【親子問題】親の年金で生活している子|年金が止まった後の設計
成人した子から「今月の生活費が足りない」「スマホ代を払ってほしい」と求められ、渡すたびに次の要求が来る。断ろうとすると声を荒らげられ、結局また財布を開いてしまう。当事務所に寄せられる親御さまからのご相談には、こうした状態が数年、長い場合には十数年続いているものが少なくありません。
本記事は2026年9月時点の法令に基づいて記載しています。制度や運用は改正等により変わることがありますので、実際のご判断にあたっては最新の情報をご確認ください。
「成人した子に渡す義務はないのだから、毅然と断ればよい」という説明をよく目にします。それ自体は誤りではありません。ただ、親御さまが迷われるのは、断ってよいと頭では分かっていても、断ったことで何か責任を問われないか、以前に「毎月渡す」と言ってしまった約束はどうなるのか、断った後に何が起きるのか、といった点が見えにくいからではないでしょうか。
本記事では、子からの金銭の要求を名目ごとに分け、それぞれを断ることが法律上どう位置づけられるのかを整理したうえで、断り方の実務と、断った後に備えておきたいことをお伝えします。扶養義務の範囲そのものは【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく扱っていますので、本記事ではその結論を前提に話を進めます。
「断る」ことは法律上どう評価されるのか
まず押さえておきたいのは、子からお金を求められたときに応じるかどうかは、原則として親御さまが自分で決めてよい事柄だという点です。
お金を渡すことは、多くの場合「贈与」にあたる
返してもらうつもりのないお金を渡す行為は、法律上は贈与にあたります。贈与は、渡す側が「与える」という意思を示し、受け取る側がそれを受け入れて成立する契約です(民法549条)。子が「くれ」と求めただけでは契約は成り立たず、親御さまが応じない限り、渡す義務は生じません。
「貸してほしい」と言われた場合も同じです。お金の貸し借りは、貸す側が合意して実際にお金を渡すことで成立します(同法587条)。貸すかどうかを決めるのは、貸す側です。
扶養義務があっても、要求された額を払う義務になるわけではない
親子は互いに扶養する義務を負っています(民法877条1項)。ただ、この義務は「求められた金額をそのまま渡す義務」ではありません。扶養の程度や方法は、当事者の協議で決まらなければ、扶養を受ける側の必要と扶養する側の資力などの事情を考慮して、家庭裁判所が定めるものとされています(同法879条)。
成人して働く力のある子に対しては、親は自分の生活に余力がある範囲で援助すれば足りるという考え方が一般的です。さらに、働くことができる状態の子については、扶養を受ける必要性そのものが認められにくいとされています。子が口頭で求めただけで、特定の金額を支払う義務が確定するわけではありません。ここが、「断ってよいのか」という問いに対する法的な答えの中心になります。同じ構造は親族全般からの要求にも当てはまり、【不当要求対応】親族からの金銭要求|扶養義務はどこまでかでも整理しています。
断ったことで親が責任を問われる場面は限られる
成人した子からの金銭の要求を断ったことを理由に、親御さまが損害賠償を求められたり、刑事責任を問われたりする場面は、通常は考えにくいところです。
注意が必要なのは、子が病気や障害などのために自分では生活を維持できず、親御さまの保護を受けて暮らしている場合です。このような場合は、金銭の問題として切り分けるだけでなく、医療や福祉の支援につなぐことを並行して考える必要があります。「要求を断る」ことと「生活を支える手立てを用意する」ことは、別の作業として進めることができます。
要求の名目ごとに見る法律上の位置づけ
子からの要求は、名目によって法律上の性質が異なります。主な場面を整理すると次のとおりです。
| 求められている内容 | 法律上の位置づけ | 応じる義務 |
|---|---|---|
| 生活費(働く力のある成人の子) | 扶養の問題。程度と方法は協議か家庭裁判所で定める(民法879条) | 口頭の要求だけで額が確定するものではない |
| 遊興費・趣味・交際費 | 任意の贈与(民法549条) | なし |
| 「貸してほしい」という依頼 | 金銭の貸し借り(民法587条) | 貸すかどうかは貸す側が決める |
| 子自身の借金の返済 | 子本人の債務 | 保証人になっていなければ親に支払義務はない(民法446条1項) |
| 以前に口頭で約束した「毎月○万円」 | 書面によらない贈与 | まだ渡していない分は解除できる(民法550条) |
| 以前に書面で約束した援助 | 書面による贈与 | 自由には撤回できない。脅されて書いた場合は取消しの余地がある(民法96条1項) |
「前に約束した」と言われた場合
ご相談で特に多いのが、「前に毎月渡すと言ったじゃないか」と迫られる場面です。書面によらない贈与は、すでに渡し終えた部分を除き、各当事者が解除できるとされています(民法550条)。口頭で「毎月渡す」と言ってしまっていたとしても、これから先の分には応じないと伝えることは、法律上認められた選択です。
反対に、書面にしてしまうと事情が変わります。要求の場で「念書を書け」「一筆入れろ」と求められることがありますが、署名した書面は、後で撤回を争う負担を大きくします。脅されて書いたのであれば取り消す余地はあるものの(民法96条1項)、脅されたことを後から示すのは簡単ではありません。その場で書面に署名しないことは、断り方の中でも優先度の高い点です。
子の借金を肩代わりするよう求められた場合
子が自分で借りたお金は、子本人の債務です。親御さまが保証人になっていない限り、返済する義務は生じません。貸金業者についても、債務者に代わって弁済するよう債務者以外の者に求めることは禁じられています(貸金業法21条1項7号)。保証の有無がはっきりしないときは、過去に署名した書類が残っていないかを確認するところから始めます。
断り方の実務|伝える前に決めておくこと
法律上は断ってよいとしても、実際に断るのは簡単ではありません。同じ家で暮らしていれば、断った直後の反応も親御さまが受け止めることになるからです。伝える前に次の点を決めておくと、方針が揺らぎにくくなります。
家族の中で方針をそろえる
父親は断るが母親はこっそり渡す、きょうだいが見かねて立て替える。こうした状態では、子は応じてくれる相手に要求を向けるだけで、要求そのものは続きます。どこまでは援助し、どこからは応じないのか、家族の間で線をそろえておくことが出発点です。
援助を一度にやめることが難しい場合は、現金で渡すのをやめ、家賃や公共料金など使い道の決まった支払いに限って親御さまが直接支払う形に切り替える方法もあります。渡したお金の行き先が見えない状態を減らすことができます。
その場で答えず、金額を約束しない
要求は、断りにくい時間や場所で突然行われることが少なくありません。その場で結論を出す必要はなく、「今は決めない」「考えてから返事をする」と伝えて持ち帰ることで、感情的なやり取りを避けやすくなります。持ち帰り方の具体的な考え方は、【不当要求対応】その場で答えず持ち帰る|返答を保留する技術が参考になります。
あわせて、現金や通帳、キャッシュカードを子の手の届く場所に置かないようにしておくと、断った後に財布や口座から持ち出される事態を防ぎやすくなります。
要求の記録を残す
いつ、何の名目で、いくらを求められ、どう答えたのか。応じた場合はいくら渡したのか。簡単なメモで構いませんので、日付とともに残しておきます。言葉が荒くなったときの発言内容や、物を壊されたときの写真も同様です。こうした記録は、後で相談窓口や弁護士に状況を伝えるとき、手続を検討するときの土台になります。整理の観点は【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報をご覧ください。
断った後に起きやすいことと、刑事手続の限界
断る方針を決めたら、断った後に起こり得ることもあわせて想定しておく必要があります。
金銭をめぐる行為には刑を免除する定めがある
断られたことをきっかけに、子が財布から現金を抜き取ったり、脅してお金を出させたりするようになることがあります。他人の間であれば窃盗罪や恐喝罪にあたる行為ですが、配偶者・直系血族・同居の親族の間の窃盗には刑を免除するという定めがあり(刑法244条1項)、この定めは詐欺や恐喝にも準用されます(同法251条)。親子は直系血族にあたるため、同居しているかどうかにかかわらず、この定めの対象になります。
犯罪が成立しないという意味ではなく、刑が免除されるという仕組みですが、警察が捜査に踏み込みにくい理由の一つになっていることは確かです。詳しくは【親子問題】「家庭の問題」と言われて警察が動かないのはなぜかと同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲で解説しています。
暴力や脅しには特例がない
一方で、暴行罪や傷害罪、脅迫罪には、親族の間だからといって刑を免除する定めはありません。断られた子が手を上げた、「殺す」「家に火をつける」といった言葉を向けた、という場合は、家庭内のことであっても刑事手続の対象になり得ます。金銭の要求そのものと、要求に伴う暴力や脅しとでは、法律上の扱いが分かれるという点は、断った後の対応を考えるうえで重要です。脅しの言葉の線引きについては、【親子問題】「殺す」と言われた|脅迫罪として扱われる線引きをご覧ください。
身の危険を感じるときは、断る前に安全を確保する
過去に暴力があった、断ると物が壊れる、という家庭では、要求を断る前に安全の確保を優先してください。危険が差し迫っているときは、110番が最初の手段です。一時的に親御さまの側が家を離れるという選択肢もあります。具体的な進め方は、【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録と【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で整理しています。
家庭の外にある手段
断ることを親御さまだけで続けるのが難しい場合は、家庭の外の仕組みを使うことも検討できます。
親が65歳以上なら、市区町村に相談・届出ができる
高齢者虐待の防止等に関する法律は、養護者や親族が高齢者の財産を不当に処分すること、高齢者から不当に財産上の利益を得ることも、虐待にあたる行為として定めています(同法2条4項2号)。市区町村は、周囲からの通報のほか高齢者本人からの届出も受けて、事実の確認や必要な措置を行うこととされています(同法9条1項)。
厚生労働省の令和6年度の調査では、養護者による虐待と判断された事例のうち、虐待者の続柄は息子が38.9%と最も多くなっています。子からの金銭の要求に悩む高齢の親御さまは、少なくないということです。行政の動き方は【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで説明しています。
家庭裁判所の調停で話し合う
親族の間で感情的な対立や金銭をめぐる紛争が生じている場合には、家庭裁判所の親族関係調整調停を利用することができます。申立ては相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所に行い、費用は収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手です。
もっとも、調停は話し合いの手続であり、子が出席しなければ合意には至りません。合意ができなかったときに、裁判所が結論を示す審判へ自動的に移る手続でもありません。それでも、調停委員という第三者のいる場で「これ以上の金銭は渡さない」という親御さまの方針を伝えることには、意味がある場合があります。
弁護士が窓口に立ち、生活の支援と組み合わせる
弁護士に依頼すると、要求を受ける窓口を親御さまから弁護士に移すことができます。どこまでが法律上の義務で、どこからが任意の援助なのかを書面で子に伝え、以後の話し合いを代理人が担います。何が変わり何が変わらないのかは、【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で詳しくお伝えしています。
ただ、要求を断るだけでは、子の生活は立て直せません。収入を得て生活を維持する力が身についていなければ、要求はいずれ形を変えて戻ってきます。当事務所では民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、弁護士が親御さまの側の保護と交渉を、カウンセラーが住まい探しや仕事探し、生活保護の申請の支援、日々の金銭管理といった子の側の日常の支援を担う形をとっています。取り組みの全体像は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。
よくあるご質問
断ったら、子の生活が成り立たなくなるのではと心配です
子に収入がなく生活に困っている場合には、生活保護という公的な制度があります。申請するのは子本人であり(生活保護法7条)、親御さまのもとに扶養の可否を尋ねる照会が届くことがありますが、援助できない事情があればその旨を回答することができます。親が援助を断ることと、子が公的な支援を受けることは両立し得ます。申請の手続に不安がある場合は、支援者が同行する形も考えられます。
子がまだ未成年の場合も、断ってよいのですか
未成年の子については、親は子を監護し教育する権利と義務を負っており(民法820条)、衣食住や教育など生活に必要な費用は親が負担すべきものです。ただ、これは子が求める金額をそのまま渡す義務ではありません。生活に必要な費用は親御さまが直接支払い、遊興費などの要求には応じないという線を引くことは、未成年の子に対しても可能です。
これまでに渡したお金を、返してもらうことはできますか
返してもらうつもりなく渡したお金は贈与にあたり、原則として返還を求めるのは難しくなります。一方、貸したお金であれば返還を求めることができます。また、脅されて渡した場合には、刑が免除される場面であっても、民事上の返還や損害賠償を求める余地は残ります。いずれの場合も、渡した時期や名目、そのときのやり取りの記録が判断の分かれ目になります。
まとめ
- 子からの金銭の要求に応じるかどうかは、原則として親が決めてよい事柄であり、求められただけで渡す義務は生じない(民法549条・587条)。
- 親子の扶養義務は要求された額を払う義務ではなく、程度や方法は協議か家庭裁判所で定める(民法877条1項・879条)。
- 口頭で「毎月渡す」と約束していても、まだ渡していない分は解除できる。要求の場で書面に署名することは避ける(民法550条・96条1項)。
- 子の借金は子本人の債務であり、保証人でなければ親に支払義務はない(民法446条1項)。
- 金銭をめぐる窃盗や恐喝には刑を免除する定めがあるが、暴行や脅迫には特例がない(刑法244条1項・251条)。
- 親が65歳以上であれば、財産上の不当な利益を得る行為について市区町村に相談・届出ができる(高齢者虐待防止法2条4項2号・9条1項)。
- 断ることと、子の生活を支える仕組みを用意することは、並行して進めることができる。
断ることを、一人で続けなくてよいように
子からの金銭の要求を断ることは、法律上は親御さまに認められた選択です。それでも、同じ家で顔を合わせながら断り続けるのは、大きな気力を要する作業です。方針を決めること、決めた方針を保つこと、断った後の子の生活を考えること。この三つを、親御さまだけで抱える必要はありません。
親子が物理的な距離を取るだけでも、双方に変化が現れることは少なくありません。人が関わる以上、結果をお約束することはできませんが、今の状況を整理するところからご一緒できます。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、成人した子からの金銭の要求や暴力、ひきこもりにお悩みの親御さまからのご相談をお受けしています。北海道から沖縄まで、全国のご家庭からのご相談に対応しています。


