マッチングアプリで美人局に遭った|「彼氏を名乗る男」への対処
「もう関係を終わらせたい」「一定額を払ってでも、後腐れなくきれいに清算したい」——そう考えて手切れ金を支払う方は少なくありません。もっとも、金銭を渡すだけで終わりにしてしまうと、あとから「言った・言わない」の争いになったり、追加のお金を請求されたり、関係の事実を第三者に話されたりといった新たなトラブルにつながることがあります。
そこで大切になるのが、支払いと引き換えに合意書(示談書)を作成しておくことです。この記事では、支払うと決めた側の立場から、清算条項と口外禁止条項を中心に、合意書に盛り込みたい項目とその作り方、注意点を整理します。
手切れ金は「払う前に、払った後の約束を固める」
手切れ金は法律用語ではなく、男女関係を清算するために渡す任意のお金を指す俗称です。慰謝料のように法律上の根拠(民法709条・710条など)があるものとは異なり、婚約や不貞といった事情がなければ、別れること自体に支払い義務が生じるわけではありません。
それでも実務上は、感情的なやり取りを早く終わらせたい、関係の事実を周囲に広げたくない、といった理由から、一定額を払って合意することがあります。任意に支払う場合ほど、「いくら払うか」だけでなく「払った後に何を約束してもらうか」を先に決めておくことが重要になります。ここが曖昧なまま先にお金だけ渡すと、こちらに有利な材料がなくなってしまうためです。
書面の作成は、請求する側が進んで行うことは多くありません。清算をきちんと形にしたいのであれば、支払う側が用意するくらいの心づもりでいるとよいでしょう。
合意書に盛り込みたい基本の項目
一般的に、手切れ金の合意書には次のような項目を入れておくと、後日の争いを防ぎやすくなります。
- 当事者の特定:誰と誰の合意かを明らかにするため、双方の氏名を記載します。住所は本人特定のため記載するのが基本ですが、相手に知られたくない事情があれば都道府県・市までの表記でも書面自体は有効です。
- 金額・支払期日・支払方法:「金◯円」「令和◯年◯月◯日限り」「◯◯名義の口座に振り込む方法により支払う」など、具体的に定めます。
- 清算条項:この合意書に定めるほかに、互いに債権債務がないことを確認する条項です。追加請求を防ぐ要となります。
- 口外禁止(守秘義務)条項:関係の事実などを第三者に話さない約束です。
- 接触禁止条項:今後、連絡や面会をしないことを取り決めます。
- 追加請求をしない旨:清算条項でカバーされますが、念のため明記することもあります。
このうち、支払う側にとって特に効き目が大きいのが清算条項と口外禁止条項です。順に見ていきます。
清算条項の作り方と落とし穴
清算条項は、「本合意書に定めるもののほか、甲乙間には何らの債権債務が存在しないことを相互に確認する」といった形で定めます。これを入れておくことで、後日「やっぱりもっと欲しい」と追加の金銭を求められても、すでに解決済みであると主張しやすくなります。
注意したいのは、清算条項は双方向に働くという点です。あなた自身が相手に対して返してほしいお金や言い分がある場合(貸したお金、立て替えた費用など)、それらを合意書に書かずに清算条項だけ入れてしまうと、後からは請求しづらくなります。伝えておきたい主張や請求したい項目があるなら、先に合意書へ盛り込んでおくことが大切です。
口外禁止条項と違約金の考え方
口外禁止条項は、「甲及び乙は、本件および本合意の内容を、正当な理由なく第三者に開示しないことを相互に約する」といった形で定めます。守る範囲(関係の事実そのものか、合意した金額まで含むか)を具体的に書いておくと、解釈のずれを防げます。
実効性を高めるために、**違約金(ペナルティ)**を定めるケースもあります。「本条に違反した場合、違約金として金◯円を支払う」といった条項です。この違約金は、法律上は損害賠償額の予定と推定され(民法420条3項)、当事者間で定めること自体は認められています。
ただし、金額が過大な場合には、公序良俗(民法90条)に反するとして、無効とされたり減額される可能性があります。 かつては「裁判所はその額を増減できない」という規定がありましたが、2020年4月施行の民法改正で削除され、過大な予定額は事情に応じて調整され得るという考え方が明確になりました。抑止力を持たせたいからと極端に高い金額を設定しても、いざというときそのまま通るとは限りません。守ってほしい約束の重さに見合った、現実的な金額にとどめるのが無難です。
支払方法・名目・調印のしかた
支払方法は、関係を断ち切るという趣旨からも一括払いが基本です。分割にすると支払いのたびに接触が続き、清算の意味が薄れてしまいます。振込であれば入金の記録が残り、「もらっていない」という主張への備えにもなります。
合意書に記す名目は、「手切れ金」のほか「解決金」「和解金」などとされることもあります。表現によって支払い義務の有無が変わるわけではなく、実質は同じですが、書面上の見え方を整える意味で用いられます。
調印は、**支払いと書面への署名を同時に(引き換えで)**行うのが安全です。先に署名だけさせて支払いを渋る、あるいは先に払ってしまって署名が得られない、といった事態を避けられます。合意書は双方が1通ずつ保管します。
公正証書にする必要はあるか
「合意を強く形に残したい」「相手がきちんと約束を守るか不安」という場合、強制執行認諾約款を付けた公正証書にする方法があります。これがあると、金銭債務の不履行について、裁判の手続きを経ずに強制執行に進める点が特徴です(民事執行法22条5号)。
もっとも、この強制執行力が意味を持つのは、主に「将来お金を受け取る側」です。手切れ金を支払う側が一括で引き換えに渡すケースでは、通常の合意書で足りることが多く、公正証書化のメリットは限定的です。分割払いにせざるを得ない場合や、合意の存在を特に強く証拠化しておきたい場合の選択肢と考えておくとよいでしょう。
こんなときは書面づくりの前に相談を
- 相手が18歳未満の場合:手切れ金の合意以前に、児童買春・児童福祉法違反などの重大な別問題が生じ得ます。安易に書面を交わす前に、必ず弁護士へご相談ください。
- 請求が度を越えている・脅しを伴う場合:「払わなければ職場や家族に全部話す」などと金銭を求める言動は、恐喝罪(刑法249条)や脅迫罪(同222条)に当たり得ます。正当な話し合いや和解の提案と、違法な要求との線引きは微妙で、自己判断は危険です。この点は[別記事]で扱っています。
- 名目は手切れ金でも、実は法的根拠のある請求かもしれない場合:独身と偽られていた(貞操権侵害)、婚約を一方的に破棄した、といった事情があると、慰謝料として支払い義務が問題になることがあります。該当しそうなときは、それぞれの記事もご確認ください。
まとめ
手切れ金を払って関係を清算すると決めたなら、口約束で終わらせず、清算条項と口外禁止条項を軸にした合意書を作っておくことをおすすめします。追加請求や情報漏れ、蒸し返しといった二次的なトラブルを抑えるための備えになります。ただし、清算条項の書きもれや過大な違約金など、作り方を誤ると効き目が弱まったり、思わぬ争いの火種になったりもします。
条項の設計に迷うとき、相手の要求が正当な範囲を超えていると感じるときは、書面を交わす前の段階で弁護士にご相談ください。当事務所では、男女間のトラブルについて、合意書の内容確認から相手方との交渉まで、状況に応じたサポートを行っています。


