【親子問題】「家庭の問題」と言われて警察が動かないのはなぜか
「息子に殴られて110番したのに、家庭の問題だからと言われて警察は帰ってしまった」「役所の窓口をいくつも回ったけれど、本人を連れてきてくださいと言われるだけだった」。親子の問題でご相談にみえる方から、当事務所はこうしたお話をよく伺います。相談先を探して動いているのに、どこでも同じところで話が止まってしまう、という感覚です。
インターネット上には「まずは公的な窓口へ」という案内が数多くあります。それ自体は誤りではありません。ただ、窓口の名前は並んでいても、それぞれの機関が法律上どこまでを引き受ける建て付けになっているのかは、あまり説明されていません。そのため、期待していたことと実際にしてもらえることがずれたまま、相談だけを重ねることになりがちです。
この記事では、親子の問題で使われることの多い警察・行政・弁護士という3つの窓口について、それぞれの守備範囲と限界を、条文と公表資料に沿って整理します。暴力・金銭要求・ひきこもりといった個別の場面ごとの具体的な進め方は、別の記事で取り上げます。ここでは「どこに、何を頼めるのか」という全体の地図をお示しします。
この記事は2026年9月時点の法令・統計に基づいています。制度や公表数値は改正・更新される場合がありますので、実際のご判断の際は最新の情報をご確認ください。
3つの窓口の守備範囲
| 窓口 | 中心となる役割 | 主に扱える場面 | 引き受けにくい部分 |
|---|---|---|---|
| 警察 | 犯罪への対応と、目の前の危険を止めること | 暴力、脅迫、差し迫った身の危険 | 関係の調整、生活の立て直し、継続的な見守り |
| 行政(市区町村など) | 福祉制度による相談・支援と、法律が定めた保護の措置 | ひきこもり、生活困窮、高齢の親への虐待 | 本人が拒む場合の働きかけ、私人間の金銭問題 |
| 弁護士 | 依頼者の代理人として、法的な手続と交渉を担うこと | 金銭要求への対応、住まい、財産、刑事手続 | 日々の生活支援、就労支援、本人への継続的な関わり |
この表の要点は、3つの窓口は優劣ではなく役割で分かれており、どれか一つですべてが片づく設計にはなっていないということです。警察は犯罪と危険に、行政は福祉制度に、弁護士は法律関係の整理に、それぞれ軸足があります。ご家庭で起きていることのどの部分がどこに対応するのかを分けて考えると、相談の手応えは変わってきます。
まず切り分けたい3つの要素
多くのご家庭では、身の安全の問題、お金の問題、そして子の生活と将来の問題が同時に起きています。これらをひとまとめに「親子の問題」として持ち込むと、どの窓口でも部分的な答えしか返ってきません。
- 身の安全に関わる部分は、警察が中心になります。
- 制度による支援や保護の措置が使える部分は、行政が窓口です。
- 金銭・住まい・財産・手続に関わる部分は、弁護士が担います。
順番も大切です。差し迫った危険があるときは、他の検討より先に安全の確保が優先されます。
警察ができること・できないこと
警察の責務は条文で定められている
警察法2条1項は、警察の責務を「個人の生命、身体及び財産の保護」「犯罪の予防、鎮圧及び捜査」「被疑者の逮捕」などと定めています。そして同条2項は、警察の活動は厳格にこの範囲に限られるべきものである、と定めています。
つまり、家族関係の調整や生活の立て直しは、もともと警察の任務として書かれていません。「民事不介入」という言い方は、この条文の裏返しとして使われているものです。警察官の姿勢の問題というより、制度の組み立てとしてそうなっている、ということになります。
もっとも、犯罪にあたる行為や目の前の危険については、警察は正面から責務を負っています。暴力が起きているとき、物が壊されているとき、身の危険が差し迫っているときは、迷わず110番してください。その場が収まるだけでも意味がありますし、通報や臨場の事実が記録として残ることは、後の手続で効いてきます。
親族間では刑が免除される犯罪がある
親御さんが納得しにくいのが、お金の持ち出しに警察が動きにくいという点です。これには条文上の理由があります。
刑法244条1項は、配偶者、直系血族または同居の親族との間で窃盗罪などを犯した者について、その刑を免除すると定めています。同条2項は、それ以外の親族との間の場合を、告訴がなければ公訴を提起できない罪としています。この規定は、詐欺・恐喝の罪に準用され(刑法251条)、横領の罪にも準用されます(刑法255条)。
したがって、同居している子が親の財布や通帳から現金を持ち出したという場合、窃盗罪自体は成立しても刑は免除されるという扱いになり得ます。警察が動かないのではなく、法律がそう決めている、という理解が出発点になります。詳しくは同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲で解説しています。
暴力や脅しには、この特例は及ばない
一方で、この特例が及ぶのは財産に関する一部の犯罪だけです。暴行罪、傷害罪、脅迫罪、強要罪には、親族だからという理由で刑が免除される規定はありません。
| 行為の類型 | 同居する親子の間で起きた場合の扱い |
|---|---|
| 窃盗・詐欺・恐喝・横領 | 刑が免除され得る(刑法244条1項、251条、255条) |
| 暴行・傷害・脅迫・強要 | 特例はなく、通常どおり処罰の対象となる |
| 器物損壊 | 特例はないが、告訴が必要な親告罪(刑法264条) |
この違いを知らないまま「家族間のことは警察では扱えない」と一括りに考えてしまうと、本来は動いてもらえる場面まで手放すことになります。家庭内での暴力の扱いについては家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係を、相談が受け付けられなかったときの進め方については脅迫の被害届は受理されるのか|「民事不介入」と言われたときの再挑戦をご覧ください。
行政ができること・できないこと
ひきこもりの相談窓口は整備が進んでいる
ひきこもりに関しては、ひきこもりに特化した相談窓口として「ひきこもり地域支援センター」の整備が進められ、平成30年4月までにすべての都道府県および指定都市(67自治体)に設置されました。令和4年度からは、より身近な場所で相談できる体制をつくるため、センターの設置主体が市町村にも拡充されています(令和7年度で47自治体)。あわせて、相談支援・居場所づくり・ネットワークづくりを一体的に行う「ひきこもり支援ステーション事業」(令和7年度129自治体)や、8つのメニューから選んで実施する「ひきこもりサポート事業」(令和7年度164自治体)も行われています。
また、分野を問わない相談を受け止める仕組みとして、社会福祉法に基づく重層的支援体制整備事業があります。制度が始まった令和3年度の実施市町村は42でしたが、令和7年度は471市町村となり、約10倍に増えました。
お住まいの地域によって使える資源は異なる
ここで押さえておきたいのは、これらが市町村の手上げによる事業だという点です。重層的支援体制整備事業を実施している471市町村は全1,741市町村の27.1%にあたり、人口規模が大きいほど実施率が高く、人口1万人未満の市町村では9.2%にとどまります。ひきこもりに特化した事業を実施している市町村も、令和6年度で303市町村です。
同じ制度の説明を読んでも、お住まいの自治体で実際に使える窓口の厚みは一様ではありません。窓口を回っても手応えが得られなかったという経験は、担当者の熱意というより、この差によるところが小さくありません。まずは市区町村の福祉の窓口に、ひきこもりの相談はどこが担当かを尋ねるところから始めるのが現実的です。
親が65歳以上なら、別の枠組みが使える
ご相談者が65歳以上の場合、高齢者虐待防止法という枠組みが加わります。同法2条1項は高齢者を65歳以上の者と定義し、同居して身の回りのことに関わっている子は「養護者」にあたり得ます。
- 虐待を受けたと思われる高齢者を発見した人は市町村に通報することとされ、生命または身体に重大な危険が生じている場合は通報が義務とされています(同法7条)。
- 市町村長は、生命または身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときに、立入調査を行うことができます(同法11条)。
- やむを得ない事由による措置として、高齢者を施設に入所させるなどの方法で分離が図られる場合があります(同法9条2項)。
- その措置がとられたときは、市町村長や施設の長が、養護者との面会を制限することができます(同法13条)。
当事務所がこの枠組みを重視しているのは、「親を守るために子と距離を取る」という発想が、制度として用意されている数少ない場面だからです。厚生労働省の令和6年度の調査では、養護者による高齢者虐待についての相談・通報は41,814件、市町村が虐待と判断した事例は17,133件で、虐待をした人の続柄は息子が38.9%と最も多く、85.7%が同居していました。相談・通報をした人では警察が35.6%と最も多く、分離が行われた事例は19.0%です。
この数字は、暴力や金銭の問題が表に出た後でも、実際に離れて暮らす形まで進むのは一部にとどまることを示しています。制度があることと、それだけで解決することは別だ、という前提で考える必要があります。
弁護士ができること・できないこと
窓口を親から代理人に付け替える
弁護士に依頼した場合、まず変わるのは連絡の相手です。子からの要求や連絡は、親御さんではなく代理人に向けられることになります。親御さんが直接向き合い続けている限り、断ることそのものが大きな負担になりますが、間に第三者が入るだけで、やり取りの温度は下がります。
その上で、法的な整理ができる部分があります。金銭の要求に対して支払義務の有無を示して回答する、渡したお金の性質をはっきりさせる、住まいの使用関係を整理する、財産の管理や将来の承継を設計する、といったことです。扶養の義務がどこまで及ぶのかについては【不当要求対応】親族からの金銭要求|扶養義務はどこまでかで整理しています。接触そのものを止める手段については接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けをご覧ください。
弁護士だけでは埋まらない部分がある
他方で、弁護士にできないこともはっきりしています。家を探すこと、仕事を探すこと、生活保護の申請に付き添うこと、毎月のお金の使い方を一緒に管理すること、日々の悩みを聞き続けること。これらは法律事務ではなく、生活の支援です。
そして、この部分が欠けたまま親子を引き離しても、子の側は行き場を失います。当事務所が親御さんの代理人を務めるにあたって民間の自立支援カウンセラーとチームを組んでいるのは、親側の保護と子側の生活支援は、担い手を分けたほうが機能すると考えているからです。弁護士は親御さんの側に立ち、カウンセラーは子の側の日常を支える。役割が重ならないことで、双方に伴走者がいる形をつくります。
依頼者は親であることを最初にはっきりさせる
この形を取る以上、当事務所が代理するのは親御さんであり、子の代理人ではありません。ご相談の初めにこの点をお伝えするのは、立場が曖昧なまま関わることが、結果として双方の不利益になるためです。子の側にも支援者がつく形にしておくことが、その意味でも重要になります。
場面別の最初の一歩
| いま起きていること | 最初に動く先 | 続けて検討すること |
|---|---|---|
| 暴力が起きている・身の危険が差し迫っている | 110番 | 受診と診断書、写真、被害届、一時的な避難先 |
| 暴力や脅しが繰り返されている | 警察署への相談 | 相談の記録化、代理人による介入、接触を止める手段 |
| 金銭の要求が続いている | 弁護士 | 支払義務の整理、家計や口座の切り分け、記録の保存 |
| ひきこもりが長期化している | 市区町村の福祉窓口、ひきこもり地域支援センター | 家族会、住まいと生活費の設計、将来の備え |
| 親が65歳以上で被害を受けている | 市町村の高齢者虐待対応窓口、地域包括支援センター | 分離の措置、面会の制限、警察との併行 |
| 子が逮捕された・事件になった | 弁護士 | 身元の引受け、被害者対応、その後の生活の建て直し |
子が事件に巻き込まれている場面については家族が逮捕されたと連絡が来た|最初の24時間にやることを、犯罪に誘われている兆候がある場面については【親向け】子どもが闇バイトに関わっているかもしれない|兆候と最初の対応を、薬物が関わる場面については大麻の「使用」も処罰対象になった|2024年12月施行の改正の要点をご参照ください。
民間のサービスを検討するときに確認したいこと
公的な窓口で手応えが得られないと、民間の支援サービスに目が向きます。丁寧な支援を行っている団体もありますが、この分野では消費者庁が、ひきこもり支援を掲げる民間事業をめぐる消費者トラブルについて注意を呼びかけています。
注意が必要なのは、契約するのは親、支援を受けるのは子という構造です。費用を負担する人と、実際に支援を受ける人が違うため、内容が約束どおりかを確認しにくくなります。本人の同意がないまま連れ出す方法については、違法として損害賠償が命じられた裁判例も複数あります。
- 料金の総額と、何をどこまで行うのかが書面になっていること。
- 途中でやめる場合の返金の取り決めがあること。
- 本人の同意をどのように得るのかが説明されていること。
- 支援が終わった後の生活の見通しまで含まれていること。
契約や解約でお困りのときは、消費者ホットライン188も利用できます。
よくあるご質問
子が成人していても、親が相談できますか
できます。当事務所がこれまでお受けしてきたご相談には、子が40代・50代というケースも含まれます。成人しているからこそ、親が本人に代わって決められる範囲は狭くなりますが、親御さん自身の安全や財産を守るための手段は別に存在します。ご相談は親御さん自身の問題として組み立てます。
相談したことは子に伝わりますか
弁護士には守秘義務があり、ご相談の内容をこちらから子に伝えることはありません。実際に代理人として通知を出す段階になれば相手方に伝わりますが、いつ、どのような形で伝えるかはご相談の上で決めます。準備の段階と、動き出す段階を分けて考えていただいて差し支えありません。
遠方に住んでいても依頼できますか
可能です。当事務所は、これまで北海道から沖縄まで各地の親子の問題に取り組んできました。ご相談は電話やオンラインでもお受けしています。現地で必要な対応が生じる場合は、その都度、進め方をご説明します。
まとめ
- 警察の責務は、犯罪への対応と危険の防止に条文上限られています(警察法2条1項・2項)。
- 同居する子による財産の持ち出しは、刑が免除され得ます(刑法244条1項、251条、255条)。
- 暴行・傷害・脅迫・強要にはこの特例がなく、通常どおり処罰の対象です。
- ひきこもり支援や重層的支援体制整備事業は市町村の手上げによる事業で、使える窓口には地域差があります。
- 親が65歳以上であれば、通報・立入調査・分離・面会制限という枠組みが使えます(高齢者虐待防止法7条・11条・9条2項・13条)。
- 弁護士は法的な整理と交渉を担いますが、日々の生活支援は担い手を分けたほうが機能します。
- どの窓口も単独では完結しないため、役割を分けて同時に動かすという発想が現実的です。
親子の問題でお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、家庭内の暴力、金銭の要求、ひきこもりの長期化といった親子の問題について、親御さんからのご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親御さんの代理人として子と向き合い、民間の自立支援カウンセラーが子の側の生活を支える形で、親と子それぞれの自立に向けた取り組みを行っています。
人が関わることですので、結果をお約束することはできません。それでも、親子の物理的な距離を取るだけで双方に変化が生まれる場面を、当事務所は数多く見てきました。どこに相談すればよいか分からないまま時間が過ぎているという方は、現在の状況を整理するところからご一緒させてください。
ご相談の際は、これまでの経緯、直近で起きたこと、これまでに相談した窓口とその回答を、分かる範囲でお知らせいただけると、初回から具体的なお話ができます。


