「その分野に強い弁護士」をどう見分けるか|専門・注力表示の読み方
弁護士に依頼すると、多くの場合、最初に相手方へ送られるのが「受任通知」という書面です。名前は聞いたことがあっても、そこに何が書かれ、届いた後に相手方との関係がどう変わるのかまでは、あまり知られていません。
受任通知は「送れば相手からの連絡が止まる書面」と説明されることもありますが、実際には、止まる場面と止まらない場面があります。この記事では、受任通知とは何かを整理したうえで、送付によって何が変わり、何は変わらないのかを見ていきます。
受任通知とは、「代理人になりました」を相手方に伝える書面
受任通知とは、弁護士が依頼者から事件の委任を受けたことを、相手方に知らせる書面です。事件に介入したことを知らせるという意味で「介入通知」、借金の整理の場面では「債務整理開始通知」と呼ばれることもあります。
差出人は弁護士または弁護士法人で、宛先は原則として相手方本人です。相手方にすでに弁護士がついている場合には、その弁護士宛てに送ります。
順序としては、依頼者と弁護士の間で委任契約を結び、そのうえで受任通知が発送されます。相談を受けただけの段階では、通常、受任通知は送られません。相談と依頼は別の段階であり、依頼していないのに弁護士名の書面が相手方に届くことは基本的にありません。
債務整理だけの書面ではない
インターネットで「受任通知」を調べると、借金の取立てを止める書面としての説明が多く出てきます。これは、債務整理の実務で受任通知が日常的に使われているためです。
もっとも、受任通知そのものは債務整理に限られたものではありません。離婚や男女間のトラブル、慰謝料の請求や支払い、相続、労働、貸したお金の回収、近隣や取引先との争いなど、相手方がいる民事の問題では広く使われています。
送り方に決まった形式はない
受任通知の送り方に法律上の決まりはありません。普通郵便で送ることもあれば、内容が争いになりそうな場合や到達の記録を残しておきたい場合には、内容証明郵便や配達証明を付けて送ることもあります。急ぐ場合に、まずファクシミリやメールで知らせ、あらためて郵送するという扱いをすることもあります。
どの方法をとるかは、相手方の性格、事案の緊急度、記録の必要性を見たうえで判断されます。
受任通知には何が書かれているか
書式は事務所ごとに異なりますが、記載される内容はおおむね次のようなものです。
- 弁護士が誰の代理人として就任したか
- どの件についての委任か(事件の特定)
- 依頼者側の主張の要点
- 相手方に求める内容と、その期限
- 今後の連絡は弁護士宛てにしてほしいこと
- 本人への直接の連絡を控えてほしいこと
- 必要に応じて、資料や取引履歴の開示を求めること
請求を伴う事案では、金額や支払方法まで書き込むことがあります。一方で、まずは窓口を移すことだけを目的として、主張や金額には踏み込まない簡潔な通知にとどめることもあります。どこまで書くかは、その後の交渉の進め方と関係する判断です。
依頼者の住所や連絡先は原則として書かない
受任通知の差出人欄には、弁護士の事務所の住所と電話番号が記載されます。依頼者本人の住所や電話番号は、必要がない限り記載しません。
これは、相手方に居場所を知られたくない事情がある場合に意味を持ちます。別居した配偶者や、関係が終わった交際相手との間で連絡を絶ちたい場合、書き方によっては意図せず手がかりを与えてしまうことがあるためです。気になる点があれば、発送前に弁護士に伝えておくとよいでしょう。
変化その1|連絡の宛先が本人から弁護士に移る
受任通知が届いてまず変わるのは、相手方の連絡先です。それまで本人の携帯電話やメールに来ていた連絡が、法律事務所宛てに切り替わります。
ただし、「受任通知を送れば連絡が必ず止まる」とは言えません。連絡が止まる根拠は、場面によって次の三つに分かれます。
| 効果の種類 | 根拠 | どこまで言えるか |
|---|---|---|
| 法律上の連絡・取立ての制限 | 貸金業法21条1項9号、債権管理回収業に関する特別措置法18条8項 | 貸金業者や債権回収会社などが相手方の場合に限られる。違反は行政処分や罰則の対象となり得る |
| 相手方の弁護士に対する規律 | 弁護士職務基本規程52条 | 相手方に弁護士がついた場合、その弁護士は正当な理由なく、こちらの代理人の承諾を得ずに本人と直接交渉できない |
| 事実上の効果 | 法律上の根拠はない | 個人が相手方の場合はここに含まれる。窓口が弁護士に切り替わることが多いものの、法律上の義務として止まるわけではない |
個人が相手のときは「事実上の効果」にとどまる
表のうち、法律で直接の連絡が制限されるのは、貸金業者や債権回収会社を相手にした債務整理の場面です。銀行や信用金庫はこれらの法律の直接の適用対象ではありませんが、実務上は弁護士を窓口として扱うのが通常です。
これに対し、元交際相手、親族、知人、個人の取引相手といった私人が相手方の場合、受任通知を受け取った人が本人に連絡してはならないという法律上の義務はありません。それでも連絡が弁護士に移ることが多いのは、弁護士が入った以上、本人に言っても結論が動かないと相手方が判断するためです。事実上の効果は小さくありませんが、確実に止まると断定できるものではありません。
通知の後も本人への連絡が続く場合の対処は、記録を残しながら、代理人と相談して決めていくことになります。
変化その2|話し合いの進め方が変わる
連絡先が変わることと並んで大きいのが、やり取りの中身の変化です。
- 口頭中心のやり取りから、書面中心のやり取りに変わる
- 感情の応酬ではなく、争点と根拠を示し合う形に整理されやすい
- 回答期限が設定され、進行に区切りができる
- 相手方も弁護士を立て、弁護士同士の交渉になることがある
当事者同士では詰められなかった論点が、代理人を介することで整理される場合があります。相手方の言い分が行き過ぎている場合に、相手方の弁護士がその点を説明し、条件が現実的な範囲に落ち着くこともあります。
速く進むとは限らない
一方で、受任通知を送れば話が早く進むとは限りません。書面のやり取りは往復に時間がかかり、双方が代理人を通すことで確認の手数も増えます。当事者同士なら数分で済んだ確認に、数日から数週間かかることもあります。
また、弁護士が出てきたこと自体に相手方が反発し、態度が硬くなることもあります。そうした場合でも、やり取りが記録として残るという利点は失われませんが、「送れば穏やかに解決する」と考えていると、見通しを誤ります。
変化その3|法律上の時計が動き出すことがある
受任通知は、単なる挨拶の書面ではありません。内容によっては、法律上の意味を持つことがあります。
請求を含む場合は時効の完成猶予
受任通知に具体的な請求が書かれている場合、その通知は民法上の催告として扱われることがあります。催告があると、その時から6か月を経過するまでの間は時効が完成しません(民法150条1項)。時効の期間が迫っている事案では、通知を出す時期そのものが意味を持ちます。
債務整理では「支払の停止」と評価されることがある
債務整理の受任通知については、最高裁判所が、債権者一般に宛てて送られた債務整理開始通知の送付を、破産法上の「支払の停止」に当たると判断した例があります(最高裁平成24年10月19日判決)。
この評価が意味を持つのは、通知の後に一部の債権者にだけ返済をした場合です。破産手続では、そうした返済が後から否認の対象になることがあります。通知の発送後に自己判断で支払いをしないよう求められるのは、こうした理由によります。
契約上の扱いが変わることがある
金銭に関する契約では、弁護士から債務整理の通知が届いたことを、期限の利益を失う事由として定めていることがあります。この場合、分割払いの残額を一括で請求できる状態になります。
また、債務整理の受任通知が届いたことは、信用情報機関に記録されることがあります。記録の有無や内容、保有される期間は機関によって異なるため、一律の説明はできません。借入先の銀行に通知が届いて口座が凍結される、保証人に請求が向かうといった影響が生じることもあります。
こうした影響があるため、債務整理では、受任通知をいつ、どの相手に送るかを事前に設計します。「早ければ早いほどよい」とは限らない領域です。
受任通知が届いても変わらないこと
受任通知は関係の入口を変える書面であって、結論を決める書面ではありません。変わることと変わらないことを整理すると、次のようになります。
| 項目 | 受任通知の送付でどうなるか |
|---|---|
| 相手方からの連絡先 | 弁護士に切り替わることが多い。法律上の義務として止まるのは限られた場合 |
| 話し合いの形 | 書面中心になり、争点と根拠のやり取りに整理されやすい |
| 支払義務の有無や金額 | 変わらない。証拠と交渉、最終的には裁判所の判断で決まる |
| 過去の事実関係 | 変わらない。説明すべき事実はそのまま残る |
| 相手方が裁判を起こす自由 | 変わらない。交渉が調わなければ訴訟や調停に進む |
| 刑事手続の進行 | 止まらない。刑事事件は民事の交渉とは別に進む |
刑事事件では受任通知とは別の手続をとる
刑事事件で弁護士が付く場合、相手方に受任通知を送るという形はとりません。弁護人は、被疑者・被告人と連署した弁護人選任届を、捜査機関または裁判所に提出します(刑事訴訟規則17条、18条)。捜査機関とのやり取りや被害者側との示談交渉は、これとは別に行われます。
民事の交渉のために受任通知を送っても、それによって捜査や刑事手続が止まることはありません。民事と刑事が同時に動いている事案では、両方の見通しを合わせて方針を決める必要があります。
受任通知を送らない場合もある
依頼したからといって、必ず受任通知が送られるわけではありません。次のような場合には、送らない、あるいは時期をずらすという判断がされることがあります。
- 交渉を経ずに、すぐ訴訟や調停を申し立てる場合(訴状や申立書によって弁護士がついたことが伝わる)
- すでに相手方から訴訟を起こされている場合(訴訟代理人として裁判所に届け出れば足りる)
- 交渉までは依頼せず、方針の相談だけを受けている場合
- 弁護士がついたと知ることで、相手方が態度を硬化させる、または証拠を処分するおそれが高い場合
- 証拠の保全や事実の確認を先に済ませる必要がある場合
- 相手方が匿名で、氏名や住所が分からない場合
- 債務整理で、口座や保証人についての準備を先に整える必要がある場合
このうち「相談だけを受けている場合」については、相手方が弁護士に問い合わせても、依頼の有無を答えてもらうことはできません。弁護士には守秘義務があるためです。
受任通知を出すかどうか、出すとしていつ出すかは、依頼者の意向を確認しながら判断されます。急いで出してほしい事情、逆にまだ知られたくない事情があるときは、依頼の段階で伝えておくことが大切です。
送った後、依頼者本人が気をつけること
受任通知を出すと、窓口は弁護士に一本化されます。それを崩さないための注意点がいくつかあります。
- 相手方から連絡が来ても、自分で内容に踏み込んだ返事をしない
- 返事をする場合は「その件は弁護士に任せています」にとどめる
- 連絡が来たこと、その内容を弁護士に伝える
- 相手方や事件の内容をSNSに書かない
- 相手方と直接会って話を進めない
依頼者本人が相手方とやり取りをしてしまうと、窓口が二つある状態になります。「本人はこう言っていた」と持ち出されると、代理人の交渉が進めにくくなります。深い意図のない相槌が、後から合意の根拠のように扱われることもあります。
もっとも、連絡を絶つことと、弁護士に事実を伝えることは別です。相手方から接触があった事実は、その都度、代理人に共有しておくことが望まれます。
自分が受け取る側になったとき
相手方の弁護士から受任通知が届いた場合も、考え方の骨格は変わりません。
まず、受任通知は支払義務が確定したことを示す書面ではありません。書かれている金額は相手方の主張であって、そのまま応じなければならないものではありません。
一方で、放置してよい書面でもありません。交渉の機会が使われないまま、訴訟や支払督促に進むことがあります。通知に書かれた期限は差出人が設定したものなので、過ぎたら直ちに何かが確定するわけではありませんが、相手方が次の手続に進むかどうかの判断材料にはなります。
通知が届いたら、期限までに受け取った旨と確認中である旨を返しておく、内容に心当たりがあるかを整理する、関係する記録を消さずに残す、といった対応が現実的です。内容に納得できない場合や、こちらから反論したい場合には、自分も弁護士に相談することを検討してよい場面です。
おわりに
受任通知は、弁護士が代理人になったことを相手方に伝える書面です。送られると、連絡の宛先が変わり、話し合いが書面と争点のやり取りに整理され、事案によっては時効や契約上の扱いにも影響します。
一方で、受任通知が支払義務の有無を決めるわけではなく、相手方からの連絡が法律上止まるのも限られた場面です。「送れば解決する」書面ではなく、「話し合いの土俵を作り直す」書面と考えておくと、実際の経過とのずれが小さくなります。
どの時期に、どの相手方に、どこまで書いた通知を送るかは、事案によって変わります。相手方との関係を整理したい段階にある方は、通知を出すことの利点と副作用の両方を確認したうえで、方針を決めておくことをおすすめします。


