【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は2026年9月時点の法令に基づいて記載しています。制度や運用は改正等により変わることがありますので、実際にご相談される際は最新の情報をあわせてご確認ください。


「相談したことが本人に知れたら、何をされるか分かりません」。同居しているお子さんからの暴力や金銭の要求に悩むご相談で、最初に出てくるのがこの言葉です。別のご家族からは「まず話だけ聞いてほしい。ただ、事務所から自宅に郵便が届いて、それを本人に見られるのが怖い」と言われることもあります。相談したい気持ちと、知られたくない気持ちが、同じ家の中で同時に存在しています。

 一般的な説明としては、「弁護士には守秘義務があるので、相談内容が外に漏れることはありません」と書かれていることが多く、それ自体は誤りではありません。ただ、親子の問題には、他の相談とは違う事情があります。秘密を知られたくない相手が、外部の第三者ではなく、同じ屋根の下で暮らしているという点です。外に漏れないことと、家の中で気づかれないことは、実は別の問題です。

 この記事では、弁護士の守秘義務が何を守る仕組みなのか、親子の問題では誰が依頼者になるのか、子に伝わるとすればどの段階なのか、そして郵便物や連絡方法をどう設計するのかを順に整理します。費用の考え方や、相談前にそろえておく情報については別の記事で扱いますので、ここでは「知られるかどうか」に絞って説明します。

相談したこと自体が、弁護士から子に伝わることはありません

 まず前提を確認します。弁護士は、職務上知り得た秘密を保持する義務を負っています(弁護士法23条)。日本弁護士連合会の会規である弁護士職務基本規程23条も、正当な理由なく依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、または利用してはならないと定めています。

守られるのは「内容」だけではありません

 ここで見落とされやすいのが、守秘義務の対象には、相談で話した内容だけでなく、その人が相談に来たという事実そのものも含まれるという点です。したがって、お子さんが事務所に電話をかけてきて「うちの親がそちらに相談していないか」と尋ねたとしても、弁護士がそれに答えることはありません。あるともないとも言わない、という対応になります。

 この義務には裏づけもあります。正当な理由なく業務上知り得た人の秘密を漏らした場合、秘密漏示罪として6か月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金の対象になります(刑法134条1項)。弁護士会による懲戒の対象にもなります。弁護士にとって、秘密を守ることは職業を続けられるかどうかに直結する問題です。

名前を伏せたままの相談には限界があります

 「念のため匿名で相談したい」と言われることもあります。一般的な法律の説明を聞くだけであれば匿名でも成り立ちますが、ご家庭の具体的な事情に踏み込んだ助言や、実際の依頼となると、当事者が誰かを確認せずに進めることはできません。この点は匿名で相談できるか|身元を明かさない相談の限界で詳しく扱っています。

守秘義務は「相手方に知らせない義務」ではありません

 ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。守秘義務は、弁護士が外部に秘密を漏らさないための仕組みです。一方、弁護士が代理人として動き出せば、交渉の相手方には「親の代理人として弁護士が就いた」ことが当然に伝わります。これは秘密の漏えいではなく、手続を進めた結果です。親子の問題では相手方がお子さんですから、介入を始める段階で、依頼したこと自体はお子さんに伝わると考えてください。守秘義務の一般論については弁護士に相談した内容は家族や警察に伝わる?守秘義務の範囲もあわせてご覧ください。

誰が依頼者になるかで、秘密が守られる向きが決まります

 親子の問題では、「家族の問題だから、家族全員のために動いてくれる」と思われがちですが、実際にはそうはなりません。弁護士は、依頼者一人の側に立って動きます。

依頼者は相談に来た親、子は相手方になります

 親御さんからのご依頼をお受けした場合、依頼者は親御さんであり、お子さんは交渉の相手方という位置づけになります。この向きが決まると、秘密の流れも決まります。親御さんから聞いた事情はお子さんに開示されませんし、逆に、お子さんの言い分を親御さんの利益のために使うことになります。家族という一つの集合体ではなく、立場の異なる二人として扱われる、ということです。

先に相談を受けた側からしか、依頼を受けられません

 弁護士は、相手方の協議を受けて賛助した事件や、信頼関係に基づく協議を受けた事件について、職務を行うことができません(弁護士法25条1号・2号、弁護士職務基本規程27条1号・2号)。弁護士法人の場合、この制限は所属する弁護士全体に及びます(同規程63条)。

 つまり、先に親御さんの相談を受けた事務所は、後からお子さんの相談を受けることができません。この仕組みは、依頼者側から見れば、先に話した内容が相手方に渡ることはないという保証でもあります。利益相反の考え方については弁護士に相談を断られることはあるか|利益相反という仕組みで整理しています。

きょうだいや配偶者が同席する場合

 母親が相談に来られ、父親やごきょうだいが同席されることはよくあります。依頼者が母親お一人であれば、同席したご家族は形式的には第三者にあたります。実務上は、依頼者の同意を前提に情報を共有しながら進めますが、誰にどこまで伝えるかは最初に確認しておくほうが後の行き違いを防げます。同席の影響については相談に家族や知人を同席させてよいか|同席が与える影響を、ご本人が話し合いに応じない段階でご家族が相談できる範囲については本人が事実を認めない・家族と話さない|家族が相談できる範囲をご参照ください。

子に伝わるとすれば、どの段階なのか

 「知られるか、知られないか」という二択で考えると判断が難しくなります。段階に分けると、見通しが立てやすくなります。

段階お子さんに伝わるか伝わる内容
相談だけの段階伝わりません
依頼後、準備をしている段階原則として伝わりません
お子さんへの働きかけを始めた後伝わります親が弁護士に依頼したという事実と、弁護士の連絡先


準備の段階では動きが表に出ません

 ご依頼をお受けした後、すぐに通知を出すとは限りません。経緯の整理、これまでの金銭の流れの確認、お子さんの生活の見通し、連携する支援者との段取りなど、外からは見えない作業が先にきます。この間、お子さんの側に変化はありません。

受任通知を出した時点で、伝わります

 弁護士が代理人として介入する際には、相手方に受任通知を送ります。これが届いた時点で、親御さんが弁護士に依頼したことがお子さんに伝わり、以後の連絡窓口が弁護士に移ります。この「窓口が変わる」こと自体が、親子の距離を作るための手段でもあります。受任通知の効果は受任通知とは何か|送られると相手方との関係はどう変わるか、代理人を立てることで何が変わるかは弁護士に窓口を移すという選択|代理人通知が効く場面・効かない場面で説明しています。

「知られないこと」は目的ではなく、時期の問題です

 私たちがご相談をお受けする中で感じるのは、多くの親御さんが望んでいるのは「永久に知られないこと」ではなく、「心の準備ができていない段階で、いきなり知られてしまうこと」を避けたい、ということです。準備が整う前に発覚すれば、お子さんの反発が強まり、その矛先が親御さんに向かうおそれがあります。逆に、通知の時期と伝え方をこちらで決められるのであれば、安全を確保したうえで進められます。伝わる時期を選べることに意味がある、と考えていただくとよいと思います。

同居している子に気づかれないための連絡の設計

 同居のご家庭では、法律上の守秘義務よりも、日常生活の中の物理的な経路のほうが問題になります。ここは事前の取り決めでかなりの部分を防げます。

郵便物をどこに送るか

 ご自宅に書類を送らない運用にすることができます。実務上は、次のような方法を組み合わせます。

  • 事務所で書類をお預かりし、ご来所の際にお渡しする。
  • 郵便局の局留めを利用する。
  • 勤務先やご親族宅など、お子さんの目に触れない住所を送付先に指定する。
  • 書面での送付を避け、面談時の口頭説明と持ち帰り資料に切り替える。


 どの方法を選ぶかは、ご家庭の事情によって変わります。最初の相談の時点で「自宅には送らないでほしい」とお伝えいただければ、その前提で記録を作ります。書面の受け取り方の設計は家族に知られずに解決できるか|連絡方法・書面の送付先の設計郵便・宅配からの発覚を防ぐ|書面の受け取り方の設計でも扱っています。

電話・メールをどう受けるか

 自宅の固定電話は避ける、着信の名義を事務所名にしない、日中のこの時間帯なら出られる、といった条件をあらかじめ共有しておきます。共用のパソコンやタブレットでメールを見ていないか、通知が画面に表示される設定になっていないかも、確認しておきたい点です。連絡手段は、こちらが便利な方法ではなく、ご家庭で安全な方法に合わせて決めます。

家の中に紙を持ち込まない

 控えの書類、メモ、名刺といった紙類が、机の上や鞄の中から見つかることがあります。手元に置いておきたい気持ちは分かりますが、記録は事務所側で保管し、ご自宅には残さないほうが安全です。

 なお、お子さんが親御さん宛ての封書を勝手に開ければ、信書開封罪にあたる可能性があります(刑法133条)。ただ、実際には、開けられた後にその点を問題にするより、そもそも家に届かない設計にしておくほうがはるかに現実的です。この論点は他人あての郵便物を開けた|信書開封罪と住居侵入の重なりで整理しています。

守秘義務の例外として説明されるもの

 守秘義務にも「正当な理由」がある場合という例外があります。親子の問題で関係してくるのは、主に次の三つです。

依頼者が同意した場合

 いちばん多いのがこの形です。当事務所では、親御さんの代理人としての活動と並行して、民間の自立支援カウンセラーがお子さん側の生活面を支える体制をとっています。この連携には、どの情報をどこまで共有するかについて依頼者のご同意が必要です。行政の窓口や医療機関と連絡を取る場合も同じで、弁護士の判断だけで情報を渡すことはありません。

法律に別段の定めがある場合

 弁護士法23条には「法律に別段の定めがある場合は、この限りでない」という但書があります。たとえば高齢者虐待防止法は、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者について、生命または身体に重大な危険が生じている場合は市町村への通報を義務とし、それ以外の場合も努力義務としています(同法7条1項・2項)。そのうえで、秘密漏示罪その他の守秘義務に関する規定は、この通報を妨げるものと解釈してはならないと定めています(同条3項)。同法5条は、弁護士を高齢者虐待の早期発見に努めるべき者として名指ししています。

裁判や捜査の場面

 弁護士は、職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて、証言を拒むことができます(民事訴訟法197条1項2号)。その事実が記載された文書についても、文書提出義務の対象から外れます(同法220条4号ハ)。刑事手続でも、業務上委託を受けて保管する他人の秘密に関する物について押収を拒むことができます(刑事訴訟法105条)。守秘義務は、裁判所や捜査機関に対しても一定の範囲で通用する仕組みになっています。守秘義務の例外の全体像は相談内容は誰にも知られないのか|守秘義務の範囲と例外の考え方でまとめています。

相談先によって、子に伝わるかどうかは変わります

 弁護士以外の窓口も併用される方が多いので、窓口ごとの違いを整理しておきます。

相談先お子さんに伝わるか根拠・注意点
弁護士相談した事実を含め、外部に伝えません弁護士法23条、弁護士職務基本規程23条。介入を始めれば相手方であるお子さんには伝わります
市区町村・地域包括支援センター通報や届出をした人を特定させる情報は伝えません高齢者虐待防止法8条。同法の対象は65歳以上の高齢者に限られます
警察相談の段階では伝わりませんが、被害届や告訴を経て捜査が始まれば伝わります捜査の過程でお子さん本人から事情が聴かれます
民間の支援団体団体ごとの取り決めによります法律上の守秘義務が課された職種とは限らないため、契約前に確認が必要です


行政に相談する場合の留意点

 同居して身の回りのことに関わっているお子さんは、高齢者虐待防止法上の「養護者」にあたり得ます。親御さんが65歳以上であれば、市町村や地域包括支援センターが関与する枠組みが使えます。通報者を特定させる情報を漏らしてはならないという定めがあるため(同法8条)、「誰が通報したのか」がお子さんに伝わりにくい仕組みになっています。一方、親御さんが65歳未満の場合、この枠組みは使えません。

警察に相談する場合の留意点

 相談しただけで捜査が始まるわけではありません。被害届や告訴という形をとって初めて手続が動き、その段階でお子さんにも伝わります。家庭内の出来事という理由で対応が進みにくい場面もありますので、警察に相談すべきか、弁護士に相談すべきか|窓口の使い分け早見表警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができることをあわせてご覧ください。家庭内で暴力が出ている場合の法律関係は家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係で扱っています。

よくあるご質問

子どもが事務所に電話をかけて「親が相談に来ていないか」と聞いたら、どうなりますか

 お答えしません。相談の有無そのものが守秘義務の対象ですので、来ているとも来ていないとも回答しない対応になります。ご家族からのお問い合わせであっても同じです。

子どもと同居していますが、自宅に書類が届きますか

 ご希望があれば、自宅に送らない運用にします。事務所でのお渡し、局留め、別の住所の指定などを組み合わせます。最初のご相談の際に、送付先と連絡可能な時間帯をお聞かせください。

相談だけして依頼しなかった場合も、秘密は守られますか

 守られます。守秘義務は依頼を受けた事件に限られるものではなく、相談の段階で知った事柄にも及びます。相談と依頼の違いについては相談と依頼はどう違うのか|相談したら必ず依頼しなければならないのかをご参照ください。

まとめ


  1. 弁護士は職務上知り得た秘密を保持する義務を負い(弁護士法23条、弁護士職務基本規程23条)、違反は秘密漏示罪の対象にもなります(刑法134条1項)。
  2. 守秘義務の対象には、相談で話した内容だけでなく、相談に来たという事実そのものが含まれます。
  3. 守秘義務は外部に漏らさないための仕組みであり、相手方に知らせない仕組みではありません。介入を始めれば、依頼したことはお子さんに伝わります。
  4. 先に相談を受けた事務所は、後から相手方の相談を受けることができません(弁護士法25条1号・2号、弁護士職務基本規程27条1号・2号、同63条)。
  5. お子さんに伝わるのは、相談の段階でも準備の段階でもなく、受任通知を送るなど働きかけを始めた段階です。時期をこちらで選べることに意味があります。
  6. 郵便物の送付先、電話やメールの受け方、自宅に紙を残さない運用を最初に決めておけば、同居していても気づかれずに準備を進められます。
  7. 支援者や行政と情報を共有する場合には依頼者のご同意が必要です。ただし、高齢者虐待の通報のように、法律が守秘義務の例外を定めている場面もあります(高齢者虐待防止法7条3項)。


親子の問題のご相談をお考えの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士若井亮は、成人したお子さんからの暴力や金銭の要求、長期化したひきこもりについて、5年以上にわたり北海道から沖縄まで全国のご家庭に関わってきました。親御さんの代理人として弁護士が対応し、民間の自立支援カウンセラーがお子さんの側の生活を支える体制をとっています。

 まだ依頼を決めていない段階でも、話を聞くだけの段階でも構いません。ご相談の内容も、ご相談にお越しになったという事実も、外部にお伝えすることはありません。自宅に書類を送ってほしくない、この時間帯なら電話に出られる、といったご事情があれば、最初にお聞かせください。その前提で進め方を組み立てます。

ご相談の際は、これまでの経緯を時系列で簡単にまとめたメモと、金銭のやり取りが分かる記録をお持ちいただけると、初回から具体的な話を進めやすくなります。手元に何もない状態でも、お話を伺いながら整理していきますので、ご心配は不要です。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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