【親子問題】同居の子が親の介護サービス利用を拒むときは?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は、2026年11月時点の介護保険法・高齢者虐待防止法などの制度をもとにした一般的な解説です。個別の事情によって取れる手段は変わりますので、具体的なご判断は専門家にご相談ください。


親に介護が必要になってきたのに、同居している子が「ヘルパーなんて要らない」「他人を家に入れるな」と言って、介護サービスの利用を拒む。こうしたご相談は、親御さんご本人からも、離れて暮らすきょうだいからも寄せられます。
 弁護士ドットコムにも、祖母と同居している叔父が介護をせず、別居の家族が呼び出され続けている、介護施設やヘルパーを手配したいがどうすればよいか、という趣旨の質問が寄せられています。同居の子が介護を担わないだけでなく、外からの支援まで止めてしまうと、親の生活は少しずつ立ち行かなくなるおそれがあります。
 この記事では、同居の子が介護サービスを拒むときに、法律上どう整理できるのか、親やほかの家族がどの順番で動けるのかを解説します。

介護サービスを使うかどうかを決めるのは親本人

 最初に押さえておきたいのは、介護サービスを利用する当事者は親本人だという点です。要介護認定の申請者は介護保険の被保険者である親本人で、サービスの利用契約も親本人と事業者との間で結ばれます。同居の子の同意は、法律上、利用の条件にはなっていません。
 とはいえ、実際には同居の子の協力がないと、訪問の日程調整や家の中の動線づくりが進まないことがあります。「法律上は親が決められる」ことと、「現実に滞りなく使える」ことの間には距離があるため、その両方を見ながら進めることになります。

要介護認定の申請は代行してもらえる

 子が手続に協力しない場合でも、要介護認定の申請は地域包括支援センターや居宅介護支援事業者などに代行してもらうことができます(介護保険法27条1項)。親本人が地域包括支援センターに電話をする、あるいは別居の家族が親の了解を得て連絡する、という形で入口を作ることができます。
 認定調査の日程も、子の在宅時間を避けて設定してもらえるよう相談できる場合があります。

家が親名義なら、誰を家に入れるかも親が決められる

 住まいが親名義の持ち家や親が借りている賃貸住宅であれば、ヘルパーや訪問看護師を家に招き入れるかどうかは、基本的に親本人が判断できる事柄です。同居の子は親の承諾のもとで住んでいる立場にとどまることが多く、子の反対だけで親の判断が覆るわけではありません。
 ただし、子の部屋に立ち入る必要がある場面などでは、子の生活空間にも配慮が要ります。サービスを使う範囲を、親の居室や浴室などに区切って計画する方法も考えられます。

子が拒む理由を先に見立てる

 同居の子が介護サービスを拒む理由はさまざまで、理由によって進め方が変わります。反対の言葉そのものよりも、その奥にある事情を先に見立てることが、遠回りに見えて近道になることがあります。

子が拒む主な理由考えられる進め方
他人を家に入れたくない家の外で受けるサービス(通所介護・短期入所)から始める
費用がかかる、親のお金が減る親本人の収入と貯蓄の範囲で組める内容をケアマネジャーと試算する
「自分が面倒をみる」と言う子が担える部分と担えない部分を分け、空く時間をサービスで補う
近所の目が気になる送迎車両や訪問の時間帯など、目立ちにくい形を事業者に相談する
親の年金を自分の生活費に充てたい経済的虐待にあたるおそれも含め、地域包括支援センターに相談する


 ひきこもりの状態にある子にとっては、見知らぬ人が定期的に家に来ること自体が大きな負担になる場合があります。一方で、親のお金の流れを子が握っている家庭では、サービス利用料の支出を嫌がっていることもあります。どちらにあたるかで、相談先も変わってきます。

家に入らないサービスから始めるという順序

 子の抵抗が強い場合、最初から訪問介護を入れようとすると衝突が大きくなりがちです。親が家の外に出て受けるサービスから始めると、子の生活空間に他人が入らずに済むため、受け入れられやすくなることがあります。

  • デイサービス(通所介護)やデイケア(通所リハビリテーション)を、週1回程度から利用する。
  • ショートステイ(短期入所生活介護)で、親が数日間施設に滞在する機会をつくる。
  • 手すりや歩行器など、福祉用具の貸与・住宅改修のように訪問の回数が少ないものを先に取り入れる。
  • 配食サービスなど、玄関先で受け渡しが済むものを組み合わせる。


 こうした段階的な組み立ては、ケアマネジャー(介護支援専門員)と相談しながら決めていくことになります。家族の事情を伝えておけば、子との関係に配慮したケアプランを検討してもらえることがあります。

拒否が親の生活を損なっている場合の法的な位置づけ

 子がサービスを拒むことで、親が入浴できない、食事や水分が足りない、必要な受診ができないといった状態が続いている場合、その状況は「高齢者虐待」の一類型として扱われる可能性があります。
 高齢者虐待防止法は、家族など現に高齢者を養護する人による虐待の一つとして、養護を著しく怠ること(いわゆるネグレクト)を挙げています(同法2条4項1号ロ)。自治体の手引きでは、その具体例として、高齢者本人が必要とする介護・医療サービスを相応の理由なく制限したり使わせなかったりすることが示されています。また、親の年金や預貯金を子が管理し、必要なサービスの費用を出さない場合は、経済的虐待(同法2条4項2号)として検討されることもあります。

市町村ができること

 高齢者虐待の相談や通報を受けた市町村は、事実の確認を行い、必要に応じて次のような対応をとることがあります。

  • 地域包括支援センターなどによる訪問と状況の確認。
  • 親の生命や身体に危険があると考えられる場合の立入調査(同法11条)。
  • 老人福祉法に基づく措置として、親をショートステイや施設で一時的に保護すること。
  • 保護した後の、子と親との面会の制限(同法13条)。


 生命や身体に重大な危険が生じている場合、これを見つけた人には速やかに市町村へ通報する義務があり、それ以外の場合にも通報に努めるよう定められています(同法7条)。

子を責めるための制度ではない

 「虐待」という言葉に抵抗を感じ、相談をためらう親御さんは少なくありません。ただ、高齢者虐待防止法は、虐待を受けている高齢者の保護だけでなく、養護者の負担を軽くするための支援も市町村の役割として定めています(同法14条)。
 子自身が仕事を失っている、精神的な不調を抱えているといった事情がある場合には、障害福祉や生活困窮の窓口と連携して、子の側の生活を支える手立てが検討されることもあります。親の介護の問題と子の自立の問題は、切り離さずに相談したほうが進みやすい場面があります。

親の判断能力が落ちてきたときの備え

 親本人がサービスを使いたいと意思表示できるうちは、親の意思を軸に進められます。しかし、認知症などで判断能力が低下すると、親本人が契約を結ぶこと自体が難しくなり、同居の子の意向に引きずられやすくなります。
 その場合は、家庭裁判所に成年後見人などの選任を申し立て、後見人が親の代わりに介護サービスの契約や財産の管理を担う方法があります。申立ては本人のほか、配偶者や四親等内の親族ができるため、同居の子が反対していても、きょうだいなど別の親族が申し立てることは可能です。申し立てる親族がいない、あるいは協力が得られない事情がある場合には、市町村長が申し立てる仕組みもあります(老人福祉法32条)。
 なお、後見人に誰が選ばれるかは家庭裁判所が判断し、弁護士や社会福祉士などの専門職が選ばれることもあります。親の判断能力がしっかりしているうちに、信頼できる人と任意後見契約を結んでおくことも、選択肢の一つです。

威圧や暴力がある場合は安全を先に

 サービスの話を持ち出すと子が怒鳴る、物に当たる、手を上げるといった状況がある場合は、介護サービスの調整よりも親の身の安全を優先する必要があります。危険を感じたときは110番通報をためらわず、落ち着いてから地域包括支援センターや警察に相談した経緯を記録に残しておくことが、その後の対応の土台になります。
 具体的な初動については、【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録や、【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みでも解説しています。

別居のきょうだいができること

 同居していないきょうだいは、親の状況を外から確かめられる立場にあります。親と電話や面会で直接話し、親本人がどうしたいのかを聞き取っておくことが、その後の相談や手続の出発点になります。
 そのうえで、親の住所地を担当する地域包括支援センターに状況を伝えると、訪問による確認につなげてもらえることがあります。同居の子と正面から言い争うより、第三者である専門職が間に入ったほうが、話が進みやすいことも少なくありません。

弁護士が関わる場面

 介護サービスの調整そのものは、地域包括支援センターやケアマネジャーが中心になります。弁護士が関わるのは、主に次のような場面です。

  • 子が親の通帳やキャッシュカード、年金の受取口座を握っていて、介護費用を払えない場合。
  • 子からの威圧が強く、親や家族が直接話をすること自体が難しい場合。
  • 成年後見の申立てについて、家族の間で意見が割れている場合。
  • 子に親の家を出て自立してもらうことも含めて、家族の今後を考えたい場合。


 弁護士が親の代理人となって子との連絡窓口を引き受けることで、親が子と直接向き合う負担を軽くできることがあります。お金の流れに関しては、【親子問題】通帳・カードを取り上げられた場合の対応や【親子問題】子に年金の管理を任せろと言われている|渡す前に確かめておくこともあわせてご覧ください。
 当事務所では、弁護士と自立支援カウンセラーがチームを組み、親側の保護と子の生活基盤づくりを並行して進める取り組みを行っています。詳しくは【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。

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 同居の子が介護サービスを拒んでいても、サービスを使うかどうかを決めるのは親本人であり、入口となる窓口も複数あります。子の反対の理由を見立て、家に入らないサービスから順に組み立てていくことで、親子の衝突を抑えながら親の生活を支えられる場合があります。親の安全やお金の管理に不安があるときは、介護の窓口とあわせて法的な手立ても検討してみてください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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