【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないとき

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は2026年9月時点の法令および公表資料に基づいています。制度や運用は改正されることがありますので、実際のご判断にあたっては最新の情報をご確認ください。


「父はもう高齢で、兄に何も言えなくなっています。私が代わりに動くしかないのですが、弁護士に相談してよいものでしょうか」。きょうだいの立場の方から、こうしたご相談をいただくことがあります。反対に親御さんからは、「この件で下の子に迷惑をかけたくない」というお話をうかがうこともあります。同じ家庭の中でも、向いている方向は少しずつ違います。

 インターネットで調べると、「兄弟姉妹にも扶養義務がある」という説明がまず目に入ります。直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養をする義務があると定められていますから(民法877条1項)、その説明自体が誤っているわけではありません。ただ、きょうだいの立場の方が実際に最初につまずくのは、いくら負担するのかという問題よりも手前にある、そもそも自分が相談者・依頼者になれるのかという入口の部分です。

 本記事では、親が動けない状況できょうだいが相談に来られる場面を取り上げ、弁護士が誰の代理人として動くのか、親の判断能力が低下している場合にどの手続を使うのか、親の安全が心配なときにどこへ連絡するのかを整理します。扶養の負担をどこまで抑えられるかという論点や、親が亡くなった後の設計は別の記事で扱います。

きょうだいから相談が来るのはどのような局面か

 親子の問題は、まず親が相談に来られるのが一般的です。その構図が変わり、きょうだいが窓口になるのは、多くの場合、親の側に事情が生じたときです。

「親が動けない」には三つの意味がある

 ご相談をうかがっていると、「動けない」という言葉には性質の異なる三つの状態が混ざっています。

  • 体調や入院、加齢により、物理的に外出や交渉ができない状態。
  • 認知症などにより、判断能力そのものが低下している状態。
  • 判断能力はあるものの、長年の関係の中で子に対して何も言えなくなっている状態。


 三つ目は法律上の「動けない」ではありませんが、実務上はもっとも多く、かつ対応が難しい状態です。親が子に強く出られないまま年月が過ぎ、家計も生活も子に合わせて回るようになっている。その状態を外から見ているきょうだいが、先に限界を感じて相談に来られる、という流れです。

同居したまま家族全体が高齢化していく

 内閣府の令和4年度「こども・若者の意識と生活に関する調査」では、広義のひきこもりに該当する人の割合は15歳から39歳で2.05パーセント、40歳から64歳で2.02パーセントとされ、全国の推計で約146万人と示されています。中高年層の割合が若年層とほぼ変わらないという点が、この問題の輪郭をよく表しています。

 また、厚生労働省の令和6年度の高齢者虐待に関する調査では、養護者による虐待と判断された事例のうち、虐待をした人の続柄は息子が38.9パーセントで最も多く、85.7パーセントの事例で虐待をした人と高齢者が同居していたとされています。親と子が同居したまま双方が高齢化し、外から見えにくい形で固定化していくことが、統計の上でも確認できます。家の中で何が起きているかを最初に気づくのが、別居しているきょうだいであることは珍しくありません。

弁護士はきょうだいの依頼を受けられるのか

 結論から申し上げると、相談を受けること自体に制限はありません。問題になるのは、その先の「誰の代理人として動くか」です。

相談と依頼は別の話

 弁護士が相手方と交渉したり、書面を出したりするには、本人からの委任が必要です。委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することで成立します(民法643条)。つまり、親と子の間の問題について親の代理人として動くには、親本人から依頼を受ける必要があり、きょうだいが費用を負担することと、きょうだいが依頼者になることは別の話です

 ここは冷たく聞こえるかもしれませんが、逆に言えば守りでもあります。本人の意思を確認しないまま第三者の依頼で代理人が動けば、後から「頼んでいない」と言われたときに、当の親が不利な立場に置かれかねません。弁護士は委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとされており(弁護士職務基本規程22条1項)、この確認は省略できない手順だとお考えください。

きょうだい自身が当事者になる場面

 一方で、きょうだいご自身が当事者そのものになっている場合は、当然ながらご本人の依頼として受任できます。次のような場面です。

  • きょうだいご自身が、家庭内の当事者から金銭を要求されている場合。
  • きょうだいご自身や、その配偶者・子に対して、暴力や威迫的な言動が向けられている場合。
  • きょうだいご自身が保証人になっている、あるいは名義を貸している場合。
  • 福祉事務所から扶養に関する照会(扶養照会)を受けた場合。
  • 親の状態について、行政の窓口へ通報・相談する場合。


 家庭内で手が出ているときの法律上の整理については、家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係もあわせてご覧ください。また、同居する家族が物を持ち出した場合の刑事上の扱いには特有の制限がありますので、同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲で整理しています。

親を依頼者とする場合に必要な手当て

 親を依頼者とする場合、きょうだいの役割は「連絡と段取りを担う人」になります。初回の相談にご同席いただき、経緯を説明していただくこと自体に問題はありません。ただし、同席には別の効果もありますので、相談に家族や知人を同席させてよいか|同席が与える影響もご確認ください。

 親が入院中や施設入所中で来所が難しい場合は、こちらから出向いて面談し、意思を確認したうえで委任をいただく方法をとります。手続の内容を親が十分に理解しきれないのではないかという心配については、本人が高齢で手続を理解しきれない|家族が支えられる範囲もご参照ください。

親の状態依頼者になるのは誰か入口として使う方法
判断能力があり、意思疎通もできる親本人(きょうだいは同席・連絡役)来所またはオンラインでの相談
判断能力はあるが、入院・入所で外出が難しい親本人(面談のうえ委任)病院・施設への出張面談
判断能力の低下が疑われる親本人との委任契約は難しい後見・保佐・補助の申立て(民法7条ほか)
きょうだい自身が要求や暴力を受けているきょうだい本人きょうだい本人の代理人として受任


親の判断能力が低下している場合

 親本人から委任を受けることが難しいとき、迂回路になるのが成年後見の制度です。

後見・保佐・補助の申立ては子から行える

 精神上の障害により判断能力を欠く常況にある方については、本人、配偶者、四親等内の親族などの請求により、家庭裁判所が後見開始の審判をすることができます(民法7条)。判断能力が著しく不十分な場合の保佐(民法11条)、不十分な場合の補助(民法15条1項)も、申立てができる人の範囲は同様です。

 子は親から見て一親等ですから、きょうだいの立場の方は、親についての申立人になることができます。補助の開始や、補助人に代理権を与える審判には本人の同意が必要とされている点(民法15条2項、876条の9第2項による876条の4第2項の準用)など、類型ごとに要件は異なります。どの類型で申し立てるかは、医師の診断書をもとに検討することになります。

親族が申し立てられないときの経路

 親族が遠方にいる、関係が途絶えているなどの事情で申立てが期待できない場合には、市町村長が後見開始等の審判を請求することができるとされています(老人福祉法32条)。また、後で述べる高齢者虐待の通報を受けた市町村は、必要に応じてこの請求を行うものとされています(高齢者虐待防止法9条2項)。

 きょうだいの立場で「自分が申立人になるのは荷が重い」と感じられる場合には、まず地域包括支援センターに相談し、市町村の関与を求める道があるということです。

2026年に成立した改正法との関係

 成年後見制度については、民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)が令和8年6月17日に成立し、同月24日に公布されました。後見と保佐を廃止して補助に一元化することなどが内容とされています。もっとも、この部分の施行日は公布の日から起算して2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日とされており、現時点の申立ては現行の制度で行うことになります。制度が変わることを見越して申立てを見合わせる、という判断が適切とは限りませんので、必要性は今の状況で判断されることをおすすめします。

親の安全が心配なときの窓口

 きょうだいが最初に動くべき場面として実際に多いのが、親の安全に不安があるときです。

同居していなくても通報はできる

 高齢者虐待防止法は、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者について、生命または身体に重大な危険が生じている場合には速やかに市町村へ通報しなければならないとし(同法7条1項)、それ以外の場合にも通報するよう努めなければならないとしています(同条2項)。通報できるのは同居家族に限られません。別居しているきょうだいでも通報者になれます

 通報や届出を受けた市町村の職員には、通報した人を特定させる情報を漏らしてはならない義務が課されています(同法8条)。誰が連絡したのかが家庭内に伝わることを心配される方は少なくありませんが、この点は制度上の手当てが置かれています。金銭の使い込みなど経済的な問題も、この枠組みで扱われることがあります。高齢者虐待防止法の全体像については、介護中の行為が虐待と言われた|高齢者虐待防止法と刑事責任で整理しています。

通報の後に市町村が行うこと

 市町村は、通報等を受けたときは高齢者の安全の確認その他の事実確認を行い(同法9条1項)、必要に応じて老人福祉法上の措置を講じ、あるいは審判の請求を行うものとされています(同条2項)。生命または身体に重大な危険が生じているおそれがあるときは、立入調査を行うことができ(同法11条1項)、必要な場合には警察署長に援助を求めることができます(同法12条1項)。分離の措置がとられた場合には、面会の制限が行われることもあります(同法13条)。

 ただし、前述の令和6年度の調査では、養護者と高齢者を分離した事例は19.0パーセントとされています。通報すれば必ず引き離しが行われるわけではなく、多くの事例は分離に至らないまま、家庭内での支援という形で続いていきます。ここが、通報という選択肢の限界でもあります。行政の関与を受けながら、並行して家庭の側でどう距離をつくるかを考える必要が出てくるのは、このためです。行政窓口への相談と家族の立場での対応の関係については、【不当要求対応】高齢の親が要求を受けている|家族が介入できる範囲もご参照ください。

きょうだいの立場で先に整理しておきたいこと

 相談の入口が整理できたら、次はご自身の立場に返ってくる問題です。

扶養照会が届いたときの考え方

 家庭内の当事者が生活保護を申請すると、福祉事務所からきょうだいに扶養照会の書面が届くことがあります。生活保護法は、扶養義務者の扶養は保護に優先して行われるものとしていますが(同法4条2項)、これは扶養できる人がいれば保護を受けられないという意味ではありません。

 運用面では、厚生労働省の令和3年2月26日付けの事務連絡で、扶養義務の履行が期待できない者の判断基準が整理されています。そこでは、相続をめぐって対立している場合や、著しい関係不良にある場合が例示され、一定期間(例えば10年程度)音信不通であるなど交流が断絶していると判断される場合は著しい関係不良とみなしてよいとされました。照会が届いたこと自体は、支払を命じられたことを意味しません。事情を書いて返送することができますし、回答の内容によって援助の可否が決まる仕組みです。扶養義務の範囲そのものについては、【不当要求対応】親族からの金銭要求|扶養義務はどこまでかで詳しく扱っています。

親ときょうだいで利害が一致しないことがある

 親は「最後まで家で面倒を見たい」と考え、きょうだいは「今のうちに距離をとるべきだ」と考える。この食い違いは、珍しいものではありません。弁護士は、依頼者が誰かによって立つ位置が決まりますので、親の代理人として受任した後は、親の意思に沿って職務を行うことになります

 また、同じ事務所が親ときょうだいの双方から、利害の対立する事柄について依頼を受けることはできません。この仕組みについては、弁護士に相談を断られることはあるか|利益相反という仕組みをご覧ください。相談の段階で、誰の立場で進めるのかを決めておくと、後の混乱を避けられます。

費用を誰が負担するか

 依頼者が親であっても、費用をきょうだいが負担すること自体は可能です。実際、親が年金生活で、きょうだいが費用を出すという形は少なくありません。この場合でも依頼者は親ですので、方針の決定や和解の判断は親が行い、報告もまず親に対して行われます。費用を出す側とご本人の間で、あらかじめこの点を共有しておいていただくと、進め方の行き違いが起きにくくなります。

よくあるご質問


親や本人に知られずに相談できますか

 相談の事実や内容は、弁護士の守秘義務の対象です。ご相談の段階で、こちらから家庭内の他の方へ連絡することはありません。もっとも、代理人として通知を出す段階になれば、相手方に依頼者が誰かは伝わります。どこまでが秘密のまま進められるのかについては、弁護士に相談した内容は家族や警察に伝わる?守秘義務の範囲で整理しています。

遠方に住んでいますが、依頼できますか

 可能です。実際、きょうだいの方は進学や就職で実家を離れているケースが多く、電話やオンラインでのやり取りを中心に進めることになります。当事務所は北海道から沖縄まで全国の親子の問題を扱ってきました。距離の問題と費用の関係については、遠方の弁護士に依頼できるか|オンライン相談と出張・日当の関係もご覧ください。

本人がまったく話をしない状態でも、何かできますか

 本人が対話に応じない状態から始まる案件は多く、それ自体が受任を妨げるものではありません。当事務所では、弁護士が親側の窓口となり、民間の自立支援カウンセラーが本人の側の日常的な支援を担うという形をとっています。ご本人が話をしない段階で家族に何ができるかについては、本人が事実を認めない・家族と話さない|家族が相談できる範囲もご参照ください。

まとめ


  1. きょうだいが相談に来られること自体に制限はなく、問題になるのは誰の代理人として動くかである。
  2. 親と子の問題について親の代理人として動くには、親本人からの委任が必要である(民法643条)。費用の負担者と依頼者は別の概念である。
  3. きょうだい自身が要求や暴力を受けている場合、保証人になっている場合などは、きょうだい本人の依頼として受任できる。
  4. 親の判断能力が低下している場合、子は後見・保佐・補助の申立人になることができる(民法7条、11条、15条1項)。親族による申立てが期待できないときは市町村長の請求という経路がある(老人福祉法32条)。
  5. 成年後見制度の改正法(令和8年法律第45号)は公布されたが、施行は公布の日から2年6か月を超えない範囲内の政令で定める日とされ、現時点の申立ては現行制度による。
  6. 別居しているきょうだいでも高齢者虐待の通報者になることができ(高齢者虐待防止法7条1項・2項)、通報者を特定させる情報には守秘義務が課されている(同法8条)。
  7. 通報後に分離まで至る事例は19.0パーセントにとどまるため、行政の関与と並行して家庭側の設計を考える必要がある。
  8. 扶養照会が届いたことは支払義務の確定を意味せず、関係の断絶などの事情は運用上考慮されうる(生活保護法4条2項、令和3年2月26日付け事務連絡)。


親子の問題でお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子間の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士若井亮は5年以上にわたり、北海道から沖縄まで全国の親子の問題に取り組んでまいりました。親側の代理人として子と向き合うと同時に、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、本人の側の生活面の支援を分担する体制をとっています。

 きょうだいの立場でご相談に来られる方は、「自分が口を出してよいのか」と迷われていることがほとんどです。誰の立場で、何を目的に動くのかを最初に整理するだけでも、進め方は変わります。親御さんが動けない状況でご心配を抱えておられる方は、お一人で抱え込まず、一度ご相談ください。

ご相談の際は、これまでの経緯を時系列でまとめたメモ、金銭のやり取りが分かる資料、親御さんの健康状態が分かる書類などをお持ちいただくと、初回からより具体的な検討が可能になります。お手元に何もない状態でのご相談も承っています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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