弁護士に依頼を続けることもあります。ところが親子問題では、弁護士が対応してきた子自身が、亡くなった親の相続人になるのが通常です。
弁護士はそれまで、子と向き合う側の代理人でした。その子が、親の契約上の地位やお金の返還を求める権利を引き継ぐ相続人の一人になるため、「相続人全体の代理人として、子への対応を続ける」という形は成り立ちにくいのが実情です。
そのため、親が亡くなった後も子の問題に取り組むのであれば、ほかのご家族が改めて依頼者となり、新しい契約を結ぶことが考えられます。残されたご家族の状況によって、進め方は次のように変わります。
| 残されたご家族 | 考えられる進め方 |
|---|---|
| 配偶者(子の親)が健在 | 配偶者が新たな依頼者となり、それまでの方針を引き継ぐかどうかを話し合う |
| きょうだいがいる | きょうだいが依頼者となり、自分や家族への接触を止めることを中心に組み立て直す |
| 子のほかに家族がいない | 子の生活を支える仕組み(行政の支援窓口や福祉サービス)へのつなぎ方を中心に検討する |
きょうだいが依頼者になる場合の考え方は、【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときでも説明しています。
カウンセラーの支援や親からの援助はどうなるか
当事務所の親子問題の取り組みでは、弁護士が親の側に立って子からの要求を受け止め、自立支援カウンセラーが子の家探しや仕事探し、日々の生活の相談を担うという役割分担をとっています。カウンセラーとの契約も多くの場合は親が結んでいるため、親が亡くなると、同じように見直しが必要になります。
また、子が親の仕送りで暮らしていた場合、その援助も止まります。一方で、子は相続によってまとまった財産を受け取ることがあり、生活の前提が大きく変わる時期でもあります。支援をどこまで続けるかは、子の自立の進み具合や、残されたご家族の負担を踏まえて考えることになります。
弁護士とカウンセラーの役割分担については、【親子問題】弁護士とカウンセラーが組むという形|役割を分ける理由で詳しく紹介しています。
子への連絡窓口をどう引き継ぐか
弁護士が介入している間、子には「連絡は弁護士を通してください」と伝えていることが多くあります。親が亡くなって弁護士の立場がなくなると、子からの連絡がきょうだいや親戚に直接向かうことがあります。
急に窓口がなくなることで、ご家族が対応に追われてしまうおそれがあるため、弁護士からの通知で何を伝えるか、新しい窓口を誰にするかを早めに決めておくことが大切です。最初の通知の考え方は、【親子問題】弁護士から子に最初の連絡が入るとき|通知で伝えることをご覧ください。
生前のうちに決めておけること
親が亡くなった後の混乱を小さくするために、依頼の段階から次のような点を決めておくことが考えられます。
- 万一のときに弁護士へ連絡するご家族と、その連絡先。
- 依頼を引き継ぐ可能性のあるご家族と、その方への経過の共有の仕方。
- 着手金・預り金の清算方法と、返還先についての確認。
- 遺言の作成と、遺言の内容を実現する遺言執行者の指定。
- 葬儀や各種手続など、亡くなった後の事務を誰に任せるか。
- 判断能力が低下した場合に備えた任意後見の検討。
特に、子に財産をどう残すか、子の生活をどう支えていくかは、親子問題と切り離せないテーマです。考え方の全体像は【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかと【親子問題】親が亡くなった後に子が孤立する|備えとして何ができるかで整理しています。
よくあるご質問
親が亡くなったことは、誰がどのように弁護士へ伝えればよいですか
ご家族のどなたからでも構いません。お電話などで、亡くなった日と、今後の連絡先になる方をお知らせください。子への連絡や進行中の手続の確認は、その後に弁護士から順にご説明します。
きょうだいが新たに依頼する場合、最初から説明し直す必要がありますか
新しい依頼者との契約になるため、改めてご事情やご意向をお伺いします。ただし、それまでの経過をどこまで新しい依頼者に共有できるかは、亡くなった親御さんとの関係や守秘義務も踏まえて判断します。生前に「誰に引き継ぐか」を決めておいていただくと、この点の整理が進めやすくなります。
依頼を続けるかどうかは、すぐに決めなければなりませんか
葬儀や相続の手続が重なる時期に、急いで結論を出す必要はありません。まずは子からの連絡にどう対応するかなど、当面の安全に関わる点を優先して整理し、新たな依頼をするかどうかは、ご家族の気持ちが少し落ち着いてから話し合っていただくことも可能です。
子が親の死亡を知らない場合はどうすればよいですか
誰が、いつ、どのように伝えるかは、子の状態や過去の経緯によって慎重に考える必要があります。ご家族だけで抱え込まず、伝え方の段階からご相談ください。
親が亡くなった後も、ご家族が孤立しないために
依頼者である親が亡くなると、弁護士との契約は原則として終わり、子への対応はそのままの形では続けられなくなります。一方で、残されたご家族が新たに依頼したり、生前に引き継ぎ先や遺言を整えておいたりすることで、取り組みが途切れる影響を小さくすることはできます。親子問題のご依頼の流れや費用については、【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問もあわせてご覧ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


