【親子問題】弁護士から子に最初の連絡が入るとき|通知で伝えること

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点の民法・民事保全法・家事事件手続法・弁護士職務基本規程にもとづいて書いています。個別の事情によって進め方は変わりますので、実際の判断はご相談のうえで行ってください。


「弁護士から連絡が行ったら、息子は逆上するのではないか」「書面一枚で娘を突き放すようで気が引ける」。成人した子の暴力やお金の無心に悩む親御さんから、ご依頼の直前にこうした迷いをお聞きすることがあります。一方で、すでに何年も直接の話し合いを重ねてきた方からは「もう自分の口からは何も言えない。誰かに代わってほしい」という声も届きます。

 弁護士が親の代理人に就くと、子に「今後は弁護士が窓口になる」と知らせる受任の通知を出す、という説明は広く知られています。それ自体は正しい説明ですが、親子の問題では、通知の相手が他人ではなくわが子であるという点で、何をどう伝えるかに独特の配慮が要ります。書き方ひとつで、その後の話し合いが進みやすくもなり、こじれやすくもなります。

 この記事では、弁護士から子に最初の連絡が入る場面に絞って、通知を出す前の準備、通知で伝えること・伝えないこと、届け方、受け取った子の反応ごとの進め方を整理します。弁護士に依頼すると全体として何が変わるのかは【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で、受任通知という仕組みの一般論は受任通知とは何か|送られると相手方との関係はどう変わるかで扱っています。

最初の連絡は「親の代わりに話す人がいる」と知らせるもの

通知は命令ではなく、窓口が変わったことを伝える書面

 弁護士からの通知には、子の行動を法的に縛る力はありません。貸金業者の取立てには受任通知後の直接請求を制限する規定がありますが、親子のような個人間ではそうした規定は働かないためです。通知を受け取った後も、子が親に電話をかけること自体を、通知だけで止めることはできません。

 それでも最初の連絡に意味があるのは、「親はもう一人で受け止めない」「話があるなら弁護士が聞く」という構造の変化を、子に明確に示せるからです。家の中で繰り返されてきた要求と応答の流れに、第三者が入ったことを知らせる。その最初の一歩が通知の役割です。

子が成人か未成年かで、通知の形が変わる

 この記事は、主に成人した子を想定しています。未成年の子の場合、親は親権者として子を監護し教育する立場にあります(民法820条)。弁護士が親の代理人として未成年の子に「窓口を変える」と告げる形はなじみにくく、学校や児童相談所、警察との連携を含めた別の組み立てになるのが通常です。

通知を出す前に整えておくこと

親の安全を先に確保する

 通知が届いたとき、子の怒りが弁護士ではなく身近な親に向かうことがあります。暴力の経緯がある場合は、通知の前に一時的に親が家を離れる、近くに頼れる人がいる状態にしておく、警察に事前の相談をしておく、といった準備を先に済ませます。避難の考え方は【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で、警察に相談した記録の意味は【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続で解説しています。

何を求め、何を求めないかを親と決めておく

 通知の中身は、親御さんの意向そのものです。お金の要求にはどこまで応じるのか、家を出てほしいのか、それとも同居のまま関係を立て直したいのか。求めることを欲張りすぎず、親として譲れない一点をはっきりさせておくことが、子にとっても受け止めやすい通知につながります。成人した子への扶養がどこまで求められるかは【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかが参考になります。

伝えてよい情報と伏せる情報を分ける

 ご相談の内容は弁護士の守秘義務の対象で、親御さんが了解しない事柄を通知に書くことはありません。どの事実を子に示すか、どの事実は伏せるかは、事前に一つずつ確認します。考え方は【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方にまとめています。

通知で伝えること

弁護士が親の代理人に就いたこと、今後の連絡先

 まず、どの弁護士が、誰から依頼を受けたのかを伝えます。そのうえで、今後のご用件は弁護士あてにお願いしたいこと、親への直接の連絡や訪問は控えてほしいことを、お願いの形で書きます。弁護士の電話番号と、つながりやすい時間帯も添えます。

お金や住まいについての親の考え

 金銭の要求が続いてきた場合は、今後は要求に直接応じないこと、必要な生活費の相談があれば弁護士を通して検討することを伝えます。断るだけでなく、話を持ち込む先を示すのがポイントです。お金の要求を断ることの法的な位置づけは【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで扱っています。

親が望んでいるのは、関係を断つことではないこと

 親子の問題の通知では、ここが最も大切な部分です。親は子を見捨てたいのではなく、互いに離れて自立できる形を探したいと考えていると伝えます。当事務所では、自立支援カウンセラーが子の側の住まい探しや仕事探し、生活の相談を担う体制をとっており、通知の中でその支援を受けられることを案内します。弁護士とカウンセラーが役割を分ける理由は【親子問題】弁護士とカウンセラーが組むという形|役割を分ける理由をご覧ください。

 ここまでの内容を整理すると、次のようになります。

伝える項目内容書き方の注意
代理人に就いたこと弁護士名と、親から依頼を受けたこと事実だけを簡潔に
連絡の窓口今後の用件は弁護士あてに命令ではなくお願いの形で
親への直接の連絡電話・訪問を控えてほしいこと理由を責める言葉で書かない
お金や住まい直接は応じない、相談は弁護士経由で断るだけで終わらせない
親の意向関係を断つのではなく、自立を支えたいこと子の言い分を聞く用意があると添える
支援の案内カウンセラーによる生活面の支援受けるかどうかは子が選べると示す
回答の方法連絡先と、目安となる時期短すぎる期限を切らない


通知に書かないこと

人格を否定する言葉や、縁を切るという宣言

 これまでの経緯を細かく並べて非難したり、「勘当する」「縁を切る」と書いたりすることは避けます。法律上、親子関係を当事者の意思で解消する手続はありませんし、子が通知を「見捨てられた」と受け止めれば、その後の話し合いの入口が閉じてしまいます。

行き過ぎた警告

 暴力が続けば警察に相談する、といった正当な対応の可能性を伝えることはありえます。ただし、必要以上に強い言葉で不利益を並べると、子の反発を招くだけでなく、伝え方によっては問題視されるおそれもあります。伝えるのは、親として取りうる対応を落ち着いた言葉で示す範囲にとどめます。

避難先や親の体調などの情報

 親が一時的に身を寄せている先、通院の状況、ほかのきょうだいの連絡先など、子に知られることで親の安全や生活に影響しうる情報は書きません。

どのような方法で届けるか

書面を郵送する場合

 子が別に暮らしている場合は、書面の郵送が基本です。届いた日と内容を後から示せるよう、内容証明郵便や配達の記録が残る方法を使うことが多くあります。この記録は、のちに裁判所の手続を使う場面で、親が話し合いの道筋を示してきたことの裏づけにもなります。

同居中なら、自宅を訪ねて直接伝える

 親と子が同じ家に住んでいる場合、郵送した書面は親が受け取ることになり、通知としての意味が薄れます。そこで、弁護士がカウンセラーとともに自宅を訪ね、子と直接会って伝える方法をとることがあります。顔を合わせて説明することで、書面だけでは伝わりにくい「親の代わりに話を聞く人がいる」という点が伝わりやすくなります。暴力の経緯がある場合は、警察と事前に連携し、安全に配慮して進めます。家を出てもらうことを考えている場合の法的な整理は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで解説しています。

電話での連絡

 電話は、書面や訪問の補助として使います。最初の連絡を電話だけで済ませると、何を伝えたかが記録に残りにくいため、電話をした場合も内容を書面で送り直すのが通常です。

通知を受け取った子の反応と、その後の進め方

連絡がない場合

 通知を出しても、子から何の反応もないことは珍しくありません。親への要求が止まっているのであれば、すぐに次の手を打つ必要はなく、様子を見ながら、時期をおいて改めて連絡をとる、カウンセラーから声をかけるといった形で働きかけを続けます。

弁護士に反発の連絡が来る場合

 「親に言われて連絡してきたのか」「家族の話に他人が口を出すな」といった強い反応が弁護士に向かうことがあります。こうした反応が弁護士に向かうこと自体が、窓口が移った表れでもあります。弁護士は言い分を遮らずに聞き、親の意向と、子の側で困っていることを一つずつ整理していきます。

親に直接連絡が続く場合

 通知の後も子が親に直接電話をかけてくることがあります。親御さんは「弁護士に伝えてほしい」とだけ答えて応対を切り上げ、日時や内容を記録して弁護士に共有してください。要求に応じてしまうと、窓口を移した意味が薄れます。直接の接触が収まらず、親の生活に支障が出る場合には、接近や連絡を禁じる仮処分(民事保全法23条2項)を裁判所に申し立てることや、家庭裁判所の親族間の紛争調整の調停を利用することも検討します。これまでの要求を記録しておく意味は【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つかで触れています。

子が弁護士を立てた場合

 子の側が弁護士に依頼した場合、こちらの弁護士は原則として子の弁護士と話をし、その承諾なく子本人と直接交渉することはしません(弁護士職務基本規程52条)。代理人どうしの話し合いになることで、かえって条件の整理が進む場合もあります。

よくあるご質問

通知を出すと、子との関係は完全に切れてしまうのですか

 通知は、直接のやり取りを一時的に弁護士に移すためのもので、親子の関係そのものを終わらせるものではありません。子の生活が落ち着いた段階で、カウンセラーを通じた近況の報告や、条件を決めたうえでの面会など、親子が再びつながる形を探ることもあります。

子が相談を拒んでいても、通知を出せますか

 通知は親の側からの意思表示なので、子の同意がなくても出すことができます。本人が支援を拒んでいる場合に家族だけでできることは【親子問題】本人が相談を拒む場合|家族だけで動ける範囲で整理しています。

通知の文面は、事前に確認できますか

 文面は、送る前に親御さんにお見せして確認していただきます。伝えたいこと、伏せたいことが反映されているかを一緒に確かめたうえで発送や訪問に進みます。ご相談から自立までの流れと費用は【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問をご覧ください。

まとめ


  1. 弁護士からの通知に子の行動を法的に縛る力はなく、窓口が変わったことを伝える書面である。
  2. 未成年の子の場合は、親権者としての監護の立場(民法820条)があり、成人した子とは別の組み立てになる。
  3. 通知の前に、親の安全の確保と、求めることの優先順位を決めておく。
  4. 通知では、代理人に就いたこと、連絡窓口、お金や住まいへの考え、関係を断つのではなく自立を支えたいという親の意向を伝える。
  5. 人格を否定する言葉、縁を切る宣言、行き過ぎた警告、親の避難先などの情報は書かない。
  6. 同居中なら郵送ではなく、カウンセラーとともに自宅を訪ねて直接伝える方法がとられることがある。
  7. 直接の接触が続く場合は仮処分(民事保全法23条2項)や家庭裁判所の調停を、子が弁護士を立てた場合は代理人どうしの話し合い(弁護士職務基本規程52条)を検討する。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、成人した子の暴力やお金の無心、ひきこもりなど、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。遠方にお住まいの方からのご相談にも対応しています。

子にどう伝えればよいか分からず、弁護士への依頼をためらっている親御さんも、まずは今のご家庭の状況をお聞かせください。通知を出すかどうか、出すならいつ、どのような形にするかを、ご一緒に考えます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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