【男女トラブル】別れを告げたら「今までの時間を返せ」と言われた|時間の対価は請求できるのか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は、2026年10月時点の民法と、最高裁判所の判例(最判昭和33年4月11日、最判昭和38年9月5日、最判平成16年11月18日)を踏まえて作成しています。個別の事案の結論は、交際の経緯や残っている記録によって変わります。


「別れを告げたら『今まで付き合ってきた時間を返せ』と言われた」「大事な時期を費やしたのだから、その分を払ってほしいと金額まで示された」。男女トラブルのご相談では、このような言葉をきっかけに来所される方が少なくありません。反対に、「何年も結婚を待った末に別れを告げられた。費やした時間について何も言えないのか」というご相談もあります。

 交際を終えることだけでは慰謝料は発生しない、という一般的な説明は、それ自体誤りではありません。ただ、この説明だけでは、「時間を返せ」という言葉の中に、婚約の成立や別の不法行為の主張が含まれているのかどうかが見えてきません。言葉は同じでも、背後にある関係によって結論が変わるためです。

 この記事では、「時間」そのものに対価を求める請求が法的にどう扱われるのか、例外として金銭の支払いが問題になるのはどのような場面か、請求を受けた側がどう対応するかを整理します。交際中に渡したお金の返還については別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いで、交際期間の長さが清算に与える影響については【男女トラブル】交際期間の長さは金銭の清算に影響するのかで扱っていますので、あわせてご覧ください。

「時間を返せ」は法的には何を求めているのか

時間そのものを返す・買い取る請求権はない

 交際は、互いの自由な意思で始まり、どちらか一方の意思で終えることができる関係です。交際を続けることを約束していたとしても、それだけで交際を続ける法的な義務が生じるとは考えられていません。

 また、交際中の時間は二人が共に過ごしたものであり、一方が他方のために提供した労務のように、対価が予定されているものではありません。そのため、「交際に費やした時間を金額に換算して支払え」という形の請求には、それを直接支える法的な根拠が見当たらないのが通常です。

法的な請求に置き換えると、いくつかの類型に分かれる

 「時間を返せ」という言葉は感情の表現であることが多い一方で、その中に法的な主張が含まれている場合もあります。相手の言い分を法的な請求に置き換えると、おおむね次のように分かれます。

相手の言い分法的に置き換えた請求主な争点
「結婚すると言っていたのに」婚約の不当破棄による損害賠償婚約が成立していたか、解消に正当な理由があるか
「夫婦同然に暮らしてきた」内縁の不当破棄による損害賠償夫婦としての共同生活の実態があったか
「独身だと思っていた」「だまされた」貞操権侵害などの不法行為による損害賠償既婚を隠していたか、結婚を約束して関係を持ったか
「渡したお金やプレゼントを返せ」贈与・貸付の清算贈与だったのか、貸付だったのか
「費やした時間の分を払え」対応する請求権がない―


 結論を分けるのは「時間を返せ」という言葉そのものではなく、二人の関係が婚約や内縁などに当たるかどうかです。まずは相手の言い分がどの類型に近いのかを見極めることが、対応の出発点になります。

交際の解消が原則として違法とされない理由

 損害賠償の根拠となる不法行為は、他人の権利や法律上保護される利益を侵害した場合に成立します(民法709条)。単に交際しているだけの関係は、たとえ同居していたとしても、関係が続くこと自体が法的に保護される利益とは一般に考えられていません。

 そのため、別れを告げたことによって相手が深く傷ついたとしても、そのことだけで慰謝料(民法710条)の支払義務が生じるわけではない、というのが基本的な考え方です。

長く付き合ったことは、それだけで請求の根拠になるのか

約16年続いた関係でも責任が否定された最高裁判決

 交際期間の長さについて参考になるのが、最高裁判所平成16年11月18日判決です。この事案では、男女が約16年にわたって関係を続け、その間に2人の子どももいましたが、婚姻はせず、同居して共同生活を営むこともありませんでした。一方が突然関係を解消したことについて、原審は不法行為責任を認めましたが、最高裁は責任を否定しました。

 最高裁は、二人が婚姻という法律上の枠組みをあえて選ばずにいたことなどを踏まえ、関係の存続について一方が他方に法的な義務を負うとはいえず、他方も関係の存続について法的な権利や利益を持つとはいえない、と判断しています。期間が長いことだけでは、関係を続けることを求める法的な権利は生まれにくいことが示された判断といえます。

期間の長さが意味を持つのは、婚約や内縁を判断する材料として

 もっとも、交際期間がまったく考慮されないわけではありません。同居の期間や生活費の分担、親族との付き合い方などとあわせて、婚約や内縁が成立していたかどうかを判断する材料の一つとして評価されることがあります。

 つまり、期間の長さは、それ自体が請求の根拠になるというよりも、「婚約・内縁に当たる関係だったか」を判断する事情の一つとして意味を持つと整理できます。

金銭の支払いが問題になる例外的な場面

婚約が成立していた場合

 婚約は、将来夫婦になろうという真摯な合意があれば成立し、結納や指輪の交換といった形式は必ずしも必要ではないとされています(最判昭和38年9月5日)。婚約が成立していたのに、正当な理由なく一方的に解消した場合には、損害賠償の責任が生じることがあります。

 ただし、この場合に賠償の対象となるのは、精神的な苦痛に対する慰謝料のほか、結婚式場のキャンセル料、新居の準備費用、結婚のために退職した場合の収入の減少など、婚約の解消と結びついた損害です。婚約が成立していた場合でも、「費やした時間」そのものが金額に換算されるわけではありません。婚約破棄の詳しい考え方は婚約を一方的に破棄された|慰謝料を請求できるケース・できないケースと結婚をやめたい|婚約の解消で慰謝料を払わずに済む「正当な理由」とはで解説しています。

内縁関係にあった場合

 内縁とは、婚姻届を出していないものの、互いに夫婦として共同生活を営んでいる関係をいいます。内縁は婚姻に準ずる関係として扱われ、正当な理由なく一方的に解消した場合には、不法行為として損害賠償の対象になるとされています(最判昭和33年4月11日)。

 内縁に当たるかどうかは、同居の期間、家計の一体性、親族や周囲への紹介のされ方などを総合して判断されます。「同棲していた」というだけで内縁と認められるとは限りません。内縁解消の際の扱いは【男女トラブル】内縁・事実婚を解消するとき|法律上の夫婦と何が同じで、何が違うのかで整理しています。

既婚を隠していた・結婚をちらつかせていた場合

 別れを告げた側が、実は既婚であることを隠して交際していた場合や、結婚する意思がないのに結婚を約束して関係を続けていた場合には、交際の解消とは別に、相手の人格的な利益を侵害したとして損害賠償が問題になることがあります。

 この場合に問われているのは別れたことではなく、交際の過程での欺く行為です。詳しくは既婚を隠されて交際|だまされた側が慰謝料を請求できる条件と結婚をちらつかせて金銭・関係を得る|結婚詐欺と貞操権侵害の境界をご覧ください。

「時間を返せ」と金銭を求められたときの対応

その場で金額に同意せず、書面にも署名しない

 別れ話の最中に金額を示され、「払うと言うまで帰さない」「ここに署名して」と迫られる場面があります。合意は口頭でも成立し得るため、その場で「分かった」「払う」と答えたことが、後で合意があったと主張される材料になることがあります。

 その場では結論を出さず、「持ち帰って検討する」と伝えて区切ることが大切です。すでに署名してしまった書面がある場合の考え方は【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力で、話し合いの記録の残し方は【男女トラブル】別れ話を録音しておくべきか|交際を終える話し合いでの記録の作り方で解説しています。

相手の主張が婚約・内縁に当たるかを確認する

 請求に応じる必要があるかどうかは、二人の関係が婚約や内縁に当たるかで大きく変わります。次のような事情を、記録とともに振り返っておくと判断の材料になります。

  • 婚約指輪の授受や、結婚式場の下見・予約をしていたか。
  • 両家の親に結婚相手として紹介し、顔合わせをしていたか。
  • 同居していたか、していた場合の期間と生活費の分担はどうだったか。
  • 結婚の時期や新居について、具体的な話し合いをしていたか。


 「いつか結婚できたらいい」といった会話があった程度では、婚約の成立までは認められないことも多くあります。婚約の成立を争って請求額が大きく下がった例として、【解決事例】「婚約は成立していない」ことを踏まえた交渉で、慰謝料請求を100万円から10万円へ減額した事例もご参照ください。

言い方が脅しに及ぶ場合

 「払わないなら職場や家族に話す」「写真をばらまく」といった言葉で支払いを迫られている場合には、請求の当否とは別に、脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(刑法249条)が問題になる可能性があります。このような場面では、身の安全と記録の確保を優先し、警察や弁護士への相談を検討してください。

 対応の考え方は元恋人からの脅迫・強要|「別れるなら〜」への刑事対応(脅迫罪・強要罪)で、連絡が止まらない場合の対処は別れ話のもつれでLINE・電話が止まらない|接触禁止を実現する方法で解説しています。

解決金を支払って区切りをつけるという選択

法的な義務がなくても、合意で終える場面はある

 「時間を返せ」という請求に法的な根拠が乏しい場合でも、話し合いが長引くことによる負担や、連絡が続くことへの不安から、一定の金額を支払って関係を終えたいと考える方もいます。この場合の支払いは、時間の対価や慰謝料としてではなく、紛争を終わらせるための解決金として位置づけるのが一般的です。

 支払う法的義務の有無と、支払って終えるかどうかの判断は、分けて考えることができます。考え方は手切れ金を請求された|支払う法的義務はあるのかで整理しています。

支払う場合は、清算条項と接触禁止条項を合意書に入れる

 解決金を支払う場合には、口約束で済ませず、合意書を作成しておくことが大切です。「本件に関し、当事者間に何らの債権債務がないことを相互に確認する」という清算条項と、今後の接触を控える条項をあわせて入れることで、後から別の名目で請求が繰り返されることを防ぎやすくなります(民法695条・696条)。

 合意書の作り方は手切れ金を払って関係を終わらせる|口外禁止・清算条項付き合意書の作り方で解説しています。

よくあるご質問

交際中に「別れたら違約金を払う」という誓約書を書いていました。支払わなければなりませんか?

 交際を終える自由を不当に縛る約束は、公の秩序や善良の風俗に反するものとして無効とされる余地があります(民法90条)。ただし、書面を作った経緯や金額、どのような場合に支払う約束だったかによって評価は変わるため、一律に無効とまではいえません。書面の内容を確認したうえで判断することをおすすめします。

相手が「結婚を前提に付き合っていた」と言い張っています。婚約は成立しているのでしょうか?

 婚約の成否は、当事者の言い分だけでなく、指輪の授受、式場の予約、親族への紹介、同居の有無といった客観的な事情から判断されます。結婚が話題に上ったことがあるという程度では、婚約の成立が認められないことも少なくありません。相手が挙げる事情を一つずつ確認していくことが大切です。

長い交際の末に別れを告げられた側は、何も請求できないのでしょうか?

 交際の解消だけを理由とする請求は難しいのが通常ですが、婚約や内縁が成立していた場合、相手が既婚を隠していた場合などには、損害賠償を求められる可能性があります。また、交際中に立て替えた費用の清算は、慰謝料とは別の問題として検討できます。立替金については交際中に立て替えた生活費・プレゼント代は返してもらえる?をご覧ください。

まとめ


  1. 交際は互いの自由な意思で終えられる関係であり、交際に費やした時間そのものを金銭に換算して請求する権利は、通常認められません(民法709条・710条)。
  2. 約16年続いた婚姻外の関係でも、関係の存続について法的な権利や利益はないとして、一方的な解消の責任が否定された例があります(最判平成16年11月18日)。
  3. 婚約が成立していた場合、正当な理由のない一方的な解消は損害賠償の対象になり得ますが、賠償されるのは慰謝料や結婚準備の費用などで、時間の対価ではありません(最判昭和38年9月5日)。
  4. 内縁関係を正当な理由なく解消した場合も、不法行為として損害賠償の対象になるとされています(最判昭和33年4月11日)。
  5. 既婚を隠していた、結婚をちらつかせていたといった事情がある場合は、交際の解消とは別の不法行為が問題になります(民法709条)。
  6. 請求を受けたら、その場で同意や署名をせず、関係が婚約・内縁に当たるかを確認します。脅しを伴う場合は刑事上の対応も検討します(刑法222条・249条)。
  7. 解決金を支払って終える場合は、清算条項と接触禁止条項を入れた合意書を作成します(民法695条・696条)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。「時間を返せ」といった請求が法的にどのような意味を持つのか、応じる必要があるのかを、交際の経緯を伺ったうえで整理いたします。
別れを告げた後に金銭を求められてお困りの方も、長い交際の末に一方的に別れを告げられ、請求できるものがあるのか知りたい方も、お一人で判断する前にお気軽にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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