【不貞慰謝料】請求した側が逆に慰謝料を請求されるケース
恋人が始めたお店や会社のために、まとまったお金を出した。交際中は応援のつもりでも、別れることになると「あのお金は返してもらえるのか」という疑問が残ります。相手から「出資なのだから返す必要はない」「事業が赤字だから戻せるものはない」と言われ、どう考えればよいか分からなくなる方も少なくありません。
この記事では、恋人の事業に出したお金について、別れた後に返還を求められるかどうかを、お金の法的な性格ごとに整理します。結論を先にお伝えすると、「出資」という言葉が使われていたかどうかではなく、出したときの約束の中身と残っている記録によって、取れる手段が変わります。
本記事は2026年10月時点の法令をもとに、一般的な考え方を解説したものです。個別の事案の結論は、事実関係や証拠の内容によって異なります。
「出資」という言葉だけでは、返してもらえるかは決まらない
交際相手の事業にお金を出すとき、当事者は「出資」「援助」「応援」「投資」など、さまざまな言葉を使います。しかし法律上は、言葉の選び方よりも、そのお金をどういう約束で渡したのかが問題になります。大きく分けると、次の3つのいずれかとして扱われることが多いでしょう。
| お金の性格 | 約束の中身 | 別れた後の扱いの目安 |
|---|---|---|
| 貸付(貸したお金) | いずれ返してもらう約束がある | 返済の時期が来ていれば、返還を求められる |
| 出資(事業への参加) | 事業の利益や持分を受け取る約束がある | 事業の形態に応じて、持分の払戻しや譲渡などで清算する |
| 贈与(あげたお金) | 返してもらう約束がない | 原則として返還を求めることは難しい |
実際には、交際中の金銭のやり取りで契約書が作られていることはまれです。そのため、相手は「もらったものだ」と、こちらは「貸しただけだ」と、同じお金について言い分が分かれやすくなります。どの性格にあたるかは、当時のやり取りや金額、事業への関わり方などを総合して判断されます。
お金の性格を見分けるときに見られる事情
- 借用書・覚書・出資契約書などの書面があるか。
- LINEやメールに「返す」「利益が出たら分ける」「株主になってほしい」といった言葉が残っているか。
- 振込の名目や送金先が、相手個人の口座か会社の口座か。
- 金額が交際中のプレゼントと比べて大きいか、何回に分けて渡したか。
- 会社の登記や株主名簿に、自分の名前が載っているか。
- 帳簿を見せてもらう、経営の相談を受けるなど、事業に関わっていたか。
- これまでに返済や配当として一部でも受け取ったことがあるか。
たとえば「開店資金が足りないので貸してほしい。売上が出たら毎月返す」というメッセージが残っていれば、貸付と見られる方向に働きます。反対に、事業の利益を分けてもらう約束や持分の取り決めがあれば、出資としての清算を考えることになります。何の言葉も残っておらず、交際の延長として渡していた場合は、贈与と主張される余地が大きくなります。
交際中に渡したお金全般の考え方は、恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?でも解説しています。
貸付と言える場合|別れたことと返済の時期
事業資金として貸したお金であれば、相手には返す義務があります。ただし、別れたことによって、すぐに全額を返してもらえるとは限りません。返済の時期についての約束によって、考え方が変わります。
返済日や分割の回数を決めていたのであれば、原則としてその約束に従います。返す時期を何も決めていなかった場合は、相当の期間を定めて返済を求めれば、その期間が過ぎた時点で返す時期が来たものと扱われます(民法591条1項)。
交際中によく見られるのが、「事業が軌道に乗ったら返す」という約束です。このような、いわゆる出世払いの約束については、古い大審院の判例で、事業がうまくいかないことが確定した時点でも返済の時期が来ると解されたものがあります。そのため「軌道に乗っていないから返さなくてよい」という相手の言い分が、そのまま通るとは限りません。もっとも、どの時点で見込みがなくなったといえるかは事案によって異なるため、事業の現状を確かめたうえで判断することになります。
出資と言える場合|事業の形によって清算の方法が変わる
事業に参加する立場でお金を出していた場合は、「貸したお金を返して」という形では請求できず、事業の形態に応じた清算の方法をとることになります。
株式会社の株主になっている場合
株式会社に出資して株主になった場合、会社に対して出資金そのものを払い戻すよう求めることは、原則としてできません。考えられるのは、持っている株式を相手や第三者に買い取ってもらう交渉です。小規模な会社では株式の譲渡に会社の承認が必要とされていることが多く、相手との話し合いが中心になります。
合同会社の社員になっている場合
合同会社などの持分会社では、社員が退社すると、持分の払戻しを受けられる仕組みがあります(会社法611条)。ただし、払い戻される金額は出した金額ではなく、退社の時点での会社の財産状況によって決まります。
会社を作らず二人で事業をしていた場合
二人でお金や労務を出し合って事業をしていた場合は、民法上の組合と評価されることがあります。この場合、組合から脱退した人は持分の払戻しを受けられます(民法681条)。事業に損失が出ていれば、その分を負担することになり、戻る金額が少なくなることもあります。
利益の分配を受ける約束だけだった場合
経営には関わらず、相手の事業の利益を分けてもらう約束でお金を出していた場合は、匿名組合と評価されることがあります(商法535条)。契約が終了すると出資の価額の返還を受けられますが、損失で出資が減っていれば、残った額の返還にとどまります(商法542条)。
いずれの形でも、事業が赤字であれば、出した金額がそのまま戻るとは限りません。一方で、帳簿や会社の財産の状況を確認する手段がある場合もあるため、相手の「戻せるものはない」という説明を、確認しないまま受け入れる必要はありません。
贈与と言われた場合の考え方
相手から「あれはもらったお金だ」と言われた場合でも、それだけで請求が閉ざされるわけではありません。贈与かどうかは、先ほど挙げた事情から判断されます。
本当に贈与であった場合、書面によらない贈与でも、すでに渡し終えたお金について後から取り消すことはできません(民法550条)。「別れたら返す」という条件がついていたと主張することも考えられますが、その条件があったことを示す記録が必要になり、認められる場面は限られます。
これに対して、事業の計画や経営状況について嘘を告げられてお金を出していた場合は、詐欺を理由に約束を取り消したり、損害賠償を求めたりする余地があります(民法96条、709条)。事情を偽られていたと分かった後の考え方は、【男女トラブル】病気や不幸の話を信じてお金を渡していた|嘘だと分かった後もあわせてご覧ください。
返還を求めるときの進め方
- 振込の記録、LINEやメールのやり取り、書面を、消える前に保存する。
- 登記事項証明書などで、会社の有無や役員・出資の状況を確かめる。
- 貸付・出資・贈与のどれにあたるかを整理し、求める内容を決める。
- 書面で返還や清算を求め、相手の回答を記録に残す。
- 合意できたら、金額・支払方法・接触の取り決めを合意書にまとめる。
- 合意できない場合は、調停や訴訟などの手続を検討する。
請求には時効があることにも注意が必要です。貸付の返還請求であれば、返済の時期が来たことを知った時から5年で時効にかかるのが原則です(民法166条1項)。請求の種類ごとの期間は、男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかにまとめています。
別れ話と清算を同時に進めるときの注意点
別れ話の場で感情的になり、「もうお金はいい」と口にしてしまうと、後から放棄したと主張されるおそれがあります。お金の話は別れ話と切り分け、記録の残る方法で進めるほうが安全です。口頭で条件を決めてしまった場合の対応は、【男女トラブル】口約束で別れの条件を決めてしまった|後から書面にする方法で解説しています。
また、返済を求めるために相手の取引先や従業員へ連絡することは、名誉や業務への影響を理由に、こちらが責任を問われるきっかけになりかねません。請求の相手はあくまで本人や会社とし、連絡の方法にも配慮が必要です。共同で営んでいた事業の解消が問題になった事例として、【解決事例】交際相手との共同事業解消・競業トラブル|1,000万円超の債権を交渉材料に損害賠償請求を回避し事業の分離を実現した事例もご参照ください。
よくあるご質問
事業がすでに廃業している場合でも請求できますか
貸付であれば、事業をやめたことで返済の義務がなくなるわけではありません。出資の場合は、残った財産から清算する考え方になるため、戻る金額が限られることがあります。
結婚の約束があった場合は、何か変わりますか
婚約が成立していたといえる場合、正当な理由のない婚約の破棄であれば、損害賠償を求める余地が生じます。ただし、事業資金の返還そのものとは別の問題として整理する必要があります。
少額であれば、自分で請求したほうがよいですか
金額や証拠の状況によっては、ご本人で請求できる場合もあります。一方、相手が出資だと主張している場合や、会社が関わっている場合は、法的な整理を誤ると請求の方向そのものがずれることがあるため、早めに専門家の意見を聞くことをおすすめします。
まとめ
恋人の事業に出したお金を別れた後に返してもらえるかは、そのお金が貸付・出資・贈与のどれにあたるかによって変わります。出資であっても、事業の形態に応じて持分の払戻しや譲渡を通じた清算を求められる場合があり、贈与と言われた場合でも事情によっては請求の余地が残ります。まずは当時のやり取りと送金の記録を確保し、どの立場で請求するのかを整理するところから始めることが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


