【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方
本記事は2026年9月時点の法令に基づいて作成しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は専門家にご相談ください。
「息子の借金の督促状が実家に届くようになった。親として払わなければいけないのでしょうか」。家庭内暴力やひきこもりのご相談を受けていると、30代・40代、ときには50代のお子さんの借金について、親御さんからこうした質問をいただくことがあります。反対に、「これまで何度も肩代わりしてきたが、いつまで続ければよいのか分からない」というご相談もあります。
インターネット上では「子の借金を親が返す義務は原則としてない」と説明されることが多く、その説明自体は誤りではありません。ただ、義務がないことと、実際に払わずに済むことの間には、見落とされやすい点がいくつかあります。親が過去に署名した書面、これから署名を求められる書面、借入れのときの子の年齢、そして請求の来かたによって、状況は変わります。
この記事では、親に返済義務が生じる場面と生じない場面を整理したうえで、請求を受けたときに確かめること、肩代わりを考えるときの視点までをまとめます。親自身の扶養義務の範囲については【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで、家族名義の郵便物の扱いについては【不当要求対応】同居していない家族の名義で請求が来た|誰の債務なのかで扱っていますので、あわせてご覧ください。
借金を返す義務があるのは、契約した本人
親子であっても債務は別々
お金を借りる契約(金銭消費貸借契約。民法587条)の当事者は、貸した側と借りた側です。子が自分の名義で消費者金融やカードローンから借りた場合、返済義務を負うのは子本人であり、親子であることだけを理由に親が返済義務を負う仕組みにはなっていません。法律は家族をひとまとまりとして扱うのではなく、一人ひとりの契約ごとに権利と義務を定めています。
この考え方は、子が同居している場合でも別居している場合でも変わりません。督促状が親の住所に届いたとしても、宛先によって義務を負う人が変わるわけではありません。
扶養義務と借金の返済は別のもの
親子の間には扶養義務があります(民法877条1項)。ただ、扶養義務は自力で生活できない親族の生活を支えるためのもので、子がつくった借金を貸主に返す義務とは性質が異なります。扶養を求めることができるのは生活に困っている子本人であり、貸主が扶養義務を根拠に親へ返済を求めることはできないと考えられています。
親に返済義務が生じうる場面
原則として義務がないとしても、例外にあたる場面はあります。いずれも「家族だから」ではなく、親自身の契約や相続といった別の根拠から義務が生じる、という点が共通しています。
| 場面 | 親の支払義務 | 確かめること |
|---|---|---|
| 子が自分の名義で借りた | 原則としてない | 親が保証人になっていないか |
| 親が保証人・連帯保証人になっている | ある | 保証契約の書面と保証の範囲 |
| 親が債務の引受けや支払いを約束する書面に署名した | 書面の内容によって生じうる | 何を約束した書面か |
| 子が親の名義を無断で使って借りた | 原則として親に効果は及ばない | 追認と受け取られる言動がないか |
| 子が亡くなり親が相続人になった | 相続すれば承継する | 相続放棄の期限 |
| 未成年の子が親の同意なく借りた | 親の義務ではない | 契約を取り消せるか |
保証人・連帯保証人になっている場合
親が子の借金の保証人になっている場合は、保証契約に基づいて親自身が支払義務を負います(民法446条1項)。奨学金、自動車ローン、賃貸住宅の契約などで、子の進学や就職の時期に親が保証人になっていることは珍しくありません。保証契約は書面でしなければ効力を生じないとされていますので(同条2項)、まずは何に署名したのかを確認することが出発点になります。
連帯保証人の場合、「先に子に請求してほしい」「子の財産から先に回収してほしい」と主張することはできません(民法454条)。一方で、保証人が個人の場合、子が分割払いの期限の利益を失ったときは、貸主はそれを知ってから2か月以内に保証人へ通知しなければならず、通知が遅れた間の遅延損害金の一部は保証人に請求できないとされています(民法458条の3)。また、子から頼まれて保証人になった親は、子の返済状況を貸主に問い合わせることができます(民法458条の2)。保証人として請求を受けた場合の考え方は、家族・身元保証人に請求が来た|どこまで払う義務があるかでも整理しています。
書面に署名すると、新たに義務を負うことがある
保証人になっていなくても、督促の場面で示された書面に署名することで、親が新たに義務を負う場合があります。「子の債務を引き受ける」「子に代わって支払う」といった内容の書面は、債務引受(民法470条)や支払いの約束として扱われる可能性があります。もともと義務がなかった親が、義務を負う立場に移るきっかけになりやすいのが、この署名の場面です。その場で署名を求められても、書面を持ち帰って内容を確認してから判断することをおすすめします。
子が親の名義を無断で使った場合
子が親の名前や身分証を使って親名義で借り入れた場合、親が同意していなければ、その契約は原則として親に効果を生じません(民法113条1項)。ただし、後から返済に応じたり、借入れを認めるような発言をしたりすると、追認したと受け取られるおそれがあります。以前から印鑑や通帳を子に預けていたなどの事情があると、表見代理(民法110条)が問題になることもあるため、経緯を整理してから対応を決めることが大切です。
子が亡くなり、親が相続人になった場合
亡くなった子に子どもがいない場合、親は相続人になります(民法889条1項1号)。相続すると、預貯金などの財産とともに借金も引き継ぎます(民法896条)。借金を引き継がないためには、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所で相続放棄の手続をとる必要があります(民法915条1項・938条)。この期間中に相続財産を処分すると、相続を承認したものとみなされることがあるため(民法921条1号)、遺品の整理や預金の払戻しは慎重に進めることが求められます。
子が未成年の場合に使える取消し
親の同意のない借入れは取り消せることがある
2022年4月から、成年年齢は18歳です(民法4条)。18歳未満の子が親の同意を得ずに借入れをした場合、その契約は取り消すことができ(民法5条1項・2項)、親は法定代理人として取消しを主張できます(民法120条1項)。
取り消した場合でも、子は受け取ったお金のうち、現に利益を受けている限度で返還する義務を負います(民法121条の2第3項)。生活費に充てた分は利益が残っていると評価されやすく、遊興に使って手元に残っていない分は返還の範囲から外れる、というのが一般的な説明です。
取消しが使えない場合
子が成年だと偽るなど、相手をだまして取引をした場合は取り消すことができません(民法21条)。また、18歳・19歳の子の借入れは成年者の契約として扱われるため、この取消しは使えません。取消しには期間の制限もありますので(民法126条)、借入れが分かった時点で早めに確認することが大切です。
親のもとに請求が来たとき
貸金業者が親に支払いを求めることは禁じられている
貸金業者やその委託を受けた者は、債務者以外の人に対して、債務者に代わって返済するよう求めることを禁じられています(貸金業法21条1項7号)。家族が子の居場所や連絡先を伝えるなどの協力を断っているのに、さらに協力を求めることも禁止されています(同項8号)。債権回収会社(サービサー)についても、債務者の親族に代わりの弁済をみだりに求めてはならないと定められています(債権管理回収業に関する特別措置法18条7項)。
親が保証人になっていない限り、「親なのだから払ってほしい」と求められても、応じる義務はありません。どの会社から、いつ、どのような方法で、何を求められたのかを記録しておくと、後に相談する際の手がかりになります。
登録のない業者から取立てを受けている場合
登録を受けていない業者、いわゆる闇金からの借入れの場合、法律の定めを守らない取立てが行われ、自宅や親の職場に連絡が繰り返されることもあります。相手が登録業者かどうかは、金融庁の登録貸金業者情報検索サービスで確認できます。取立てが続くときの対応は、闇金・ソフト闇金の取り立てを止めるには|法的な根拠と、止まらないときの現実的な選択肢で詳しく取り上げています。
肩代わりを考えるときの視点
肩代わりすること自体はできる
返済義務がなくても、親が子の借金を代わりに払うこと自体はできます(民法474条1項)。ただし、代わりに払ったからといって子の借入れの状況が変わるわけではなく、他にも借入れがあれば請求は続きます。肩代わりを考える場合は、まず借入先と残高の全体を子から聞き取ることが前提になります。
義務のない親が子の借金を返すと、子が親から贈与を受けたものとみなされ、贈与税の対象になることがあります(相続税法8条)。一方で、子が資力を失って返済が困難な状態にあり、扶養義務者である親が返済した場合は、返済が困難な部分については贈与とみなされないとされています(同条ただし書)。金額が大きい場合は、税理士や税務署に確認しておくと安心です。
繰り返しの肩代わりがもたらすもの
ご相談の中では、肩代わりをした後に同じことが繰り返され、そのたびに金銭の要求が強くなっていくケースに接することがあります。返済のたびに問題が表面上は片づくため、子が自分の収支と向き合う機会を持てないまま年月が過ぎることもあります。肩代わりが子の生活の立て直しにつながるかどうかは、返済した後の収入と支出の見通しとあわせて考える必要があります。
借金の根本的な整理である任意整理・個人再生・自己破産は、借りた本人である子が行う手続です。親が弁護士に相談して情報を集めることはできますが、手続を進めるのは子自身です。また、返済のためのお金を暴力や脅しによって求められている場合、暴行や脅迫には親族間の特例が及ばないため、刑事事件として扱われる可能性があります。この点は【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲で解説しています。
対応を決める前に確かめておきたいこと
請求への返事や肩代わりの判断をする前に、次の点を確認しておくと、状況を整理しやすくなります。相談の準備については【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報もご参照ください。
- 親が保証人・連帯保証人として署名した書面があるかどうか。
- 請求している相手の名称と、貸金業の登録の有無。
- 借入れの時点での子の年齢と、親の同意の有無。
- 督促の書面や電話の記録(日時・相手・内容)。
- これまでに親が肩代わりした金額と、その際に交わした約束。
- 子の現在の収入と、今後の生活の見通し。
よくあるご質問
子の居場所や勤務先を業者に伝える必要はありますか
伝える義務はありません。貸金業者は、家族が協力を断っているにもかかわらず、さらに居場所や連絡先を知らせるよう求めることを禁じられています(貸金業法21条1項8号)。答えにくい場合は、「本人に伝えます」とだけ述べて電話を終える対応も考えられます。
一度肩代わりすると、次からも払う義務が生じますか
払ったこと自体によって、次の返済義務が生じるわけではありません。ただし、支払いの際に「今後も支払う」「債務を引き受ける」といった内容の書面に署名している場合は、その書面に基づく義務が生じることがあります。過去に署名した書面があれば、内容を確かめておくことをおすすめします。
同居の子が、親の預金を無断で引き出して返済に充てていました
同居の子による財産の持ち出しは、窃盗などにあたる場合でも刑が免除される特例があり(刑法244条1項)、刑事手続は進みにくいのが実情です。一方で、民事上の返還請求まで否定されるわけではありません。詳しくは同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲で扱っています。
まとめ
- 借金の返済義務を負うのは契約した本人であり、親子であることだけを理由に親が返済義務を負うことはありません(民法587条)。
- 扶養義務は子の生活を支えるためのもので、貸主が親に返済を求める根拠にはなりません(民法877条1項)。
- 保証人・連帯保証人になっている場合は親も支払義務を負いますが、保証契約は書面が必要とされています(民法446条2項)。
- 督促の場面で債務の引受けや支払いを約束する書面に署名すると、新たに義務を負うことがあります(民法470条)。
- 子が亡くなり親が相続人になった場合は、3か月以内に相続放棄を検討する必要があります(民法915条1項)。
- 18歳未満の子が親の同意なく借り入れた場合は、契約を取り消せることがあります(民法5条2項)。
- 貸金業者が親に代わりの返済を求めることは禁じられています(貸金業法21条1項7号)。
子の借金でお悩みの親御さんへ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。家庭内暴力やひきこもりを背景に、子の借金や金銭の要求が続いているご家庭について、弁護士が親御さんの代理人として対応し、民間の自立支援カウンセラーと連携して、子の側の生活の立て直しにも取り組んでいます。遠方にお住まいの方からのご相談もお受けしています。
督促への対応に迷っている方も、肩代わりを続けるべきか悩んでいる方も、まずは状況をお聞かせください。取り組みの詳細は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。


