【親子問題】子の交際相手が金銭を要求してくる|親が支払う義務と、窓口を代える判断

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点の民法・刑法・ストーカー行為等の規制等に関する法律・配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の規定に基づいて作成しています。刑法の「懲役」は2025年6月1日から「拘禁刑」に改められており、本文の法定刑はこれを反映しています。


「娘の交際相手から、娘の借金を親が返すべきだと連絡が来るようになった」「息子の彼女が、結婚するならまとまったお金を用意してほしいと言ってくる」。親子の問題のご相談の中には、子ども本人ではなく、子どもの交際相手から金銭を求められているというものが少なくありません。直接言われる場合もあれば、子どもが間に入って「彼が困っているから」と無心してくる場合もあります。

 こうした場面について、「親に支払う義務はない」「脅されたら警察へ」という説明はよく見かけますし、それ自体は誤りではありません。ただ、相手が子どもの大切な人であるだけに、親が強く断ると子どもとの関係がこじれるのではないか、子どもが相手の側に立ってしまうのではないかというためらいが生じます。義務の有無だけでは、親が実際にどう動けばよいかが見えにくいところです。

 この記事では、結婚前の交際相手(同棲相手を含みます)が親に金銭を求めてくる場面に絞って、支払う義務の有無、要求の形ごとの法的な扱い、親族の特例が交際相手には及ばないこと、そして親がとれる対応の順序を整理します。子ども本人からの金銭要求そのものについては【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで扱っています。

子の交際相手からの金銭要求に、親が応じる義務はあるのか

子の交際相手と親の間には、原則として債権債務がない

 お金を支払う義務は、契約や法律の規定があって初めて生じます。法律上、扶養の義務を負うのは直系血族と兄弟姉妹(民法877条1項)であり、子どもの交際相手はこれに含まれません。結婚していない交際相手は、法律上の親族でもありません(同法725条)。

 そのため、親御さん自身が交際相手と何かを約束していない限り、交際相手に対して支払う法的な義務は生じません。「付き合っている以上、家族同然だから」という言い方をされても、それによって義務が生まれることはありません。

「子どもの借金なのだから親が払うべき」と言われたとき

 子どもが交際相手からお金を借りていたとしても、それは子ども本人の債務です。親が保証人になっていなければ、親に返済する義務はありません。保証契約は書面でしなければ効力を生じないため(民法446条2項)、口頭で「親としても責任を感じている」と述べただけで保証人になることもありません。

 親が任意に代わりに支払うこと自体はできますが、それは義務ではなく選択です。子どもの借金と親の責任の関係については【親子問題】子の借金を親が返す義務はあるのか、すでに書面に署名してしまった場合は【親子問題】保証人になってしまった後にできることもあわせてご覧ください。

口頭で「援助する」と言ってしまった場合

 話の流れで「結婚するなら少しは援助する」と口にしてしまったというご相談もあります。書面によらない贈与は、まだ渡していない部分について解除することができます(民法550条)。口約束があったからといって、その金額を必ず支払わなければならないわけではありません。

 一方で、金額や支払時期を書いた書面に署名している場合は、書面の内容や作成の経緯によって評価が変わります。署名した書面がある場合は、相手に返事をする前に内容を確認しておくことをおすすめします。

要求の形によって、法的な扱いは変わる

結婚資金や生活費などの「お願い」の形

 「二人で暮らすための初期費用を出してほしい」「仕事が決まるまで生活費を貸してほしい」といった依頼は、それ自体は違法ではありません。親はこれを断ることができ、断ったことで法的な責任を負うこともありません。

 断るときは、理由を細かく説明するよりも「お金の援助はしないと決めています」と短く伝えるほうが、話が長引きにくくなります。理由を述べるほど、その理由への反論が返ってくるためです。

子どもとの関係を持ち出す形

 「援助してくれないなら、娘さんとはもう会わせない」「別れさせたいなら、それなりのお金を用意してほしい」というように、子どもとの関係を交渉材料にする要求もあります。成人した子どもが誰と付き合い、親と会うかどうかは本人が決めることなので、こうした言い方がそれだけで直ちに犯罪になるとは限りません。

 ただし、お金を払えば関係が終わるという保証はありません。子ども本人の意思と無関係に「手切れ金」の話が進むと、子どもが親に不信感を持つことにもなりかねません。この形の要求に応じるかどうかは、子どもの状況と合わせて慎重に判断する必要があります。

危害や暴露を告げる形

 「払わなければ家に押しかける」「娘の写真を広める」「職場に言いふらす」など、生命・身体・自由・名誉・財産への害を告げてお金を払わせれば恐喝罪(刑法249条)にあたり得ます。法定刑は10年以下の拘禁刑です。お金を受け取るに至らなくても、恐喝未遂として処罰の対象になります(同法250条)。

 また、親御さん本人ではなく娘さんや息子さんへの害を告げる場合でも、親族への害悪の告知として脅迫罪の対象になります(同法222条2項)。お願いの形から、害を告げて支払わせる形に変わった時点で、民事の話し合いではなく刑事の問題として扱える余地が出てきます。罪名の違いは恐喝・強要・脅迫はどう違うのか|言い方で罪名が変わる、脅迫罪の保護範囲は家族・恋人への危害をほのめかされた|脅迫罪の保護範囲で詳しく扱っています。

交際相手には、親族の特例が及ばない

親族相盗例とは

 子どもが親の財産を持ち出したり、親を脅してお金を取ったりしても、窃盗や恐喝については刑が免除されるという特例があります(刑法244条1項、251条)。「家庭の問題」として警察が動きにくいと言われる背景の一つが、この規定です。適用される範囲は同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲で解説しています。

結婚前の交際相手は「親族でない共犯」にあたる

 この特例は、親族でない共犯には適用されません(刑法244条3項)。結婚前の交際相手は法律上の親族ではないため、子どもと一緒に親からお金を取った場合でも、交際相手については特例が及ばず、通常どおり刑事責任が問題になります。

 子どもへの対応と交際相手への対応を、同じ「家庭内のこと」として一括りにしなくてよいということです。子どもには時間をかけて向き合い、交際相手からの要求は外部の手続も視野に入れて止める、という分け方ができます。なお、二人が結婚すると交際相手は親の姻族となり、扱いが変わる場合があります。

子どもが間に入って無心してくる場合

 交際相手が直接は連絡してこず、子どもが「彼の仕事がうまくいっていない」「彼に借りたお金を返さないといけない」と親に無心してくる形もあります。この場合、子ども自身が交際相手に経済的に頼られている、あるいは支配されている可能性もあります。

 お金の行き先が交際相手のホストクラブ代や投資話である場合は【親子問題】子がホストクラブの売掛で多額の債務を負った|親が関わるときの順序と改正風営法や【親子問題】SNSで知り合った相手に子が金を送り続けている|ロマンス詐欺・投資勧誘の構造と、止められない理由、交際相手の背後に組織の気配がある場合は【親子問題】スカウト・匿名流動型グループに取り込まれている疑い|接触を断つ順序と安全確保の考え方が参考になります。

子どもが交際相手に依存しているように見えるとき

成人した子どもの交際に、親が法的に介入できる範囲

 18歳以上の子どもは成年であり(民法4条)、誰と交際するかを親が法的に決めることはできません。親が交際相手に「別れなさい」と求めても、それを強制する手段はありません。

 一方で、親自身のお金や生活を守ることは親の権利です。交際そのものには介入できなくても、親に向けられた金銭要求を止めることはできるという線引きを持っておくと、どこまで動いてよいかが整理しやすくなります。介入できる範囲の全体像は【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲にまとめています。

子どもが被害を受けている側にいる可能性

 交際相手が子どもの収入やカードを管理している、子どもに借金をさせている、親に無心するよう指示しているといった様子があれば、子ども自身が交際相手からの暴力や経済的な支配を受けている可能性があります。生活の本拠を共にしている交際相手からの暴力であれば、保護命令の制度を使える場合があります(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律28条の2)。

 この場合、親が交際相手を強く責めると、子どもが相手をかばって親との連絡を絶ってしまうこともあります。子どもを責めず、いつでも戻ってこられる場所があると伝え続けることが、子どもが自分から離れる決断をするための土台になります。詳しくは交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応をご覧ください。

子どもが18歳未満の場合

 子どもが18歳未満であれば、親は親権者として監護の権利と義務を負っており(民法820条)、成人の場合より関われる範囲が広がります。未成年の子どもが親の同意なく交際相手と結んだ金銭の約束は、取り消すことができます(同法5条2項)。交際相手が成人で、子どもが性的な被害を受けている疑いがある場合は、警察や児童相談所への相談も早めに検討してください。

親が今できる対応の順序

その場で払わない・約束しない・署名しない

 まず避けたいのは、その場の雰囲気でお金を渡すこと、金額を約束すること、相手が用意した書面に署名することです。一度支払うと「次も払ってもらえる」と受け止められ、要求が繰り返されやすくなります。返事を求められたら「家族で相談してから返事をします」と伝えて、その場を終えれば足ります。

やり取りを記録に残す

 交際相手からのメッセージ、電話の日時と内容、子どもを通じて伝えられた要求、支払った金額と日付を、時系列で残しておきます。要求が強まって警察に相談する場合や、弁護士が交渉する場合に、その記録が判断の材料になります。

 記録の意味については【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つか、警察に相談した記録の残し方は【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続で扱っています。

窓口を弁護士に移す

 弁護士が親御さんの代理人となって交際相手に受任通知を送り、今後の連絡は弁護士に行うよう求めることで、親が直接要求を受ける状態を終わらせることができます。必要に応じて、今後の接触や金銭要求をしないことを約束する合意書の取り交わしも検討します。

 子どもとの関係を損なわないよう、交際相手への対応と子どもへの声かけの順序を一緒に考えられることも、第三者が入る意味の一つです。窓口を代えることで何が変わるのかは【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で詳しく説明しています。

よくあるご質問

子どもが交際相手から借りたお金を、親が代わりに返すべきでしょうか

 親が保証人になっていなければ、返済する義務はありません。代わりに返すかどうかは親の判断ですが、返した後に同じような借入れが繰り返されることもあります。返す場合でも、交際相手に直接渡すのではなく、借入れの内容を確認し、精算の範囲を書面で明確にしてから行うことをおすすめします。

交際相手のことで相談したことは、子どもに知られますか

 弁護士には守秘義務があり、ご相談の内容がご本人の了解なく子どもや交際相手に伝わることはありません。連絡方法や、子どもにいつ・どのように伝えるかもご相談のうえで決められます。詳しくは【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方をご覧ください。

すでに何度か支払ってしまいました。取り戻せますか

 脅されて支払った場合は、強迫による取消し(民法96条1項)や不法行為に基づく損害賠償(同法709条)として返還を求められる場合があります。ただし、相手の資力や、支払ったときの事情を示す記録があるかによって見通しは変わります。考え方は払ってしまった後に取り戻せるか|恐喝・強迫を理由とする返還で解説しています。

まとめ


  1. 結婚前の子の交際相手は扶養義務者でも親族でもなく、親が自ら約束していない限り支払う義務はありません(民法877条1項・725条)。
  2. 子の借金は子本人の債務で、親が支払うのは書面で保証した場合に限られます(民法446条2項)。
  3. 口頭で援助を約束しただけなら、まだ渡していない部分は解除できます(民法550条)。
  4. 害を告げてお金を払わせれば恐喝罪、子への害を告げる場合も脅迫罪の対象になり得ます(刑法249条・222条2項)。
  5. 親族相盗例は親族でない共犯には適用されず、結婚前の交際相手には及びません(刑法244条3項・251条)。
  6. 子の交際そのものには介入できなくても、親に向けられた金銭要求は止めることができます(民法4条)。
  7. その場で払わず、記録を残し、窓口を弁護士に移すという順序で対応を進めます。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親御さんの代理人として交際相手との窓口になり、必要に応じて自立支援カウンセラーと連携しながら、子どもの側の生活の立て直しも支えます。これまで5年以上にわたり、北海道から沖縄まで全国のご家庭のご相談に対応してきました。

子どもの交際相手から金銭を求められている方、子どもを通じた無心が続いて背景が気になっている方は、要求に応じる前に一度ご相談ください。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応、ご相談の流れと費用は【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問でご案内しています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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