【男女トラブル】元恋人の弁護士から受任通知が届いたら、自分から連絡していい?
本記事は、2026年10月時点の法令と一般的な実務をもとにした解説です。実際の見通しは、交際の経緯や残っている記録によって変わります。
別れ話のあとしばらくして、元恋人から「慰謝料として300万円払ってほしい」「誠意を見せなければ考えがある」といった連絡が届くことがあります。金額の大きさに驚き、払わなければ何をされるか分からないという不安から、言われるままに応じてしまう方も少なくありません。
しかし、交際していた相手から求められたお金が、そのまま法律上の支払義務になるわけではありません。本記事では、別れた後に元恋人から高額の「慰謝料」を求められた場面で、何を確かめ、どのような順序で対応すればよいかを整理します。
交際の終わりそのものは、原則として慰謝料の理由にならない
婚姻していない男女の交際は、どちらか一方が終わらせたいと考えれば終わる関係です。別れを告げられた側が深く傷つくことはあっても、「別れたこと」だけを理由に損害賠償を認めることは、相手の意思に反して交際を続けさせることにつながりかねません。そのため、単なる交際関係の解消については、原則として慰謝料の支払義務は生じないと考えられています。
交際期間が長かった、相手の方が多くお金を出していた、別れ方が一方的だったといった事情があっても、それだけで結論が大きく変わることは多くありません。交際期間の長さと金銭の関係については、【男女トラブル】交際期間の長さは金銭の清算に影響するのかでも解説しています。
もっとも、「原則として」という言葉どおり、例外にあたる事情がある場合には、慰謝料が問題になることがあります。まずは自分たちの関係がどこに当てはまるかを確かめることが出発点です。
慰謝料が問題になりうる場面
| 場面 | 法的に問われる点 | 確かめておきたいこと |
|---|---|---|
| 婚約していた | 正当な理由のない婚約の解消 | 結婚の約束の具体性(両親へのあいさつ、指輪、式場の予約など) |
| 内縁(事実婚)の関係だった | 夫婦に準じた関係の不当な解消 | 同居の期間、家計の一体性、周囲への紹介のされ方 |
| 既婚であることなどを隠して交際した | 相手の性的な自己決定を誤らせたこと(貞操権の侵害) | 相手が事実を知った時期、交際に至った経緯 |
| 交際中に暴力・暴言があった | 身体や人格への侵害 | 日時・内容の記録、診断書の有無 |
| 無断で撮影した・画像を広めた | プライバシーや性的な自己決定の侵害 | 画像の有無と保管状況 |
婚約の解消は、正当な理由がない場合に損害賠償の対象となることがあります。ただし、口約束で結婚の話題が出ていただけで婚約が成立していたといえるかは、事情によって判断が分かれます。婚約の解消については結婚をやめたい|婚約の解消で慰謝料を払わずに済む「正当な理由」とは、内縁については【男女トラブル】内縁・事実婚を解消するとき|法律上の夫婦と何が同じで、何が違うのかで詳しく扱っています。
反対に、交際中の浮気や二股が別れの原因だったとしても、婚約や内縁に至っていない交際関係であれば、慰謝料が認められる場面は限られます。この点は二股・浮気をされた恋人|交際関係で慰謝料は取れるのかもご参照ください。
「高額」かどうかを見極めるための3つの視点
慰謝料として求める金額に、法律上の上限はありません。相手がいくらを提示するかは自由であり、提示額が大きいこと自体が直ちに違法になるわけではありません。一方で、裁判になった場合に認められる金額は、事情に応じて裁判所が判断するものであり、請求額がそのまま認められるとは限りません。提示された金額が妥当かどうかは、次の視点から見ていくと整理しやすくなります。
請求の中身を費目ごとに分ける
「慰謝料」という一つの言葉の中に、性質の異なるものが混ざっていることがよくあります。たとえば、交際中のデート代や旅行代、プレゼントの代金、貸したお金、別れた後の通院費、そして精神的な苦痛に対する慰謝料などです。
デート代やプレゼントは、多くの場合、その時点で相手が自分の意思で負担した贈与と考えられ、別れた後に返すよう求められても応じる義務がないことが一般的です。これに対し、返す約束で借りたお金は、交際の終わりとは関係なく返済の対象になります。費目ごとに分けると、法的に検討すべき部分がどこなのかが見えてきます。贈与と貸付の違いについては、別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いで解説しています。
金額の根拠を尋ねる
相手が金額を示してきたときは、その金額がどのような事情や計算から出てきたのかを、落ち着いて尋ねてみることが考えられます。根拠を示せない金額、連絡のたびに変わる金額は、交渉の中で見直される余地があることが少なくありません。
時間の対価という発想を切り分ける
「付き合っていた時間を返せ」「若い時期を無駄にした」という気持ちから金額が示されることもあります。気持ちとしては理解できても、交際に費やした時間そのものを金額に換えて請求することは、法的には難しいと考えられています。詳しくは【男女トラブル】別れを告げたら「今までの時間を返せ」と言われた|時間の対価は請求できるのかをご覧ください。
請求のしかたが交渉の範囲を超えるとき
お金を求めること自体は自由でも、求め方には法律上の限度があります。たとえば「払わなければ職場に知らせる」「家族に全部話す」「写真をネットに載せる」といった言葉とともに支払いを迫る場合、恐喝罪(刑法249条)や脅迫罪(刑法222条)にあたる可能性があります。判例上、たとえ何らかの権利があったとしても、その行使の方法が社会通念上許される範囲を超えていれば、恐喝罪が成立しうるとされています。
また、怖さから意に沿わない約束や支払いをしてしまった場合でも、強迫による意思表示として取り消しを主張できる場面があります(民法96条)。脅しの言葉を伴う請求への刑事上の対応については、元恋人からの脅迫・強要|「別れるなら〜」への刑事対応(脅迫罪・強要罪)や別れ際に物を壊された・お金を要求された|器物損壊と恐喝で扱っています。
身の危険を感じる言葉や行動があるときは、金額の交渉より先に、警察への相談を含めた安全の確保を優先してください。
求められた直後に避けたい対応
- その場で支払いや振込に応じること。
- 相手が用意した念書や誓約書に、内容を確かめないまま署名すること。
- 「全部自分が悪かった」など、事実関係を広く認める謝罪文を求められるまま書くこと。
- 感情的な反論や相手を責めるメッセージを送ること。
- 相手の家族や職場、共通の友人に直接連絡して事情を話すこと。
- 弁護士名義の通知や裁判所からの書類を、開封しないまま放置すること。
とくに書面への署名は、後から「合意していた」と扱われるおそれがあります。すでに署名してしまった場合も、迫られた状況や書面の内容によっては見直しを求められることがあります。【男女トラブル】別れ際に書いた誓約書を撤回したい|強く迫られて書いた書面や【男女トラブル】別れ話で払うと約束した金額を見直したい|約束の性質と内訳から見直せる範囲を確かめるもあわせてご覧ください。
落ち着いて進めるための手順
- 相手から届いたメッセージ、通話の日時、送られてきた書面を消さずに保存します。
- 請求されている金額と、その内訳・理由を書面やメッセージで確認します。
- 婚約や同居の有無など、交際の実態を時系列で書き出します。
- 費目ごとに、支払義務が問題になるものとそうでないものを仕分けます。
- 支払う部分がある場合は、清算条項や接触しない約束を入れた合意書を取り交わします。
- 訴状が届いた場合は、記載された期限までに答弁書を出すなどの対応をとります。
金銭を支払って関係を終える場合は、同じ件で再び請求されないよう、清算条項を入れた合意書を作っておくことが大切です。書面の作り方は手切れ金を払って関係を終わらせる|口外禁止・清算条項付き合意書の作り方で解説しています。
弁護士に窓口を任せるという選択
元恋人とのやり取りは、どうしても感情が入りやすく、当事者同士では話が進まないことがあります。弁護士が代理人となると、受任通知を送ったうえで、その後の連絡を弁護士あてに集約するよう求めるのが一般的です。直接の連絡が続くことへの負担が軽くなり、請求の中身を法的な観点から一つずつ検討できるようになります。受任通知の働きについては受任通知とは何か|送られると相手方との関係はどう変わるかをご参照ください。
当事務所でも、独身と偽った交際をめぐり高額の請求を受けた事案で、請求の費目を整理したうえで合意に至った例があります(【解決事例】独身と偽った交際で400万円超を請求された事案|費目を整理し解決金150万円で合意)。結果は事案ごとに異なりますが、請求を分けて検討することが話し合いの土台になります。
よくあるご質問
「誠意を見せて」と言われた場合、お金を払う義務はありますか
「誠意」という言葉だけでは、支払うべき金額も理由も定まっていません。法的な支払義務があるかどうかは、先ほどの例外にあたる事情があるかによって判断されます。気持ちの問題として謝罪をすることと、金銭を支払うことは分けて考えるのが一般的です。
相手が弁護士を立ててきました。払うしかないのでしょうか
相手に弁護士がついたからといって、請求額がそのまま正しいということにはなりません。ただし、回答の期限が示されていることが多いため、放置せずに早めに対応方針を決めることが望ましいといえます。
一度「払う」と言ってしまいました。取り消せますか
口頭のやり取りだけで、直ちに金額どおりの支払義務が確定するとは限りません。どのような状況で何を約束したのかによって結論が変わるため、記録を残したうえで、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
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別れた後の高額な請求は、金額の大きさよりも、その中に何が含まれているのか、どのような方法で求められているのかを確かめることが対応の出発点になります。一人で抱え込まず、記録を手元に残したまま、早めに専門家の目を通すことを考えてみてください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


