【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報
「北海道に住んでいます。東京の事務所に相談しても、対応してもらえるのでしょうか」。「子どもは大阪で一人暮らしをしていて、私たち親は九州です。どちらの弁護士に頼めばよいのか分かりません」。親子の問題でご相談をいただくとき、内容に入る前にこうした確認から始まることが少なくありません。
法律事務所のページには「全国対応」と書かれていることが多く、その表現自体が誤っているわけではありません。ただ、親子の問題では、相談する親と弁護士の距離だけが問題になるわけではないという点が、あまり説明されていないように思います。子が暮らしている場所、暴力や金銭の要求が起きている実家という現場、支援を受ける自治体の窓口。関わる場所が三つ以上に分かれることが珍しくないからです。
この記事では、親子の問題を弁護士に依頼する場合に、移動を伴わずに進められる場面と、人が現地に行く必要が残る場面を分けて整理します。そのうえで、手続や窓口ごとに「場所」がどう決まるのかを条文に沿って確認します。弁護士費用の一般的な内訳や、オンライン相談と日当の関係そのものについては、別の記事に譲ります。
本記事は2026年9月時点の法令・運用に基づいて記載しています。制度や運用は変更されることがありますので、実際の手続の際は最新の情報をご確認ください。
「遠方」と一口に言っても、距離は三つある
親子の問題における「遠方」は、単純に依頼者と弁護士の物理的な距離を指すものではありません。まず、どの距離が問題になっているのかを分けて考えると、確認すべきことがはっきりします。
親と弁護士の距離、子と現場の距離、窓口の距離
相談に来られるのは親ですが、対峙する相手は子であり、問題が起きている場所は多くの場合、親が住む自宅です。さらに、生活保護や就労の支援、ひきこもりの相談窓口は、住んでいる自治体ごとに決まっています。この三つの距離は、それぞれ動く人が違います。
| 距離の種類 | 具体的な場面 | 主に動くことになるのは |
|---|---|---|
| 親と弁護士の距離 | 相談、打合せ、方針の決定、経過の報告 | 書面と通信で足りる場面が多い |
| 子と現場の距離 | 子の住まい、実家での出来事、退去や引っ越しの場面 | 現地で動ける人が必要になる |
| 窓口の距離 | 福祉事務所、ひきこもり地域支援センター、地域包括支援センター | 親または子が住む自治体が窓口になる |
三つが同じ場所にあるとは限らない
親と子が同居している家庭であれば、現場と親の住所は一致します。一方、子がすでに家を出ている場合や、きょうだいが別の県から相談に来られる場合には、三つの距離がばらばらになります。どこを基準に考えるかが定まらないまま事務所を探すと、「近い」つもりで依頼した先が、実際の手続の場所からは遠いということも起こり得ます。
弁護士に担当地域の決まりはない
前提として、弁護士が扱える地域は法律上、限定されていません。ここは誤解されやすい部分です。
弁護士法20条2項は「事務所の場所」のルール
弁護士法20条2項は、弁護士は所属する弁護士会の地域内に法律事務所を設けなければならないと定めています。これは事務所をどこに置くかについての決まりであって、受任できる相談者の住所や、扱える事件の場所を制限するものではありません。東京の弁護士が地方の案件を扱うことも、その逆も、制度上は妨げられていません。
「全国対応」は資格の区分ではなく、説明の言葉
したがって「全国対応」という表記は、特別な資格や登録があることを意味するものではありません。実質的な違いが出るのは、遠方の相談者に対してどのような手段で相談を受け、どの場面で誰が現地に行く体制を組んでいるか、という運用の部分です。表記そのものより、後述する確認事項を具体的に尋ねたほうが判断しやすくなります。
なお、対面せずに通信手段だけで受任する場合について、日本弁護士連合会の業務広告に関する規程9条の2は、受任する法律事務の範囲、報酬の種類や金額、委任契約を解除できることと中途で終了した場合の清算方法を表示すべきものとしています。遠方から申し込む際には、この三点が説明されているかが一つの目安になります。弁護士との距離という論点そのものについては、遠方の弁護士に依頼できるか|オンライン相談と出張・日当の関係でも整理しています。
移動を伴わずに進められる場面
親子の問題で弁護士が担う仕事のうち、相当な部分は、依頼者と同じ場所にいなくても進められます。
相談、打合せ、方針の決定、報告
初回の相談を電話やウェブ会議で受けている事務所は多く、受任後の打合せや経過の報告も同じ手段で行えます。資料はデータで受け取ることができますし、通帳や診断書のように原本が必要な書類も、まずは写しを確認したうえで郵送してもらえば足りる場面がほとんどです。親子の問題は数か月から年単位で続くことが多く、毎回事務所まで足を運ぶ前提にしないことは、遠方に限らず依頼者の負担を軽くします。
子への通知と、その後の窓口
弁護士が介入する意味の一つは、親が直接受けていた連絡や要求の窓口を代えることにあります。通知書の送付、その後の電話や書面でのやり取りは、いずれも距離の影響を受けにくい部分です。暴力や金銭の要求が起きている家庭では、この窓口の切替えが最初の一歩になることが多く、そこに至るまでに弁護士が現地へ行く必要は通常ありません。家庭内での暴力の扱いについては、家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係もあわせてご覧ください。
民事訴訟の手続はデジタル化された
民事訴訟については、令和8年5月21日に改正民事訴訟法が全面施行され、訴えの提起や書面の提出、記録の閲覧、判決書の受領をインターネットで行う枠組みが始まりました。期日についても、裁判所の判断によりウェブ会議で参加できる運用が定着しています。
ただし、この全面デジタル化の対象は民事訴訟手続であり、家事事件手続、人事訴訟手続、民事執行や倒産などの非訟手続は対象外です(令和10年6月までに順次対象となる予定とされています)。親子の問題では家庭裁判所の手続を使う場面があるため、この区別は実際に響きます。
それでも人が動く場面は残る
一方で、現地に行かなければ進まない場面はあります。ここを曖昧にしたまま「どこでも同じように対応できる」と説明するのは、実際とずれてしまいます。
接見、現場での対応、引っ越しの場面
子が逮捕され身柄を拘束されている場合、面会は身柄のある警察署などに出向いて行うほかありません。起訴前は手続が速く進むため、短い間隔で会う必要が生じることもあります。また、家からの退去や引っ越しに立ち会う場面、自宅での話し合いに同席する場面も、人が現地にいなければ成り立ちません。
家庭裁判所の期日
家事調停や審判の期日は、呼出しを受けた当事者本人が出席するのが原則です。もっとも、遠方に住んでいて出向くことが困難であるなど家庭裁判所が相当と認めるときは、当事者の意見を聴いたうえでウェブ会議を利用して期日を行うことができるとされています(家事事件手続法54条、258条1項)。利用するかどうかは、実際に手続を行う裁判所が事情を踏まえて判断します。
| 場面 | 弁護士が現地に行く必要 | 補足 |
|---|---|---|
| 相談・打合せ・経過報告 | 通常は不要 | 電話やウェブ会議で行う |
| 子への通知、その後の交渉の窓口 | 通常は不要 | 書面と電話が中心になる |
| 民事訴訟の期日 | 多くの場合は不要 | ウェブ会議での参加が広く使われている |
| 家事調停・審判の期日 | 裁判所の判断による | 遠方の当事者はウェブ会議を利用できる場合がある |
| 逮捕・勾留中の子との面会 | 必要 | 身柄のある警察署などに出向く |
| 退去・引っ越し、自宅での対応 | 必要になる場合がある | 誰が現地を担うかを事前に決めておく |
遠いのは弁護士ではなく、手続の場所かもしれない
見落とされやすいのが、手続を行う場所は依頼した弁護士の所在地では決まらない、という点です。近くの事務所に依頼しても、裁判所や窓口が遠いままということは起こります。
手続ごとに、場所を決める基準が違う
たとえば、同居している子に家を出てもらうために建物の明渡しを求める訴えは、不動産の所在地を管轄する裁判所に提起することができます(民事訴訟法5条12号)。家事調停は原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です(家事事件手続法245条1項)。浪費や判断能力の低下に備えて後見開始の審判を申し立てる場合は、本人の住所地の家庭裁判所が管轄します(家事事件手続法117条)。
| 手続・窓口 | 場所を決める基準 | 根拠 |
|---|---|---|
| 建物の明渡しを求める訴え | 不動産の所在地 | 民事訴訟法5条12号 |
| 家事調停 | 原則として相手方の住所地 | 家事事件手続法245条1項 |
| 後見開始の審判 | 本人の住所地 | 家事事件手続法117条 |
| 生活保護の申請 | 居住地、それがない場合は現在地 | 生活保護法19条1項 |
| 子の刑事事件 | 事件の場所や身柄のある場所 | ― |
公的な窓口は住んでいる自治体で決まる
生活保護の申請を受け付けるのは、居住地を所管する福祉事務所であり、居住地がない場合や明らかでない場合は現在地を所管する福祉事務所です(生活保護法19条1項)。ひきこもりの相談窓口や、就労に向けた支援の窓口も、都道府県や市町村ごとに設けられています。子が親元を離れて別の自治体に移れば、関わる窓口もその自治体に移ります。この部分は、弁護士がどこにいるかとは関係なく決まります。
親と子が離れて暮らしている場合
親が地方、子が都市部という組合せも、その逆も、実際にあります。子の年齢が高い家庭ほど、すでに別居しているケースが増えます。
基準になる住所は、手続ごとに入れ替わる
前章のとおり、ある手続では子の住所が基準になり、別の手続では不動産の場所が基準になります。つまり、「親の近く」か「子の近く」かという二択で考えても答えは出ません。どの手続を使う可能性があるのかを先に整理し、そのうえで、誰がどこを担当するのかを決めていくことになります。
書面の届き先も設計しておく
遠方の家庭では、郵便の届き先が思わぬ影響を与えることがあります。弁護士からの書面が自宅に届くことで、同居している子の目に触れてしまうという事態は避けたいところです。事務所によっては送付先を変更したり、連絡手段を電話やメールに限定したりする対応が可能です。相談内容がどこまで外に出るのかという点は、弁護士に相談した内容は家族や警察に伝わる?守秘義務の範囲で整理しています。また、本人が話し合いに応じない段階で家族だけが相談できる範囲については、本人が事実を認めない・家族と話さない|家族が相談できる範囲をご覧ください。
現地で動く役割を、誰が担うのか
親子の問題で距離が問題になりやすいのは、法律上の手続よりも、日常的な部分です。家探し、仕事探し、役所での手続、日々の金銭管理といった場面は、弁護士が月に一度出張して担えるものではありません。
役割を分けるという考え方
当事務所では、弁護士が親側の代理人として子と対峙し、日常的な生活の立て直しは民間の自立支援カウンセラーが担うという形でチームを組んでいます。子の側を孤立させたままでは自立につながらないためです。現地で継続的に動く役割をあらかじめ切り分けておけば、弁護士の所在地が結果を大きく左右する場面は限られます。
もっとも、人が関わることですから、結果を保証できるものではありません。距離の問題が解消されても、家庭ごとの事情は残ります。それでも、親子の物理的な距離を取ることそれ自体が双方の変化につながる場合があるというのが、これまで各地の家庭に関わってきた実感です。
地元の窓口を併用する
遠方の依頼であっても、子が住む自治体の窓口や、地域の支援機関を使うことはできます。むしろ、公的な支援は現地でしか受けられません。弁護士に依頼することと、地元の窓口を使うことは、どちらかを選ぶ関係ではないとお考えください。
費用の面で距離が響くところ
距離が費用に影響するのは、主に実費と日当の部分です。
日当は「移動による拘束」の対価
日当は、弁護士が事件のために事務所を離れ、移動によって時間的に拘束されることに対して支払われるものと説明されるのが一般的です。交通費や宿泊費とは別に生じます。裏を返せば、ウェブ会議や電話で行う打合せには、通常、日当は発生しません。見積りの段階で、どの場面で移動が生じるのか、その場合の金額の考え方はどうなっているのかを確認しておくと、後から想定外の負担が生じにくくなります。費用の項目ごとの意味は、弁護士費用の内訳|相談料・着手金・報酬金・実費・日当・手数料で説明しています。
子の借金や金銭要求が絡む場合
金銭の問題が絡むと、親が負担すべき範囲そのものが論点になります。扶養義務がどこまで及ぶのかという点は、【不当要求対応】親族からの金銭要求|扶養義務はどこまでかで整理しました。同居する子が親の財産を持ち出した場合の刑事上の扱いについては、同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲をご覧ください。
遠方から問い合わせるときに確認したいこと
初回の問い合わせの時点で、次の点を尋ねておくと、依頼した後のずれが小さくなります。
- 初回の相談を電話やウェブ会議で受けているか。
- 受任後の打合せと報告は、どの手段で、どのくらいの頻度で行うか。
- 弁護士が現地に行くことになるのはどの場面か。
- 移動が生じた場合の日当、交通費、宿泊費の扱い。
- 子が住む地域の公的窓口や支援者と連携する形を取れるか。
- 書面の送付先を指定できるか。同居している家族の目に触れない方法があるか。
- 委任契約書に、扱う事務の範囲、費用、中途で終了した場合の清算方法が書かれているか。
よくあるご質問
一度も事務所に行かずに依頼することはできますか
事務所の方針によりますが、相談から受任、その後のやり取りまでを通信手段で行うことは可能です。その場合、受任する事務の範囲や費用の説明が事前に示されているかを確認してください。なお、債務整理の事件については、弁護士が自ら面談して事情を聴くことを求める日本弁護士連合会の会規があり、他の分野とは扱いが異なります。
子が住んでいる地域の弁護士に頼んだほうがよいのでしょうか
一概には言えません。手続の場所は弁護士の所在地では決まらず、不動産の所在地や相手方の住所地などで決まります。判断の材料になるのは、想定される手続がどこで行われるか、現地で動く役割を誰が担うか、その体制が用意されているか、という点です。
遠方だと対応が遅くなりませんか
連絡や書面のやり取りに関しては、距離による差はほとんど生じません。速さに影響するのは、むしろ連絡が取れる時間帯や、資料が揃うまでの時間です。ただし、身柄が拘束された場合の面会など、移動時間がそのまま対応の速さに響く場面はあります。急を要する事態が想定される場合は、その点を最初に相談しておくことをおすすめします。
まとめ
- 弁護士が扱える地域に制限はなく、弁護士法20条2項は事務所を置く場所についての定めである。
- 親子の問題では、親と弁護士の距離、子と現場の距離、窓口の距離を分けて考える必要がある。
- 相談、打合せ、子への通知と交渉の窓口は、移動を伴わずに進められる場面が多い。
- 民事訴訟は令和8年5月21日に全面デジタル化されたが、家事事件手続や人事訴訟、非訟手続は対象外である。
- 手続の場所は、不動産の所在地(民事訴訟法5条12号)、相手方の住所地(家事事件手続法245条1項)、本人の住所地(同法117条)などで決まる。
- 生活保護の申請は、居住地または現在地を所管する福祉事務所が窓口となる(生活保護法19条1項)。
- 接見や現場での対応など、人が動く場面は残るため、誰が現地を担うのかと、移動に伴う費用の扱いを事前に確認しておく。
親子の問題でお悩みの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士若井亮は5年以上にわたり、北海道から沖縄まで各地の親子の問題に取り組んできました。子の年齢は問わず、成人した子や、50歳を超える子のケースも扱っています。
弁護士が親側の代理人として子と対峙し、日常的な生活の支援は民間の自立支援カウンセラーが担うという形でチームを組んでいます。お住まいが遠方であることを理由に相談をためらう必要はありません。まずは、どの場面で誰が動くことになるのかを一緒に整理するところから始めていただければと思います。
お住まいの地域にかかわらず、ご相談をお受けしています。初回のご相談は電話またはウェブ会議でも承ります。まずはお問い合わせフォームまたはお電話にてご連絡ください。


