同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

同居している家族の財布から現金を抜いた、親の通帳を持ち出した、家族の貴金属を黙って売った。こうした相談でよく出てくるのが「家族の間なら罪にならないと聞いた」という言葉です。

 根拠とされているのは刑法244条、いわゆる親族相盗例です。ただ、この条文が定めているのは「犯罪にならない」ではなく「その刑を免除する」です。犯罪は成立したうえで、刑罰を科すことだけを見送るという構造になっています。

 そして免除が届く範囲は、思われているよりも狭いことがあります。「同居の家族の物を持ち出した」という一言の中には、続柄・同居・その物の持ち主・持ち出しに伴う行為という四つの関門があり、どれか一つでも外れると特例は届きません。この記事では、その四つを順に確認していきます。

この記事で扱う場面

 次のような場面を想定しています。

  • 同居している家族の現金、通帳、カード、貴金属などを無断で持ち出した。
  • 家族から「持ち出しただろう」と言われ、警察に相談すると告げられている。
  • 持ち出した側の家族から相談を受けている。
  • 親族相盗例という言葉を見つけたが、自分の場合に当てはまるのかが分からない。


 金額の争いや遺産分割の中での使い込みは、家庭裁判所の手続とも関わるため、ここでは刑事の枠組みに絞って整理します。

条文が定めているのは「刑の免除」

 刑法244条は三つの項からできています。1項は、配偶者、直系血族または同居の親族との間で窃盗罪や不動産侵奪罪を犯した場合に、その刑を免除すると定めています。2項は、それ以外の親族との間の同じ罪について、告訴がなければ起訴できないとしています。3項は、親族でない共犯にはこれらの規定を適用しないと定めています。

関係条文上の効果実際の意味
配偶者、直系血族、同居の親族刑の免除(244条1項)犯罪は成立するが、刑罰は科されない。
それ以外の親族親告罪(244条2項)被害者の告訴がなければ起訴されない。
親族でない共犯適用しない(244条3項)手伝った人には免除も親告罪化も及ばない。


 この特例は窃盗罪だけのものではありません。刑法251条が詐欺罪、電子計算機使用詐欺罪、背任罪、恐喝罪に、刑法255条が横領罪、業務上横領罪、遺失物等横領罪に、それぞれ244条を準用しています。未遂を処罰する規定がある罪については、未遂も同じ扱いになります。

「刑の免除」は無罪ではない

 最高裁も、244条1項について、親族間の一定の財産犯罪では国家が刑罰権の行使を差し控えて親族間の自律にゆだねる方が望ましいという政策的な考慮から処罰の特例を設けたにすぎず、犯罪の成立を否定したものではない、という趣旨を述べています(最高裁平成20年2月18日決定)。

 刑事訴訟法334条は、刑を免除するときは判決でその旨を言い渡さなければならないと定めています。つまり刑の免除は有罪判決の一種です。起訴されて刑の免除の判決を受ければ、刑罰は科されないものの、有罪の判決を受けた経歴としては残ることになります。

関門1|続柄が条文の範囲に入っているか

 刑が免除されるのは、配偶者、直系血族、同居の親族の三つです。直系血族は父母、祖父母、子、孫などで、養子縁組による親子も含まれます。兄弟姉妹は直系血族ではないため、同居しているかどうかで扱いが変わります。

 親族の範囲は民法725条により、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族です。この枠の外にいる人との間では、そもそも特例の出番がありません。

内縁の配偶者は含まれない

 最高裁は、内縁の配偶者について244条1項の適用も類推適用も認めませんでした(最高裁平成18年8月30日決定)。刑の免除という重い効果を持つ規定であるため、その範囲は法律上明確に定められている必要がある、という考え方です。長く生活を共にしていても、婚姻届が出ていなければ「配偶者」にはあたらないことになります。婚姻届が形だけで、夫婦としての実体を欠くと判断された事案で適用が否定された裁判例もあります。

関門2|「同居」といえる状態だったか

 配偶者と直系血族以外は、同居していることが条件になります。ここでいう同居は、住民票の記載や扶養に入っているかどうかではなく、実際に生活の本拠を共にしていたかどうかで判断されます。

 問題になりやすいのは、次のような状態です。

  • 単身赴任中で、週末だけ自宅に戻っていた。
  • 入院や施設入所が続いており、住まいは残っているが生活の場は別だった。
  • 一人暮らしを始めた後、荷物の一部を実家に置いたままにしていた。
  • 就職や進学で家を出た兄弟姉妹が、数日だけ実家に滞在していた。
  • 離婚を前提に別居していた、あるいは同じ家に住んではいたが生活は別々になっていた。


 一時的に寝泊まりしているだけでは同居とはいえない、という説明が一般的です。もっとも、どこまでが一時的かは事案ごとの判断で、時期によって同居だったり別居だったりすることもあります。持ち出しがあったとされる時点で、どちらの状態にあったのかが、そのまま結論を左右します。

 この点は記憶に頼りにくいところなので、住所の異動、荷物の移動、光熱費や家賃の負担、実際に寝起きしていた場所といった手がかりを、時期とともに整理しておくと説明しやすくなります。

関門3|その物は本当に「家族の物」か

 見落とされやすいのがこの点です。最高裁は、窃盗犯人が所有者以外の者の占有する財物を盗んだ場合に244条1項が適用されるためには、占有者との間だけでなく、所有者との間にも親族関係が必要である、としています(最高裁平成6年7月19日決定)。

 同居の家族が持っていた物であっても、その持ち主が家族でなければ、特例は届かないことになります。次のような物が問題になります。

  • 勤務先から家族に貸与されているパソコンや工具、社用のカード。
  • 家族が友人や職場の人から預かっていた物。
  • レンタルやリースの品、修理のために預かっていた品。
  • 同居している家族の交際相手や友人が置いていた荷物。
  • 家族が代表者を務める法人名義の財産。


 「家の中にあった物」と「家族の物」は同じではありません。持ち出した物が誰の名義で、誰が費用を負担して手に入れたものかを確かめておく必要があります。

関門4|持ち出しに伴って別の罪が生じていないか

 親族相盗例が及ぶのは、先に挙げた財産犯の一部だけです。同じ場面で別の罪が問題になる場合、そちらには特例が及びません。

行為・罪名親族相盗例
窃盗、不動産侵奪対象
詐欺、電子計算機使用詐欺、背任、恐喝対象
横領、業務上横領、遺失物等横領対象
強盗、事後強盗対象外
暴行、傷害、脅迫、強要対象外
器物損壊対象外
住居侵入対象外


 取り返そうとした家族ともみ合いになって暴行や傷害に至った場合、持ち出しを止められた際に暴行や脅迫を加えた場合、鍵や引き出しを壊した場合は、それぞれ別の罪として扱われる可能性があります。すでに家を出ている人が、持ち出しの目的で実家に立ち入った場合には、住居侵入罪が問題になることもあります。家族として立ち入りを許されている状況であれば侵入にあたらないと判断される余地もありますが、別居後の関係次第で評価は変わります。

預金は家族の財布とは別に考える

 実務でとくに注意が必要なのが、通帳やキャッシュカードの持ち出しです。カードや通帳そのものを持ち出す行為と、それを使って預金を引き出す行為は、法律上は別の行為として評価されます。

 銀行の現金自動預払機の中にある現金は銀行が管理しているため、権限のない引き出しは、理論上は銀行を被害者とする窃盗として扱われる余地があります。窓口で名義人本人や代理人であるかのように装って払い戻しを受ければ、銀行に対する詐欺が問題になり得ます。銀行との間には親族関係がありませんから、この部分に親族相盗例は及びません。

 銀行が実害のない事案で被害を申告する例が多いわけではなく、現実に事件として立ち上がるかは別問題です。ただ、「家族の中で完結する話」とは言い切れない領域があることは知っておいた方がよいでしょう。払戻請求書に名義人の署名を書いた場合には、私文書偽造などが問題になる可能性もあります。

手伝った人には及ばない

 244条3項は、親族でない共犯には特例を適用しないと定めています。交際相手や友人に協力してもらった場合、その人は親族ではないため、免除も親告罪化も受けられません。家族の側が「身内の問題として収めたい」と考えていても、家族以外の関与者が捜査の対象になることがあります。

後見人が選任されている場合

 家庭裁判所から選任された後見人が、被後見人である親族の財産を横領した場合には、244条1項は準用されないというのが最高裁の判断です(最高裁平成20年2月18日決定、最高裁平成24年10月9日決定)。後見の事務は公的な性格を持ち、財産を誠実に管理する法律上の義務を負っているためです。親が認知症になり、子が成年後見人に就いているといった場面では、家族間という枠組みでは考えられません。

免除されても「何も起きない」わけではない

 刑が免除される類型でも、次のような形で手続が動くことはあります。

  1. 家族が被害届や告訴状を持ち込み、受理される。
  2. 事情を確かめるために、警察から連絡が来る、あるいは事情聴取を受ける。
  3. 持ち出した物の所有者や同居の有無について、捜査の中で確認が行われる。
  4. 確認の結果として、刑の免除にあたるという判断に至る。


 検察官が起訴しない処分をするとき、その理由は区分ごとに整理されており、事件事務規程には「嫌疑なし」「嫌疑不十分」「起訴猶予」などと並んで「刑の免除」という区分が置かれています。無関係だったという判断と、犯罪は成立するが刑は科さないという判断は、同じ不起訴でも意味が異なります。

 また、244条2項にあたる関係、たとえば同居していない兄弟姉妹や叔父叔母との間では、告訴があれば起訴の可能性が出てきます。告訴には期間の定めがあり、犯人を知った日から6か月を過ぎると告訴ができなくなるのが原則です。起訴される前であれば告訴を取り消すことができるため、この類型では家族との話し合いが持つ意味が大きくなります。

民事の責任は別に残る

 親族相盗例は刑罰についての特例であり、民事上の責任を消すものではありません。持ち出した物の返還を求められること、使ってしまった分について損害賠償や不当利得の返還を求められることは、いずれも別の話として残ります。

 家庭内の出来事は、時間が経ってから相続の場面で蒸し返されることもあります。親の預金の使途をめぐって、他の相続人から説明を求められるといった形です。刑事の手続が動かなかったことと、金銭の清算が済んだことは、同じではありません。

いま整理しておくとよいこと

 持ち出したとされる側でも、持ち出されたとされる側でも、確認する事柄は共通しています。

  1. その時点で同居していたのか、いつからいつまでその状態だったのか。
  2. 持ち出した物の持ち主は誰か、家族以外の物が混じっていないか。
  3. 現金の引き出しがある場合、それは家族の手元からか、金融機関からか。
  4. 渡す、預ける、任せるといったやり取りが事前にあったかどうか。
  5. すでに返したもの、弁償したものがあるか。


 やり取りの記録や口座の履歴は、時間が経つと確認しにくくなります。家族の間の話し合いで解決を目指す場合でも、事実関係を整理しておくことが出発点になります。

まとめ


  • 刑法244条が定めているのは刑の免除であり、犯罪の不成立ではない。
  • 刑の免除は有罪判決の一種で、刑事訴訟法334条により判決で言い渡される。
  • 免除の対象は配偶者、直系血族、同居の親族に限られ、内縁の配偶者は含まれない。
  • 同居かどうかは、住民票ではなく実際に生活の本拠を共にしていたかで判断される。
  • 所有者と占有者の双方との間に親族関係が必要で、家の中にあった他人の物は対象外となる。
  • 強盗、暴行、傷害、器物損壊、住居侵入には特例が及ばない。
  • 金融機関からの引き出しは、家族との関係とは別に評価される余地がある。
  • 親族でない共犯者には特例が及ばず、民事上の責任も別に残る。


 家族の間の出来事は、当事者だけで話すほど感情的になりやすく、事実の整理が後回しになりがちです。刑事の手続が動く可能性がある場面や、金銭の清算に見通しが立たない場面では、早い段階で弁護士に相談し、どの枠組みの問題なのかを切り分けておくことをおすすめします。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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