【親子問題】子が「親に虐待された」と警察や行政に訴えた|窓口ごとの扱いと親が整理しておきたいこと

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は、2026年10月時点の法令と、住民基本台帳事務の支援措置に関する総務省通知(令和5年3月17日)、生活保護の扶養照会に関する厚生労働省の通知・事務連絡(令和3年2月26日)をもとに整理しています。実際の運用は自治体によって異なる部分があります。


成人した子が、警察や市区町村の窓口に「親に虐待された」と訴えた。そうした連絡を受けたとき、多くの親御さんは驚きと戸惑いのなかで、何が起きているのか分からないまま次の連絡を待つことになります。

 子の訴えが過去の出来事を指しているのか、いまの暮らしのことなのか、親子の言い分が食い違っているのかによって、関わる窓口も、その後に起こりうることも変わります。本記事では、子が成人している場合に訴えがどの窓口でどう扱われるのか、親の側に何が起こりうるのか、そして親として何を整理しておくとよいのかを順に確認します。

成人した子の訴えを扱う窓口は、未成年の場合と異なります

 「虐待」という言葉から児童相談所を思い浮かべる方は多いと思いますが、児童虐待防止法が対象とする「児童」は18歳未満です。子が成人している場合、児童相談所が介入するのではなく、主に次の窓口で扱われます。

窓口主な根拠親の側に起こりうること
警察刑法(暴行・傷害・脅迫など)事情を聞きたいという連絡、被害届や告訴の受理
市区町村の障害福祉の窓口障害者虐待防止法(子に障害がある場合)事実確認のための訪問や聞き取り
福祉事務所生活保護法と厚生労働省の通知親への扶養照会が行われないことがある
市区町村の住民票の窓口住民基本台帳事務における支援措置子の住民票の写しなどが交付されなくなる


 親子の問題全般について、警察・行政・弁護士がそれぞれ何を担うのかは【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で整理しています。

警察に訴えた場合

 親子の間であっても、暴行や傷害、脅迫について家族であることを理由とした特例はありません。財産をめぐる一部の罪には親族間の特例がありますが、身体への行為には及ばないためです。この点は【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲で解説しています。

 一方、過去の出来事には公訴時効があります。たとえば暴行罪は3年、傷害罪は10年で、時効が過ぎた行為は起訴できません。性に関する罪は2023年の改正で時効期間が延長されるなど、罪の種類によって扱いが異なるため、訴えの中身によって見通しは変わります。時効の考え方は暴行・傷害の公訴時効|時間が経ってから捜査が来る理由をご覧ください。

 刑事とは別に、子が損害賠償を求めてくることもあります。生命や身体を害する不法行為の損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から5年、行為の時から20年で時効により消滅します(民法724条・724条の2)。もっとも、時効は請求を受けた側が援用してはじめて効果が生じるものです。請求を受けた段階で、いつのどの出来事についての請求なのかを確かめることが出発点になります。

子に障害がある場合

 子に精神障害や知的障害などがある場合は、障害者虐待防止法が関わります。ここでいう障害者は、障害者手帳を持っている人に限られません。同居して生活を支えている親は同法の「養護者」にあたり、市町村は通報や本人からの届出を受けると、速やかに本人の安全と事実関係を確認するとされています(9条1項)。生命や身体に重大な危険が生じているおそれがあるときは、職員による立入調査も行われます(11条)。

 同時に、この法律は養護者の負担を軽くするための支援も目的に掲げており、市町村は養護者からの相談に応じ、助言などを行うこととされています(1条・14条)。市町村の対応は親を処罰するための手続ではなく、親子それぞれの状況を確かめ、必要な支援につなぐための手続という側面を持っています。

子が生活保護を申請した場合

 子が家を出て生活保護を申請すると、通常は親などの扶養義務者に援助の可否を尋ねる「扶養照会」が行われます。ただし厚生労働省は令和3年の通知で、過去に暴力や虐待の経緯がある扶養義務者など、扶養を求めることが本人の自立を妨げると認められる人には照会を行わない取扱いを示しました。子が申請の際に親からの虐待を申し出た場合、親には連絡が来ないまま手続が進むことがあります。扶養照会の運用は【親子問題】生活保護の申請に同行するということ|扶養照会の実際も参考にしてください。

訴えの後、親の側で起こりうること


子の住所が分からなくなる

 子が市区町村に支援措置を申し出て、支援の必要性が確認されると、「加害者」とされた人からの住民票の写しや戸籍の附票の写しの請求は制限されます。親が子の転居先を確認しようとしても、窓口で交付を受けられなくなります。

 総務省は令和5年3月の通知で、申出書の「加害者」欄は申出者が記載するもので疎明資料を求めておらず、申出者と「加害者」欄に記載された人の立場が確定していない事例も含まれるとしています。そのうえで、窓口では相手方の心情を傷つけないよう配慮すること、措置の期間は1年で延長の際には改めて必要性を確認すること、不交付の決定に不服がある場合は審査請求ができることを示しています。

 つまり、支援措置がとられたことは、それだけで虐待の事実が認定されたことを意味しません。とはいえ、住所を知られたくないという子の意思が示されていることは、まず受け止める必要があります。

警察から話を聞きたいと連絡が来る

 子が被害を申告すると、警察から親に事情を聞きたいという連絡が来ることがあります。任意の聞き取りであっても、話した内容は記録に残ります。記憶があいまいな点を推測で補ったり、子を責める言葉を重ねたりすると、後で不利に受け取られるおそれがあります。応じる前に、何を聞かれそうか、どこまで覚えているかを整理しておくと、落ち着いて臨みやすくなります。連絡を受けたときの基本的な考え方は警察から呼び出しの電話が来た|任意同行・出頭要請への対応で解説しています。

親として整理しておきたいこと


子の言葉をすぐに否定しない

 「そんなことはしていない」と感じても、子の受け止め方が親の記憶と異なることは珍しくありません。親権者による体罰は2020年4月から法律で禁止され、民法の懲戒権の規定も2022年12月に削除されました。かつては「しつけ」と受け止められていた関わり方でも、いまの物差しで振り返ると違う評価になることがあります。

 また、訴えの背景に、親と距離を置きたい、自分の苦しさを分かってほしいという思いが含まれていることもあります。事実関係として説明すべき部分と、子の気持ちとして受け止めるべき部分を分けて考えることが、その後の関係を考えるうえでの出発点になります。

親の側の経緯も記録しておく

 一方で、子から暴力や金銭の要求を受けてきたご家庭では、子が先に「虐待された」と訴えるかたちで問題が表に出ることもあります。その場合でも、親が警察や行政に経緯を説明する機会はあります。受けた被害の日時や内容、警察や窓口に相談した記録、診断書、お金の動きが分かる通帳などを時系列で整理しておくと、説明が言い合いにならずに済みます。暴力を受けている場合の初動は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録、相談記録の意味は【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続で解説しています。

控えたい行動

 訴えを知った直後は、子に直接確かめたい、誤解を解きたいという気持ちが強くなりがちです。ただ、次のような行動は子の側から圧力と受け取られ、状況を難しくするおそれがあります。

  • 子の勤務先や知人を通じて居場所を探すこと。
  • 転居先と思われる場所を訪ねること。
  • 訴えの取り下げを繰り返し求めること。
  • 親族に頼んで子を説得してもらうこと。
  • SNSなどに経緯を書き込むこと。


 なお、事実と異なる申告によって処罰を受けさせようとした場合には虚偽告訴罪が問題になり得ますが、その成立には申告内容が虚偽であることの認識などが必要です。記憶の違いや受け止め方の違いがあるというだけで、この罪にあたるわけではありません。反論を急ぐより、まず手続の流れを把握することが先決です。

窓口を弁護士に移すという選択

 警察や行政からの連絡に、親がひとりで向き合い続けるのは負担が大きいものです。弁護士に依頼すると、親の代理人として警察や市区町村の担当者に経緯を説明したり、資料を整えて提出したりする窓口を担うことができます。子から連絡が来た場合も、直接のやり取りを避けたまま話を進められます。窓口を代えることの意味は【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で解説しています。

 ただし、子の訴えにいくらかでも事実が含まれている場合、それを打ち消すことだけを目指す対応は、親子どちらのためにもなりません。当事務所では、親の側を弁護士が、子の生活の立て直しを自立支援カウンセラーが担う形で、親子の間に距離を保ちながらそれぞれの生活を整える支援を行っています。役割を分ける理由は【親子問題】弁護士とカウンセラーが組むという形|役割を分ける理由をご覧ください。

 子が「親から離れたい」という思いを訴えのかたちで示しているのであれば、その距離をどう安全に保つかを一緒に考えることもできます。距離を取ることの意味は【親子問題】親子が離れて暮らすことの意味|距離という視点で整理しています。

 子から虐待を訴えられたという出来事は、親にとって受け止めがたいものです。それでも、どの窓口で何が進んでいるのかを把握し、事実と気持ちを分けて整理することで、次に取れる手立ては見えてきます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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