【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つか

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は2026年9月時点の法令に基づいて作成しています。個別の事案の見通しは、事情によって異なります。


成人した子から繰り返しお金を求められ、そのたびに渡してきた。そうした経緯をお持ちのご家庭から、「これまで渡した分を記録しておくことに意味はあるのか」というご相談を受けることがあります。記録は、それだけで状況を変えるものではありません。ただ、後に返還を求める場面、相続で家族間の公平を考える場面、行政や弁護士に相談する場面では、手元に何が残っているかによって取れる手段が変わることがあります。本記事では、記録が意味を持つ場面ごとに、どのような記録が役に立ちやすいかを整理します。

記録が意味を持つ主な場面


場面記録が果たす役割注意したい点
子に返還を求める渡したお金が「貸したもの」であったことの裏づけ親子間では、返す約束を示す資料がないと贈与と評価されやすい
相続で清算するきょうだいなど他の相続人との公平を図る資料(特別受益)扶養の範囲内とみられる援助は考慮されないことがある
行政・警察に相談する要求の態様や経済的な被害の輪郭を示す資料財産に関する罪には親族間の特例がある
弁護士に相談・依頼する経緯を正確に伝え、方針を立てる材料推測や誇張が混ざると、記録全体の信用が下がりかねない


 同じ「渡したお金の記録」でも、何のために使うかによって、残しておきたい内容が少しずつ異なります。以下、場面ごとに見ていきます。

返還を求める場面|「貸した」と言える記録かどうか

 お金の貸し借りは、返還を約束して金銭を受け取ることで成立します(民法587条)。口約束でも契約は成り立ちますが、後で子が「もらったものだ」と言えば、返還の約束があったことを示す必要があるのは貸した側です。

 一方、書面によらない贈与は解除できるものの、すでに渡し終えた部分は解除できません(民法550条)。渡したお金が贈与と評価されれば、後から取り戻すことは難しくなります。

 親子間のお金のやり取りは、返済期限や利息を決めないまま行われることが少なくありません。税務の分野でも、貸した側・借りた側の資力や返済の実績などを総合的にみて、実態が贈与に近いと判断される例があります。民事の場面でも、返す約束をうかがわせる資料がなければ、贈与と受け取られやすいと考えておいたほうがよいでしょう。「貸した」と言いやすくなる記録には、次のようなものがあります。

  • 子が署名した借用書や、返済の条件を書いた書面。
  • 「必ず返す」「来月返す」といった子のメッセージの画面。
  • 一部でも返済を受けた日付と金額の記録。
  • 渡す際に「貸す」と伝えていたことがわかるメモや、同席していた家族の証言。


 もっとも、強い要求を受けている最中に借用書への署名を求めると、かえって衝突を招くおそれがあります。無理に書面を取ろうとするより、日付・金額・子の言葉をその都度書き留めるほうが現実的な場面もあります。

 返済期限を決めずに貸した場合、貸した側は、相当の期間を定めて返すよう求めることができます(民法591条1項)。返還を求める際には、いつ、どのような形で求めたかも記録に残しておくと、後の交渉や手続で経緯を説明しやすくなります。

 また、返還を求める権利には時効があり、原則として、権利を行使できることを知った時から5年で消滅します(民法166条1項)。古い分をどう扱うかは、早めに整理しておきたい点です。なお、記録が十分にそろっていても、子に資力がなければ実際の回収は難しいことも、あらかじめ知っておく必要があります。

相続の場面|特別受益の資料としての記録

 親が亡くなった後、ある子だけが生前に多額の援助を受けていた場合、その分を「遺産の前渡し」として相続分の計算に反映させる仕組みがあります。婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与などを対象とする特別受益です(民法903条1項)。

 特別受益を主張するには、贈与があったことの裏づけが必要です。通帳の出金記録、振込の控え、親自身のメモや手帳などが資料となりますが、現金の手渡しが続いていた場合は、いつ、いくら渡したのかを後から示すことが難しくなります。親が存命のうちに残す記録は、将来きょうだいが遺産を分けるときに、事実を確かめる手がかりにもなります。

 ただし、渡したお金がすべて特別受益になるわけではありません。親族には扶養義務があるため、扶養の範囲内とみられる援助は考慮されないことがあります。約2年間にわたる月2万円から25万円の送金について、遺産の総額や親の収入に照らし、月10万円を超える部分を生計の資本としての贈与と認め、それに満たない部分は扶養的な援助にとどまるとした審判例があります(東京家庭裁判所平成21年1月30日審判)。これは個別の事情を踏まえた判断であり、「月10万円」が一般的な基準として示されたものではない点に注意が必要です。

 また、令和5年4月1日に施行された改正民法により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、一定の例外を除いて特別受益の主張ができなくなりました(民法904条の3)。記録を残すことと並んで、渡したお金を相続でどう扱ってほしいかを遺言で示しておくことも、検討に値します(民法903条3項)。相続をめぐる親族間の要求への向き合い方は、【不当要求対応】相続をめぐる親族からの要求|根拠のある要求と無い要求の見分けでも解説しています。

要求の態様を残す意味|行政・警察に相談する場面

 お金を求められたときの言葉や態度も、記録しておく意味があります。

 脅してお金を出させる行為は恐喝にあたりえますが、恐喝を含む財産に関する罪には、親子など直系血族の間では刑が免除される特例があります(刑法251条・244条1項)。そのため、金銭の要求だけを理由に警察が捜査を進めることは多くありません。一方、暴行・傷害・脅迫の罪にはこの特例がありません。要求とは別の場面で暴力を振るわれた、けがを負わされたといった事実が記録に残っていれば、警察の対応が変わる可能性があります。この仕組みは【親子問題】「家庭の問題」と言われて警察が動かないのはなぜかで詳しく解説しています。

 親が65歳以上の場合、親族が親の財産を不当に処分したり、親から不当に財産上の利益を得たりすることは、高齢者虐待防止法上の経済的虐待にあたりえます(同法2条4項2号)。市区町村や地域包括支援センターに相談する際、いつ、いくら、どのような言葉で求められたかの記録があると、状況を具体的に伝えやすくなります。行政の対応については【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みを、警察への相談歴の残し方については【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続をご覧ください。

後で使える記録の残し方


書き留めておきたい項目


項目書き方の例
日時9月1日 夜9時ごろ
金額と渡し方3万円を現金で手渡し、5万円を子名義の口座へ振込
子が述べた名目「スマホ代が払えない」「来月のバイト代で返す」
求め方の様子大声で繰り返し求める、断るとドアを叩く
返済の有無返済なし、10月5日に1万円の返済あり
同席者と関係資料母が同席、LINEの画面を保存


残し方で気をつけたいこと


  • できるだけその日のうちに、見聞きしたことをそのまま書きます。
  • 渡す場合でも、現金の手渡しより振込のほうが日付と金額が客観的に残ります。
  • 子の言葉は要約せず、覚えている範囲でそのまま書き留めます。
  • 推測や気持ちは事実と分けて書き、後から書き換えないようにします。
  • メモや通帳は、子の目に触れない場所に保管します。


 記録は、要求が止まった後もしばらく保管しておくことをおすすめします。保管期間の考え方は【不当要求対応】要求が止まった後の記録はいつまで保管するかで解説しています。

記録だけでは解決しないこと

 記録は、後の手続で事実を示す材料にはなりますが、要求そのものを止める力はありません。記録をつけながら要求に応じ続けると、渡す額が積み上がるだけでなく、「求めれば出てくる」という関係が続きやすくなります。

 成人した子の生活を親がどこまで支える必要があるかは、扶養義務の範囲の問題です。考え方は【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで整理しています。

 当事務所では、親御さんの代理人として子との窓口を担い、民間の自立支援カウンセラーと連携して子の生活の立て直しを支える形で、親と子それぞれの自立に向けた取り組みを行っています。代理人が窓口になることで何が変わるかは【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択を、ご相談前の準備は【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報をご参照ください。

よくあるご質問


過去に渡した分を、今から記録しても意味はありますか

 意味はあります。金融機関によっては過去の取引履歴を取り寄せられる場合があり、手帳やメッセージと照らし合わせれば、これまでの流れをある程度たどれます。記憶に頼る部分は「記憶による」と分けて書いておくと、記録全体の信用を保ちやすくなります。

子に渡したお金に贈与税はかかりますか

 扶養義務者の間で、生活費や教育費として通常必要な範囲で渡したお金は、贈与税の対象外とされています(相続税法21条の3第1項2号)。その範囲を超えて渡した額が年間110万円の基礎控除を超える場合は、課税の対象となることがあります。個別の判断は税理士にご確認ください。

 これまで渡してきたお金の記録は、返還、相続、相談のいずれの場面でも、事実を形にする手がかりになります。一方で、記録を重ねることより、要求に応じ続ける状態から抜け出すことのほうが大切な場面も少なくありません。記録の整理と今後の対応を、あわせて考えていくことが大切です。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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