【親子問題】被害者側への対応を親が担う場面の注意点
本記事は、2026年9月時点の法令と公表されている情報に基づいて作成しています。紹介する裁判例は報道等で公表された範囲の内容であり、個別の事案の結論は事実関係によって異なります。
ひきこもりの状態が長く続くと、「本人が嫌がっても、どこかへ連れて行ってもらえば変わるのではないか」と考えるご家族は少なくありません。実際に、自立支援をうたう民間事業者の中には、親との契約に基づいて自宅から本人を連れ出し、寮や研修施設に入所させるところがあります。しかし、本人の同意がないまま連れ出す行為については、裁判で違法と判断された例が複数あります。本記事では、本人の同意なく連れ出すことがなぜ違法とされるのか、その理屈を整理したうえで、「親が頼めば許されるのか」という疑問にお答えします。
「連れ出し」が問題になるのはどのような場面か
ここでいう連れ出しとは、親などの家族が民間事業者と契約し、事業者のスタッフが自宅を訪れて本人を説得または連行し、寮や研修施設などへ移すことを指します。こうした事業者は、報道などで「引き出し屋」と呼ばれることもあります。
厚生労働省は、平成30年2月時点で全国のひきこもり地域支援センター等に寄せられていた民間団体とのトラブルを照会し、11件の事案を確認しています。主な相談内容として、高額な利用料や詳細不明な経費の請求のほか、強制的な利用や暴力、専門職の有無が不明といった運営体制の問題が挙げられています。消費者庁も、ひきこもり支援を掲げる民間事業の利用をめぐるトラブルについて注意を呼びかけ、消費者ホットライン(188)への相談を案内しています。
問題になりやすい行為は、次のように整理できます。
- 本人が入室を拒んでいる部屋への立ち入りと、長時間にわたる説得。
- 身体を押さえるなどして車両に乗せる行為。
- 施設での外出の制限、携帯電話や財布の取り上げ。
- 本人が望まない就労や日課の強制。
いずれも、本人の意思に反して行われた場合に法的な問題が生じ得るという点で共通しています。
理由その1 移動や行動の自由は本人に属する権利だから
自分の意思で居場所を決め、行きたい場所へ行き、とどまりたい場所にとどまる自由は、個人の尊厳の基礎となる権利です。民法710条は、財産以外の損害の賠償について定めた条文の中で、他人の「身体、自由若しくは名誉」を侵害した場合を明示しています。本人の意思に反して連れ出し、施設から出られない状態に置くことは、この自由の侵害として不法行為(民法709条・710条)にあたり得ます。
刑事の面では、刑法220条が、不法に人を逮捕し、または監禁した者を3月以上7年以下の拘禁刑に処すると定めています。監禁は、部屋に鍵をかけて閉じ込める場合に限られません。見張りを付ける、所持金や携帯電話を取り上げる、土地勘のない遠方の施設に置くといった方法で、自分の意思で外へ出ることを著しく難しくすることも、監禁と評価される余地があります。監禁罪が成立する場面については、車から降ろさなかった・部屋から出さなかった|監禁罪の成立でも解説しています。
また、本人が入室を拒んでいる部屋に立ち入る行為は、状況によっては住居侵入(刑法130条)が問題となることもあります。
理由その2 親の同意は本人の同意の代わりにならないから
ご家族からよく寄せられるのが、「親が契約して頼んでいるのだから、違法にはならないのではないか」という疑問です。結論からいえば、本人が成人である場合、親の同意で本人の同意を置き換えることはできません。
成人した子には親権が及ばない
民法818条1項は、成年に達しない子は父母の親権に服すると定めています。成年年齢は18歳ですから(民法4条)、18歳以上の子には親権が及びません。親子の間には扶養などの関係は残りますが、成人した子の居場所を決めたり、行動を制限したりする権限は、親にはありません。
自由の侵害について違法性が否定されるのは、侵害を受ける本人が真に同意している場合です。自由は本人に属する利益ですから、親であっても、本人に代わって「連れ出されること」に同意することはできません。親が成人した子の問題にどこまで関与できるかについては、【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で整理しています。
未成年の子でも、どのような方法でもよいわけではない
子が18歳未満であれば、親権者には子の居所を指定する権限があります(民法822条)。ただし、令和4年12月の民法改正により、親権者は子の監護・教育にあたって子の人格を尊重し、年齢や発達の程度に配慮しなければならず、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならないと定められました(民法821条)。
そのため、未成年の子であっても、身体を押さえて連行する、施設に閉じ込めるといった方法が当然に許されるわけではありません。親権者の同意があっても、方法や程度によっては、事業者の行為が監禁などとして問題になる余地は残ります。
理由その3 「自分で車に乗った」だけでは同意といえないことがあるから
事業者の側から、「本人は最終的に自分の足で車に乗った」「暴力は使っていない」と説明されることがあります。しかし、形のうえで本人が従ったとしても、それが自由な意思による同意であるとは限りません。
報道によれば、東京地裁が令和4年1月27日に言い渡した判決では、女性が主張した羽交い締めによる連行までは認定されなかったものの、少なくとも7時間に及ぶ説得を受け、施設へ向かう以外の選択肢がない状況でやむなく同行したとして、入所について真摯な承諾はなかったと判断されました。強制的な連行が認められなくても、連れ出しそのものが不法行為と評価された点が注目されています。
同意があったといえるかどうかは、次のような事情を総合して判断されると考えられます。
| 確認される事情 | 同意を否定する方向に働きやすい例 |
|---|---|
| 説得の時間と場所 | 深夜や早朝の訪問、数時間に及ぶ説得、退室できない状態での説得 |
| 人数と態度 | 複数のスタッフによる取り囲み、威圧的な言動 |
| 事前の説明 | 行き先や期間、費用、退所の方法が知らされていない |
| 断る余地 | 拒否した場合の不利益を示される、信頼できる人に相談する機会がない |
| 到着後の状況 | 所持品の預かり、監視、外出や外部との連絡の制限 |
また、行き先や目的を偽って同行させた場合も、本人が事情を知っていれば応じなかったといえるときは、有効な同意とは評価されにくいと考えられます。
依頼した親の側にも責任が生じることがある
連れ出しを実行するのは事業者ですが、依頼した親が無関係でいられるとは限りません。
先ほどの令和4年1月27日の東京地裁判決では、報道によれば、本人の意に反してでも連れ出すよう依頼したことなどを理由に、事業者と契約した母親についても、事業者と連帯して損害賠償責任を負うと判断されました。いわゆる引き出し屋をめぐる訴訟で、契約者である親の責任が認められたのは初めてと報じられています。民法719条は、数人が共同して他人に損害を加えたときは、各自が連帯して賠償の責任を負うと定めています。刑事の面でも、事業者の行為が監禁などにあたる場合には、依頼の内容や関与の程度によって、親が共犯として扱われる可能性を否定できません。
一方で、令和元年12月26日の東京地裁判決では、自宅からの連れ出しや施設での行動制限の違法性が認められ、事業者に約500万円の支払いが命じられたと報じられています。この事案では母親も原告となっており、多額の費用を支払ったにもかかわらず支援の実態が乏しかったことが問題とされました。
このように、親は、子に対する責任を問われる立場にも、事業者に費用を支払った被害者の立場にもなり得ます。加えて、意に反して連れ出された経験は、子の側に親への強い不信感を残すことがあり、その後の関係の修復を難しくする面もあります。
本人の意思に反する移送は、法律が手続を定めた場合に限られる
本人の同意がなくても医療機関へ移送する仕組みは、法律上存在します。精神保健福祉法34条は、精神保健指定医の診察の結果、直ちに入院させなければ医療と保護を図るうえで著しく支障があり、本人の同意による入院が行われる状態にないと判定された人について、都道府県知事(政令指定都市では市長)が医療保護入院などのために病院へ移送できると定めています。
この移送の規定は、平成11年の法改正で設けられたものです。厚生労働省の資料では、それ以前に、家族の依頼を受けた民間の警備会社が本人を強制的に移送するなど、人権の観点から問題視される事例があったことが、新設の背景として説明されています。
つまり、本人の意思に反して人を移動させることは、専門医の診察や行政の判断といった厳格な要件と手続を経てはじめて認められるものです。民間事業者が親との契約だけを根拠に同じことを行う仕組みはありません。精神的な不調が疑われ、医療につなげる必要を感じる場合は、まず保健所や精神保健福祉センターに相談するのが順序です。
連れ出す以外に、親が取れる道
本人を無理に動かすことができないとしても、親に打つ手がないわけではありません。
- 各都道府県・政令指定都市に設置されている「ひきこもり地域支援センター」には、家族だけで相談することができます。
- 親が一時的に家を離れて物理的な距離を取ることで、親子の双方に変化が生まれることがあります。
- 暴力や金銭の要求がある場合は、弁護士が親の代理人となり、本人との連絡や交渉の窓口を引き受けることができます。
- 本人の住まい探しや仕事探し、生活保護の申請などは、本人の同意を得ながら、自立支援の専門家が伴走して進めることができます。
親が家を離れるという選択については【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で、子に家を出てもらう場合の法的な考え方については【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで解説しています。鍵を替えて締め出すといった実力による方法にも法的な限界があり、詳しくは【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界をご覧ください。
当事務所では、弁護士が親側の代理人として本人と向き合い、民間の自立支援カウンセラーが本人の日常の生活支援を担うという形で、親と子それぞれの自立を目指す取り組みを行っています。本人の意思を置き去りにせず、親の安全も確保するための体制です。詳しくは【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。
まとめ
- 本人の意思に反して連れ出し、施設から出られない状態に置くことは、自由の侵害として不法行為にあたり得るほか、監禁罪などが問題になることがあります。
- 成人した子について、親の同意で本人の同意を置き換えることはできません。
- 長時間の説得の末にやむなく従った場合などは、真摯な同意があったとは評価されないことがあります。
- 依頼した親についても、事業者と連帯して賠償責任を負うと判断された例があります。
- 本人の意思に反する移送が認められるのは、精神保健福祉法のように法律が要件と手続を定めた場合に限られます。
子の将来を案じるほど、早く状況を変えたいという気持ちは強くなるものです。ただ、同意のない連れ出しは、法的な責任の問題だけでなく、親子の信頼関係にも長く影響を残すおそれがあります。事業者との契約を検討していて方法に不安がある場合や、すでに契約してしまい対応に迷っている場合も、一度立ち止まってご相談ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


