【男女トラブル】別れ話で払うと約束した金額を見直したい|約束の性質と内訳から見直せる範囲を確かめる

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は、2026年10月時点の民法(2020年4月1日施行の債権法改正後の条文)にもとづいて記載しています。婚姻関係にない交際相手どうしの金銭の約束を前提としており、夫婦間の取り決めや不貞慰謝料の示談では扱いが異なる部分があります。


「別れ話の席で『100万円払う』と言ってしまった。冷静になって考えると、なぜその金額になったのか自分でも説明できない」。交際を終えた後、こうしたご相談を男女を問わずお受けします。反対に、「別れるときに払うと約束されたのに、後から『減らしてほしい』と言われた」という、約束を受けた側からのご相談もあります。

 約束は守るべきもので、一度口にした金額を後から変えるのは簡単ではない、という説明をよく目にします。それ自体は誤りではありません。ただ、法律上の扱いは、その約束が「何についての約束だったか」「どのような形で交わされたか」によって大きく変わり、見直しの余地がある場面とない場面が分かれます。

 この記事では、別れ話の場で交わされた金銭の約束について、金額の内訳を一つずつ確かめる手順と、見直しを申し入れるときの進め方を整理します。交際中のお金が贈与か貸付かという一般論は別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いで、不貞慰謝料の示談をやり直せるかは【不貞慰謝料】一度結んだ示談を撤回・やり直しできるかで扱っています。

「払う」と言っただけで支払う義務は生じるのか

 契約は、申込みと承諾がそろえば成立し、書面の作成は原則として必要ありません(民法522条2項)。別れ話の場で「払う」と言い、相手が「それでいい」と応じれば、口約束であっても金銭を支払う合意自体は成立していると扱われるのが出発点です。

「その場を収めるために言っただけ」は理由になりにくい

 「本気で払うつもりはなかった」という事情は、それだけでは約束の効力を否定する理由になりにくいとされています。本心と異なる意思表示も原則として有効とされ(民法93条1項本文)、相手がその本心を知っていた、または知ることができた場合に限って無効となるためです(同項ただし書)。

約束の「性質」によって拘束の強さが変わる

 一方で、成立した約束がどこまで強く当事者を縛るかは、その約束が贈与にあたるのか、争いを収めるための和解にあたるのか、もともとあった支払義務を確認したものなのかで変わります。見直しを考えるときは、まず約束の総額を内訳に分け、それぞれの性質を確かめることが出発点になります。

約束した金額の内訳を一つずつ確かめる

 別れ話で決まった金額は、複数の名目がまとめて一つの数字になっていることが少なくありません。「借りていたお金の返済」「同棲中の家賃の精算」「交際中にもらった物の代金」「慰謝料」「気持ちとしての解決金」などが、区別されないまま「合計○○万円」とされている場合です。

内訳の例約束がなくても支払う義務があるか見直しの余地
借りたお金・立て替えてもらったお金借りた事実があれば返す義務がある借りた額や返済済みの額に誤りがないかを確かめる
同棲中の家賃・光熱費などの精算分担の取り決めや負担の実態による誰がいくら負担したかの記録によって変わりうる
交際中にもらった物・お金の返還原則として贈与で、受け取り済みなら返す義務はないこの部分を取り出して見直しを検討できる場合がある
慰謝料・損害賠償交際の解消だけでは原則として生じない根拠となる事実(婚約の不当な破棄など)があるかで変わる
解決金・手切れ金法的な義務ではなく、合意だけが根拠約束の性質(贈与か和解か)によって異なる


法的な支払義務がある部分と、合意だけが根拠の部分を分ける

 内訳を書き出すと、約束がなくても支払う義務がある部分と、約束をしたことだけが支払いの根拠になっている部分とに分かれます。見直しの対象になりやすいのは後者です。前者は、約束を見直しても支払う義務そのものは残るため、金額に誤りがないかを確かめることが中心になります。手切れ金に法的な支払義務があるかは手切れ金を請求された|支払う法的義務はあるのかで詳しく扱っています。

交際期間や支出の多さは、それだけでは根拠にならない

 「長く付き合ったのだから」「たくさんお金を使わせたのだから」という理由で金額が上積みされていることもあります。交際期間が清算にどう影響するかは【男女トラブル】交際期間の長さは金銭の清算に影響するのかで整理していますが、期間や支出額だけで支払うべき額が決まるわけではありません。

こちらから「払う」と申し出た約束|書面によらない贈与

 相手から求められたわけではなく、こちらから「けじめとして払う」と申し出て、相手が受け入れたような場合、その約束は贈与と評価されることがあります。

書面にしていなければ、まだ払っていない部分は解除できる

 書面によらない贈与は、各当事者が解除することができます(民法550条本文)。軽い気持ちで交わした贈与の約束から当事者を守り、後の争いを防ぐ趣旨とされています。口約束で「払う」と申し出ただけで、まだ支払っていない部分については、解除の意思を伝えることで支払いを免れる余地があります。

「書面」にあたるかどうかが分かれ目になる

 ここでいう書面は契約書の形式である必要はなく、贈与がされたことを確実に読み取れる程度の記載があれば足りるとするのが最高裁の判例です(最高裁昭和60年11月29日判決)。署名した合意書や念書はもちろん、手紙やメモが書面にあたる場合もあります。LINEなどのメッセージが書面にあたるかについては確立した基準があるとはいえず、やり取りの内容によって評価が分かれうるため、慎重な検討が必要です。

すでに払った部分は解除の対象にならない

 解除できるのは、まだ履行していない部分に限られます(同条ただし書)。分割で一部を払い終えている場合、払った分を取り戻すことは原則としてできず、見直しの対象は残りの支払いになります。

言い分を出し合って決めた金額|和解としての拘束力

 別れ話の場で、一方が「慰謝料として200万円」と求め、他方が「そこまでの理由はない」と反論し、話し合いの末に「100万円で終わりにする」と決めたような場合、その約束は和解と評価される可能性があります。和解は、争いのある当事者が互いに譲歩して争いをやめる約束です(民法695条)。

和解は口約束でも蒸し返しを認めない仕組み

 和解には書面によらない贈与のような解除の仕組みがなく、口約束でも拘束力が生じます。和解で決めた内容は、後から「本当は相手に権利がなかった」と示す証拠が出てきても、原則として合意どおりに扱われます(民法696条)。互いに譲り合って決めた金額は、「高すぎた」という理由だけでは一方的に見直せないのが原則です。

合意の前提となった事実が違っていた場合

 ただし、争っていた事柄そのものではなく、当事者が争いのない前提としていた事実に誤りがあった場合には、錯誤による取消しを主張できる余地があります(民法95条)。たとえば「妊娠した」と告げられたことを前提に金額を決めたものの、その事実がなかったような場面です。その前提が合意の際に示されていたかなど、個別の事情を確かめる必要があります。

約束の場に問題があった場合|強迫・詐欺による取消し

 「払うと言わなければ会社に知らせる」と迫られた、長時間帰してもらえなかった、事実と異なる説明を受けて金額を決めた、といった事情があれば、約束が書面か口約束か、贈与か和解かを問わず、強迫や詐欺を理由に取り消すことを検討できます(民法96条1項)。取り消された約束は初めから無効だったものとして扱われ(民法121条)、すでに支払ったお金について返還を求める根拠にもなりえます(民法121条の2第1項)。

取消しには期間の制限がある

 取消権は、追認をすることができる時から5年、約束をした時から20年を過ぎると時効によって消滅します(民法126条)。強迫による約束であれば、強迫の状態から抜け出した時が起算点の目安になります。時間が経つほど当時の状況を示す記録は散逸しやすいため、早めに整理しておくことが大切です。脅されて署名した書面の扱いは脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いで詳しく解説しています。

金額を動かせなくても、払い方は見直せる

 約束の性質から見て金額そのものの見直しが難しい場合でも、支払いの時期や回数、方法については、相手と改めて合意すれば変更できます。

分割と一括、どちらが負担を軽くするかは事情による

 支払いが苦しいときは分割払いへの変更を申し入れるのが一般的ですが、長期の分割は相手との接点が長く残り、支払いのたびに連絡が生じるという負担もあります。当事務所でも、相手方から3年の分割を提案された方について、一括での清算に切り替えて早期に合意書を交わした事例があります(【解決事例】別れ話に応じてもらえず連絡が止まらなかった男性|3年分割の提案を一括清算に切り替え、約1ヶ月で合意書を締結した事例)。

見直しと同時に、終わり方も決めておく

 条件を見直す際は、今回の支払いで双方の金銭関係がすべて清算されたことを確認する条項や、今後の接触を控える条項を合意書に入れておくと、後からの追加の請求を防ぐことにつながります。書面の作り方は手切れ金を払って関係を終わらせる|口外禁止・清算条項付き合意書の作り方で紹介しています。

見直しを申し入れる前に整えておきたいこと

 見直しの理由が法的に成り立つとしても、伝え方によっては相手の感情を刺激し、かえって要求が強まることがあります。申し入れの前に、次のような準備をしておくと話を進めやすくなります。

  • 約束の日時・場所・やり取りを、LINEの履歴や録音、当時のメモで確かめる。
  • 約束した総額を内訳に分け、名目ごとに金額を書き出す。
  • すでに支払った額と、まだ支払っていない額を分けておく。
  • 約束の場で、迫られた・帰してもらえなかったなどの事情がなかったかを振り返る。


黙って支払いを止めることは避ける

 約束が和解などとして有効に成立している場合、連絡をせずに支払いを止めると、相手から訴訟を起こされたり、遅れた分の損害金を求められたりすることがあります(民法415条1項・419条1項)。相手が勤務先や家族に連絡するなど、別のトラブルに発展するおそれもあります。見直しを求める場合も、相手に理由を伝える形をとるのが穏当です。

当事者どうしの再交渉が難しいとき

 別れた相手と金額の話を蒸し返すことは精神的な負担が大きく、繰り返し連絡をとる中で新たな衝突が生まれることもあります。弁護士が窓口になれば、本人どうしが直接やり取りする必要はなくなり、法的な根拠を踏まえて条件を整理し直すことができます。別れ話の場の記録の残し方は【男女トラブル】別れ話を録音しておくべきか|交際を終える話し合いでの記録の作り方で、交際の解消をめぐるトラブル全般は交際関係解消時のトラブル|別れ話でもめたときの対処法を弁護士が解説で解説しています。

よくあるご質問

LINEで「払います」と送ってしまいました。もう見直せないのでしょうか。

 送った内容が贈与の申し出であれば、そのメッセージが「書面」にあたるかによって解除の可否が変わります。和解として金額を決めたものであれば、書面の有無にかかわらず拘束力が生じます。いずれの場合も、強迫や詐欺、前提事実の錯誤があれば取消しを検討できるため、やり取り全体を見て判断することになります。

署名した合意書や誓約書がある場合はどうなりますか。

 署名した書面があれば、書面によらない贈与としての解除はできません。本人の署名がある書面は本人の意思で作成されたものと推定され(民事訴訟法228条4項)、合意の内容を示す有力な証拠にもなります。一方で、署名の経緯に強迫などがあれば取消しを主張できます。公正証書にしている場合は、それにもとづいて強制執行を受ける可能性があるため(民事執行法22条5号)、早めの対応が必要です。交際相手との書面の効力は【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力で扱っています。

約束どおりに長く払い続けてきました。今から見直すことはできますか。

 すでに払い終えた部分を取り戻せるのは、強迫や詐欺による取消しが認められる場合などに限られます。一方、これから払う部分については、約束の性質や経緯によって見直しの余地が残っていることがあります。当事務所でも、元交際相手に求められて長期間毎月の支払いを続けていた方について、弁護士からの通告によって支払いと接触が止まった事例があります(【解決事例】元交際相手から遊興費の返還を求められ4年近く毎月15万円を支払っていた女性|弁護士の通告で支払いと接触が止まった事例)。

まとめ


  1. 別れ話で「払う」と約束した場合、口約束でも合意は成立するのが出発点で、本心でなかったことは原則として理由にならない(民法522条2項・93条1項)。
  2. 見直しの第一歩は、約束した総額を、借りたお金の返済・費用の精算・贈与の返還・慰謝料・解決金などの内訳に分けて確かめること。
  3. こちらから申し出た支払いの約束が書面によらない贈与にあたれば、まだ払っていない部分は解除できる(民法550条)。
  4. 言い分を出し合って決めた金額は和解として扱われ、原則として後から蒸し返せない。ただし前提事実の錯誤があれば取消しの余地がある(民法695条・696条・95条)。
  5. 迫られて、またはだまされて約束した場合は、約束の形を問わず取消しを検討でき、期間の制限がある(民法96条1項・126条)。
  6. 金額を動かせなくても支払いの時期や回数は合意で見直せる。その際は清算条項や接触を控える条項を合意書に入れておく。
  7. 黙って支払いを止めるのではなく、理由を伝える形で見直しを申し入れる(民法415条1項・419条1項)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。別れ話の場で決めた金額がどこまで見直せるのかを、約束の経緯と内訳を伺ったうえで一緒に整理します。

約束をして支払いに不安を感じている方も、約束どおりの支払いを受けられずお困りの方も、相手と直接のやり取りを続ける前に一度ご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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